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2006年7月

2006年7月31日 (月)

民法210条は自動車が通行出来ることが前提

公道に接しない袋地の住民
   お隣を車で通ってOK   
最高裁初判断

 公道に接していない袋地の所有者が隣の土地を通る権利は民法で認められているが、果たして車で通ることまで認められるのか――。こんな問題が争われた訴訟で、最高裁第一小法廷(甲斐中辰夫裁判長)は16日、「必要性などを総合的に考え、認められる場合がある」との初判断を示した。車での通行権を否定した二審判決を破棄し、審理を東京高裁に差し戻す判決を言い渡した。

 民法上、他人の土地を通ることができる範囲は「必要最小限度」とされるため、「人が通れる程度」との解釈が一般的だったが、車が普及した現代社会のニーズに応え、解釈の幅を広げた形だ。第一小法廷は「他人の土地を車で通る必要性や周囲の状況、横切られる土地の所有者が受ける不利益などを総合的に考えて判断する」との目安を示した。

 問題となったのは、千葉県船橋市で県が開発した千葉ニュータウンの事業地と、川の堤防などで囲まれた土地。墓地建設を計画する地主らが「市道に出るには、幅約2メートルで直角に曲がる通路しかなく、車での通行が困難」として、隣の県有地を車で横切る権利の確認を求めて提訴した。

              朝日新聞 2006年3月17日より

(公道に至るための他の土地の通行権) 民法の関係条文

第210条 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。

 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。

第211条 前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。

 前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。

第212条 第210条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、1年ごとにその償金を支払うことができる。

第213条 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。

 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。

                 最高裁の判決文

判例 平成18年03月16日 第一小法廷判決 平成17年(受)第1208号 通行権確認等請求及び承継参加事件
要旨: 自動車による通行を前提とする民法210条1項所定の通行権の成否及びその具体的内容を判断するために考慮すべき事情

内容:  

件名 通行権確認等請求及び承継参加事件 (最高裁判所 平成17年(受)第1208号 平成18年03月16日 第一小法廷判決 一部破棄差戻し,一部却下)
 原審 東京高等裁判所 (平成15年(ネ)第6340号、平成16年(ネ)第6340号)
   

主    文

1 原判決のうち第1審判決別紙物件目録記載2の土地に係る通行権確認請求に関する部分を破棄し,同部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
2 上告人らのその余の上告を却下する。
3 前項の部分に関する上告費用は,上告人らの負担とする。
         

理    由

 上告代理人黒須雅博,同橘高郁文の上告受理申立て理由について
 1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 第1審判決別紙所有地目録記載の各土地は,約1万5200㎡に及ぶ一団の土地であり,現在,上告人らがそれぞれ所有している(ただし,同目録中,「B」,「C」,「D」,「E F(2名共有)」,「G」,「H」とあるのを「上告人X1」と,「I」,「J」,「K」,「L M・N・O(4名共有)」とあるのを「上告人X2」とそれぞれ改め,「Pの欄」及び「956-3」を削る。以下,訂正後の同目録記載の各土地のことを「本件一団の土地」という。)。
 本件一団の土地の東には▲号緑地が,西にはa川の堤防が,南には第三者の所有地である千葉県b市c983番1の土地(以下,同市c所在の土地は地番のみを表示する。)等を隔てて国道▲号線が,北には上告人X3所有の957番3の土地等に接する形で市道▲号線がそれぞれ存在する。また,▲号緑地の東には,新住宅市街地開発法に基づく都市計画事業であるいわゆる千葉ニュータウン事業(以下「本件事業」という。)により宅地開発されたdニュータウンが存在する。なお,▲号緑地は,本件事業により設置された公共施設である。
 (2) 本件一団の土地は,昭和46年ころまでは農地として利用されており,その東側に位置するいわゆる赤道(以下「本件赤道」という。)が本件一団の土地から現在のdニュータウン方面へ出入りする通路として利用されていた。本件赤道は,本件事業の施行者である被上告人が,昭和52年2月23日,本件赤道を含む公共施設の管理者の同意を得た結果,被上告人の所有となり,新たな公共施設である▲号緑地の一部となった。被上告人は,その後,おおむね本件赤道の跡に沿って,▲号緑地のほぼ中心部分に,自動車の通行が可能な幅員約4mの道路(以下「本件道路」という。)を整備した。本件一団の土地は,昭和48年ころから昭和50年ころまでの間,本件事業に係るdニュータウンの造成工事の際の残土処理場として利用され,昭和53年ころから昭和63年ころまでの間,千葉県b市に対し,野球のグラウンドとして賃貸された。本件赤道及び本件道路は,上記の各期間,残土を運搬するダンプカーや野球のグラウンドへ出入りするための自動車の通路として利用されていた。
 (3) 千葉県八千代市所在のQ寺は,本件一団の土地において,野球のグラウンドとしての使用が終了した後,墓地の建設を計画したが,住職が死亡したことなどから,その計画は実現しなかった。上告人X3は,Q寺の後を引き継ぎ,本件一団の土地において墓地の建設をするため,第1審判決別紙所有地目録(前記訂正後のもの)記載のとおり本件一団の土地のうちかなりの部分を占める土地の所有権を取得した。上告人X3は,平成11年3月3日,千葉県知事に対し,墓地,埋葬等に関する法律に基づき墓地等の経営の許可申請をし,同年10月ころから墓地の造成に取り掛かった。
 千葉県知事は,平成13年4月4日,上記許可申請について不許可処分をした。しかし,千葉地方裁判所は,平成15年11月21日,上記不許可処分を取り消す旨の判決を言い渡し,同判決はそのころ確定した。千葉県知事は,平成16年12月3日付けで上記許可申請につき許可処分をした。
 なお,上告人X3を除く上告人らは,その所有地を墓参者のための駐車場,観光果樹園及びバーベキュー場として活用する計画を有している。
 (4) 被上告人は,平成11年7月5日,建設大臣に対し,▲号緑地内の緑地に区分されていた本件道路を歩行者専用道路に変更する旨の施行計画の変更の届出をした。また,被上告人は,平成12年1月ころ,本件道路につき自動車の通行を禁止し,同年5月ころ,本件道路の東側入口に,平成14年6月ころ,本件道路の西側入口にそれぞれポールを立て,本件道路を自動車が通行することができないようにした。本件事業の施行者である被上告人は,▲号緑地内に散策のための小道を設け,市民が自由に利用することができる憩いの場として提供するとともに,本件道路を▲号緑地の維持管理用道路及び歩行者専用道路としている。
 (5) 上告人X3は,平成13年ころ,市道▲号線に通ずる道路を設置する目的で,957番3の土地を買い受けた。本件一団の土地は,上告人X3が現在本件一団の土地の中で所有する955番12,同番18及び957番3の各土地に設置した通路により北側の市道▲号線に通じているが,上記通路が直角に左折する状態となっており,狭いところで幅員が約2.2mしかないため,軽自動車であっても切り返しをしなければ出入りをすることができない状況にある。
 現在の957番3の土地は,元957番の土地の一部であったところ,昭和47年3月16日,元957番の土地が957番1ないし4の各土地に分割された(以下「本件分割」という。)ために生じたものである。957番3の土地は市道▲号線に9m以上接しており,同番2の土地も同市道に約9.41m接している。957番2の土地は,本件分割後,R株式会社に対し,鉄塔敷地として売却された。なお,957番1及び同番4の各土地も上記市道に接しているが,これらの土地は,上告人らが所有する本件一団の土地には含まれていない。
 (6) 第1審判決別紙物件目録記載2の土地(以下「本件土地」という。)は,957番3,955番12及び同番18の各土地並びに市道▲号線に接しており,被上告人が管理している。本件土地は,▲号緑地の北西端に位置する約20㎡の土地である。
 2 本件は,上告人らが,被上告人に対し,①民法210条1項に基づく公道に至るための他の土地の通行権(以下「210条通行権」という。)又は通行の自由権に基づき,上告人らが本件道路を自動車で通行することの妨害禁止及び本件道路上の各ポールの撤去を求め,②上告人らが本件土地について自動車による通行を前提とする210条通行権を有することの確認を求めた事案である。
 3 原審は,次のとおり判断して,上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。
 (1) ▲号緑地内には散策のための小道が設けられており,市民が自由に利用することができる憩いの場として提供されていることなど同緑地の公共施設としての本来の用途にかんがみると,同緑地内にある本件道路について,上告人らが自動車の通行を前提とする210条通行権や通行の自由権を有するものとまでは認められない。
 (2)ア 1筆の土地が公道に十分に接し,かつ,公道に至る幅員も十分にあったところ,数筆の土地に分筆されて所有者が異なることとなったため,分筆後の1筆の土地のみでは,自動車による通行が困難となった場合,分筆に係る他の筆の土地所有者に対し,民法213条1項に基づく公道に至るための他の土地の通行権(以下「213条通行権」という。)を主張することができることがあるとしても,分筆に関係のない他の筆の土地所有者に対して210条通行権を主張することはできない。
 イ これを本件についてみると,元957番の土地は,市道▲号線に十分に接していたところ,本件分割がされ,957番2の土地がRに対して鉄塔敷地として売却されたため,957番3の土地のみをもってしては,自動車による通行が困難となったものである。それにもかかわらず,上告人らは,元957番の土地から分筆された957番2の土地等について213条通行権を主張するのではなく,もともと別筆であり,かつ,所有者も異なる本件土地について210条通行権を主張するものであり,失当というほかない。
 4 しかしながら,原審の上記3(2)イの判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 前記事実関係によれば,上告人X3が所有する957番3の土地に隣接している955番12及び同番18の各土地は,本件分割によって生じたものではないから,本件分割によって本件一団の土地のうち955番12及び同番18の各土地以南の土地(以下「955番12の土地等」という。)の所有者が,元957番の土地から分割された957番2の土地等について213条通行権を取得したものということはできない(本件分割当時,元957番の土地所有者と955番12の土地及び同番18の各土地の所有者が同一人であったという事情もうかがわれない。)。したがって,955番12の土地等の所有者が他の土地に対して有する公道に至るための通行権は,本件分割の前後を通じて210条通行権であることに変わりはない。
 (2) 210条通行権は,その性質上,他の土地の所有者に不利益を与えることから,その通行が認められる場所及び方法は,210条通行権者のために必要にして,他の土地のために損害が最も少ないものでなければならない(民法211条1項)。
 前記事実関係によれば,955番12の土地等の現在の所有者である上告人らは,955番12の土地等から本件道路や957番3の土地等を通じて徒歩により公道に至ることができることから,本件においては,徒歩による通行を前提とする210条通行権の成否が問題となる余地はなく,本件土地について,自動車の通行を前提とする210条通行権が成立するか否かという点のみが問題となるのであり,上告人らも本件土地について上告人らが自動車の通行を前提とする210条通行権を有することの確認を求めるものである。
 ところで,現代社会においては,自動車による通行を必要とすべき状況が多く見受けられる反面,自動車による通行を認めると,一般に,他の土地から通路としてより多くの土地を割く必要がある上,自動車事故が発生する危険性が生ずることなども否定することができない。したがって,自動車による通行を前提とする210条通行権の成否及びその具体的内容は,他の土地について自動車による通行を認める必要性,周辺の土地の状況,自動車による通行を前提とする210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。そうすると,上告人らが,本件土地につき,自動車の通行を前提とする210条通行権を有するかどうかという点等についても,上記のような判断基準をもって決せられるべきものである。
 (3) 前記事実関係によれば,①昭和47年の本件分割後,957番2の土地は,Rに売却され,その後鉄塔敷地として使用されており,そのために955番12の土地等から自動車で市道▲号線に接する957番3の土地に至るのが困難となっていることがうかがわれること,②他方,955番12の土地等の所有者は,本件分割がされたころから被上告人が本件道路を自動車によって通行することを禁じた平成12年1月までは,本件赤道や本件道路を自動車により通行することができたこと,したがって,それまでは957番2の土地を含む元957番の土地を自動車で通行する必要性がなかったこともうかがわれること,③ところが,現在,955番12の土地等を所有している上告人らは,本件一団の土地において,墓地を経営したり,墓参者のための駐車場等を経営することを計画しているというのであり,955番12の土地等から自動車で市道▲号線に出入りをする必要性があることがうかがわれること,④本件土地は,▲号緑地の北西端に位置する約20㎡の土地にすぎないことが明らかである。したがって,本件土地について,955番12の土地等の所有者である上告人らのために自動車による通行を前提とする210条通行権が認められるか否かは,これらの事情の有無及び内容も,他の事情と共に総合考慮して判断されなければならない。
 5 以上によれば,本件分割によって生じた土地に213条通行権が成立することを前提に,上記事情等を考慮することなく本件土地について自動車の通行を前提とする210条通行権の成立を否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち自動車の通行を前提とする210条通行権の確認請求に関する部分は破棄を免れない。そして,上告人らが,本件土地につき自動車による通行を前提とする210条通行権を取得したかどうかについて,更に審理を尽くさせるため,同部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。なお,上告人らは,本件道路の通行妨害禁止及び各ポールの撤去請求に関する上告については,上告受理申立て理由を記載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 横尾和子 裁判官 泉 德治 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)

