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2008年10月

2008年10月31日 (金)

期間満了時の更新拒絶を不可能な堅固建物の建替えが却下された事例 (1)

 判例紹介

 賃貸借期間満了時の更新拒絶を不可能とするような借地条件の変更は相当でないとして堅固建物への条件変更が却下された事例 (高松高裁昭和63年11月9日決定、判例時報1319号191頁以下 確定)

(事案)
 借地人は、非堅固建物所有目的の借地権を有していたが、これを堅固建物所有目的に変更するための申立を行った。

 そして、その理由として、当該土地が市街化区域になり、準防火地域に指定されたこと。また、この地域が、今では市内の中心地になり鉄筋コンクリート造の建物が密集していることを挙げた。

 借地人としては、鉄筋コンクリート5階建てを建てる計画を立てていた。

 これに対し、地主は、建物が老朽化しており、契約の残存期間が10年以下であり、借地人の申立には緊急性・必要性がなく、借地契約期間満了時に正当事由の成否の判定を待ってからでも遅くない等と主張した。

 原裁判所の徳島地裁は、1000万円の支払いを条件に、借地人の申立を認め、併せて付随処分として、期間を30年に、地代を月額12万1200円に改定する旨の決定をした。

 これに対し、地主から高松高裁に抗告した。

 (判示)
 本決定は、借地人の堅固建物所有を目的とする土地利用の必要性は認めたが、
①、本件申立の主たる動機は、地域環境の変化により、現在の建物における生活を前提とした土地利用状態を維持することが困難になったというのではなく、借地人が新たに営業用建物を建築して収益を上げることを考えるためであり、目的変更の緊急の必要性に乏しいこと、
②地主が期間満了時に更新拒絶をして争うことが必至の状況にあること、
③借地期間が7年足らずで、期間満了時に更新拒絶についての正当事由が認められる余地がないわけではないこと等を上げて、将来の更新拒絶を不可能にするに等しい条件変更を認めるのは相当でないとして、原判決を取消して、借地人の申立を却下した。

 (短評)
 借地条件変更事件においては、借地法第8条の2第4項において、借地権の残存期間が考慮されるべき事項の中に挙げられていることから問題になるところであるがこの場合、一般的には借地権満了時における地主の正当事由具備の見込みの程度も併せて考慮しなければならないとされている。

 本件においては、原裁判所と抗告裁判所の結論が分かれているが、その分岐点は借地期間満了時における正当事由の有無についての判断の違いにあると考えられる。

 7年後(抗告裁判所の決定時において)の事情についてまで、本来は、予測できないものというべきであり、当決定の考え方が裁判所の主流となるならば、借地条件変更事件の存在意義が大きく失われることになろう。今後の動向を注視する必要がある。  (1989.11)

  参考法令 「借地借家法」第17条

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2008年10月30日 (木)

敷金返還請求事件(東京簡易裁判所平成17年11月29日判決)

 判例紹介

敷金返還請求事件(東京簡易裁判所平成17年11月29日判決
平成17年11月29日判決言渡 同日判決原本領収 裁判所書記官
平成17年(少コ)第2807号敷金返還請求事件(通常手続移行)
平成17年(ハ)第19941号損害賠償反訴請求事件
口頭弁論終結日 平成17年11月22日

                   判         決
                   主         文

1 被告(反訴原告)は,原告(反訴被告)に対し,13万6000円及びこれに対する平成16年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。
3 訴訟費用は,本訴反訴を通じて被告(反訴原告)の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

                   事 実 及 び 理 由
第1 請求
 1 本訴請求
 主文1項と同旨
 2 反訴請求
 反訴被告は,反訴原告に対し,4万4390円及びこれに対する平成16年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
  1 請求原因の要旨

 原告(反訴被告)(以下,原告という。)とA株式会社との間で,平成8年3月ころ締結した東京都杉並区○○a丁目b番c号所在のBマンションd号室(以下,本件居室という。)の賃貸借契約(その後,2年ごとに更新され,平成14年3月1日最終の賃貸借契約(更新契約)を締結し,期間満了後の平成16年3月1日に法定更新された。

