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2007年2月

2007年2月28日 (水)

少額訴訟で敷金を取戻す

敷金を上回るリフォーム代を
 少額訴訟で取り返す

 板橋区小豆沢に住む鈴木さんは、3年前に家主から、息子が結婚して同居するから明け渡せと言われて困った時に、友人の紹介で借地借家人組合に入会した。その時は、組合からの手紙で家主も追い出しを断念した。

 昨年、仕事を新たに始めることになり、引越すことになった。組合からのアドバイスを受け、破損部分は自費で修理して明渡すことになった。当日は家主の代理人として不動産業者が立会い、チェックをしていった。それから数日後に見積書が郵送され「金額は32万4千円で敷金が24万円ですから、その差額をお支払いください」という内容。

 家主と何回か話合ったが、鈴木さんは納得できず、組合と相談して裁判にすることにした。当初、支払督促の申立てをする予定だったが、一日で決着がつく少額訴訟に切替えた。事前に組合と相談して写真、被告答弁書に対する反論書も準備した。

 鈴木さんは当日の気持ちをを次のように語った。
 「緊張感で一杯でした。相手の家主と不動産会社の社長が裁判官に対して、契約書に書いてある原状回復の特約は有効かと尋ねると裁判官がこの特約は不法なもので有効ではないと答えると信じられないという感じでもう一度聞き直していましたが、答えは同じでした。それから話し合いに入り、私の主張がほぼ認められ、22万円を返還することで和解しました。意思を曲げなかった事が良い結果を出せたのだと思います」。

東京借地借家人新聞より


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2007年2月27日 (火)

底地が競落される 

  競落した業者の強引な底地
          買取要求に5名で一致団結

 板橋区南町の西村さんは、借地して30年以上になる。ここ10年は、地主が何回か代わるなどし、その都度様々な嫌がらせを受けた。 

 2年前に地主が借金の返済ができず貸地を競売にかけられた。競落したのは競売物件を専門にしている業者だった。借地人には「底地を買ってくれ、嫌ならば2~3年後にくる更新時に更新料をしっかり貰う」と、脅かしつつ強引に底地の買取を迫ってきた。

 最初、1人だった組合員は「底地を買うにしても、引続き借地のままにしても組合としてまとまって業者と交渉しよう」ということで5人に増えた。組合に入っていない人たちは、借地権割合7対3の坪45万円より僅かに安い40万円で購入した人が何人もいた。

 組合員には「引続き借地のままでも、今までと何ら変らない、更新料は払わなくて済む」ことを理解してもらい、組合を窓口にして交渉する方針だ。

 組合は、競落価格を知っているし、もし買取価格で折合いが付かなければ、借地のままにする姿勢でいる。地主の不動産会社は「なんとか買ってもらうことで話しをまとめたい」と組合に申し入れてきた。

 こうした経過の末、業者が最初に提示した価格のほぼ60%で全員が取得できた。
 西村さんは「組合に入っていたお陰で交渉から解決まで全く安心していた」と言っている。

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2007年2月26日 (月)

関西の不動産業者が底地買い

業者、底地買取を強要

 北区滝野川で中華料理店を営んでいる杉本さんの家に、関西に本社がある不動産業者が訪れたのは9月の中頃だった。業者は「地主からこの土地を買った。底地を買うか買わないかハッキリさせろ、買わないなら追出してやる」と脅し、今問題になっている商工ローンの取立てみたいな連中だった。

 その後も、営業中にもかかわらず、訪ねてきては「早く土地を買い取れ」と脅迫してくる不動産業者に、杉本さんは、精神的にもまいってしまい、以前から知っていた組合を訪問した。そして、今後の交渉は組合を通じて行うことにした。

 その後、組合事務所を訪れた不動産業者は担当者を入替えて「お宅の組合は大阪でもお世話になっています」と一応低姿勢の挨拶だった。「買うか買わないかは借地人が選択する事、しかも、正当事由がなければ立退きも認められない事、更新料については一切支払わない事」を組合から通告した。最近、この業者が他の土地でも同じような事をしている事がわかった。

東京借地借家人新聞より


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2007年2月25日 (日)

大阪高裁平成18年5月23日判決(敷金返還請求)

平成18年5月23日判決言渡
平成17年(ネ)第3567号敷金返還請求控訴事件
(原審 京都地方裁判所平成16年(ワ)第2671号)
             判          決
             主          文
1 原判決を次のとおり変更する。
   (1) 被控訴人は,控訴人に対し,55万8600円及びこれに対する平成16年2月14日から支払済みまで年6    分の割合による金員を支払え。
   (2) 控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。

  事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
  (1) 原判決を取り消す。
  (2) 被控訴人は,控訴人に対し,55万8600円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
  ( 3) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
  (1) 本件控訴を棄却する。
  (2) 控訴費用は,控訴人の負担とする。

第2 事案の概要
 1 本件は,株式会社A(以下「A」という。)を賃貸人,控訴人を賃借人とする建物賃貸借契約の終了後,控訴人が,Aの承継人である被控訴人に対し,Aに預託した敷金140万円から,約定の敷金控除額42万円,未払光熱費2万2114円及び既に返還を受けた39万9286円を控除した残額55万8600円の返還と,これに対する賃借建物の明渡し後の平成16年1月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求めたのに対し,被控訴人が,①前記賃貸借契約には,通常の使用に伴う損耗(以下 「通常損耗」という。)を含めて,賃借人の負担で契約締結当時の原状に回復する旨の特約がある,②約定の敷金控除額42万円に対する消費税相当額2万1000円は賃借人が負担すべきである等と主張して,敷金140万円から,約定の敷金控除額とこれに消費税相当額を加えた44万1000円,未払光熱費2万2114円,原状回復費53万7600円及び既払金39万9286円を控除すると,控訴人に返還すべき敷金残額はない等として争った事案である。本件訴えは,京都簡易裁判所に提起され,当初は同裁判所が審理していたが,その後京都地方裁判所に移送された。原審である京都地方裁判所は,上記①の特約の存在を認める等して,控訴人の請求を棄却する判決をした。これに対し,控訴人が,請求を認容することを求めて控訴した。

 2 基礎となる事実
 原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「1 基礎となる事実」と同じであるから,これを引用する。
 3 争点及び争点に対する当事者の主張
 原判決8頁9行目の「付帯請求」を「附帯請求」に改めるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「2 争点及び争点に対する当事者の主張」と同じであるから,これを引用する。

第3 当裁判所の判断
 1 無権代理か否かについて
 当裁判所も,Bが,京都簡易裁判所で控訴人の訴訟代理人として行った訴訟行為は有効であると解する。その理由は,原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」の「1 争点(1)について」と同じであるから,これを引用する。

 2 原状回復義務についての特約の成否について
(1) 認定事実

  次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」の「2 争点(2)及び(3)について」の「(1)」と同じであるから, これを引用する。
 ア  10頁17行目の「15」を「17」に改める。
 イ  12頁6行目の次に改行して,次のとおり加える。「エ 被控訴人は,控訴人から本件貸室の明渡しを受けた後,本件貸室について全く内装工事を行わないまま,平成16年12月10日から,Cに賃貸している。」

(2) 判断
  そこで,本件賃貸借契約において,通常損耗も含めて控訴人が原状回復義務を負う旨の特約が締結されたか否かについて,検討する。
 建物の賃借人は,賃貸借契約が終了した場合には,賃借物件を原状に回復して返還する義務があるところ,賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価として賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。そのため,建物の賃貸借においては,通常損耗により生ずる投下資本の減価の回収は,通常,減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると,建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課することになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である(最高裁判所平成17年12月16日第二小法廷判決・裁判所時報1402号6頁参照)。

   これを本件についてみると,前記のとおり,本件賃貸借契約には,契約が期間満了または解約により終了するときは,終了日までに,賃借人は本件貸室内の物品等一切を搬出し,賃借人の設置した内装造作諸設備を撤去 し,本件貸室を原状に修復して賃貸人に明け渡すものとするとの条項(本件賃貸借契約書22条1項)がある。
  しかしながら,上記の条項は,その文言に照らし,賃借人の用途に応じて賃借人が室内諸設備等を変更した場合等の原状回復費用の負担や一般的な原状回復義務について定めたものであり,この規定が,賃借人が賃貸物件に変更等を施さずに使用した場合に生じる通常損耗分についてまで,賃借人に原状回復義務を認める特約を定めたものと解することはできない。したがって,同条項は,賃借人が通常損耗について補修費用を負担すること及び賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲を明記するものでないことは明らかであり,また,本件全証拠によっても,賃貸人がこれらの点を口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることを認めるに足りる証拠はないから,本件賃貸借契約において,通常損耗分についても控訴人が原状回復義務を負う旨の特約があることを認めることはできない。

