京都地裁(山下寛裁判長)は、昨年12月22日、通常損耗を賃借人が負担するとの特約は成立していないとして、借主の敷金返還請求を一部認容する判決を言い渡しました。
なお、原審京都簡裁平成17年7月12日判決は、通常損耗を賃借人が負担する特約は公序良俗に違反し無効であると判断して、借主の請求を一部認容していました。
平成17年12月22日判決言渡 同日判決原本領収 裁判所書記官
平成17年(レ)第67号敷金返還請求控訴事件(原審:京都簡易裁判所平成16年(少コ)
第184号敷金返還請求事件,同年(ハ)第10763号原状回復費用反訴請求事件)
(口頭弁論終結の日・平成17年9月29日)
判 決
京都市南区上鳥羽○○町XX番地
控訴人(第1審被告<反訴原告>)○○ ○(家主の名前)
同訴訟代理人弁護士 ○○○○
京都市南区上鳥羽○○○町XX-XX
被控訴人(第1審原告<反訴被告>)○○○○(賃借人の名前)
主 文
原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は,被控訴人に対し,7万7426円及びこれに対する平成16年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人のその余の請求を棄却する。
(3) 控訴人の反訴請求を棄却する。
訴訟費用は,第1,2審を通じ,本訴,反訴を通じてこれを20分し,その17を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
この判決は,1(1)項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
被控訴人は,控訴人に対し,29万4337円及びこれに対する平成16年12月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
(1) 本訴は,○○○○(以下「S」という。)(←前家主の名前)との間で後記2(1)の本件物件につき賃貸借契約を締結し,それに付随する敷金契約に基づいて敷金として15万円をSに交付した被控訴人が,Sの相続人として同人の死後賃貸人たる地位を相続した控訴人に対し,同賃貸借契約の終了後,敷金返還請求として,敷金15万円から未払水道代金を控除した13万6426円及びこれに対する本件物件明渡日の翌日である平成16年7月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。他方,反訴は,控訴人が,被控訴人に対し,上記賃貸借契約の終了後明け渡された本件物件には破損・損耗等があったところ,同破損等は通常の使用等に伴う損耗を超えるものであること,あるいは,被控訴人と控訴人の間には通常損耗部分に対する原状回復費用をも被控訴人が負担するとの特約があることを理由に,債務不履行に基づく損害賠償請求又は上記特約に基づく原状回復費用請求として,29万4337円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成16年12月3日から支払済みまで前同様民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
(2) 原審は,被控訴人の本訴請求につき,補修費用として①6畳和室の押入襖の破損につき7000円,②6畳和室戸襖の落書きにつき6000円,③ダイニングキッチンのクッションフロアーの落書きにつき9625円,④洗面台上部のミラー下の破損につき5500円を認めて,その合計2万8125円及び未払水道代金1万3574円を敷金15万円から控除し,残額10万8301円及びこれに対する平成16年7月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却し,控訴人の反訴請求は全部棄却した。
これに対し,控訴人が控訴した。
2 争いがない事実
(1) Sは,平成元年2月16日,被控訴人との間で,下記のとおり,賃貸借契約を締結し(以下「本件賃貸借契約」という。),被控訴人は,同日,Sに対し,敷金として,15万円を交付した。
ア 賃貸人 S
イ 賃借人 被控訴人
ウ 目的物 京都市南区上鳥羽○○町XX番地X「エクセレント373」3階XXX号室(以下「本件物件」という。)
エ 期間 平成元年3月1日から2年間
オ 賃料・共益費 月額5万6000円(平成15年3月1日からは月額6万6000円)
(2) 前項の契約に基づき,Sは,平成元年3月1日,被控訴人に対し,本件物件を引き渡した。
(3) Sは,平成11年10月24日に死亡し,Sの長男である控訴人が本件物件を含む建物を単独相続して,本件賃貸借契約の賃貸人の地位を承継した。
(4) 被控訴人は,平成16年6月30日,控訴人との間で,本件賃貸借契約を合意解約して,同日,控訴人に対し,本件物件を明け渡した。
(5) 被控訴人が控訴人に対して本件物件を明け渡した際,被控訴人の控訴人に対する未払水道代金は,1万3574円であった。
第3 当事者の主張
1 控訴人の主張
