民法210条は自動車が通行出来ることが前提
公道に接しない袋地の住民
お隣を車で通ってOK 最高裁初判断
公道に接していない袋地の所有者が隣の土地を通る権利は民法で認められているが、果たして車で通ることまで認められるのか――。こんな問題が争われた訴訟で、最高裁第一小法廷(甲斐中辰夫裁判長)は16日、「必要性などを総合的に考え、認められる場合がある」との初判断を示した。車での通行権を否定した二審判決を破棄し、審理を東京高裁に差し戻す判決を言い渡した。
民法上、他人の土地を通ることができる範囲は「必要最小限度」とされるため、「人が通れる程度」との解釈が一般的だったが、車が普及した現代社会のニーズに応え、解釈の幅を広げた形だ。第一小法廷は「他人の土地を車で通る必要性や周囲の状況、横切られる土地の所有者が受ける不利益などを総合的に考えて判断する」との目安を示した。
問題となったのは、千葉県船橋市で県が開発した千葉ニュータウンの事業地と、川の堤防などで囲まれた土地。墓地建設を計画する地主らが「市道に出るには、幅約2メートルで直角に曲がる通路しかなく、車での通行が困難」として、隣の県有地を車で横切る権利の確認を求めて提訴した。
朝日新聞 2006年3月17日より
第210条 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
2 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。
第211条 前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
2 前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。
第212条 第210条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、1年ごとにその償金を支払うことができる。
第213条 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。
最高裁の判決文
判例 平成18年03月16日 第一小法廷判決 平成17年(受)第1208号 通行権確認等請求及び承継参加事件
要旨: 自動車による通行を前提とする民法210条1項所定の通行権の成否及びその具体的内容を判断するために考慮すべき事情
内容:
| 件名 | 通行権確認等請求及び承継参加事件 (最高裁判所 平成17年(受)第1208号 平成18年03月16日 第一小法廷判決 一部破棄差戻し,一部却下) |
| 原審 | 東京高等裁判所 (平成15年(ネ)第6340号、平成16年(ネ)第6340号) |
1 原判決のうち第1審判決別紙物件目録記載2の土地に係る通行権確認請求に関する部分を破棄し,同部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
2 上告人らのその余の上告を却下する。
3 前項の部分に関する上告費用は,上告人らの負担とする。
上告代理人黒須雅博,同橘高郁文の上告受理申立て理由について
1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 第1審判決別紙所有地目録記載の各土地は,約1万5200㎡に及ぶ一団の土地であり,現在,上告人らがそれぞれ所有している(ただし,同目録中,「B」,「C」,「D」,「E F(2名共有)」,「G」,「H」とあるのを「上告人X1」と,「I」,「J」,「K」,「L M・N・O(4名共有)」とあるのを「上告人X2」とそれぞれ改め,「Pの欄」及び「956-3」を削る。以下,訂正後の同目録記載の各土地のことを「本件一団の土地」という。)。
本件一団の土地の東には▲号緑地が,西にはa川の堤防が,南には第三者の所有地である千葉県b市c983番1の土地(以下,同市c所在の土地は地番のみを表示する。)等を隔てて国道▲号線が,北には上告人X3所有の957番3の土地等に接する形で市道▲号線がそれぞれ存在する。また,▲号緑地の東には,新住宅市街地開発法に基づく都市計画事業であるいわゆる千葉ニュータウン事業(以下「本件事業」という。)により宅地開発されたdニュータウンが存在する。なお,▲号緑地は,本件事業により設置された公共施設である。
(2) 本件一団の土地は,昭和46年ころまでは農地として利用されており,その東側に位置するいわゆる赤道(以下「本件赤道」という。)が本件一団の土地から現在のdニュータウン方面へ出入りする通路として利用されていた。本件赤道は,本件事業の施行者である被上告人が,昭和52年2月23日,本件赤道を含む公共施設の管理者の同意を得た結果,被上告人の所有となり,新たな公共施設である▲号緑地の一部となった。被上告人は,その後,おおむね本件赤道の跡に沿って,▲号緑地のほぼ中心部分に,自動車の通行が可能な幅員約4mの道路(以下「本件道路」という。)を整備した。本件一団の土地は,昭和48年ころから昭和50年ころまでの間,本件事業に係るdニュータウンの造成工事の際の残土処理場として利用され,昭和53年ころから昭和63年ころまでの間,千葉県b市に対し,野球のグラウンドとして賃貸された。本件赤道及び本件道路は,上記の各期間,残土を運搬するダンプカーや野球のグラウンドへ出入りするための自動車の通路として利用されていた。