     


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2006年7月27日 (木)

更新料請求の消滅時効は5年、更新料は法定更新の場合には支払義務が無い

 判例紹介

 家主から借家人に対する建物明渡請求訴訟継続中でも、更新料債権の消滅時効の進行は妨げられないとされた事例および更新料支払の合意は法定更新の場合には効力がないとされた事例 (東京地裁平成3年5月9日判決、判例時報1407号80頁)

(事例)
 不動産賃貸・管理を業とする会社が、家主として借家人との間で、昭和55年1月30日、期間5年で建物を賃貸したが、その際契約更新時には最終賃料の2倍相当の更新料を支払うとの合意が成立した。

 ところで、家主は、昭和55年7月、借家人に対して、債務不履行があったとして賃貸契約を解除して建物明渡請求訴訟を提起したが、昭和62年5月、訴訟上の和解が成立した。

 その後、家主は、平成2年4月、借家人に対し、昭和60年1月31日の更新および平成2年1月31日更新を理由とする更新料の支払を請求した。

 (争点)
 1、昭和60年の更新を理由とする更新料債権について商事消滅時効が成立するか。
 2、平成2年の更新(法定更新)を理由とする更新料について、更新料支払の合意は賃貸借が法定更新された場合にも及ぶか。

 (判決の要旨)
 について、判決は、家主が借家人に対して建物明渡請求訴訟を提起していたとしても、これによって権利行使について法律上の障害はないから、更新料債権の消滅時効の進行は妨げられず、商事消滅時効5年の経過によって消滅しているとした。

 2について、判決は、本件建物賃貸借契約書の文書上、更新料支払義務は合意更新の場合を念頭に置いて定められたものと認められることおよび建物賃貸借契約では法定更新されると期間の定めのない賃貸借となり借家人はいつでも解約申入れを受ける危険を負担することを理由として、更新料の支払の合意にはその効力がないとした。

 (短評)
 更新料債権が、他の債権と同様に一般には10年、商事について5年で時効消滅することについては、事新しいことではないが、家主が賃貸借契約解除を理由として建物明渡請求訴訟を提起している場合である点に問題がある。

 この場合、家主としては明渡を請求しているので、他方で更新料の請求をすることは賃貸借契約の存在を認めることになるため実際には更新料を請求することができない立場になる。

 しかし、更新料を請求できない立場といっても、それは事実上の問題にすぎず法律上権利行使をすることの障害になるものとはいえない以上時効の進行を妨げないというべきであり、本判決は、妥当な判決といえる。

 なお、本判決は、更新料支払特約の合意が法定更新の場合に及ばないとする事例の1つである。   1992.5.

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2006年7月26日 (水)

*更新後も連帯保証人は借主の債務保証義務がある

 判例紹介

 期間の定めのある建物賃貸借契約の更新と保証人の責任 最高裁第一小法廷平成9年11月13日判決。判例タイムス969号126頁以下)

(事実)
 建物の賃借人の連帯保証人が、賃貸人に対して、合意更新された契約には民法619条2項により連帯保証の効力が消滅した。

 仮にそうでなくても、長期にわたる賃借人の賃料未払いの事実を連帯保証人に通知することもなく合意更新したうえ、未払賃料を連帯保証人に対して請求することは信義誠実の原則に反するとして、連帯保証債務の不存在確認を求めていた事案。連帯保証人の上告棄却。

(判旨)
 「期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責を負う趣旨で合意されたものと解するのが相当であり、保証人は賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないというべきである」。

(寸評)
 世上、よく生じる保証人の責任のうち、建物賃貸借契約の保証人の責任に関する最高裁の判断として実務に与える影響は大きい。

 本件の第一審は、更新前後の契約間には法的同一性がないとして更新後の保証人の責任を否定した。学説上もこの立場を採る有力説があるが、裁判の実務上の大勢は、最高裁の判断と軌を一にしているようで、学説上の通説でもある。

 本件は、期間の定めのある建物の賃貸借に関するものであり、土地賃貸借契約の更新の場合には別異に解釈される余地は充分にあり、それが相当といえる。

 評者は、この最高裁判決には批判的である。保証意識の推測として、当然に法定更新を前提とするのは保証人に酷である。     1998.11.

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

     

                         こちらの「判例紹介」参照


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2006年7月25日 (火)

管理会社に賃料を払っていた借主が貸主に直接払えといわれての供託は有効

 判例紹介

  賃貸人から賃貸用建物の管理を委託されていた会社に賃料を支払っていた賃借人が賃貸人から直接に賃料の支払いを求められた場合に、債権者不確知を理由として行った弁済供託の効力を有効とした事例 東京地裁平成15年2月19日判決判例タイムス1136号191頁以下。)

(事案)
 建物の賃貸人Xが、賃借人Yに対して、その賃料2か月分が未払いとなっており、遅延損害金を付加して支払えと求めた。これに対し、Yは2ヶ月分の賃料は債権者不確知を理由として弁済供託をしており支払義務はないとして争った事案。Yが弁済供託をしたのは、建物を賃借していたところ、Xが競売により建物を取得し、賃貸人の地位を承継。Xは承継後、Zに対し建物の管理を委託し、ZとYの間で賃料の改定の合意もされた。その後、XとY間で建物の管理をめぐり争いが生じ、そのことを契機にYは、2ヶ月分の賃料について、債権者不確知を理由に弁済供託した事情にある。

(判旨)
 「前認定事実によればZがYに対して本件建物部分の賃料の支払いを求めて訴えを提起した場合を想定すると、当該訴訟の受訴裁判所が最終的にどのように判断するか否かはともかく、当事者であるYにおいてZがXの単なる代理人にすぎず、Zが自ら当事者能力を有するわけでもなくXに代わって当該訴訟を提起したとしても、いわゆる任意的訴訟担当が許される場合に当たらないとして、Zの請求ないしその前提となる当事者能力を排斥し得ることが明白であったとはいえず、Xを賃貸人と明記した賃貸借契約書も取り交わされないままZがXとの管理委託契約に基づき、賃料も改定し、本件建物部分の明渡しを求める調停も申し立てている事情も併せ考えると、Yにおいて、Zを本件建物部分の賃貸人であるか、賃貸人でないとしても、自ら固有の権限で訴訟上でも、その取立てが可能な権限を有する立場にあると判断してしまうことは無理からないところというべきであって、Zの立場が現に本件建物部分の賃料の固有の取立権者であったとすれば、債権者不確知を理由とする弁済供託にいう「債権者」と同視して差し支えなく、実際にはZに固有の取立権限がなかったとしても、YがZを取立権者であると判断したことに過失はないといわなければならないから、本件供託は少なくとも債務者であるYにおいて過失なく債権者である本件建物部分の賃料の賃貸人ないしその取立権者を確知することができない場合であったとして、有効なものであったと認めるのが相当である」

 (寸評)
 判旨は妥当といえる。Zの立場がXの単なる代理人であった場合には、Zに対する弁済供託の効力は否定されると思われる。参考になる事例として紹介した。 2004.4.