(1) 被控訴人が,本件賃貸借契約終了後,控訴人に対し,本件物件を明け渡した際,本件物件には,破損・汚損が存在した。これらの破損・汚損の補修等には,別紙記載のとおり合計43万0763円が必要となるが,これらの破損・汚損は,日常の使用や日時の経過による劣化・損耗(以下,この意味で「通常損耗」の語を用いる。)を超えたものであって,被控訴人の債務不履行により生じた,あるいは,被控訴人が本件物件を控訴人に対し明け渡した際に原状回復のための掃除を怠った債務不履行により残存したものである。
したがって,控訴人は,被控訴人に対し,債務不履行に基づく損害賠償請求として,合計43万0763円の支払を求めることができる。
(2) 被控訴人は,本件賃貸借契約締結の際,契約書(甲1),覚え書(甲1の契約書添付のもの)及び「エクセレント373」で始まる書面(甲1の契約書添付のもの。以下,これら3通の書面を合わせて「本件書面」という。)につき,説明を受けた上で,署名押印することにより,Sに対し,通常損耗に対する原状回復費用についても負担することを約した。
そして,本件物件の破損・汚損を補修し,本件物件を原状に回復するためには,別紙のとおり合計43万0763円が必要となる。
したがって,被控訴人は,控訴人に対し,上記特約に基づき,原状回復費用請求として,上記(1)と同様,合計43万0763円の支払を求めることができる。
(3) よって,いずれにしても,控訴人は,被控訴人に対し,43万0763円を請求できるところ,この金額は,未払水道代金1万3574円を控除した敷金13万6426円を29万4337円超えるから,結局,被控訴人は,控訴人に対し,敷金の返還を求めることはできず,逆に,控訴人は,被控訴人に対し,29万4337円の支払を求めることができる。
2 被控訴人の主張
(1) 控訴人の上記1(1)の主張事実は否認する。本件物件の明渡時に,本件物件は特別に汚れていなかった。
(2) 控訴人の上記1(2)の主張事実は否認する。
仮に,被控訴人がSに対し,通常損耗に対する原状回復費用についても負担することを約したとしても,同特約は公序良俗(民法90条)に違反する。
また,本件賃貸借契約は,平成15年3月1日に最終の更新がなされており,消費者契約法の適用があるところ,上記特約は同法10条に反し無効である。
(3) 控訴人の上記1(3)の主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 被控訴人の債務不履行の有無等について
(1) 控訴人は,被控訴人に対し,債務不履行に基づく損害賠償請求として43万0763円の支払を求めることができると主張するので,この点につき検討するに,甲2号証の1・2,5号証,乙1ないし8号証及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人が本件物件を明け渡した際に,通常損耗を超える破損・汚損として,①6畳和室の押入襖の破損・汚損,②6畳和室の戸襖の落書き・汚損,③ダイニングキッチンのクッションフロアーの落書き,④洗面台上部のミラー下の破損があること,及び,これらの破損・汚損等は被控訴人の過失により生じたものであることが認められる。
(2) これに対し,控訴人は,本件物件には上記認定箇所以外にも破損・汚損された箇所があり,これらは,被控訴人の故意・過失によって生じた,あるいは,被控訴人が掃除等を行わなかったことにより生じたと主張するところ,上記(1)掲記の各証拠によれば,本件物件には,上記認定箇所以外にも破損・汚損等があることが認められるが,その状況や,被控訴人及びその家族が本件物件を15年余り使用していたことを考慮すると,これらはいずれも通常損耗を超えるものとは認められず,被控訴人の債務不履行より生じたものであるとはいえない。また,前掲各証拠によれば,被控訴人は,本件物件の退去時に,一部の箇所につき掃除等を行っていないが(乙1,7,8及び弁論の全趣旨),その状況に鑑みると,同事実のみをもって被控訴人に債務不履行があったということはできない。したがって,控訴人の上記主張は採用しない。
(3) そして,甲2号証の1・2,4号証,乙2号証,4ないし6号証及び弁論の全趣旨によれぱ,上記(1)認定の破損・汚損等の原状回復費用は,上記(1)の①ないし③についてはその汚損等の状態及びクッションフロアーの性質等に照らしてその全体の取替費用とし,④は控訴人が当初パテ等による補修を是認する態度を採っていたこと等に照らして上記補修費用とするのが相当であるから,①6畳和室の押入襖の破損・汚損は7000円,②6畳和室の戸襖の落書き・汚損については8000円(見積書<乙3>は,当該箇所につき,補修が必要な襖は3枚であることを前提とするが,甲5号証,乙1号証,5号証,7号証によれぱ,当該箇所につき,補修が必要な襖は2枚であると認められるから,この限度で見積書<乙3>を採用する。),③ダイニングキッチンのクッションフロアーの落書きは3万8500円,④洗面台上部のミラー下の破損は5500円であると認められ,合計で5万9000円となる。