(3) 千葉県八千代市所在のQ寺は,本件一団の土地において,野球のグラウンドとしての使用が終了した後,墓地の建設を計画したが,住職が死亡したことなどから,その計画は実現しなかった。上告人X3は,Q寺の後を引き継ぎ,本件一団の土地において墓地の建設をするため,第1審判決別紙所有地目録(前記訂正後のもの)記載のとおり本件一団の土地のうちかなりの部分を占める土地の所有権を取得した。上告人X3は,平成11年3月3日,千葉県知事に対し,墓地,埋葬等に関する法律に基づき墓地等の経営の許可申請をし,同年10月ころから墓地の造成に取り掛かった。
千葉県知事は,平成13年4月4日,上記許可申請について不許可処分をした。しかし,千葉地方裁判所は,平成15年11月21日,上記不許可処分を取り消す旨の判決を言い渡し,同判決はそのころ確定した。千葉県知事は,平成16年12月3日付けで上記許可申請につき許可処分をした。
なお,上告人X3を除く上告人らは,その所有地を墓参者のための駐車場,観光果樹園及びバーベキュー場として活用する計画を有している。
(4) 被上告人は,平成11年7月5日,建設大臣に対し,▲号緑地内の緑地に区分されていた本件道路を歩行者専用道路に変更する旨の施行計画の変更の届出をした。また,被上告人は,平成12年1月ころ,本件道路につき自動車の通行を禁止し,同年5月ころ,本件道路の東側入口に,平成14年6月ころ,本件道路の西側入口にそれぞれポールを立て,本件道路を自動車が通行することができないようにした。本件事業の施行者である被上告人は,▲号緑地内に散策のための小道を設け,市民が自由に利用することができる憩いの場として提供するとともに,本件道路を▲号緑地の維持管理用道路及び歩行者専用道路としている。
(5) 上告人X3は,平成13年ころ,市道▲号線に通ずる道路を設置する目的で,957番3の土地を買い受けた。本件一団の土地は,上告人X3が現在本件一団の土地の中で所有する955番12,同番18及び957番3の各土地に設置した通路により北側の市道▲号線に通じているが,上記通路が直角に左折する状態となっており,狭いところで幅員が約2.2mしかないため,軽自動車であっても切り返しをしなければ出入りをすることができない状況にある。
現在の957番3の土地は,元957番の土地の一部であったところ,昭和47年3月16日,元957番の土地が957番1ないし4の各土地に分割された(以下「本件分割」という。)ために生じたものである。957番3の土地は市道▲号線に9m以上接しており,同番2の土地も同市道に約9.41m接している。957番2の土地は,本件分割後,R株式会社に対し,鉄塔敷地として売却された。なお,957番1及び同番4の各土地も上記市道に接しているが,これらの土地は,上告人らが所有する本件一団の土地には含まれていない。
(6) 第1審判決別紙物件目録記載2の土地(以下「本件土地」という。)は,957番3,955番12及び同番18の各土地並びに市道▲号線に接しており,被上告人が管理している。本件土地は,▲号緑地の北西端に位置する約20㎡の土地である。
2 本件は,上告人らが,被上告人に対し,①民法210条1項に基づく公道に至るための他の土地の通行権(以下「210条通行権」という。)又は通行の自由権に基づき,上告人らが本件道路を自動車で通行することの妨害禁止及び本件道路上の各ポールの撤去を求め,②上告人らが本件土地について自動車による通行を前提とする210条通行権を有することの確認を求めた事案である。
3 原審は,次のとおり判断して,上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。
(1) ▲号緑地内には散策のための小道が設けられており,市民が自由に利用することができる憩いの場として提供されていることなど同緑地の公共施設としての本来の用途にかんがみると,同緑地内にある本件道路について,上告人らが自動車の通行を前提とする210条通行権や通行の自由権を有するものとまでは認められない。
(2)ア 1筆の土地が公道に十分に接し,かつ,公道に至る幅員も十分にあったところ,数筆の土地に分筆されて所有者が異なることとなったため,分筆後の1筆の土地のみでは,自動車による通行が困難となった場合,分筆に係る他の筆の土地所有者に対し,民法213条1項に基づく公道に至るための他の土地の通行権(以下「213条通行権」という。)を主張することができることがあるとしても,分筆に関係のない他の筆の土地所有者に対して210条通行権を主張することはできない。
イ これを本件についてみると,元957番の土地は,市道▲号線に十分に接していたところ,本件分割がされ,957番2の土地がRに対して鉄塔敷地として売却されたため,957番3の土地のみをもってしては,自動車による通行が困難となったものである。それにもかかわらず,上告人らは,元957番の土地から分筆された957番2の土地等について213条通行権を主張するのではなく,もともと別筆であり,かつ,所有者も異なる本件土地について210条通行権を主張するものであり,失当というほかない。