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2006年7月24日 (月)

*家賃差押え後に建物を買った者は家賃取得で差押債権者に対抗できない

 判例紹介

 家賃が差押えられた後に建物を買った者は家賃の取得について、差押債権者に対抗できないとされた事例 最高裁平成10年3月24日判決・判例時報1639号45頁)

(事実)
 Xは、平成3年3月、建物所有者(家主)Aに対する判決に基づき、Aの借家人Bに対する家賃債権を差押えた。

 Yは、平成4年12月に家主Aから右建物を取得して所有権移転登記を得た。そして、Yは借家人Bに対し、家賃を自分に支払うよう請求した。
 そのため、借家人Bは、平成5年2月以降、債権者不確知と差押えの両者を原因として、家賃を供託した。

 そこで、XはYに対し、供託金を取得する権利が自分にあることの確認を求めて本件裁判を起こした。
 東京高等裁判所は、平成6年11月29日、『家賃の差押中に建物所有権の移転があっても家賃債権の差押との関係では右移転は無効であって、家賃債権は依然として前の家主に帰属するものとして、右差押えの効力は及ぶもので、Xは、Yが建物所有権を得た後も家賃債権を取得できると解すべきである』と判示した。

 Yは、これを不服として、最高裁判所に上告した。

(争点)
 家賃債権は、差押債権者と建物の譲受人のいずれに帰属するか。

(判決要旨)
 最高裁判所は、『自己の所有建物を他に賃貸している者が第三者に右建物を譲渡した場合には、特段の事情のない限り、賃貸人の地位もこれに伴って右第三者に移転するが、建物所有者の債権者が賃料債権を差し押さえ、その効力が発生した後に、右所有者が建物を他に譲渡し賃貸人の地位が譲受け人に移転した場合には、右譲受人は、建物の賃料債権を取得したことを差押債権者に対抗することができないと解すべきである。けだし、建物の所有権を債務者とする賃料債権の差押えにより右所有者の建物自体の処分は妨げられないけれども、右差押えの効力は、差押債権者の債権及び執行費用の額を限度として、建物所有者が将来収受すべき賃料に及んでいるから、右建物を譲渡とする行為は、賃料債権の帰属の変更を伴う限りにおいて、将来における賃料債権の処分を禁止する差押えの効力に抵触するというべきだからである』と判示した。

(短評)
 近時、銀行等の債権者が家賃を差押後、建物が譲渡されるケースが多発している。
 この場合、借家人は、新家主に家賃を支払ってはならず、差押命令に従って差押債権者に支払うか、または、家賃支払履行地の法務局に供託するかのいずれかの方策を採るべきである。

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2006年7月22日 (土)

*建物競売の場合に借地権譲渡許可の裁判で敷金の差し入れを命じた事例

 判例紹介

 建物競売等の場合における借地権譲渡許可の裁判で、敷金(保証金)を差し入れることを命じた事例 最高裁平成13年11月21日決定、判例時報1768号86頁)

(事案の概要)
 YはAに対して、堅固建物所有を目的として、土地を賃貸し、Aはその土地上に5階建ビルを建築して所有していた。
 ところが、Aの建物について競売が申し立てられ、Xが借地権付建物として競落した。

 XはYに対して、借地権譲渡の承諾を求めたが、Yが承諾しなかったので、Xは、借地借家法第20条に基き、裁判所に対して地主の承諾に代わる許可を求める申立てをした。
 ところで、本件においては、もともとAがYに対して敷金(保証金)1000万円を差し入れていた経過がある。
 鑑定委員会は、申立てを容認するのが相当としたうえ、付随的裁判としてXに対して譲渡承諾料の支払をさせるほか、敷金として金1000万円を差し入れさせるのが相当であるとの意見を出した。

 大阪地裁及び大阪高裁は、借地権譲渡を許可し、付随的裁判として、譲渡承諾料の給付のみを命じ、敷金に関しては、借地借家法第20条1項後段の付随的裁判として敷金の差し入れを命ずることはできないと判示した。

 これに対し、Yは付随的裁判として敷金の差し入れを命ずべきであるとして、もしそれを命じないのであれば、申立てを棄却すべきであると抗告許可の申立てをした。

(裁判)
 最高裁は、「旧賃借人が交付していて敷金の額、第三者の経済的信用、敷金に関する地域的な相場等の一切の事情を考慮した上で、法20条1項後段の付随的裁判の1つとして、当該事案に応じた相当な額の敷金を差し入れるべき旨を定め、第三者に対してその交付を命ずることができるものと解するのが相当である」として原決定を破棄し、大阪高裁に差し戻した。

(短評)
 競売・公売により借地権付建物を取得した場合、競落人には譲渡の承諾に代わる許可の制度が設けられている。そして、許可の申立てを認容する場合、裁判所は当事者間の利益の衡平を図るため、必要があるときは、付随的裁判として借地条件を変更し、又は財産上の給付を命ずることができるとされている。(借地借家法第20条)

 ところで、これまで敷金(保証金)の差し入れを命ずることができるかどうかについては最高裁の判例がなかったところ、今回の決定により、敷金(保証金)の差し入れも借地条件の変更・財産上の給付とされたことから、今後は、競落に当たって、従前の敷金(保証金)の有無・金額を調査する必要があり、また、敷金(保証金)の差し入れを命じられることがあることを覚悟する必要が出てきた。         2002.3.               

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2006年7月21日 (金)

*法20条1項後段の付随的裁判で敷金の交付を命ずることが出来るとした事例

判例紹介

  地借家法20条1項後段の付随的裁判として敷金を差し入れるべき旨を定めその交付を命ずることが出来るとした事例 最高裁第2小法定・平成13年11月21日決定。判例タイムス1079号175頁)

(事案)
 借地上の建物を競売により取得した者が、借地借家法20条に基づき、賃借権の譲渡について借地権設定者である抗告人の承諾に代わる許可申立事件。

 抗告人は昭和57年10月14日、その所有土地を堅固な建物の所有を目的とし、期間を平成38年12月14日までと定めて、A会社に賃貸。Aは敷金1000万円を右契約によって生ずるすべての債務を担保するために、契約が終了し土地明渡し時に返還を受ける約定で、抗告人へ差し入れていた。

 その後、Aは借地上の建物について担保権の実行による競売をされ本件抗告の相手方が競落して建物の所有権を取得。右競売事件の物件明細書には、本件土地賃借権の期間は昭和57年10月14日から44年間、賃料月額19万1150円、敷金1000万円と記載されていた。

 借地非訟手続において抗告人は、申立の棄却を求めると共に、許可を与える場合には付随裁判として地代の増額と財産上の給付およびAが抗告人に交付したいたものと同額の敷金の交付を求めていた。また、Aの敷金返還請求権に対し、国は差押をしていた。

 原々審および原審は、敷金については借地借家法20条1項後段の付随的裁判としてその交付を命ずることができないとしていた。原決定を破棄、高裁に差し戻しを命じた。

(判旨)
 「土地の賃借人が賃貸人に敷金を交付していた場合に、賃借権が賃貸人の承諾を得て旧賃借人から新賃借人に移転しても、敷金に関する旧賃借人の権利義務関係は、特段の事情のない限り新賃借人に承継されるものではない(最高裁昭和53・12・22判決)。したがって、この場合に賃借権の目的である土地の上の建物を競売によって取得した第三者が土地の賃借権を取得すると、特段の事情がない限り、賃貸人は敷金による担保を失うことになる、そこで、裁判所は上記第三者に対し法20条に基づく賃借権の譲受けの承諾に代わる許可の裁判をする場合には、賃貸人が上記の担保を失うことになることをも考慮して、法20条1項後段の付随的裁判の内容を検討する必要がある。その場合、付随的裁判が当事者の利益の衡平を図るものであることや、紛争の防止という賃借権の譲渡の許可の制度の目的からすると、裁判所は旧賃借人が交付していた敷金の額、第三者の経済的信用、敷金に関する地域的な相場等の一切の事情を考慮した上で、法20条1項後段の付随的裁判の一つとして、当該事案に応じた相当な額の敷金を差し入れるべき旨を定め、第三者に対してその交付を命ずることができるものとするのが相当である。」

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 同じ最高裁判決(平成13年11月12日)を扱っている2006年7月18日の「判例紹介」も参照して下さい。