 被告(反訴原告)(以下,被告という。)は平成16年7月22日所有権を取得し,賃貸人の地位を承継した。)に関し,原告が預け入れた敷金13万6000円について,平成16年9月23日本件居室明渡し(同日賃貸借終了)に基づく,原告の被告に対する前記敷金及びこれに対する遅延損害金の支払請求。

2 抗弁及び反訴請求原因の要旨
 (1) 原告とA株式会社間の上記1の更新契約においては,原告が本件居室内の汚損や破損による損害を賠償する義務を負うことが約され,また,原被告間には,平成16年9月22日,原状回復(修繕)に関する費用負担の合意があるから,これらの合意に基づいて原告が負担することになった原状回復費用18万0390円を敷金から控除すると,原告に返還すべき敷金はない。

 (2) 原告の被告に対する敷金を控除した原状回復費用残額4万4390円及びこれに対する遅延損害金の支払請求。

3 争点
 原告の負担する原状回復費用があるか。

第3 当裁判所の判断
 1 賃貸借契約書(甲2)第5条には,「敷金は本契約が終了し借主が明渡し後,本契約に基づく一切の債務,電気・水道・ガス等の未払金及び損害金を差引き,借主にその差額を返還するものとし,損害金の中には,(1)畳・襖・壁,床,天井・ガラス・ドア(室内外)・その他の汚損,破損。(2)換気扇・ガス台・流し台・浴室・浴槽・風呂釜・湯沸し器・トイレ,網戸,エアコン等の汚損・破損,この回復に費用を要する時。」などと合意され,また,第6条には,借主の修理費負担部分の合意がされ,さらに,第11条には,「明渡しの時は,原状に復するものとし,又,借主は故意及び過失を問わず,本物件に損害を与えた場合は直ちに原状に復し,損害賠償の責に任ずるものとする。」と合意されているが,これらの趣旨は,借主が賃借開始当時の原状に回復すべきこと,つまり自然損耗等についての原状回復費用も負担することを定めたものといえる。しかし,貸主において使用の対価である賃料を受領しながら,賃貸期間中の自然損耗等の原状回復費用を借主に負担させることは,借主に二重の負担を強いることになり,貸主に不当な利得を生じさせる一方,借主には不利益であり,信義則に反する。そして,上記第5条の合意は,原状回復の内容をどのように想定し,費用をどのように見積もるのか,とりわけ,自然損耗等に係る原状回復についてどのように想定し,費用をどのように見積もるのか,借主に適切な情報が提供されておらず,貸主が汚損,破損,あるいは回復費用を要すると判断した場合には,借主に関与の余地なく原状回復費用が発生する態様となっている。このように,借主に必要な情報が与えられず,自己に不利益であることが認識できないままされた合意は,借主に一方的に不利益であり,この意味でも信義則に反するといえる。そうすると,自然損耗等についての原状回復義務を借主が負担するとの合意部分は,民法の任意規定の適用による場合に比べ,借主の義務を加重し,信義則に反して借主の利益を一方的に害しており,消費者契約法10条に該当し,無効である。

2 被告は,原告との間で原状回復(修繕)に関する費用負担の合意がされたとして,引渡立会負担区分合意書(乙1)を提出するが,原告は,被告代表者から明渡しが完了したので署名して欲しいと求められたので署名したものであり,その際,負担者欄の負担者を示す丸印は記載されていなかったし,修繕費用を負担する趣旨で署名したものではない旨供述する。そうすると,被告代表者の供述及び合意書から,原告が被告との間で費用負担の合意をしたと認めることはできず,他に合意をしたと認めるに足りる証拠はない。