 被控訴人は,①営業用物件の場合には,賃借人の用途はさまざまであり,賃借人の用途に応じて,室内諸造作及び諸設備の新設,移設,増設,除去,変更が予定され,原状回復費用は,賃貸人に予測できない賃借人の使用方法によって左右されるから,賃貸人が,通常損耗の原状回復費用を予め賃料に含めて徴収することは不可能であること,②本件賃貸借契約においては,そのような営業用物件の賃貸借契約の特徴を踏まえて,15条及び16条において,内装の変更工事等について,事前に賃貸人の書面による承諾を得た上で,賃借人の責任と費用負担により,賃貸人の指定した工事人によって行うものとされ,修繕についても,共用部分及び賃借人の所有以外の造作,設備の破損もしくは故障に関する修繕は,賃借人の通知により,賃貸人が必要と認めたもののみその費用を負担して実施し,貸室内の建具類,ブラインド,ガラス,照明器具,スイッチ,コンセント等および付属品の修繕や貸室内の壁,天井,床等に関する修繕(塗装および貼り替えを含む。)は賃借人の負担とするものとされ,22条において,賃借人に対し,原状回復義務を負わせていることを挙げ,本件賃貸借契約中には,通常損耗分についても控訴人が原状回復義務を負う旨の特約があると主張する。
 しかしながら,前示のとおり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものであって,営業用物件であるからといって,通常損耗に係る投下資本の減価の回収を,減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行うことが不可能であるということはできず,また,被控訴人が主張する本件賃貸借契約の条項を検討しても,賃借人が通常損耗について補修費用を負担することが明確に合意されているということはできないから,被控訴人の上記主張は,採用することができない。

3 本件貸室の汚損等状況及び原状回復費用の額について
 (1)  本件貸室の汚損等の状況は,前記2(1)において引用する原判決記載のとおりであり,これらの汚損等の内容及び程度,被控訴人がこれらの汚損について全く補修することなく,新たに賃貸していること並びに「原状回復をめぐるトラブルガイドライン(改訂版)」(国土交通省住宅局)別表1(甲15)において家具の設置による床,カーペットのへこみ,設置跡,フローリングの色落ち,生活必需品であるエアコンの設置による壁のビス穴等が通常の使い方をしていても発生する損耗に区分されていることに照らすと,これらの汚損等が通常損耗の範囲を超えたものであることを認めることはできない。
 被控訴人は,本件特約の存在が認められないとしても,本件貸室の汚損については,控訴人は,善管注意義務違反による損害賠償義務を負うと主張するが,本件貸室の汚損が,通常損耗の範囲を超えるということはできず,善管注意義務違反によって生じたことを認めるに足りないから,被控訴人の主張は理由がない。

  (2)  被控訴人は,控訴人は,壁クロス張替工事,壁巾木取替工事及びタイルカーペット張替工事等に必要な費用中,減価償却割合に照らし,72.5%を負担する義務があると主張するが,その主張は独自の見解に基づくものであって,控訴人がこのような義務を負う根拠はないから,上記主張は,採用することはできない。

  (3)  以上によれば,控訴人が負担すべき原状回復費用を認めることができない。

4 敷引分の消費税相当額の負担について
(1) 本件賃貸借契約の契約書(甲1)によれば,敷金は,契約開始日から10年未満に賃貸借契約が終了する場合は,7割を返還する旨の規定(6条7項)があるが,この場合に賃貸人が差し引くことのできる敷金の3割相当額について,その消費税相当額を賃借人が負担する(消費税相当額を差し引いて返還する。)のであれば,実際には7割を下回る額しか返還しないことになるから,その旨明記するのが通常であると考えられるところ,上記契約書には,その旨を定めた規定は存しない。他方,賃料等の支払については,賃料及び諸費用については,前記契約書8条において,消費税が課せられる場合には賃借人の負担とする旨の規定がある。これらの規定を対比すれば,本件賃貸借契約において,消費税相当額を賃借人である控訴人が負担する合意があるものと認めることはできない。

(2)  なお,重要事項説明書(乙6)には,「契約内容の諸条件と費用」として,敷金から控除すべき金額を「償却費」とし,それに関する消費税の有無について「有」と明記されており,被控訴人は,これをもって控訴人が,控除される金額についての消費税を負担することを裏づけるものであると主張するが,前記契約書においては,敷金から控除すべき金額を「償却費」とする旨の規定はないから,この記載のみから,控訴人と被控訴人との間で,控訴人が被控訴人の主張する消費税相当額を負担する合意があったと認めることはできず,他に,そのような合意を認めるに足りる証拠はない。

(3)  よって,この点に関する被控訴人の主張は理由がない。

5 附帯請求の起算日について
   本件賃貸借契約の契約書(甲1)の第6条によれば,敷金は,本件賃貸借契約に基づく控訴人の債務の履行を担保するために控訴人から被控訴人に対して預け入れられたものであり,控訴人が被控訴人に対し,本件賃貸借契約が終了し,本件貸室の明渡しが終了した後,賃借人である控訴人の電気料等諸費用のすべての債務について精算した上で,遅滞なくその残額を返還すべきであり,また,同契約書の第22条によれば,控訴人は,被控訴人に対し,明渡しまでの電気料等諸費用を支払うものとされているから,この部分の精算が済んだ後,速やかに控訴人に残額を返還すべきであると解される。そして,預敷金清算書(甲5)及び弁論の全趣旨によれば,遅くとも平成16年2月13日までには精算が終了し,残額を返還すべきであったと解される。したがって,附帯請求の起算日は,平成16年2月14日であると認めるのが相当である。

6 結論
  以上によれば,控訴人の請求は,敷金残額55万8600円及びこれに対する平成16年2月14日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余の請求は棄却するのが相当である。これと一部結論を異にする原判決は相当でないから,原判決を上記の趣旨に変更することとする。

     大阪高等裁判所第9民事部

             裁判長裁判官       柳  田  幸  三

                  裁判官      礒  尾     正

                  裁判官      金  子     修

今回紹介した判例に関しては、こちらを参照してみて下さい。


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2007年2月24日 (土)

最高裁判決(2005年12月16日)と消費者契約法の活用

  最高裁判決(2005年12月16日)と消費者契約法の活用

 原状回復をめぐる法的争いは、
 ①「原状回復」の文言は社会通念上通常の方法により目的物の使用収益をしている限り、原則として返還時の状態で返還すれば足り、通常損耗について原状回復義務はないという解釈論
 ②通常損耗を含む明文化された原状回復特約は新たな義務を設定する規定であるから、賃借人が義務の内容を認識し、その義務負担を意思表示していることが必要という意思表示論
 ③通常損耗を借主が負担するという原状回復特約が民法90条(公序良俗)違反や、消費者契約法10条に違反し無効であるとする効力論、 以上三つ段階を追って争われてきた。

 最高裁(2005年12月16日判決)は①の見解を採用し、通常損耗の修復費用は家賃の中に含まれており、これらの費用は「貸主負担」が原則であり、これを借主に負担させることは許されないとした。この原則に反して通常損耗の修復費用を借主に負担させる原状回復特約は家賃の二重取りであり、借主に「不当な負担」を課するものである。従って、判決では原状回復特約が認められる条件を厳しく制限した。

 最高裁は②の見解から「賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それらの合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である」と述べ、例外的に通常損耗の補修費用を借主に負担させる場合の基準を示した。これにより最高裁判決は①と②の法的争いに終止符を打った。

 このような厳しい成立要件の下でのみ特約が認められ、現実的には通常損耗を借主に負担させる不当な原状回復特約の排除を意図している。

  ③に関しては、住宅供給公社と争って原状回復特約は民法90条の公序良俗に違反して無効という借主勝訴の大阪高裁(2004年7月30日)判決がある。

 また、原状回復特約は、消費者契約法10条に違反して無効という判決は2004年の画期的な京都地裁(3月16日及び6月11日判決)の二つの判決から始まり、大阪高裁(2004年12月17日、2005年1月17日、同年4月20日、同年12月8日判決)で既に4例の借主勝訴の判決が出ている。