 借地借家法
第20条(建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可)
 第三者が賃借権の目的である土地の上の建物を競売又は公売により取得した場合において、その第三者が賃借権を取得しても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡を承諾しないときは、裁判所は、その第三者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、借地条件を変更し、又は財産上の給付を命ずることができる。
2 前条第2項から第6項までの規定は、前項の申立てがあった場合に準用する。
3 第1項の申立ては、建物の代金を支払った後2月以内に限り、することができる。
4 民事調停法(昭和26年法律第222号)第19条の規定は、同条に規定する期間内に第1項の申立てをした場合に準用する。
5 前各項の規定は、転借地権者から競売又は公売により建物を取得した第三者と借地権設定者との間について準用する。ただし、借地権設定者が第2項において準用する前条第3項の申立てをするには、借地権者の承諾を得なければならない。


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2006年7月20日 (木)

賃料額確認の訴えが抽象的な合意だけでは争訟に当たらないとされた事例

 判例紹介

 不動産賃貸借における賃料額の確認を求める訴えが、当事者間に「公正な額で決定する」といった抽象的な合意があるだけでは「法律上の争訟」に当たらないとして却下された事例 東京高裁平成13年10月29日判決。判例時報1765号49頁)

(事案の概要)
 一、池袋駅西口に大型ビルを建設する事業に参加したX(常盤興業)は、ビルの3階部分(本件建物)の所有者となった。事業推進中、XとY(東武鉄道)は、Xを賃貸人、Yを賃借人とする賃貸借契約を締結しようとしたが、賃料額について合意に至らず、この点については「今後、XとYとは、それぞれ調査研究することとし、各々信用ある第三者の専門家に他の類似の百貨店の賃貸条件の調査を依頼し、それを持ち寄り、これらを尊重し、誠意をもって協議し、公正な額で決定する」との合意書を取り交わした。

 二、平成4年ビル竣工、Yは東武百貨店に本件ビルを転貸した。月額賃料としてYは2063万円を、Xは約4650万円を、それぞれ主張して折り合いがつかず、Xが提訴。東京地裁は2593万円が相当との判決をした。
 YもXも控訴。東京高裁は内容に入らず門前払い。

 (判決要旨)
 賃料額について右の合意書の程度の抽象的な合意しか成立していない本件においては、裁判所が合意に基く賃料額を証拠によって認定することは不可能。また裁判所に裁量によって賃料額を定める権限を付与した法律は存在しない。
 本件は具体的な権利義務に関する争いではあるが、右の合意書の程度の抽象的な合意があるだけでは、現行法のいずれを適用しても具体的な賃料額を確認するという結論は得られないのであるから、本件訴えは「法律上の争訟」に当たらず、裁判所の権限に属しないことについて裁判を求めるものであるから不適法であり、却下は免れない。

(解説)
 この判決は、XY間の当初賃料額(いったん決った賃料額の増減ではないことに注意)について「誠実に協議し公正妥当な賃料額を定めるものとする」とした抽象的な合意しかない場合には、裁判をすることができないとして一審判決を取消してXの訴えを却下(門前払い)した。

 賃貸借契約をはじめて締結する場合に賃料額が決らないままスタートするという例はほとんど見かけないが、なぜこの判例を紹介したかというと、借地の更新料について契約書の中に「更新時には更新料を支払う」との文言がある場合、これが「抽象的な合意」であり、裁判にはなじまないということを知ってほしいと思ったからだ。

(東借連常任弁護団)

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2006年7月19日 (水)

権利金の性格をもつ敷金が新所有者に返済債務の承継が認められた事例

 判例紹介

 建物賃貸借契約に伴って差し入れられた金員が敷金と権利金との性質を併有している場合において新所有者による返還債務の承継が認められた事例 東京地裁平成12年10月26日判決、金融・商事判例1132号)

 (事案の概要)
 賃借人は、賃料月額22万6380円でラーメン店のために建物1階を賃借し、敷金1078万円を差し入れた。敷金額は坪当たり80万円で計算され相場と認識されていた。契約終了時に1割5分を償却し、明渡し3ヶ月後に返還するという特約があった。建物所有者の抵当権者が競売を申し立て、競落した新所有者は、敷金の返還債務となる額は、賃料の7ヶ月分相当の158万4660円であると、訴訟を起こした。

  (判決要旨)
 本件敷金は賃料の48.5倍であって不払い賃料の担保としては通常必要な範囲をはるかに超えている。坪単価で提案した金額を相場の敷金と当事者双方が認識していたことに鑑みると、本件敷金は、本件営業上の場所的利益の対価である「権利金」の趣旨も併有している。本件敷金についての契約条項によれば、基本的には債務の担保となる「敷金」であるとともに、「権利金」の性質も兼ね備えるものとして、賃貸借契約と密接に関連する重要な要素の一つとして合意したものである。そして、当事者間では、本件敷金は明渡し後に償却分を控除して返還されることが明確に合意されている。本件敷金の中の「権利金」の性質にのみ着目して、経済的意義を考えてみても、営業上の場所的利益の対価は、賃借人が賃借時に賃貸人から場所的利益を買い受ける対価として賃貸人に支払うものであるから、契約終了時には、対象建物を返還するのと引換えに、賃貸人が賃借人に対し原状回復として場所的利益をそのまま返還させることが合理的な対価の授受であると評価できる。このような当事者の意思に鑑みると本件敷金にかかる返還約束は純粋な敷金関係と同じく、本件賃貸借契約と密接に結びつき、かつ建物所有者である賃貸人の地位にとって重要な経済的意義を有する権利関係として、本件建物の所有権を取得した新所有者にも引き継がれるものと解するのが相当。

  (説明)
 建物の競売などで新所有者になった者が敷金、保証金、権利金等賃借人から交付された金員について返還債務を引き継ぐかどうかの問題である。建物所有者が変更したとき敷金は新所有者に承継される最判昭和44年7月17日)が、保証金は承継されない最判昭和48年3月22日)。

 権利金は格段の特約のない限り契約終了時にも返還を受けられない最高裁29年3月11日判決というのが判例である。敷金をめぐる賃借人と建物債権者との利害について、返還額を制限して債権者を優先しようとする現在の傾向の中で注目すべき判決である。

(東借連常任弁護団)

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2006年7月18日 (火)

供託中の従前の金額を減額しても契約解除の事由にならないとした事例

 判例紹介

 供託中の従前の金額を減額して供託したとしても、それだけで契約解除の事由にはならないとされた事例 東京地裁民事49部平成13年6月15日判決 未掲載)

(事案)
 YはXより借地しているが、昭和54年9月分以降の地代の改定をめぐってXと争いが生じ、以来、供託を継続している。

 当初月額3947円を、昭和55年3月から平成10年6月分までは、4680円を、同年7月分から平成11年4月分までは1万920円をそれぞれ供託していた。

 ところが、Yは平成11年5月分からこれを7800円に減額し、平成12年4月20日に9万3600円(7800円の12ヵ月分)を供託した。

 Xは平成12年5月25日到達の内容証明郵便によりYに対し、平成11年5月分から12年4月分までの賃料につき従前の供託額1万920円と7800円の差額及び同年5月分1万920円を同月末日までに支払うよう催告し、これを支払わなかったときは、賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたが、Yは指定された日までに支払わなかった。

 そこでXは賃料不払いを理由に契約を解除し建物収去土地明渡しを求めた事案。X敗訴。

(判旨)
 「確かに前継続中にYが相当賃料を1万920円であると主張し、実際にも同金額で供託したところ、Xも前訴における弁論において同金額が相当賃料であることを争わなかったことが認められるものの、前訴はそもそも賃料額を確定するための裁判ではなく、本件賃貸借契約の存続期間の満了に基く土地明渡請求であることは前判示のとおりであるから、その口頭弁論における訴訟上の主張において一部争いのない部分があったとしても、それが本件賃貸借契約における賃料額に関する合意を変更するという実体法上の意思表示としての性質を有するものではない」。

 「借地法12条2項所定の相当賃料とは、客観的にみて適正な賃料を指すものではなく、賃借人が自ら相当と認める賃料をいうものと解されるから、原則として供託額が減額されたことだけをとらえて不当することはできない

(寸評) 
 当然の判決である。 しかし、借地人が自ら相当とする賃料がもともと近隣地代の実勢価格より低い場合とか、公租公課を下回っている場合に一方的に供託額を減額することは、債務不履行になることもあり、注意を要する。

(東借連常任弁護団)

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2006年7月17日 (月)

平成6年度の固定資産税評価が適正な時価を上回り違法とされた事例

 判例紹介

  固定資産税台帳に登録された平成6年度の価格が賦課期日における適正な時価を上回るものとして違法とされた事例 東京高裁平成12年4月19日判決、判例時報1729号38頁)

(事実)
 自治省は、平成6年度の土地の評価について、地価公示価格あるいは鑑定価格の7割程度を目途とする旨の平成4年1月22日自治省3号事務次官通達(いわゆる7割通達)を発した上、平成4年7月1日を鑑定時点とし、平成5年1月1日を価格認定時点とし、その間の地価下落率を勘案し、時価の7割を目途として、標準宅地の価格を認定すべき旨の通知を発した。(平成4年11月26日自治省28号税務局資産評価室長通知)

 これに対して、従前の評価水準が地価公示価格の2~3割であったのが、著しく高額な価格になったこと及び平成5年から6年にかけて大幅な地価下落があったことから、これらの点が評価基準に反映されていないとして都市部を中心に固定資産評価審査委員会に審査申出や審査決定に対する取り消し訴訟が相次いだ。