3 以上から,自然損耗等についての原状回復費用に関する部分は,上記1のとおり無効であり,また,原被告間に費用負担の合意がないのであるから,原状回復費用の負担については,民法の規定に従い,借主が故意又は過失によって毀損したり,あるいは通常の使用を超える使用方法によって損傷させた場合に,その回復費用を借主の負担とすべきであるが,本件居室の汚損状況を写した写真(乙2)によれば,原告が明け渡した際に,壁等がカビ等で汚損されている事実を認めることができる。しかし,他方,原告本人の供述及び陳述書(甲4)によれば,原告は,賃借する際に,改装工事もなく前借主が使用していた状態,いわゆる居抜きの状態で入居したものであり,入居当初から多少のカビが生えていたところ,南北にしか通気がなく風通しも十分でない構造も影響して,その後改装工事もなされないまま8年間使用し続けてきた結果,カビが広がったものである事実を認めることができるし,また,通知書(甲7)によれば,原告は,前貸主A株式会社から更新時期の前である平成15年10月ころ,本件建物の老朽化を理由に平成16年12月までに明け渡すように求められていた事実も認めることができるから,これらの事実に照らして考えると,前記カビ等で汚損している事実から原告の故意又は過失による毀損,あるいは通常使用を超える使用方法による損傷と推認することはできず,他に原告の故意過失等によって損傷を与えたとする事実を認めるに足りる証拠はない。

 そうすると,原告の負担すべき原状回復費用を認めることができないから,被告の抗弁事実及び反訴請求原因事実は認めることができず,原告の本訴請求は理由がある。

         東京簡易裁判所少額訴訟4係

                      裁 判 官   行  田    豊


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2008年10月29日 (水)

立退料の提供をしても借地更新拒絶の正当事由の充足はないとした事例

 判例紹介

 6000万円の立退料の提供をもっても、借地の更新拒絶の正当事由の充足はないとした事例 (東京地裁平成元年3月24日判決

 (事実)
 Yらの先々代は、大正10年頃から本件土地を訴外Aから建物所有の目的で賃借した。その後、先代は死亡し、その子であるYの先代が相続していたが、これまた死亡し、昭和27年5月にYらが本件土地の賃借権を共同相続していた。

 訴外Aも昭和45年10月に本件土地を訴外Bに譲渡したが、その翌年より同人とYらの間で地代増額をめぐって折合がつかず、Yらはそれ以降弁済供託を始めた。

 その後、訴外Bも昭和52年7月に本件土地をXに譲渡した。Xも地代の受領を拒絶し、Yらは弁済供託し、Yらの供託は通算して約16年もの長期に及んだ。

 Xの関係する訴外会社は、本件土地周辺の土地を次々と買収し、マンションを建て、本件周辺の土地上の建物はYらの木造平屋建建物を除き高層化するに至った。昭和62年11月、Xは自らの居住用も含めて訴外会社の経営の建直しを考えて、本件土地及び周辺地を利用してのマンションの建築を計画し、これらを正当事由として本件土地賃貸借契約の更新拒絶をなすに至った。

 Yらは本件土地35坪の上に大正10年頃築造(その後、一部修繕)した木造平屋建建物13坪を所有し、姉妹2人(いずれも無職、1人は病気で就労不能)で居住している。XはYらに訴訟中に本件土地上に新築するマンションの1階部分の一部と5000万円の提供を申出たが、Yらは拒否した。

 そこで、Xは正当事由の補充として6000万円の提供を申立、本件土地の明渡しを求めた事案である。

 (判旨)
 「正当事由が十分でない場合には立退き料の提供という負担付土地明渡す請求をすることによって更新拒絶に際しての正当事由の充足を保つことが可能となる場合があることは否定できないが、本件においては前判決の通り、本件土地使用の必要性について、原告と被告らの間にその度合において著しい格差があり、立退料の提供という事情のみをもってしては、右必要性の格差を到底埋めるものではないから、原告の右立退料の提供によって、本件更新拒絶の正当事由の充足がなされたものとは考えることができない」

