家主による脅迫的な立退要求等に損害賠償が肯定された事例
判例紹介
家主による建物の仮装譲渡、通行妨害、水道、ガス、電源の一時停止、脅迫的な立退要求等が、借家人に対する不法行為に当たるとして、損害賠償責任が肯定された事例 (東京地裁昭和63年11月25日判決、判例時報1307号118頁以下 確定 )
(事案)
借家人は、ビルの3階部分を賃借して、皮膚科、形成美容外科の診療所を開業していた医師であるが、家主は、ビルが老朽化したことを理由としてビルを建替える必要があるとして正当事由に基づく解約申入れをした。借家人がこれを拒否したところ、家主は 3階に通じる通路を廃止したような外観を作った上、通行を妨害したり、電源を切ったり、水道およびガスの供給を停止したりしたほか右翼の幹部と共謀して、右の者にビルを譲渡したように仮装したりした。
そこで、借家人は、これらの行為により、医療業務が妨害されたとして、家主(株式会社アートネイチャーとその代表取締役)に対して不法行為責任に基づき、損害賠償の請求をした。
(判示)
判決は、家主の立退きを求めて行ったこれらの行為は、法律に則った手段による明渡しが困難であるため、借家人の業務を妨害すること等によって追い出しを図るためにしたものであるから、立退き工作は、社会通念上許された範囲を逸脱したものである旨判示し、金120万円の慰謝料等の支払を命じた。
(短評)
本件は、株式会社アートネイチャー(毛髪製品の製造および販売を主たる目的とする会社)とその代表取締役が被告となった事件である。
世上、往々にして、家主が、賃貸建物の明渡しを図るため、裁判上の手続では、明渡を得られないことが予想されるため、裁判上の請求の代わりに、あるいは、裁判上の請求とともに、賃貸建物内における備品類を搬出したり、鍵を取替えて使用できないようにしたりして、事実上明渡しを図ることがある。
このような家主による実力行使に基づく自力救済は、原則として法が認めるところではなく、家主がその限度を超えて行った行為は、借家人に対する不法行為に当たるものとして、損害賠償の責任を負うことになる。
また、会社の不法行為責任が成立する場合は、会社の責任とともに、代表者個人の責任も成立することになる。
そこで、家主が実力行使をするような場合には、借家人として、それらの実力行使に対抗するため、刑事上の告訴のような民事上の不法行為に基づく損害賠償の請求手続を適宜考える必要がある。
本件は、そのために参考となる判決といえる。 1989.07.
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