 本件は、原告らは、港区赤坂に所在する土地に係かる案件である。 1審の東京地裁判決は、平成5年1月1日から平成6年1月1日までの地価下落率を平成4年7月1日から平成5年1月1日までの間の地価下落率があるものと想定してこれを評価に反映させるのが相当としたが、東京都固定資産評価審査委員会は、これを不服として、東京高等裁判所に控訴を申立てた。

(争点)
 固定資産課税台帳に登録された価格が時価を上回るか否か。

(判決要旨)
 東京高栽判決は、平成5年1月1日から平成6年1月1日までの地価下落率33・5%が、最も地価下落率を正確に反映するものとして採用し、これを超える部分について審査の申出を棄却した決定を取り消した。

(短評)
 地方税法では、宅地に課せられる固定資産税は、賦課期日における価格に税率を乗じたものとされている。そして、価格については、「適正な時価」とされ、賦課期日については、3年毎の1月1日とされている。

 本判決は、7割通達について、登録価格が賦課期日における適正な時価を下回る場合には当該登録価格が是認されるが、登録価格が適正な時価を上回る場合には、その限度で取り消すとしたものである。このことは、7割通達が適正な時価を超えないよう控え目な算定をしていることを認めるものであり、結局、年間の地価下落率が3割を超えない限り違法にならないとしたものである。

 この結果、その後の平成9年、平成12年の評価替えについては、地価下落率が3割を超えない以上、違法の問題は発生しないことになる。なお、本件は最高裁に上告されており、今後の判断が待たれる。

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2006年7月15日 (土)

賃貸借及び転貸借された占有移転が抵当権の侵害にあたるとされた事例

 判例紹介

 賃貸借及び転貸借としてされた占有の移転が、抵当権の不法な侵害にあたるとして、抵当権に基づく明渡請求が認められた事例 東京高裁平成13年1月30日判決。判例タイムス1058号180頁)

(事案の概要)
 建築会社Xは土地所有者Yから注文を受け、多額の建築資金を使ってホテルを建築してが、建築代金のほとんどが支払われなかった。

 Yは①残代金を割賦で支払うことを約束し、②ホテルの土地建物に残代金について抵当権を設定すること、③抵当権実行の場合には賃借権を設定する、④Yがホテルを他に賃貸するときはXの承諾を得ることなどの約束をしてXからホテルの引渡しをうけた。

 Yは抵当権の設定登記はしたが、残代金は一切支払わず、Xの承諾なしにホテルをAに賃貸して引渡し、さらにAはXの承諾なしにホテルをBに転貸して引き渡した。また、賃料は当初は毎月の割賦金支払が可能な月500万円とされていたが間もなく月100万円に減額された。

 Xは、ホテルの土地建物につき競売の申立をするとともに、Yらを被告としてホテルの明渡しを求める本訴を提起したが、一審では賃借権に基づく明渡請求が棄却されたので控訴し、抵当権に基づく妨害排除請求を追加した。

(判決)
 「第三者の占有が抵当不動産の所有者の承諾のもとに行われていて、その意味では、その占有が権原のない占有とはいえない場合でも、その占有者の属性や占有の態様などが、買受希望者に、買受けた後の占有者などとのトラブルを予想させ、買受けを逡巡させるものであるとか、占有に関する状況が、買受希望者の当該不動産の価格に対する評価を不当に低下させ、その結果適正な価格よりも売却価格を下落させるおそれがある場合には、抵当不動産の交換価値が不法に妨げられていることに変わりはないものといわなければならない。―中略―  第三者が抵当不動産の所有者の承諾のもとに占有していることによって、このような状態が生じている場合には、抵当権者は、抵当不動産を適切に維持管理することを求めうる請求権があるから、これに基づきその侵害の排除を求めることができる。また、抵当不動産を賃貸借(転貸借)などにより他人に占有させ、又は賃借人(転借人)などとしてみずから占有する第三者があり、それらの第三者の行為が抵当不動産の交換価値の実現を不法に妨げるものであるときは、これらの第三者を相手方として、抵当権に対する不法な侵害の排除を求めることができるものというべきである。」として、抵当権に基づく明渡しを認めた。

(寸評)
 本判決は、本件の控訴中に出た平成11年11月24日付最高裁判所大法廷判決が傍論で認めた抵当権に基づく妨害排除請求としての明渡を具体的事例に即して認めたものである。通常の賃貸借をしている分には、本判決の適用はないので心配はない。

(東借連常任弁護団)

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2006年7月14日 (金)

*競売で建物を買受けた者に、その敷地の賃借権は取得しないとした事例

 判例紹介

  不動産競売手続で建物を買受けた者に対して、その敷地の賃借権を取得しないとして、建物の収去義務を認めた事例 最高裁第三小法廷・平成12年12月19日判決。インターネット速報)

(事案)
 一、 Aは、Bから同人の所有する土地(本件土地)を含む宝町1丁目16番2の土地の一部及び同番14の土地を賃借していたが、Bの死亡によりその相続人Cと昭和49年5月23日、改めて賃貸借契約を締結した。

 二、Aは、昭和51年5月頃、本件土地上に建物(本件建物)を建築することとし、前妻の子であるD名義で建築確認申請をし、同年11月に完成した。昭和52年2月28日、本件建物は、家屋補充台帳にDを所有者として登録された。以後、Aは本件建物に課税された固定資産税をDの名義で支払い、家屋台帳への登録を事後的に承認していた。

 三、本件建物について、昭和62年4月17日Dを所有者とする所有権保存登記がされた。保存登記はDが、その所有権を証する書面として、建築請負人である工務店の建築工事完了引渡証明書、工事代金領収証、取締役会議事録とともに、固定資産税課税台帳登録事項証明書を提出して手続したもので、Aの知らないうちにされたものであるし、AはDが本件建物の登記名義を有することについては、これを黙示的にせよ承認したことはなかった。

 四、Dは昭和62年10月、本件建物をAの五女の夫であるEに売買を原因とする所有権移転登記手続をした。

 五、Eは、昭和62年10月26日本件建物につき、Fとの間で根抵当権設定契約を締結し、権利者をF、極度額を1000万円、債権の範囲を金銭消費貸借取引等とする根抵当権設定登記手続をした。Fは本件保存登記及びE名義の所有権移転登記を信頼したことにつき善意無過失であった。

 六、Fは、前記根抵当権に基づき平成2年3月、東京地裁に本件建物の不動産競売の申立をし、不動産開始決定がなされた。乙(被上告人)は平成6年11月15日、右不動産競売申立事件において本件建物を買い受け、同月16日所有権移転登記手続をした。

 七、甲(上告人)は、昭和53年5月にAと結婚した。Aは平成元年5月2日、甲に対し、本件土地の賃借権を含む財産を贈与した。

 右の事実関係をもとに甲は乙に対し、本件土地について有する賃借権に基づき、本件土地の所有者の所有権に基づく返還請求権を代位行使して、本件建物を収去、土地明渡等を求めていた事案。

(判旨)
  「…建物について抵当権を設定した者がその敷地の賃借権を有しない場合には、右抵当権の効力が敷地の賃借権に及ぶと解する理由はなく、右建物の買受人は民法94条2項、110条の法意により建物の所有権を取得することとなるときでも、敷地の賃借権自体についても右の法意により保護されるなどの事情のない限り、建物の所有権とともに敷地の賃借権を取得するものではない…」

(東借連常任弁護団)

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2006年7月13日 (木)

賃料債権差押えは保証金返還請求権と賃料の相殺に優先するとした事例

 判例紹介

 建物賃貸借契約の場合、抵当権者の物上代位権行使としての賃料債権の差押えは、賃借人の保証金返還請求債権と賃料債権との相殺に優先するとされた事例 福岡高裁平成12年7月18日、判例時報1749号56頁)

(事実)
 賃貸人は、平成2年10月1日、抵当権を設定した。賃借人は、平成8年10月1日、本件建物を賃借し、保証金500万円を差し入れた。 その後、抵当権者は、平成11年6月29日、賃料債権に対し、差押え手続をとった。
 それに対し、賃借人は、平成12年2月28日、保証金返還請求権と賃料債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(争点)
 争点は、抵当権の設定登記後にその目的不動産の賃貸借契約がされた場合、抵当権者の物上代位権の行使としての賃料債権の差押えと、賃借人の保証金返還請求債権をもってする賃料債権との相殺のいずれが優先するかである。

(判決要旨)
 判決は、『本件抵当権設定登記後に本件賃貸借契約の締結、本件保証金の支払がなされ、かつ、本件保証金返還請求権が発生したことが明らかであるから、本件賃貸借は、元来、短期賃貸借の制限内で抵当権者に対抗できるにすぎないものであり、賃借人としては、本件賃貸借契約の締結に際し、既に本件抵当権が設定されていることを知り得たばかりでなく、賃料債権について物上代位権が行使されることがあり得ることも十分に予想できたのであるから、物上代位権の行使によって不測の損害を被るとはいえない。これに対し、相殺を物上代位権の行使による差押えよりも優先するものと解すると、抵当権設定者は、抵当権設定後にその目的物件に多額の保証金の支払を条件とする賃貸借契約を締結し、抵当権を無力化することや、また、抵当権者からの差押えの前に相殺することによって容易に物上代位権の行使を免れることができるようになるが、このような事態は抵当権者を不当に害するというべきである。以上によれば、抵当権設定登記により公示されている抵当権者の物上代位権の行使としての差押えは、賃借人の本件保証金返還請求と本件賃料債権との相殺に優先するものと解するのが相当である。』と判示した。