 (寸評)
 本件は典型的な土地の有効利用を正面に掲げての正当事由をめぐる争いであった。現行法からすれば判決は当然の結論といえる。

 なお、Yらは東借連に結集する組合員である。  (1989.05)

(東借連常任弁護団)

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2008年10月28日 (火)

地主が土地の有効利用を問題にして起した明渡請求が棄却された事例

 判例紹介 

 地主が自己使用を理由に、土地の有効利用を問題にしつつ、5500万円の立退料を堤供してなした土地明渡請求が棄却された事例 (東京高裁昭和60年12月24日判決

 (事案)
 借地人は先代地主より杉並区に90坪の土地を借り受け、そこに建坪17坪の家屋を建てて昭和10年以来住み、現在は妻と2人で暮らしている明治36年生まれの老人(当時83歳)である。左脚骨髄炎による歩行困難に加え、酢年前に肺炎・胃潰瘍等を患い、現在も体調は一進一退であり、近くのアパートに住む四女の世話を受けている。

 地主は大正4年生まれの女性(当時71歳)であり、現在息子所有の神田錦町の7階ビルの7階2室に居住して、階下の二男夫婦の世話を受けている。視力が著しく衰えたうえ、騒音・悪臭等環境が悪いので、夫が昭和56年に死亡したのを契機に、本件借地の明渡を受け、そこに長男一家と自分のために住宅を2棟建て移転したいと考えた。

 そこで立退料5500万円若しくは近隣の土地40坪の所有権譲渡と引き換えに本件借地の明渡を求めてきた。

 (判旨)
 高等裁判所は、(事案)で紹介した事実をすべて認めたうえで借地人につき「年齢、健康状態及び日常生活を考えると、今にわかに右居住を移動することは、単なる経済的あるいは感情的理由からばかりでなく、社会的、客観的にみても著しく困難なことと認めざるを得ない。

  本件土地が老夫婦だけで居住するにはかなり広い土地であり、現況での利用効率が高くなく、また、地代が低額に抑えられているからと言って、右の状態にある借地人において本件土地の使用の継続を望むことが社会的、公益的に不合理であり、権利の濫用になるというのは相当ではない」とし、借地人の必要度が地主のそれを上回ると認定し「立退料又は代替土地の提供を申出ていることを考慮しても、正当事由があると認めることはできない」と判断して、地主の土地明渡請求を退けた。

 (短評)
 本件は東借連常任弁護団の2人の弁護士が担当した当組合員の事案である。

 地主(71歳)借地人(83歳)とも老齢であり、5500万円の立退料等やや思い切った条件を提示した地主の言い分は裁判所をそれなりに動かす恐れがあった。加えて90坪の借地に17坪の家屋を建ててそこに夫婦2人で住むという使用形態につき、地主側は土地の有効利用問題を前面に立てて裁判所を動かそうとした。

 このような事案につき、借地人の言い分を認め、地主の請求を退けた本判決の意義は大きいと考え、紹介する次第である。  (1986.09)

(東借連常任弁護団)

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2008年10月27日 (月)

土地有効利用のための建替えが明渡の正当事由とならなかった事例

 判例紹介

 賃貸建物を建替えてより有効な土地活用をすることは、立退正料の提供があっても正当事由とはならないとされた事例 東京地方裁判所平成元年7月28日判決

 (事案)
 賃借人は、昭和55年12月、本件建物の1階を賃借して鍼灸接骨院を営んでいたが、家主は、昭和62年12月、建物は終戦直後に建てられたもので老朽化しているので、日本橋茅場町の中心街に近く交通至便の地域に位置する本件場所においては、木造2階建て建物よりビルを建築した方が土地利用効果からみればはるかに有用であるので、立退料1000万円を提供するので明渡して欲しいと請求した。

 (判決要旨)
 原告と被告は、昭和57年12月、期間を2年とする更新契約をしたが、その契約書で、4年後以降に建物の建替えの必要性があることを被告が認諾したこと建替えに関する具体的条件については、その時点で改めて双方で打合わせることが特約された。