 またそれに加えて敷引特約は消費者契約法10条違反の判決は、2005年の大阪地裁(4月20日判決)、神戸地裁(7月14日判決)から始まり、2006年に入り大津(6月28日判決)・京都(11月8日判決)・大阪(12月15日判決)と立続けに借主勝訴判決が出ている。大阪地裁の3例を含めて、既に関西を中心に6例の判決が下されている。

 消費者契約法10条を適用した一連の判決は、特約の成立を認定した上で、その特約条項の不当性に着目し、その特約自体の違法性を認定するという画期的なものである。従って契約時における特約の説明の有無、署名・捺印等、借主の意思表示の有無等は特約の有効性の判断に関係しない。あくまでも特約の内容によって判断される。特約の内容が借主の義務を加重するものであり、且つ借主に一方的に不利益なものであれば消費者契約法10条により無効とされる。不当な特約を押し付ける賃貸借契約であっても消費者契約法で救済可能ということになる。

 このように消費者契約法は居住用の原状回復特約・敷引特約に関しては借主にとっては強力な味方へと確実に成長して来たことが判る。

 だが、営業用借家(店舗・事務所等)に関しては、通常損耗を借主の負担とする原状回復特約の成立を認め、借主に修復費用を負担させる判例が多い。問題は、消費者契約法が営業用の借家には適用出来ないという弱点があり、営業用借家には無力であるということである。

 しかし、営業用借家に関して最高裁(2005年12月16日)判決以後新しい動きが出て来た。店舗の原状回復特約を不成立とする借主勝訴の大阪高裁(2006年5月23日)判である。

 大阪高裁判決は前記最高裁判決を引用した後に「賃貸物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものであって、営業用物件であるからといって通常損耗に係る投下資本の減価の回収を原価償却費や修繕費の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行うことが不可能であることはできず、また、被控訴人(貸主)が主張する本件賃貸借契約の条項を検討しても、賃借人が通常損耗について補修費用を負担することが明確に合意されているということはできないから、被控訴人の上記主張は、採用することができない。」として貸主が主張する「営業用と居住用」を区別する考えかを否定した。その上で営業用借家に関して原状回復特約の合意成立に最高裁の限定的な認定基準で判断したことである。

 阪神大震災時における敷引特約の適用を否定した最高裁(1998年9月3日)判決では「居住用家屋の賃貸借契約における敷金につき」と対象を居住用に限定していた。今回の最高裁判決(2005年12月16日)は、通常損耗を含む原状回復特約の合意成立に関しては居住用と限定していない。営業用と居住用の区別せずに、営業用借家も借家一般として同様の基準で認定すべきとい態度を基本にしている。これは注目に値する借主保護の認定基準である。

  原状回復特約以外に、①賃料改定合意、②更新料支払特約、③保証金・敷金償却特約、④使用損害金倍額支払特約、⑤明渡し合意、⑥地上げ・時下げ合意等に活用が考えられる。


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2007年2月23日 (金)

民間開放推進会議が借地借家法改悪の最終答申

       立退料を正当事由の要件に

 06年12月25日、規制改革・民間開放推進会議が取り纏めた「第3次答申」によると、
(1)「定期借家制度の見直しについて」は、現行法では居住用建物については当事者が合意した場合でも、定期借家への切替えは禁止されている。
そこで、検討事項として
(1)居住用建物について、当事者が合意した場合には定期借家権への切替えを認めること
(2)定期借家契約締結の際の書面による説明義務の廃止
(3)居住用定期借家契約に関して借主からの解約権(強行規定)の任意規定化
(4)賃貸人及び賃借人が合意すれば更新手続だけで契約を延長できる(正当事由制度を排除した)更新型借家契約制度の創設及びその際に契約を公正証書によらずとも締結可能にすること
 これらを平成18年度以降逐次実施としている。

(2)「正当事由制度の在り方の見直しに関して」も、平成18年度以降逐次実施としている。
(1)建物の使用目的、建替えや再開発等の事情を適切に反映した客観的な要件とすること
(2)立退き料を正当事由の要件として位置づけること及びその客観的な算定基準を明確にすること
以上、法改正の議論があることを踏まえ、所管省庁は関係省庁と連携し、論点の整理、具体的な策定に資する情報提供を積極的に行うべきであると答申している。

 「第3次答申」は先に日経連が政府へ提出した「2006年度日本経団連規制改革要望」と同趣旨のものである。
但し日経連の方が直接的で具体的である。例えば正当事由に関しては、原則として廃止すべきとしている。理由として、現状では建物賃貸借契約の「正当事由」はなかなか認められず、また、相当程度に劣化した建物であっても、裁判になれば、更新拒絶(正当事由)がみとめられるためには正当事由を補完するものとして、莫大な「立退き料」の支払を裁判所から求められるからとしている。
 仮に存続させる場合は、具体的な立退料の上限を設定すべきとしている。家賃を算定基準にし店舗等は3年、事務所等は2年、居住用は1年の家賃分を立退料として支払うとしている。


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2007年2月22日 (木)

更新料支払特約は法定更新の場合には

更新料支払特約は法定更新の場合には
            適用が無く更新料支払義務は無い

 (問)京都地裁(2004年5月8日判決)で更新料支払特約があっても契約を法定更新した場合には、借主に更新料支払義務は無いという借家での判決があった。他に約定更新料の支払義務無しという借家に関する高裁又は最高裁の判例はあるのか。

  (答)東京では更新料特約がある場合、契約を法定更新した時に更新料の支払義務の有無が裁判で幾度となく争われている。

 具体的な判例で検討してみる。借主Aは、賃貸マンションを期間2年、更新の際は新家賃の2ヵ月分の更新料を支払うという更新特約が有る契約を結んだ。2年後の更新時に家賃の増額で紛糾し、合意更新ができなかった。Aは更新料を拒否し、相当と思われる家賃を供託し、法定更新の途を選択した。貸主は増額家賃・更新料の不払を理由に契約解除を通告し、未払家賃・更新料の支払と建物明渡を求めて提訴した。

  地裁は、約定更新料は法定更新には適用されず、支払義務は無いとしてAの主張を全面的に認め、貸主の請求を棄却した。

 控訴を受けて東京高裁は「法定更新の場合、賃借人は何らの金銭的負担なくして更新の効果を享受することができるとするのが借家法の趣旨であると解すべきものであるから、たとえ建物の賃貸借契約に更新料支払の約定があっても、その約定は、法定更新の場合には適用の余地がない」(東京高裁1981年7月15日判決)とした。

 この判決を不服として貸主が上告したが、最高裁は上告を棄却した。最高裁は「本件建物賃貸借契約における更新料支払の約定は特段の事情の認められない以上、専ら右賃貸借契約が合意される場合に関するものであって法定更新された場合における支払の趣旨までも含むものではない」(最高裁1982年4月15日判決)と明快な判断を下している。

  このように更新料支払特約は合意更新を想定したもので、法定更新には適用されない。これは当然の結論である。借地借家法は経済的負担の無い法定更新を定めている。更新料特約は法の趣旨に反して借主に不利益な経済的負担を課している。特約が法定更新の場合にも適用されるとすれば、それは実質的に経済負担を強制する合意更新を義務付け、無償の法定更新を排除するに等しい。換言すれば法定更新制度の否定である。

             更新料支払特約は法定更新には適用されない。
                参照 (1) (2) (3) (4) (5)  


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2007年2月21日 (水)

更新料支払特約があっも法定更新した場合には更新料の支払義務が無いという最高裁判決

判例紹介

次に掲載する最高裁判決は前日紹介した東京高裁判決(昭和56(1981)年7月15日)を不服として賃貸人が最高裁に上告したものである。判決は賃貸人の全面敗訴。

      最高裁昭和57(1982)年4月15日判決

言渡 昭和57年4月15日
昭和56年(オ)第1118号

    判      決
東京都世田谷区若林4丁目**番**号
上告人             T実業株式会社
代表者代表取締役      N   M
訴訟代理人弁護士      雨宮 真也
                                       中村 順子
                                       川合 善明
                                       島田 康男
東京都世田谷区若林4丁目**番**号
          Sメゾネット105号室
被上告人            A 