(短評)
 判例は、抵当権の目的である不動産について賃貸借がされている場合、抵当権者が物上代位により賃貸人の賃料債権について抵当権を行使できるとし、抵当権者において賃借人が供託した賃料の還付請求権について抵当権を行使することを認めている。

 したがって、不動産を賃借しようとする際には、その不動産について抵当権が設定されているかどうか調査することが必要であり、一般的には、賃貸借契約は抵当権設定後になるので、賃貸借契約に当たり多額の保証金を交付することは避けるべきである。

(東借連常任弁護団)

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2006年7月12日 (水)

*建物の転貸人の転貸賃料債権に抵当権者の差押が認められなかった事例

  判例紹介

 抵当権が設定されている建物の賃借人(転貸人)が転借人に対して有する転貸賃料債権について、抵当権者がなした抵当権に基づく物上代位による債権差押命令の申立が認められなかった事例 最高裁判所第2小法廷平成12年4月14日決定。判例時報1714号61頁)

(事案の概要)
 XはA所有の建物(以下本件建物という)に根抵当権を設定したが、その後、YがAから本件建物を賃借し、Yはさらに本件建物をBに転貸した。Xは、YがBに対して有する転貸賃料の支払請求権(転貸賃料債権)について根抵当権に基づく物上代位による債権差押命令を申立て、この申立が認められた。そこで、Yは、この債権差押命令に対して不服申立(執行抗告)をしたが、原審は、抵当権設定後の賃借人が抵当不動産を転貸した場合、抵当権者は、転貸賃料債権に対しても抵当権に基づく物上代位権を行使できるとして抗告を棄却したため、Yは、右抗告棄却決定には法令違反があるとして最高裁判所に執行抗告の許可を申立てた。

(判決)
 本判決は、(1)民法372条で抵当権に準用される同法304条1項の「債務者」には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれない。規定の上からもそうであるし、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するが、抵当不動産の賃借人はこのような責任を負担せず、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供される立場にはない。
 (2)転貸賃料債権を物上代位の目的にできるとすると、正常な取引により成立した抵当不動産の転貸借関係における賃借人(転貸人)の利益を不当に害することになる、との理由で「抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得すべき転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない」として、原決定を破棄し、原審に差し戻した。

(寸評)
 最高裁判所は平成元年10月27日判決で抵当権に基づく物上代位権の行使として抵当不動産の賃料の差押ができることを認めた。この判決後、バブル経済の崩壊に伴う不動産価格の暴落により抵当不動産の換価では債権の回収が不可能になったこともあって、債権回収のための抵当権者による抵当不動産の賃料の差押が増加した。これに対して物上代位を回避するため転貸借を仮装する者も出現し、本件のように抵当不動産の賃借人がこれを転貸して得ている転貸賃料についても差押ができるか否かが新たな争点として浮上した。これについては非定説・限定肯定説と学説・裁判例が区々に別れているが、本決定は、非定説の立場で最高裁として初めての判断を示したものである。

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2006年7月11日 (火)

抵当権設定前からの賃借人が当該建物に抵当権を設定した場合の対抗力

判例紹介

競売の原因となった抵当権の設定前から建物を賃借している者が、その賃借の後に自分の負債のために当該建物に抵当権を設定してもらった場合、自分の負債については不履行がないときは、賃借権を競落人(買受人)に対抗することができるとされた事例 東京高裁平成12年4月5日決定。判例時報1707号)

(解説)
 一、賃借している建物(土地の場合も同じ)が競売になった場合に、落札して新たな所有者(買受人)となった者と賃借権者との関係が問題の所在である。(ちなみに、競売ではなく、任意の売買で所有者となった者には、賃借人は例外なく賃借権を対抗(主張)できる)。

 1、第一原則賃借権の設定(契約を結ぶだけではなく、実際に占有使用を開始すること。以下、同じ)と抵当権の設定とがどちらが早いかによって決まる。いわば早い者勝ち。賃借権の設定の方が早ければ競売になっても賃借権を維持できるし、遅ければ立退かなければならない。抵当権設定の時期は登記簿によって確認する。

 2、第二原則賃借権設定の方が早くても、賃借人自身が抵当権によって担保される債務(抵当債務)の債務者である場合は、買受人に賃借権を対抗できない。賃借人すなわち抵当債務者の債務不履行があるが故に競売になり家主は建物所有権を失うこととなるのに、当の抵当債務者の賃借権のみが保護されるとすることは著しく衡平と信義にはんする、との理屈からである。

 3、第三原則賃借権設定→一番抵当権設定→二番抵当権設定という順番できて、一番抵当権者が競売に付した場合、賃借人自身が二番抵当権の抵当債務者であって債務不履行に陥り、その抵当権の実行による競売が行われてもやむを得ないという状況が生じている場合にも、右の2と同様の理屈により、賃借権を対抗できない。

 4、第四原則では、右3の場合に、二番抵当権の債務者である賃借人には債務不履行がなかった場合にはどうなるか。これがここで紹介する判例である。いわく、「この場合には、もともとこの賃借権者が抵当債務者となっている抵当権二番自体については、その実行による競売が行われるという可能性が生じていなかったのであり、たまたまその抵当権とは別個の抵当権(一番)が実行されることとなったため、消除主義により当該抵当権(二番)も消滅する結果となるにしても、そのことについて当該抵当債務者である賃借権者には何ら責められるべき理由はないものといわざるを得ず、したがって、当該賃借権者が本来競落人に対しても対抗し得る権利を有していた自己の賃借権を主張し得なくなるものと解する根拠はないものというべきである」すなわち、この場合には、賃借人は賃借権を買受人に対抗することができるのである。

二、東借連夏季研修会でも勉強されたことと思います。復習のつもりでもう一度どうぞ。

(東借連常任弁護団)

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2006年7月10日 (月)

市街地再開発組合が訴訟で賃借人に建物明渡を請求できるとされた事例

 判例紹介

 市街地再開発組合が、建物賃借人に対し、民事訴訟手続によって建物明渡を請求することができるとされた事例 東京高裁平成11年7月22日判決判例時報1706号38頁)

(事実)
 六本木1丁目西地区市街地再開発組合が、権利変換処分によって施行地域内の建物の所有権を取得したので、建物賃借人の賃借権が消滅したとして、建物賃借人に対し、所有権及び都市再開発法第96条に基づき明渡を求めた。 これに対し、建物賃借人は、『市街地再開発組合は都市再開発法により建物の所有権を取得したのであるから、都市再開発法第92条2項に定める行政代執行の手続により、その権利の実現を図るべきである。』と主張した。

 (争点)
 本件建物の明渡は、行政代執行によってのみ実現されるべきものか、それとも施行者の民事訴訟手続による明渡請求も可能であるのか。

 (判決要旨)
 東京高等裁判所は、『施行者(市街地再開発組合)は、市街地再開発事業の実施主体であるが、権利変換処分により施行地区内の建物の所有権という私法上の権利を取得するという面では、私法上の権利の主体でもある。控訴人(建物賃借人)は、施行者は建物の所有権を取得しているが、所有権に基づく明渡請求をすることは許されないと主張する。そうすると、施行者は、自ら代執行をすることはできないから、自己の権利を実現するには第三者である都道府県知事による代執行を待つしか方法がないことになる。これは所有者が自らの判断と責任で自己の権利を実現することを認めないということを意味する。本来所有権は、その行使につき他人の掣肘を受けないことをもって、その本質的要素とするのであるから、控訴人の主張は、封建制を克服して成立した近代私法の体系に合致しないものであって、採用することができない。したがって、法が都道府県知事に代執行の権限を認めているからといって、これが施行者が所有者として自らの判断により所有権に基づく明渡請求をすることまで否定する趣旨であると解することはできない。』と判示した。

 (短評)
 市街地再開発事業においては、建物賃借人は、施行者から定められた期限までに、建物を明渡す義務があり、建物賃借人が期限までに明渡をしないときは、都道府県知事が施行者の請求により行政代執行法の定めにより代執行をすることが定められている。(都市再開発法第96条第2項) しかし、裁判所が、施行者が右の代執行を待つまでもなく民事訴訟手続による明渡請求を認めた点で、実務上参考になる。

(東借連常任弁護団)

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2006年7月 9日 (日)

建物の所在地番が間違った登記で借地借家法の対抗力が認められた事例

 判例紹介

建物の所在地番が誤って表示された登記について、借地借家法10条1項が定める対抗力が認められた事例 東京地裁平成10年11月27日判決、判例時報1705号98頁)

 (事案の概要)
 本件土地にはY所有の建物が建っていたが、その登記の所在地番が正しくは「470番地4」なのに「469番地」と誤って表示されていたため、競売手続を担当した執行官は本件土地上にY名義の建物登記がない旨の記載をした現況調査報告書を作成し、担当裁判官は右現況調査報告書に基づき、本件土地上にはY所有の建物が存在するが、Yはその借地権を競落人に対抗できないと記載した物件明細書を作成した。

 Xは、右物件明細書を見て本件土地には競落人に対抗できる借地権はないと考え、Yが借地をしている本件土地の所有権を競売による売却で取得し、Yに対し、本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求め提訴した。なお、本件建物の登記の所在地番は、右物件明細書作成後Xの競落前の間に「469番地」から「470番地4」に更正登記されている。