(4) これに対し,被控訴人は,自らの賃貸借期間が15年余りであったことや,被控訴人が本件物件を借りる際に賃貸人であったSが被控訴人の家族に子供がいることを知っていたこと,賃貸借契約終了後は襖は当然に張り替えられるものであるとして,被控訴人が債務不履行責任を負うことは不当であると主張するが,上記(1)認定の破損・汚損等は被控訴人の過失に基づくものであるから,同主張は理由がない。
2 通常損耗に対する原状回復費用の負担者について
(1) 控訴人は,被控訴人が控訴人との間で通常損耗に対する原状回復費用をも負担することを約したと主張するので,この点につき検討するに,甲1号証によれば,被控訴人は,本件賃貸借契約締結の際に本件書面にそれぞれ署名押印したものの,本件書面には,修復費用を被控訴人が負担することや,修復費用の基準が記載されているにすぎず,その修復費用が通常損耗についてのものか否かについては明記されていないから,被控訴人が本件書面に署名押印したことをもって,直ちに被控訴人が控訴人との間で通常損耗部分に対する原状回復費用を負担することを約したと認めることはできない。
(2) これに対し,控訴人は,本件賃貸借契約締結の際に,被控訴人が通常損耗部分を含む原状回復費用を負担することについて説明を受けていたと主張し,これに沿う乙8号証(原審証人○○○○(←管理会社H氏)の証言を録音した録音テープ)を提出するが,被控訴人がその事実を否認しており,乙8号証(被控訴人の妻である原審証人○○○○(←妻)の証言を録音した録音テープ)によっても,原審証人○○○○(←妻)が同事実を認めていないことに照らすと,原審証人○○○○(←管理会社H氏)の証言によって控訴人の上記主張事実を認めることはできないし,ほかに同事実を認めるに足りる証拠はない。
(3) したがって,控訴人は,被控訴人に対し,上記(1)の約定をもって,上記1(3)を超える金額の支払を求めることはできない。
3 結語
以上の次第で,被控訴人は,控訴人に対し,未払水道代金1万3574円及び債務不履行に基づく損害賠償金5万9000円を敷金15万円から控除した金額である7万7426円の支払を求めることができるから,被控訴人の本訴請求は,控訴人に対し,7万7426円及びこれに対する本件物件明渡日の翌日である平成16年7月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないから棄却すべきであり,控訴人の反訴請求は理由がないから,棄却すべきであるところ,本件控訴は一部理由があり,これと異なる原判決は相当ではないから,主文1項のとおり変更することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条2項,61条,64条本文を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官 ○○ ○
裁判官 ○○○○
裁判官 ○○○○
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(別紙)
御 見 積 書
平成16年7月15日
株式会社 杉徳
代表取締役 ○○○○
〒600-XXXX 京都市下京区富小路通り
松原下る○○○○町XXX
TEL (075) XXX-XXXX
担当
○○
○○ ○ 様
現場名 エクセレント373 XXX号室
種目
支払条件
合計金額 430,763- (消費税込)
下記の通り御見積申し上げますので何卒
御用命賜ります様お願い申し上げます。
摘 要 数 量 単 価 金 額 備 考
畳表替 6 枚 4,500 27,000
襖張替(押入) 2 枚 3,500 7,000
襖張替(戸襖) 3 枚 4,000 12,000
ハウスクリーニング 1 式 30,000 30,000
カーペット敷替(玄関) 1.5 m 4,000 6,000
カーペット敷替(洋間) 9 m 4,000 36,000
CF敷替くDK) 7 m 5,500 38,500
CF敷替(洗面) 2 m 5,500 11,000
CF敷替(トイレ) 1.5 m 5,500 8,250
クロス貼替〈玄関) 14 m 1,100 15,400
クロス貼替(洗面) 16 m 1,100 17,600
クロス貼替(トイレ) 13 m 1,100 14,300
クロス貼替(DK) 38 m 1,100 41,800
クロス貼替(和室) 22 m 1,100 24,200
クロス貼替(洋間) 32 m 1,100 35,200
網戸ゴム取替修理 1 枚 5,500 5,500
洗面台取替 1 式 70,000 70,000
シャワーホース取付部修理 1 式 3,500 3,500
トイレ扉建付け修理 1 式 7,000 7,000
小計 410,250
消費税 20,513
合計 430,763
東京・台東借地借家人組合
無料電話相談は050-3012-8687(IP固定電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。