 原告(貸主)は借家住まいをし、自らの電気設備設計の事務所も賃借しており、被告から本件建物の明渡を受けた場合には、その後に新たにビルを建築して、これを居住及び仕事の事務所として利用したいとの希望を有している。もっとも、原告は、横浜市金沢区にも居宅を所有しており、現在は空家となっている。

 被告(借主)は、昭和55年10月、20年余の会社勤めを辞めて新たに鍼灸院を開業することを決断し、以後8年余の年月を経てようやく順調な経営が実現する段階に至っている。従って、この時点で右営業の場を他に移転し、改めて零からの出直しをするということは、経済的にも精神的にも被告にとっては極めて困難を伴う事柄である。

 昭和57年の本件賃貸借契約の更新の時から、被告は原告に対して、患者を離したくないので本件建物の建替えを行うのであれば新築建物へ再入居させて欲しいことを申入れている。

 以上のような原被告双方の事情を対比して考えると原告側における本件建物の明渡を求める必要性というのは、自らが使用する緊急の必要性があるあるというより、その敷地等のより有効な活用を図りたいという点にとどまるものと考えられるのに対し、被告側では、本件建物をその営業のための場として使用する極めて切実な必要性を有しているものと認めらる。この点からすれば、原告が被告に対して相当の金額の立退料を支払う意思を有していることを考慮に入れても、正当事由が備わっているとすることはできない。

 (説明)
 本件は当組合員さんの事案で東借連常任弁護団の2人の弁護士が担当した。
 土地の有効利用のための建替えを理由とする明渡請求訴訟が多い中で、有効利用のための建替えよりも、借家人の建物を必要とする事情の方が優先するとした判決である。家主は控訴しなかった。  (1989.12)

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2008年10月24日 (金)

借家人が老齢、病身等の事情を重くみて明渡しの正当事由がないとした事例

 判例紹介

 自己経営会社の従業員寮として自己使用の必要があるとしても、長年居住し強い愛着を抱いている老齢、病身の賃借人の犠牲において実現すべき強度の必要性は認められないとして、解約申入の正当事由がないとされた事例 東京高裁昭和60年12月12日判決、判例タイムズ603号)

 (事案)
 賃借人は昭和11年から建物の1階を借り、夫死後三男と同居している。年齢は77歳、厚生年金を受領して生活し、長年心臓病で時折発作もある。通院する病院は、借家から徒歩10分近くにあり、転居を嫌い、今後も長年住み慣れた本件借家で生活するのを強く望んでいる。

 本件建物は、昭和8年頃建築され、36年頃2階が増築された。

 現在の家主は、もともとの家主から、借家人がいるのを承知して、昭和40年7月、本件建物を買取って、その2階を自分が経営する水産物卸会社の従業員寮として使ってきた。

 その2年後、家主は本件建物を取壊して、4世帯用のアパートを新築し、自分の会社の従業員寮として使いたいと、明渡しの要求をしてきた。

 家主は、それに加えて、建物の古さを強調し、床、壁は下がり、敷居は水平でなく建具は閉まらず、人が乗れば音をたててへこむ部分があり、鴨居も下がっている部分がある。雨漏りも激しく、1階部分裏側の土台、柱も腐蝕してもろくなっていて、建物は全体的に歪んで危険な状態である、と主張した。

 さらに、60万円の立退料を支払うので正当事由を認めてくれと、裁判所に申立てたが、家主の、以上の請求は認められなかった。

 (判決要旨)
 「本件建物は、昭和36年2階にした際土台を入れ替えるなどの修理をしたのでしっかりしており、柱に傾斜、損傷はなく、床、敷居等が下がっていることもなく、居住としての使用にも支障がない。