  
 右当事者間の東京高等裁判所昭和55年(ネ)第1066号、第1094号建物明渡請求事件について、同裁判所が昭和56年7月15日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

    主       文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

    理        由
 上告人代理人雨宮真也、中村順子、川合善明、島田康男の上告理由について所論の点に関する原審の認定判断は、本件建物賃貸借契約における更新料支払の約定は、特段の事情の認められない以上、専ら右賃貸借契約が合意更新される場合に関するものであって法定更新された場合における支払の趣旨までも含むものではないと認めるべきであるとするものと解されるところ、本件における証拠関係及び事実関係の下においては右認定判断はこれを是認することができないではない。
 論旨は、原判決を正解しないでその不当をいうものであって、採用することはできない.。
 よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

      最高裁判所第一小法廷
        裁判長裁判官    山  本      亨
              裁判官        団  藤  重  光
              裁判官        藤  崎  萬  理
             裁判官    中  村  治  朗
             裁判官    谷  口  正  孝

 昭和57年4月15日
 最高裁判所第一小法廷

             


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2007年2月20日 (火)

更新料支払特約があっても、法定更新された場合は更新料の支払義務がない

  判例紹介

 更新料の支払約束があっても、法定更新された場合には、支払義務がなく、支払を理由に契約解除は出来ないとした事例 東京高裁昭和56年7月15日判決

 (事実)
 借家人Aは、更新時に、新改定家賃の2か月分の更新料を支払う約定で、マンションの一室を賃貸したが2年後の更新時に、賃料改定をめぐって紛糾し、合意更新することが出来なかった。そこでAは、更新料を払わず、自己が相当と思料する賃料を提供し、法定更新を求めたところ賃貸人から増額賃料(増額未確定にも拘らず)の未払いと、約定更新料の不払を理由に契約解除し、建物の明渡し、未払賃料、約定更新料の支払を求めて来た事案。

 原審は、支払賃料の一部支払を認容した(供託無効を理由)他は、請求棄却。そこで、賃貸人から控訴、Aから一部控訴。その結果、Aの全部勝訴となった。

 なお、一審判決も、更新料の不払については、「法定更新された本件賃貸借契約そのものの解除理由となり得ない」として、Aの主張を全面的に認めている。

 (判旨)
 「建物の賃貸借契約においては、借家法第1条の2、第2条により、これらに定める要件の認められない限り、特に賃貸人のした更新拒絶ないし異議に正当事由の存しない限り、賃貸借契約は従前と同一の条件をもって当然に継続されるべきものと規定されている(法定更新)うえに、同法第6条によれば右規定に違反する特約で賃借人に不利なものは無効とされていることを考えると、法定更新の場合、賃借人は、何らの金銭的負担なくして更新の効果を享受することができるとするのが借家法の趣旨であると解すべきものであるから、たとえ建物の賃貸借契約に更新料支払の約定があっても、その約定は、法定更新の場合には、適用の余地がないと解するのが相当である。そして、本件賃貸借契約において、叙上と異った解釈を採るべき特段の事情の存することは認められない。
 ところで、本件の更新が法定更新であることは、前記のとおり当事者間に争いがないから、第一審被告に更新料支払の義務があるとする第一審原告の主張は、その余の点について検討するまでもなく、その理由がないというべきである」。

 (短評)
 判旨は論旨明快である。法定更新制度の要件を正確に解釈している点で1つの参考になろう。この判決の判旨に反対する下級審判例もあり、高等裁判所の段階で、このような明快な判決が出たことの意義は、大きいと思われる。

   第一審被告=借家人A   第一審原告=家主・賃貸人

 借家法
第1条ノ2
 建物ノ賃貸人ハ自ラ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由アル場合ニ非サレハ賃貸借ノ更新ヲ拒ミ又ハ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得ス

第2条 当事者カ賃貸借ノ期間ヲ定メタル場合ニ於テ当事者カ期間満了前6月乃至1年内ニ相手方ニ対シ更新拒絶ノ通知又ハ条件ヲ変更スルニ非サレハ更新セサル旨ノ通知ヲ為ササルトキハ期間満了ノ際前賃貸借ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ賃貸借ヲ為シタルモノト看做ス

 前項ノ通知ヲ為シタル場合ト雖モ期間満了ノ後賃借人カ建物ノ使用又ハ収益ヲ継続スル場合ニ於テ賃貸人カ遅滞ナク異議ヲ述ヘサリシトキ亦前項ニ同シ

第6条 前7条ノ規定ニ反スル特約ニシテ賃借人ニ不利ナルモノハ之ヲ為ササルモノト看做ス

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2007年2月19日 (月)

*地代の増額請求に対し借地法でいう借地人が相当と認める地代とは何か

  判例紹介

 借地法12条2項(現借地借家法11条2項)にいう「相当ト認ムル地代」とは何か (最高裁平成8年7月12日判決、判例時報1579号77頁)

 (事案)
 (1)本権借地の地代は、昭和55年8月に月額6万円に増額されて以来据え置かれてきた。

 (2)一方、本件借地にかかる公租公課(固定資産税と都市計画税の合計額)は、平成元年11月現在、月額約6万1771円であり、地代額を上回っていた。

 (3)底で地主は、平成元年10月、地代を同年11月分より月額12万円に増額請求した。

 (4)しかし、借地人は右増額請求後も依然として月額6万円を支払い続けてきた。

 (5)そこで地主は平成2年2月、借地人に対し1週間以内に増額賃料の支払がない場合は借地契約を解除する旨意思表示したが、借地人は催告期間内に催告通りの賃料を支払わなかった。

 (6)よって、借地契約は解除されたとして地主が建物収去土地明渡の訴えを提起した。

 (大阪高裁の判決)
 借地人が従前の地代額を支払う限り主観的に相当と認められる地代を支払ったものとして債務不履行の責任を問われることはない。これが借地法12条2項の趣旨である。よって本件は借地人が6万円の地代を支払っている以上契約の解除は無効である。

 (最高裁の判決)
 ①借地人が従前の地代額を主観的に相当と認めていないときは、従前の地代額と同額を支払っても借地法12条2項にいう相当と認める地代を支払ったことにはならないと解すべきである。

 ②では、借地人が主観的に相当と認める額の支払えさえしていれば、常に債務不履行にならないのかといえばそうではない。借地人の支払額が地主の負担すべき公租公課の額を下回っていても、借地人がこのことを知らなかったときは、公租公課を下回るの額を支払ったという一事を持って債務不履行があったということはできないが、借地人が自らの支払額が公租公課の額を下回ることを知っていたときは、借地人が右の額と主観的に相当と認めていたとしても、特段の事情のない限り、債務不履行がなかったということはできない。

 ③大阪高裁は、借地人がその支払額を主観的に相当と認めていたか否かについても、また、借地人が公租公課の額を下回るという事実を知っていたか否かについても事実認定をしなかったのは法令解釈適用の誤りである。

 (若干の説明)
 地代の増額請求があった場合の借地人の対応としては、借地人が自分だけの判断でこの額でよいと思う額を支払らておけば、後で結果としてそれも上回る額で決まったとしても債務不履行の責任は問われないというのは、ご存知の通り。この判決の意義は特に②にあって、「だからといってそれが公租公課の額を下回っていて、しかもそれを知りつつ漫然と従前の額を支払っている場合には、借地人の義務を全うしていることにはならない」と警告している。   1997.05.