 (判決)
 本判決は、「土地を買い受ける者は、現地を検分して建物の所在を知り、ひいて借地権等の土地使用権限の所在を推知することができるのが通常であるから、借地権のある土地上にある建物の登記が、錯誤又は遺漏により、建物所在の地番の表示において実際と多少相違していても、当該建物の同一性を認識し得る程度の軽微な誤りであり、殊にたやすく更正登記できるような場合には対抗力を認めるのが相当である」と判示したうえで、本件建物の登記の所在地番の誤りは、その登記の表示全体において建物の同一性を認識し得る程度の軽微な誤りであり更正登記も容易であった旨認定し、また、競売手続を担当した執行官は本件土地上にY名義の建物登記がない旨の記載をした現況調査報告書を作成し、担当裁判官は右現況調査報告書に基づき、本件土地上にはY所有の建物が存在するが、Yはその借地権を競落人に対抗できないと記載した物件明細書を作成している。登記の所在地番の誤りは、建物の同一性を認識できる程度の軽微な誤りではないというXの主張に対しては、執行官は、本件建物の登記の有無につき法務局出張所に調査依頼しただけで自らは登記簿の閲覧などの調査をしておらず、執行官が本件土地上に登記されたY所有の建物を認識し得なかったとはいえない旨認定して、YはXに対し借地権を対抗できるとの判断を下した。

 (寸評)
 借地上の建物の所在地番の表示を誤った登記が当該借地権の対抗力を有するか否かについては、一般的には更正登記によって正しい表示に変更できるかどうかがメルクマールとなると言われており(昭和40年3月17日付最高裁大法廷判決など)、本判決もこのメルクマールに基づいて下されたものである。

(東借連常任弁護団)

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2006年7月 8日 (土)

借家人の保証人は法定更新後の債務を負わなくてよいとされた事例

    判例紹介

  建物賃借人の保証人が法定更新後の賃借人の債務を負わなくてよいとされた事例 東京地裁平成10年12月28日判決、判例時報1672号)

(事案)
 (1)賃貸人Xは、Aに対し、約20年前に建物を賃貸し、YはAの連帯保証人になった。

 (2)XとAの間の賃貸借契約は逐次合意更新され、その都度Yは賃貸借契約に連帯保証人として署名捺印してきた。

 (3)平成6年2月、Aが賃料等を240万円滞納したので、Xは契約を解除し、AとYに建物明渡と未払賃料の支払を求める訴えを提起したが、訴訟外で和解が成立し、新たに期間を平成6年4月1日から2年間、賃料月額26万円、滞納が2ヵ月分に達したときは無催告で解除できる等の約定で賃貸借契約を結び、Yが連帯保証人になった。

 (4)平成8年3月の更新時には約200万円の延滞があったがYが全額精算したためXは契約を解除せず、契約は法定更新された。

 (5)Aはその後また延滞し、それが400万円を超えるまでになったので、Xは契約を解除し、Yにその支払を求める訴えを提起した。

(判旨)
 (1)XはYに対し右法定更新の経緯やその後の賃料滞納について直ちに知らせず、また連帯保証人への就任も依頼しなかったが、その理由は、Yが連帯保証人辞任の意向を有していることをXは承知しており、従前の経緯からしてそれもやむを得ないと考えていたからであった。

 (2)Aは、前件訴訟の際にも約240万円もの賃料を延滞していたものであり、それゆえ、本件賃貸借契約には賃料の滞納が2ヵ月分に達したときは無催告解除しうる旨の特約が付されていた。しかるに、本件法定更新時には延滞額が200万円にも及んだが解除されず、X自身ですら更新に消極的であったがそのまま法定更新されたものであり、さらに、Aの賃料延滞は更新後もおさまらず、最終的には400万円を超えるまでになり本件訴訟が提起されたというのであって、右のような事態が、本件連帯保証契約の当時、契約当事者間において予想されていたものであったとはいい難い。

 (3)以上の諸点を総合すれば、Yにおいて本件更新後は保証責任を負わないと信じたのも無理からぬことであったということができ、Aが本件更新後に負担した賃料等の債務については保証責任を負わない特段の事情があったものと解するのが相当である。

(寸評)
 結論は極めて妥当である。 ご承知のように、建物賃貸借契約の保証人は、特段の事情のない限り、更新後の賃貸借から生ずる債務についても責任を負うというのが判例の立場である。問題はこの「特段の事情」とは何かであるが、本件はその具体的事例として意味がある。
 保証人から相談を受けた場合は、よくその中味を吟味することが大切である。

(東借連常任弁護団)

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2006年7月 7日 (金)

抵当不動産の賃借人が転貸して得る転貸賃料に差押が認められた事例

 判例紹介

 抵当権が設定されている建物の賃借人がこの賃借建物を転貸していた場合において、賃借人(転貸人)が転借人に対して有する転貸料について、抵当権者がなした抵当権に基づく物上代位による債権差押命令の申立が認められた事例 東京高裁平成11年4月19日判決。判例時報1691号74頁)

(事案の概要)
 XはA所有の建物(以下本件建物という)に根抵当権を設定したが、その後、YがAから本件建物を賃借し、Yはさらに本件建物をBに転貸した。Xは、YがBに対して有する転貸料の支払請求権(転貸料債権)について根抵当権に基づく物上代位による債権差押命令を申立て、この申立が認められた。そこで、Yは、この債権差押命令に対して不服申立(執行抗告)をし、根抵当権に基づく物上代位は抵当不動産の賃借人が有する転貸料債権には及ばないと主張して争った。

(判決の要旨)
 本判決は、「抵当権者(本件ではXのこと)は、抵当権設定者(本件ではAのこと)が目的物を第三者(本件ではYのこと)に賃貸することによって賃料債権を取得した場合には、民法304条を準用する同法372条により、上記賃料債権について抵当権を行使することができる(最高裁判所平成元年10月27日判決)ところ、民法304条1項の「債務者」には、抵当不動産の所有者(A)及び第三取得者のほか、抵当不動産を抵当権設定の後に賃借した者(Y)も含まれ、したがって、抵当権設定後の賃借人(Y)が目的不動産を転貸した場合には、その転貸料債権に対しても抵当権に基づく物上代位権が及ぶと解するのが相当である」とした上で、本件については、「抗告人(Y)は、本件建物に根抵当権が設定された後、本件建物の所有者であるAから賃借したものであるから、これを転貸したことにより取得する転貸料債権には、根抵当権に基づく物上代位権が及ぶというべきである」として、Yがした本件抗告を棄却した。

(説明)
 バブル経済の崩壊に伴う不動産価格の暴落により抵当不動産の換価では債権の回収が不可能になったため、債権回収のための抵当権者による抵当不動産の賃料の差押が増加している。本件判決でも摘示しているように、最高裁判所は平成元年10月27日判決で抵当権に基づく抵当不動産の賃料の差押ができることを認めた。 

 問題は、本件のように抵当不動産の賃借人がこれを転貸して得ている転貸賃料についても差押ができるかであるが、これについては非定説・肯定説・限定肯定説と学説・裁判例が区々に別れている。

 裁判例は限定肯定説を取っているが、執行実務としては、東京地裁では本件判決同様、原則として賃貸借が抵当権設定後である場合に限定して肯定し、大阪地裁では所有者と賃借人が実質的に同一と認められる場合等に限定して肯定するなど裁判所によって区々の扱いがなされているようである。いずれにせよ、賃料の差押命令が裁判所から送達されてきた場合には、借地借家人組合や弁護士など専門家に相談して対処するのが無難である。

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2006年7月 5日 (水)

貸共同住宅で隣人に嫌がらせを繰返し賃貸借の信頼関係破壊とした例

 判例紹介

 共同住宅の一室の賃借人が共同生活上の秩序を乱し近隣の迷惑となる行為をしたとして契約解除が認められた事例 東京地裁平成10年5月12日判決。判例時報1664号)

(事案の概要)
 、Yら2名(50代と40代の男女)は平成7年7月、Xから鉄筋コンクリート5階建てのマンションの506号室を賃借して入居した。

 、Yらは入居直後から隣室505号室の住人に対し、同室から発生する音がうるさいなどと執拗に抗議を続け、夜中に両室の間の壁を叩くなどし、また、505号室入口の扉を強く足で蹴飛ばしたりした。一方、505号室の住人は平成4年に入居した幼児1人のある夫婦共働きの家庭であり、Yらが入居するまでは両隣りから音がうるさいなどと苦情をいわれたことはなく、Yら入居後も従前同様、夜9時には子供を寝かせ、朝、家族全員が起きて出掛けるという生活を送り、夜中に騒音を発したことは全くなかった。しかし、505号の住人はYらから執拗な抗議を受け、夜、壁を叩くなどの嫌がらせを受けたためYらと深く対立することになり、平成8年5月退去した。505号室は以後空室のままである。

 、Yらは隣室の507号室の住人(公務員の独身女性)に対しても同じように音がうるさいなどと何回も怒鳴ったり壁を叩くなどした。この住人も恐怖感を募らせ平成7年11月に退去した。