4 しかしながら,原審の上記3(2)イの判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 前記事実関係によれば,上告人X3が所有する957番3の土地に隣接している955番12及び同番18の各土地は,本件分割によって生じたものではないから,本件分割によって本件一団の土地のうち955番12及び同番18の各土地以南の土地(以下「955番12の土地等」という。)の所有者が,元957番の土地から分割された957番2の土地等について213条通行権を取得したものということはできない(本件分割当時,元957番の土地所有者と955番12の土地及び同番18の各土地の所有者が同一人であったという事情もうかがわれない。)。したがって,955番12の土地等の所有者が他の土地に対して有する公道に至るための通行権は,本件分割の前後を通じて210条通行権であることに変わりはない。
(2) 210条通行権は,その性質上,他の土地の所有者に不利益を与えることから,その通行が認められる場所及び方法は,210条通行権者のために必要にして,他の土地のために損害が最も少ないものでなければならない(民法211条1項)。
前記事実関係によれば,955番12の土地等の現在の所有者である上告人らは,955番12の土地等から本件道路や957番3の土地等を通じて徒歩により公道に至ることができることから,本件においては,徒歩による通行を前提とする210条通行権の成否が問題となる余地はなく,本件土地について,自動車の通行を前提とする210条通行権が成立するか否かという点のみが問題となるのであり,上告人らも本件土地について上告人らが自動車の通行を前提とする210条通行権を有することの確認を求めるものである。
ところで,現代社会においては,自動車による通行を必要とすべき状況が多く見受けられる反面,自動車による通行を認めると,一般に,他の土地から通路としてより多くの土地を割く必要がある上,自動車事故が発生する危険性が生ずることなども否定することができない。したがって,自動車による通行を前提とする210条通行権の成否及びその具体的内容は,他の土地について自動車による通行を認める必要性,周辺の土地の状況,自動車による通行を前提とする210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。そうすると,上告人らが,本件土地につき,自動車の通行を前提とする210条通行権を有するかどうかという点等についても,上記のような判断基準をもって決せられるべきものである。
(3) 前記事実関係によれば,①昭和47年の本件分割後,957番2の土地は,Rに売却され,その後鉄塔敷地として使用されており,そのために955番12の土地等から自動車で市道▲号線に接する957番3の土地に至るのが困難となっていることがうかがわれること,②他方,955番12の土地等の所有者は,本件分割がされたころから被上告人が本件道路を自動車によって通行することを禁じた平成12年1月までは,本件赤道や本件道路を自動車により通行することができたこと,したがって,それまでは957番2の土地を含む元957番の土地を自動車で通行する必要性がなかったこともうかがわれること,③ところが,現在,955番12の土地等を所有している上告人らは,本件一団の土地において,墓地を経営したり,墓参者のための駐車場等を経営することを計画しているというのであり,955番12の土地等から自動車で市道▲号線に出入りをする必要性があることがうかがわれること,④本件土地は,▲号緑地の北西端に位置する約20㎡の土地にすぎないことが明らかである。したがって,本件土地について,955番12の土地等の所有者である上告人らのために自動車による通行を前提とする210条通行権が認められるか否かは,これらの事情の有無及び内容も,他の事情と共に総合考慮して判断されなければならない。
5 以上によれば,本件分割によって生じた土地に213条通行権が成立することを前提に,上記事情等を考慮することなく本件土地について自動車の通行を前提とする210条通行権の成立を否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち自動車の通行を前提とする210条通行権の確認請求に関する部分は破棄を免れない。そして,上告人らが,本件土地につき自動車による通行を前提とする210条通行権を取得したかどうかについて,更に審理を尽くさせるため,同部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。なお,上告人らは,本件道路の通行妨害禁止及び各ポールの撤去請求に関する上告については,上告受理申立て理由を記載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 横尾和子 裁判官 泉 德治 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)
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