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2007年2月17日 (土)

更新料を支払う慣習或は慣習法の存在が否定された事例

  判例紹介

 更新料を支払う旨の慣習あるいは慣習法の存否 (東京地裁平成7年12月8日判決、判例タイムズ918号)

 (事案)
 賃借人は銀座の土地を借地していた不動産会社であるが、倒産して会社更生手続が開始された。会社更生手続の中でこの不動産会社は他の会社に吸収合併されることになった。この結果、賃借権も新会社に譲渡された。そこで、地主は、新借地人である新会社に対して、賃借権譲渡の承諾料及び更新料として総額3億円を請求した。新賃借人は、更新料の支払を拒否し、譲渡承諾料について話合いをしていたが、交渉決裂となったため、地主が提訴した。

 地主は、新賃借人が、右交渉において、更新料支払約束をしたと主張、それが認められないとしても、慣習あるいは慣習法に基づいて更新料支払義務があると主張した。

 判決は、更新料の支払い合意は成立していないとした上で、慣習に基づく更新料支払請求について、次のように判決した。

 (判決要旨)
 「土地の賃貸借契約の更新に際して賃料を補充するものとしての更新料の支払がなされる事例の存することは否定し得ないところであり、東京都内、特に銀座地区においては、賃貸借契約の更新に際して、更新料が支払われる例が多くみられるが、これらの更新料の支払は、賃貸借契約の更新時における更新条件等の協議に基づいた合意の結果、支払がなされるに至ったもので、原告が主張するように、当事者間の更新料に関する合意が存しないにも関らず慣習あるいは慣習法に基づいて当然に更新料の支払がなされたという事例は散見することができない。
 したがって、東京都内、特に銀座地区においては、賃料の増額が地価の高騰に追いつかず、適正賃料額と現実の賃料額との格差が拡大する傾向にあることから、更新料の支払いが一般的に行われるとしても、右更新料の支払が、慣習あるいは慣習法に基づいてなされているという事実を認めることはできない。

 (説明)
 更新料の支払約束がない場合、慣習によって更新料支払義務を認めることはできないということは、最高裁昭和51(1976)年10月1日判決で明確にされ、その後も地裁、高裁で同様の判決が出されており、判例上確定した見解となっている。
 本判決もこの流れの中にあるものだが、昭和51年10月1日の最高裁判決から既に久しい年月が経過している。慣習とは、日々の積み重ねで作られたり消えたりするものであるから、その間に更新料支払に関する慣行が変化することもありえる。その意味で、本判決が慣習に基づく更新料支払の慣行はない、としたことは意義があるので、判決例として紹介した。  1996.12.

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

参照 ①(借地)法定更新の場合でもで更新料支払の慣習は認められないとした判決(東京地裁平成14年1月24日)
      ②借地の更新料支払の慣習は認められないとした判決(東京地裁平成16年5月21日)                  


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2007年2月16日 (金)

借地人の会社の持分と営業一切の譲渡が借地権譲渡に当たるとされた事例

  判例紹介

 土地賃借人である有限会社の持分及び営業一切を新たな経営者に譲渡したことが、土地賃借権の譲渡に当たるとされた事例 東京高裁平成5年12月15日判決。判例タイムズ874号210頁以下)

 (事案)
 土地3筆をAから賃借しその土地上に建物を所有する有限会社Yは、その会社の持分全部を営業一切が旧代表者から新代表者Cに譲渡された後、この土地所有権の譲渡を受けたXから建物収去土地明渡の訴えを起された。

 Xらは持分権全部譲渡は賃借権の無断譲渡であると主張し、右行為は信頼関係を破壊するとして契約解除を主張した。

 Yは、無断譲渡を否認し、Aの相続人A'から承諾をえていたから、Xらの本訴請求は権利の濫用であるとして争った。

 1審は、持分権の譲渡は法人格の変更ではないから、賃借権の譲渡にならないが、YはB個人の会社からC個人の会社になり、信頼関係が失われたと認め、Xの請求を認めていた。

 (判旨)
 「本件は、単に控訴人会社の代表者の地位がBからCに変更されたというものではなく、控訴人会社という個人的有限会社の経営者であるBが、その持分全部を含め控訴人会社の営業の一切を新たな経営者であるCに譲渡して控訴人会社から手を引いたというものであり、右譲渡の前後を通じて、控訴人会社の法人格は形式的には同一性を保持しているとはいえ、控訴人会社ごとき小規模な個人会社においては、賃借人経営者と地主との個人的な信頼関係に基づいて不動産賃貸契約が締結されるのが通常であり、経営者が経営から完全に撤退して新経営者が経営を担当し、不動産を使用するに至ることは、その実質に着目すれば、旧経営者から新経営者に対し賃借権の譲渡がなされたものというべきである

(寸評)
 以前にも紹介したが、本件判決と同旨の判例が、この種の事案の主流のように思われる。
 賃借権の譲渡という実態を、法人格の同一性という形式にかかわらず評価していくという見方が定着しつつある。いわゆる法人成りの場合の判例の傾向とは異なっているのでご紹介した。   1995.07.

(東借連常任弁護団)

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2007年2月15日 (木)

法人売買の形式による賃借権の譲渡が無断譲渡に当たるとされた事例

 判例紹介

 賃借権の無断譲渡禁止特約のある建物賃貸借契約をしてキャバレーを経営していた会社代表者が法人売買の形式をとることにより、この特約を回避できると誤信して売買契約したが、賃貸契約が解除された買主が損害を被ったことに重過失による職務懈怠として損害賠償責任が認められた事例 東京地裁平成4年10月13日判決、判例タイムズ83号199頁以下)

 (事案)
 キャバレー等の営業を目的とするA社は、B社から本件建物を賃借してキャバレーを経営していたが、X社は、A社からこの店舗の造作設備を含む営上の一切の権利及びA社の代表者Yから全株式を買受けた。

  AB間の建物賃貸借契約には賃借権の無断譲渡禁止の特約があったが、Yは法人の売買にすればB社の承諾を要せずに賃借権の譲渡ができるものと考え、B社の承諾を得ずに法人の売買の形式で行ったところ、B社から契約解除を受け、X社は建物の明渡しを余儀なくされ損害を受けた。

 そこで、X社はYに対し商法262条の3に基づき損倍賠償請求をした事案である。X社の請求を過失相殺5割にて一部容認。

 (判旨)
 「被告は本件売買契約が実質的には賃借権の譲渡と同一視されるものであるこを充分認識していたこと、及び被告は本件売買契約が賃貸人である札幌アルトに発覚すれば無断譲渡として本件賃貸借契約を解除される危険が高いことを予想することが容易に可能であったことを推認することができる」、

 「そうすると、被告が法人の売買という形式をとれば札幌アルトの承諾を得ることなく建物賃貸借権が譲渡できると信じて原告に対して本件売買契約の申込をして、同様に誤信した原告との間で本件売買契約を成立させたことは、会社の代表取締役として前記忠実事務に違反した任務懈怠であるというべく、かつ、右任務懈怠は被告の重大な過失によるものと解される。したがって、被告は原告に対し、原告が被告の右任務懈怠に被った損害について商法266条の3第1項の責任を免れないものと解するのが相当である」

 (寸評)
 判決は、原告が不動産業者であることから、賃貸人の事前承諾を要することは十分認識していなければならなかったこと等を理由に原告の過失も5割と認めた。法人売買の形式による賃借権譲渡については、法人格の同一性を理由に、賃借権の譲渡に当たらないとする判例もあるが、個人的色彩の強い中小・零細企業の場合には本件判決の同旨のように判断される危険が極めて高いので、あえて紹介した。   1994.12.

(東借連常任弁護団)

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2007年2月14日 (水)

借地内の駐車場部分については借地法の適用がないとされた事例

判例紹介

 借地の一部が駐車場として使用された場合、その駐車場部分には借地借家法の適用がないとされた事例 東京地裁平成4年9月28日判決、判例時報1467号)

  (事案)
 地主Xは借地人Yに対し昭和32年、普通建物所有目的で本件土地を賃貸し、Yはその土地上に建物を建築所有していた。
 Yは昭和55年春頃から建物の一部を取壊して本件土地全体の2分の1以上を13台の自動車が駐車できる有料の駐車場とした。これについてはXも承諾した。
 借地契約は昭和52年に法定更新されたが、更新料の分割払いが 終った56年5月19日に、XとYは改めて期間を右同日から20年とすることに合意した。

 Xの主張
 本駐車場は本件宅地とは板塀で明確に画され独立して使用に供されているのであるから、少なくとも本件駐車場については借地法の適用がなく、かつ、期間の定めのない賃貸借に変更された。したがって、解約申し入れれた日から1年経過後に本件駐車場についての賃貸借は終了したから本件駐車場部分につての明渡を求める。

  (判決要旨)
 本件駐車場は、本件建物が存在する本件宅地とは塀により明確に仕切られ本件土地全体の2分の1以上の面積を有し、13台の自動車が駐車できる有料の駐車場として独立して使用されている。

 このような場合には本件宅地に本件建物を所有する上で特に本件駐車場が必要とは認められず、本件駐車場には借地法の趣旨からして同法の適用はないといわざるを得ない。

  他方、賃料は特に区別することなく本件土地全体について決められてきたこと、駐車場としての使用開始後である昭和56年5月19日の更新は、本件土地全体の賃貸契約を更新する趣旨でなされたことが認められる。

 そうすると、本件駐車場の賃貸借期間は、本件宅地と同様に昭和56年5月19日から20年と合意されたものと認めるのが相当である。よってXの明渡請求は認められない。

  (寸評)
 借地の一部を駐車場にする例はよくある。その場合駐車場部分にも依然として借地法の適用があるのか、その部分は宅地部分とは切り離されて借地法の適用はなく民法の一般原則が適用されるのか。後者だとすれば駐車場部分には勿論法定更新はなく、期間の合意がなければ解約申入れ後1年で契約は当然終了する(民法617条)

 そのメルクマールは、駐車場用地がそれ自体建物と切り離されて独立性を有しているか、駐車場が主でたてものがその付随的設備にすぎないか等にある。

 なお、本件は地主の承諾が認められたケースであるが、無断であるとすると借地全体の解除の問題が起り得る。  1993.12.