 、Yらは平成8年1月に507号室に入居した夫婦に対しても音がうるさいなどと大声で怒鳴ったりした。右夫婦はXの取り計らいで402号室へ移転した。

 5、Xは505、507号室の入居者の募集を仲介業者に依頼したが、506号室のYらの言動が噂になって斡旋を受けられず、今もって空室のままである。

(判決要旨)
 Yらは、隣室から発生する騒音は社会生活上の受忍限度を超える程度のものではなかったのであるから、共同生活における日常生活上通常発生する騒音としてこれを受容すべきであったにもかかわらず、これら住人に対し、何回も執拗に音がうるさいなどと文句を言い、壁を叩いたり大声で怒鳴ったりするなどの嫌がらせ行為を続け、結局これら住人をして隣室からの退去を余儀なくさせるに至ったものであり、Yらの右各行為は、本件契約の特約において禁止されている近隣の迷惑となる行為に該当し、また、解除事由とされている共同生活上の秩序を乱す行為に該当する。そして、両隣りの部屋が長期間空室状態でXが多額の損害を被っていることなどの前記事実関係によれば、Yらの各行為は賃貸借における信頼関係を破壊する行為に当たる。

(雑感)
 実はYらは本件の訴えを起こされて北区借地借家人組合に相談に来た。しかし組合はYらの主張の正当性にいま一つ自信が持てなかったので前の事件の弁護士に依頼するようすすめた。判決の認定事実の下においては結論は当然であろう。

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2006年7月 4日 (火)

*貸ビルの譲渡で新旧家主間で合意しても借主の敷金返還を保護した事例

判例紹介

 自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が右建物を第三者に譲渡して所有権を移転した場合に、新旧所有者間において、従前からの賃貸借契約における賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨の合意をしたとしても、これをもって賃借人に主張できないとされた事例 最高裁平成11年3月25日判決 判例時報1674号61頁)

(事実)
 Aは本件ビルを建築したが、すぐに本件ビルをBに売却した上、本件ビルを賃借した。その後、賃借人Xは、Aから本件ビルの6階から8階を賃借し、敷金3383万1000円を差し入れた。

 Aは、その後、Bから本件ビルを買い戻しさらにCに譲渡した。
 そして、CはYに信託譲渡した。

 右A―C、C―Y間の契約に際し、本件賃貸借契約における賃貸人の地位をAに留保する旨の合意がなされた。 ところが、その後、Aに破産宣告がなされた。

 賃借人Xは、右A―C、C―Y間の契約及び本件賃貸借契約における賃貸人の地位をAに留保する旨の合意がなされたことを知らないまま、Aに対して賃料を支払ったが、この間、A以外の者がXに対して賃貸人としての権利を主張したことはなかった。

 賃借人Xは本件賃貸借契約における賃貸人の地位がYに移転したと主張したが、Yはこれを争った。 賃借人Xは本件賃借部分から退去した上、Yに対して敷金の返還を請求した。

 これに対し、Yは①、Aから敷金の交付を受けていない。②、債務は信託の対象とならないからYは本件敷金返還債務を承継しないと主張した。

(争点)
 本件ビルの信託譲渡を受けたYは賃貸人たる地位を承継し、本件敷金返還債務を負担するか。

(判決要旨)
 最高裁判所は、『自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が右建物を第三者に譲渡して所有権を移転した場合には、特段の事情のない限り、賃貸人の地位もこれに伴って当然に右第三者に移転し、賃借人から交付されていた敷金に関する権利義務関係も右第三者に承継されると解すべきであり、右の場合に新旧所有者間において、従前からの賃貸借契約における賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨の合意をしたとしても、これをもって直ちに前記特段の事情があるものということはできない。』と判示した。

(短評)
 本件は不動産小口商品として売り出された物を、多数の者が共同で買い受け、これを信託銀行に信託譲渡した事案であるが、その際、新旧所有者間において前記合意をしたとしてもこれをもって賃借人に主張することができないとして、賃借人の敷金返還を保護したものである
 今後とも、賃借人は、いつ、賃貸人の破産や所有権の移転によって、損害を蒙るかもしれないので、注意を要するところである。

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2006年7月 3日 (月)

電気料金の不当利得返還請求を借主に認める判決

 判例紹介

 ビルの賃貸借契約において、賃借人から賃貸人に対し電気料金の不当利得返還請求が認められた事例 東京地裁平成14年8月26日判決、判例タイムズ1119号181頁以下)

 (事案)
 XはYから賃貸用ビルの7階を事務所として賃借していた。YがXから電気料として本来受領し得る金額よりも多額の金額を受領していたとして、Xが差額金の返還(110万4932円)を求めた。

 (判旨)
 
「本件事務所の賃借人であるXは、本件事務所内で使用した電気料の負担をすればよく、本件ビルの管理に要したあるいは要する費用、共益費については支払義務はないという条件で本件賃貸借契約を締結したと認められるのが相当である。そうだとすると、共用部分についてのX負担金等は通常管理費に含まれるものとして、これらを電気料金に含めて請求するYの主張は、その余の点を判断するまでもなく理由がないというべきである。なぜなら、これらの管理費に含まれるものは、本件賃貸借契約においてはYが負担するとの合意がされているからである」

(寸評)
不当利得返還は当然であ。共益費の名目で余分な費用を取る悪徳な賃貸人が多いのが現実であり、参考になる事例であろう。         2003.10.

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

              こちらの「判例紹介」で扱った判決と同一のものです。(N)


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2006年7月 2日 (日)

*賃貸建物通常使用の損耗で原状回復 義務特約が成立しないとされた事例

判例紹介

 最高裁判例―賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負う旨の特約が成立していないとされた事例 (最高裁2005年12月16日判決 裁判所時報1402号6頁、最高裁ホームページ)

 (事案の概要)
 賃貸人Yは地方住宅供給公社である。賃借人Xは平成10年2月にY住宅の1戸に入居し敷金35万3700円を差し入れた。Xは平成13年4月契約を解約して住宅を明渡したところ、Yは敷金から住宅の補修費用として通常の使用に伴う損耗についての補修費用を含む30万2547円(未返還分)を差し引き残額5万1153円のみを返還した。XはYに対し通常損耗は敷引きできないとして敷金の未返還分全部と遅延損害金の支払を求め本件訴えを提起した。Yは契約書に退去時の補修約定があり別表の補修負担区分表で通常の損耗も賃借人が補修するとの特約があるから敷引は有効であると争った。原審(大阪高裁)は、Yが主張した通常損耗の賃借人負担特約の効力を認めXの返還請求を棄却。Xが上告受理申立した。最高裁は逆転して特約の効力を否定し、大阪高裁判決を破棄し差戻した。

 (判決)
 「賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定され、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると、建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である」とし、Yの契約書の通常損耗を含むとする補修特約について「通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとはいえず、したがって、本件契約書には、通常損耗補修特約の成立が認められるために必要なその内容を具体的に明記した条項はないといわざるを得ない」し、口頭での説明もないから、同特約の効力はない、とした。

 (寸評)
 最高裁は通常損耗は賃料に含ませて回収すべきものであって、敷金から差し引くことは原則としてできない旨を明示した。賃借人が負担すべき範囲を明確に限定した画期的で正当な判決であり、最高裁判決であるだけにその価値は非常に大きい。

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2006年7月 1日 (土)

*賃料の減額をしない旨の特約の有効性

 判例紹介

  建物所有を目的とする土地の賃貸借契約において、賃料を減額しない旨の特約があっても、賃借人から借地借家法第11条の規定に基づく賃料減額請求権の行使が認められた事例 最高裁平成16年6月29日判決、判例時報1868号52頁)

(事案の概要)
 本件土地賃貸借契約は、「3年ごとに賃料の改定を行うものとし、改定後の賃料は従前の賃料に消費者物価指数の変動率を乗じ、公租公課の増減額を加除した額とするが、消費者物価指数が下降しても賃料を減額することはない」旨の特約が付されていた。

 これまで、本件土地の賃料は、本件特約に従って3年ごとに改定されてきたが、賃借人は、「その後土地の価格が4分の1程度に下落したことなどに照らして現在の賃料額は高すぎる」と主張して、賃貸人に対して賃料の減額を請求し、減額後の賃料額の確認を求めて本件訴訟を提起した。

 これに対し、原審の大阪高等裁判所は、「本件のような賃料の改定をめぐって当事者に生じがちな紛争を事前に回避するために、改定の時期、賃料額の決定方法を定めておくものであり、本件特約は、消費者物価指数という客観的な数値であって賃料に影響を与えやすい要素を決定基準とするものであるから有効である。したがって、本件特約に基づかない賃借人らの賃料減額請求の意思表示の効力を認めることはできない」として賃借人の請求を棄却した。

 そこで、賃借人は、原判決を不服として、最高裁に上告受理の申立てを行った。

(判決)
 最高裁は、上告受理の申立を受理し、「本件土地賃貸借契約においては、消費者物価指数が下降したとしても賃料を減額しない旨の特約が存する。しかし、借地借家法第11条1項の規定は、強行規定であって、本件特約によってその適用を排除することができないものである。したがって、賃貸借契約の当事者は、本件特約が存することにより借地借家法第11条1項の規定に基づく賃料減額請求権の行使を妨げられるものでないと解すべきものである。」と判示した。

(短評)
 本件は、賃料改定特約がある場合に、特約に基づく請求ではなく(本件では「減額することはないとの定め」があるためその余地はないが)、借地借家法第11条1項の規定に基づく賃料減額請求ができるかが争われた事案であるが、特約によっても減額請求を制限することはできないとのこれまでの最高裁判例を確認したものである。

 本判決は、賃料の減額をしない特約が明らかに存する場合においても、賃借人からの賃料減額請求が認められた点において事例的な意義がある。

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 借地借家法
 (地代等増減請求権
第11条 地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

 強行規定
第16条 第10条、第13条及び第14条の規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする。


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