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞 より

  民法
(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)
第617条  当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
  土地の賃貸借 1年
②  建物の賃貸借 3箇月
③ 動産及び貸席の賃貸借 1日
 収穫の季節がある土地の賃貸借については、その季節の後次の耕作に着手する前に、解約の申入れをしなければならない。


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2007年2月13日 (火)

一方的に減額賃料を支払った借家人が賃料不払で契約解除された事例

 判例紹介

 建物賃料の減額を請求した後に一方的に自己の主張する減額した賃料の支払を継続した賃借人に対し、賃貸人のなした賃料不払を理由とする賃貸借契約の解除が有効とされた事例 東京地裁平成10年5月28日判決、判例時報1663号)

 (事案)
 賃借人は平成5年4月からビルの一室を賃料月額45万円、期間2年等ノ約定で賃借した。賃借人は約2年後の平成7年5日から月額35万円に減額するよう申し入れ、実際その額で支払い始めた。

 賃貸人は、これに対し、減額の協議には応じるが協議が成立しないときは賃貸人と減額を正当とする裁判が確定するまでは賃貸人が相当と認める賃料の支払を請求することができる旨を定めた借地借家法32条3項の規定を引用した上、協議が成立するまでは賃貸人が相当賃料と認める月額45万円を支払うべき旨請求した。

 しかし、賃借人がこれを無視して依然として35万円の支払を継続したため賃貸人は平成8年6月にそれまでの請求賃料との差額合計140万円の支払を求め、これを支払わないときは契約を解除する旨の意思表示をし、建物明渡の訴えを起した。

 賃借人は借地借家法32条3項にいう相当と認める賃料とは、単に主観的に相当と認めるだけでは足りず客観的にも相当と認められる範囲内でなければならず、賃貸人の請求する45万円はこの範囲内の金額であるということはできないから解除は無効であると争った。

 (判決)
 借地借家法32条3項の規定は、賃料減額請求権の行使によって定まるべき客観的な相当賃料額と当事者の認識する主観的な賃料相当額とのギャップによって生じる賃料不払を巡る紛争を防止するため、そのような場合においては賃貸人は減額を正当とする裁判が確定すらまでは、賃借人に対し、自己が相当と認める額の賃料の支払を請求することができるものとして賃貸人の認識に暫定的優位性を認めて、賃借人に右請求額を支払うべき義務があるものとしたものであって従って賃借人が右請求賃料の支払をしないときは賃料不払の危険を免れない。そして右規定にいう「相当と認める賃料」とは、右規定の趣旨に鑑みると、社会通念上著しく合理性を欠くことのない限り賃貸人においても主観的に相当と判断した額で足りるものと解するのが相当である。本件における賃貸人の請求額は社会通念上著しく合理性を欠くものと評価することはできなず、後日なされた鑑定の結果(36万6600円)をもって賃借人のこの判断を不当とすることは当を得ない。解除は有効である。

 (寸評)
 この判決は1998年12月号に紹介された事例との逆の結論である。しかし、そこでの弁護団の説明にあるように、組合活動の実務においてはこの判決の趣旨に則って対処するのが無難である。  1999.05.

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞 より

    借地借家法
  (借賃増減請求権)
第32条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

2 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。

3 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年1割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。


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2007年2月10日 (土)

賃料減額で従前を下回る賃料を支払い続けが、契約解除が認められなかった事例

 判例紹介

  建物賃料の減額請求をした賃借人が賃貸人の要求に反し従前の賃料を支払い続けた場合において賃貸人による賃貸借契約の解除の効力が否定された事例東京地裁平成9年10月29日判決、判例タイムズ981号)。

  (事案)
 賃借人はビルの1階を賃料月額46万円で賃借していた。家主は平成2年7月からの賃料を月額52万円に値上げ請求した。これに対して、賃借人は月額37万8080円に値下げ請求をして対抗した。そして、賃借人は、当面の措置として従前合意賃料を下回る月額40万1710円(別途共益費・消費税)を賃料として支払った。家主は、賃料不払を理由にして賃貸借契約の解除をして建物明渡の裁判を起した。

 裁判でなされた賃料鑑定は月41万2000円であった。賃借人の値下げ請求は認められることになるが、賃借人が支払っていた賃料は、鑑定賃料額よりも1万0290円下回ったことになる。そこで賃料不払で解除されるのかどうかが問題になった。

 (判決要旨)
 「賃借人は、平成8年7月分以降、賃料として月額40万1710円を払っているが、賃料相場の下落傾向を踏まえて月額37万8080円(坪当り1万6000円)が相当賃料であると考えて賃貸人に通知し、賃貸人が争っているので、若干付加する意図で月額40万1710円(坪当り1万7000円)とし、従来の供益費と消費税を加えた41万9761円を賃料改定合意が成立するまでの一応の賃料として支払っていることが認められる。減額された相当賃料よりも支払っている賃料額は月額1万0290円少ないけれども、その相当賃料に対する割合は約2.5%であり現在においても不足額の合計額は相当額の3分の1に満たない額である。借地借家法32条3項によれば、減額請求をした賃借人は、「相当と認める額」を提供しなければならないけれども、その額が著しく不合理でなければ、相当賃料を下回るときには差額に年1割の利息を付して支払えば解除されることはない趣旨である解されている。したがって、本件では、右法案の許容する範囲内の賃料不払であるから賃貸人の解除はその効力を発生させない。」

  (説明)
 借地借家法32条3項は「減額の請求を受けた家主は、減額の裁判が確定するまでは、相当と認める額の賃料を請求できる」と定めている。本件では、右のいう「相当と認める額」として支払った賃料が、その後の裁判で決まった額よりも少なっかたとしても、なお許容する範囲にあると判断された。正当な判断であるが、「許容範囲」にあるかどうかは、後の裁判で決まる賃料額に左右されることなので、現実の対処としては、従前の賃料をとりあえず支払っておくというのが、危険を犯さないやり方であろう。   1998.12.

(東借連常任弁護団)

    参照  家賃減額を請求した場合に裁判確定前の家賃額は従前と同額とした判決

東京借地借家人新聞より


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2007年2月 9日 (金)

小修繕は借家人が行うとの特約で家主に屋根の等の修繕義務を認めた事例

   判例紹介

 小修繕は借家人が自らの費用で行うとの特約がある場合に、家主に屋根等の修繕義務が認められた事例 東京地裁平成3年5月29日判決、判例時報1408号89頁)

 (事案)
 この事件は築後約24年を経た建物(居宅)の借家人が原告となり、家主に対し屋根、壁、雨戸など14箇所の修繕を求めたものである。これに対し家主は借家人の要求する修繕は新築同様又は賃料の3年分の費用がかかり経済的に修繕不能であり、借家人の要求は権利の濫用であると争った。

 (判決要旨)
 
第1点、「特約」との関係。
 建物の部分的な小修繕は借家人が自らの費用を負担して行う旨の特約がある場合は、家主の修繕義務を負う部分と借家人が自己の費用をもって修繕すべき部分との調整が必要である。

 第2点、修繕義務の負担。
 小修繕に当たるものの修繕について家主に修繕義務はないが、建物の改造、造作、模様替え等建物の基本構造に影響すべき現状を変更する修繕部分は家主の負担すべき義務の範囲に属する。

 第3点、家主の修繕義務の程度。
 ① 築後相応の建物としての使用継続に支障が生じない程度でよい。新築同様の程度まで修繕すべき義務はない。
 ② 修繕に多額の費用を要するもののうち、現状のままでも借家人側の受ける損失が小さいものにあっては、借家人において現状を甘受すべきであり、家主に修繕義務はない。

 ③ 借家人側に原因のある部分についても家主には修繕義務はない。

 ④ 本件においては、2階屋根のセメント瓦のずれないし割れの部分、1階便所等の上のさしかけ鉄板葺屋根の部分、南側外壁のひび割れ部分、雨樋の損傷破損部分、2階和室天井板の剥離・割れの部分など6箇所について、従前と同品質又は同程度の材料と交換したりして修繕する義務が家主にある。

 ⑤ 右の家主の修繕は、少なく見積もっても賃料の数か月分を超える費用が必要だが、この程度では修理不能の域に達しているとは認められず、さらに、家主は本件建物新築以来修繕費も支出したことがないというのであるから、今回の支出がある程度の額となっても、それをもって賃料との均衡を欠くものということはできない(賃料との均衡を失するというのであれば、未だ建直しの時期が到来していない本件建物にあっては賃料の増額方法によって調整されるべきである)。

 (短評)
 小修繕は借家人が行うとの特約がある場合、それを超える修繕は家主の義務であるが(民法606条1項)、その限界は微妙な場合が多い。また、老朽化の程度によっては物理的にも修繕が不可能だったり、物理的には可能だが賃料に比してあまりにも多額の費用を要するときは経済的に修繕不能とされ、家主の修繕義務はそれだけ軽減又は免除される。事案毎に具体的に判断するほかないが、その1つの判断基準が比較的詳細に示された先例として、この判決の意義がある。    1992.06.

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2007年2月 8日 (木)

借地の一部を駐車場として貸すことが無断転貸にあたるとされた事例

判例紹介

 借地の一部を駐車場として第三者に賃貸したことが、無断転貸として契約の解除原因にあたるとされた事例東京地裁平成5年3月29日判決、判例タイムズ871号252頁以下)

 (事案)
 Y(1)、(2)、(3)は、X(1),、(2)、(3)から本件土地を賃貸して、木造建物2階建居宅を所有していた。Yらが本件土地(125㎡)の一部(約15㎡)を第三者に駐車場として賃貸したところ、Xらはその中止を求めたがYらはこれに応じなかった。そこでXらはYらに対し、無断転貸を理由として賃貸借を解除し、建物収去土地明渡請求の訴えを提起した事案。

 (判旨)
 「本件駐車場部分の面積は15ないし18㎡で12ないし15%程度に過ぎないものであるが、AおよびBの両名との間の契約内容は、いずれも自動車1台の駐車場として賃料月額2万5000円ないし2万6000円と定める他、敷金、第三者への賃借権の譲渡転貸の禁止等について詳細な条項を定め、賃貸期間について1年間で合意による更新可能としている。民法612条が賃貸人の承諾なく賃借人が賃借権を譲渡し目的物を転貸することを禁じ、これに反して第三者に使用収益させたときは賃貸人が賃貸借契約を解除することができるものと規定している趣旨は賃貸借が当事者の個人的信頼関係を基礎とする継続的法律関係であることにかんがみ、賃借人において賃貸人の承諾なくして第三者に賃借物を使用収益させることは契約の本質に反することから、このような行為のあったときには賃貸借関係を継続することのできない背信的行為があったものとして賃貸人において一方的に賃貸借関係を終了させることができることを規定したものというべきである。右趣旨に照らせば、第三者に使用収益をさせた対象が賃貸借の目的物である借地の一部であるからといって民法612条にいう『転貸』に該当しないということはできない。

 (寸評)
 本判決は「借地上に商店、飲食店、劇場等の、不特定多数の顧客の来訪を伴う建物を所有ないし管理する場合」には社会通念上建物の所有又は管理目的の範囲内の利用行為と認められ転貸に当たらない場合もあり得ることを説示している。

 従って、本判決は、駐車場としての利用形態、設置目的、契約内容を総合的に判断する立場も採っている。従前の判例は、無断転貸をみとめつつ、解除までは認めないものや、駐車場とする行為が用法違反に当たるとしながらも解除は認めなかったものがあり、様々である。しかし、単なる収益目的のための駐車場の設置は、転貸又は用法違反として契約解除をうけるおそれは充分にあるので注意すべきである。  1995.12.

(東借連常任弁護団)

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2007年2月 7日 (水)

*貸主の失火で焼失した賃貸建物の商品について貸主の賠償を認めた事例

 判例紹介

 建物賃貸人の失火による火災で焼失した賃貸建物の衣料品類の損害について賃貸人の債務不履行責任を認めた事例最高裁平成3年10月17日判決 判例時報1404号)

 (事件)
 本事件の賃貸建物は木造2階建である。賃借人は、1階の道路側部分と衣料品類販売店舗として賃借し、1階の裏部分と2階は賃貸人が居住として使用していた。昭和55年2月、賃貸人の風呂場から失火し、借家店舗も焼け、中の商品、内装等が燃えてしまった。借家人は、損害賠償として2000万円を請求して裁判を起した。借家人は地方裁判所で敗訴、高等裁判所で勝訴、本判決は、その後の最高裁のものである。

 (判決の要旨)
 「上告人(賃貸人)は、その所有に係る木造2階建の本件建物の1階1部を総合衣料品類販売店舗として被上告人(借家人)に賃貸し、その余の1階部分及び2階全部を自ら住居として使用していた。本件建物の火気は、主として上告人の使用部分にあり、上告人の火気の取扱いの不注意によって失火するときは、被上告人の賃貸部分に蔵置保管されている衣料品類も被害が及ぶことが当然予測されていたところ、上告人の使用部分である1階風呂場の火気の取扱いの不注意に起因する本件失火によって被上告人の賃貸部分に蔵置保管されている衣料品類も被害が焼失し、被上告人はその価額に相当する損害を被ったものというべきであるから、上告人は右被害について賃貸人として信義則上債務不履行に損害賠償義務を負うと解するのが相当である。

 (解説)
 失火による損害賠償義務については法律が込み入っている。家事を出した人と被害を受けた人が、単に隣近所にいたというだけの間柄であったときは、失火の責任に関する法律によって、不始末の程度がよほど重いときでなければ損害賠償の義務はないが、本件のように建物賃貸借関係にあるときは、不注意が特に重くなくとも損害賠償義務がある。賃貸人は建物を貸す義務があるし、賃借人は借りた建物を良心的に保管する義務があり、お互いに建物に関し特別の義務を負担し合っているから、失火の責任に関する法律は適用されない。

 本件では、建物賃貸人の失火なので、賃貸人に、火事によって賃借人が被った損害を賠償する義務が発生したわけだが、何処まで賠償すべきかが問題になった。建物を貸せなくなったことによる転居費用などの他に、賃貸建物内に置いてあった商品等についても、賠償する義務があるといたのが本判決である。
 なお、本件では賃貸人の失火であるが、賃借人の失火においても理屈は同じ。    1992.04. 

(東借連常任弁護団)

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2007年2月 6日 (火)

底地を買い受けた第三者が、背信的悪意者とされた事例

     判例紹介

 底地を買い受けた第三者が、背信的悪意者とされた事例 東京地裁平成3年6月28日判決、判例時報1425号89頁)

 (事実)
 数人の借地人から、借地権を譲り受けたものが、借地上の建物を取壊したところ、地主が底地を第三者に譲渡し、その第三者が、借地権の譲受人に対し、借地権の存在を否認した。

 これに対し、借地権譲受人が、その第三者を相手どって、借地権確認の訴訟を提起した事案である。

 (争点)
 借地権譲受人は、建物所有権移転登記無くして新土地所有者に対抗できるか、すなわち底地を買い受けた第三者は、背信的悪意者であるか。

 (判決の要旨)
 借地人が建物を取壊した土地について、新土地所有者に対して、建物無しに借地権を対抗することができるか問題となるところ、本件において、新土地所有者は借地権譲受人と旧土地所有者との間の協定(堅固建物を建築する予定、そのために借地権を買い進む予定)およびその後の借地権譲受人の借地権買い進みと、借地上の10筆の建物のうち7筆の建物を取り壊したことを知って、借地権の存在を否定すれば莫大な利益を手にすることができると考えて底地を安価で取得したものであり、このような事情、目的でなされた行為はもはや自由競争の範囲以内にある正当な取引行為として是認することはできず対抗要件の欠缺を主張することについて正当な利益を有するとは言えないとして、借地上の建物が無いために対抗要件の存在しない土地についての借地権も新土地所有者に対抗できると判示した。

 (短評)
 原則は、借地人は、借地上の建物が存在しその建物について登記がなされていない場合には、建物保護法第1条(借地借家法10条1項)に基づき新土地所有者に対して対抗できないとされている

 しかし、例外的に、新土地所有者が背信的悪意者の場合には、借地人は建物登記がなくても対抗できるとされる。

 ところで、世上では、借地上の建物を登記していない例がまま見られるところであるが、本件のように背信的悪意者と認定されるケースばかりではないので、原則にしたがって、早急に建物を登記するように注意する必要がある。

 なお、借地借家法10条2条で、既存の借地契約についても、建物の滅失があった場合、滅失から2年間は掲示をしておけば建物が無くても対抗力が失われないようになったので、この点も留意する必要がある。 1992.10.

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 借地借家法
 (借地権の対抗力等)
第10条 借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。

 前項の場合において、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から2年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。


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2007年2月 5日 (月)

更新時に15%の家賃値上げを認める特約

      法定更新の選択を通知すると
          家主は特約の削除に合意

 池袋駅から歩いて5分の繁華街の一角で6年前から美容室を営業している小池さんは、この1月で契約期間が満了する。

 昨年12月に家主から契約更新にともない「原契約にあるとおり、賃料の15%の増額、更新料の2ヵ月分の支払をお願いいたします」と通知してきた。

 小池さんはこの不景気の中で家賃は下がっているのに「契約書には更新時に15%の値上げの特約」があるために毎回値上げを認めていたのでは、5回更新すれば最初の家賃の2倍になってしまう。 そこでなんとかしなければと思って組合事務所にやって来た。

 組合は「更新には、両者が合意して更新する合意更新と合意が出来ない場合、法律が自動的に更新してしまう法定更新があることを説明し、この法定更新では期限の定めのない契約になり更新というものがなくなってしまう事」を説明した。

 小池さんは直ちに家主に現契約書に書いている更新時に、賃料の15%値上げの特約を削除しなければ、法定更新にすることを家主に通知した。

 すると家主側はこの特約を削除する事で合意したいと言ってきた。  小池さんは「最初は不安だったが、組合の言うとおりに交渉したら、一発で解決した。さすが組合だ。困った時は組合に行きなさいと今度は私が宣伝して回ります」と喜んで語った。

東京借地借家人新聞より


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2007年2月 3日 (土)

店鋪賃料値下げで和解

         調停で現行賃料を月額1万円減額

 豊島区巣鴨で商売をしている若林さんは、2年前には、家主から家賃値上げの調停を申立てられた。その際は、不調になり値上げをさせることは出来なかった。

 その後の2年間は、景気はますます悪くなる中で近隣の店鋪、事務所の賃料は安くなる一方だった。家主からの嫌がらせも後を経たず、この際、家賃値下げを裁判も辞さずの覚悟で調停を簡易裁判所におこすことを決意した。

 組合の全面的な援助をもらい、調停手続きを行った。近隣の店鋪を賃貸している人や不動産屋からも資料をもらい調停の場に提出した。家主側も近隣の相場を資料として提出したが、家賃が高くて入居者がいないところの資料を出してきた。

 若林さんは、もし値下げに応じないならば本裁判も辞さない決意を表明した。その後、1万円値下げするならば和解に応じてよいと言う提案をしたところ、家主はしぶしぶ和解に応じた。

 若林さんは「組合のお陰で値下げすることが出来ました。この景気の悪いときに大変有り難い結果をえる事ができました」と語った。

東京借地借家人新聞より


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2007年2月 2日 (金)

減額に成功 

交渉で減額に成功する
 店舗補償金補充の減額交渉も3回

 江東区深川1丁目の田中さんは、地下鉄東西線の門前仲町駅近くで店舗を借り、コーヒー店を営んでいる。

 当初借りたのが25年前。2年契約で家賃は11万円だった。

 その後、契約更新毎に更新料、保証金の償却・補填をはじめ、家賃の値上げは、田中さんが温厚なのにつけ込んで13万円、次は15万円、17万円、20万円、24万円と値上げが続き、保証金の補充は72万円に達した。

 平成2年になって、家賃を28万円に値上げ請求を受けて、田中さんは遂に組合に加入した。組合を通じて家賃額の交渉をした結果、264,000円に抑えることができた。

 次の更新からは、弁護士を頼んで保証金補充の減額交渉を3回やってもらい、それなりの成果を上げた。

 田中さんは、現状では、まだまだ負担が重すぎるため、組合のアドバイスで家賃の減額交渉を始めた。1回目の交渉で24,000円の値下げを勝取ったが、その後も粘って、さらに1万円値下げに成功した。田中さんは「組合に入っていて本当に良かった」と話している。

東京借地借家人新聞より


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2007年2月 1日 (木)

建替承諾料の支払なしで鉄骨住宅に建替え

建替承諾料・借地更新料支払い無し

 地主との4年半に亘る裁判の末に、借地上に鉄骨3階建の自宅がやっと完成した。

 事件の発端は、地主側弁護士からの通告書であった。借地期限が後1年になったことから、建築計画を立て、建築会社の設計図も完成し、新築の準備をしていた矢先のことであった。

 地主側の通告書には、「通告人は、本書面を以って貴殿が本件土地上に於いて建物の新築・改築又は増築を行わないよう請求致します」と記されていた。

 ところが、裁判の始まる5年前に「貸地上に建築計画上の住宅・店舗の建築に際して更新料・承諾料の要求は一切致しません」と言う直筆の実印が押された念書を地主から貰っており、地主からは既に建物建築の承諾を得ていたにも拘らず、このような建築中止の通告である。地主の悪どい遣り方に納得が出来ず裁判に訴えた。

 地主の敷地は借地部分を含めると約250坪で奥に長い四角形である。言問通りに面し、その南側にある。言問通りに面した部分〈約70坪〉に借地人の4軒の建物が建っている。従って地主の土地はその一部が言問通りに面し、L字形をしている。土地の殆どは借地人達の建物の裏(北)側にある。

 地主は裁判が始まる5年前に住宅金融公庫から建築資金を得て、5階建の賃貸マンションの建築を11月から始めた。ところが、地主の敷地内で工事が行われていれば何ら文句は無い。しかし、4軒の借地人の同意も得ずに、その借地内に勝手に入り込んで無断で足場を組み、あまつさえ借地部分に60㎝以上も喰い込んで鉄板で囲い始めた。公庫と建築会社に敷地の無断使用を抗議した結果、工事は全面的にストップした。

 公庫・建築会社と借地人との話合いの過程で、山留めのH鋼が借地人の敷地内に16本打ち込まれる計画であることが判明した。敷地外にH鋼を移動することは、現在の建築面積が採算ラインぎりぎりであって、これ以上建築面積の縮小は採算ライン以下になり工事の全面見直しとなる。H鋼の移動は不可能である事も解った。公庫は地主の杜撰な建築計画に常識外れと呆れていた。

 公庫は地主に対して、借地人のとの間で工事に関する同意が得られない場合、且つ12月中に着工出来ない場合は、融資打ち切り・建築中止を勧告すると通告した。

 地主は建築中止を怖れ、借地人が要求する内容の念書を仕方なく書いたのであるが、借地人としては16本のH鋼 の打ち込みを容認する代償として念書を得たのである。

 裁判が始まると地主側は木造建物の建築承諾はしたが、堅固建物の建築承諾はしていないと反論してきた。だが、裁判の結果は非堅固建物から堅固建物への変更を認め、30年の借地契約で鉄骨3階建の建物へ建替えることを認めた。地主が書いた念書通り建替承諾料・借地更新料共に支払わずに済んだ。

 建築資金は店舗併用住宅なので国民生活公庫から融資を受けて、裁判から2年後に建物は完成した。


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