 賃貸人は、借家人がいることを知りながら、自ら経営する会社の従業員寮として使用するために本件建物を買受けたのであり、賃借人は、老齢、病身であるが、長年本件建物に居住しこれに強い愛着を抱いており、本件賃貸部分以外は現在人が住んでおらず、一部損傷している部分があるとはいえ、本件建物はなお現状のまま居住の用に耐えるのであり、賃貸人が本件建物の明渡を受けて従業員寮として使用し得ないことにより不利益があるとしても、それはある程度予想されたことであって、賃借人の犠牲において従業員寮の新築計画を早期に実現すべき強度の必要性がある事情は認められないので、本件解約申入には正当事由がないものというべきである。

 また正当事由の補充として60万円又は裁判所の適当と認める立退料を支払う用意がある旨の申出をしたことが認められるが、右立退料の提供によって本件解約申入について正当事由が具備するに至るものと解することはできない。」

 (短評)
 裁判所のする正当事由の判断は微妙なところもあるが、本件の判断では借家人が老齢、病身で長く居住してきたことを重くみて、弱者保護の借家法の精神に沿っての判断をしている。家主が借家を途中から買取った者であったことも、借家人に有利な事情とされている。
 なお、この事件について、横浜地方裁判所も、借家人勝訴の判決をしている。 (1986.11)

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2008年10月23日 (木)

立退料の提供の申出があっても、正当事由が認められなかった事例

 判例紹介

 建物所有を目的とする土地賃貸借に関し、土地の経済的資本的利用の目的で更新拒絶し、合わせて立退料を提供する申出をしたにもかかわらず、正当事由が認められないとされた事例 東京地裁昭和61年12月26日判決、判例時報1252号73頁)

 (事案)
 地主は、土地賃貸借契約が昭和61年3月31日期限が満了するのに先立ち、昭和58年1月10日頃更新拒絶の意思表示をした。
 地主は、次のとおり正当事由を主張した。
一、地主の事情
1、地主の所有する土地のうち、商業地域内にあるのは本件土地を含む1筆の土地だけである。
2、地主は、右1筆の土地全体に高層ビルを建築する計画を有している。
3、地主は、立退料として、1500万円を支払う用意がある。

二、借地人の事情
1、本件土地上に建物を所有し、居宅として利用している。
2、本件建物は、木造で、築後60年を経過して、現在では既に老朽化している。
3、借地人は、昭和43年6月頃、昭和54年10月頃、本件建物につき地主に無断で改築・大修繕を行い、信頼関係を破壊した。

 これに対し、借地人は、右地主の土地所有の現況、右土地の利用計画は知らない。本件建物を居宅として利用していることは認め、建物の老朽化を争い、建物の修繕をしたこと認めるが改築・大修繕を行ったことは争った。

 さらに、地主は、本件土地を含む1筆の土地のほかに近隣に数百坪の土地を有し、地宅の敷地のほか、4ヶ所を駐車場等として使用していること、地主の子供たちが、既に全員成人しており、生活に窮するような事情にないこと、他方借地人は、本件建物以外に所有建物がなく、住む場所がないことを主張した。

 (判示)
 本件土地賃貸借契約の更新拒絶に正当事由があるか判断するに、本件建物は、築後60年以上経過した木造建物であって相当程度老朽化しており、他方本件土地が青梅街道に面した商業地域に位置しているので、土地の有効利用、地域開発の見地からすると、高層ビルを建築した方が望ましいが、地主は、近隣に数百坪に及ぶ土地を有し、単に経済的資本的利用の目的で本件建物の明渡しを求めているのである。他方借地人は、本件建物に50年以上居住し、80歳にもなる高齢者で、子供達の援助によって生活を維持している状態からすると、立退料の申出を考慮しても正当事由は充足されるものでない。

 (短評)
 土地の経済的資本的利用と居住目的との質的差を正しく評価した判決といえる。  (1988.02)

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2008年10月22日 (水)

敷引特約条項は無効 (消費者団体訴訟) 京都地裁

 消費者団体訴訟制度で初の解決
   敷引特約条項は無効

 NPO法人(特定非営利活動法人)「京都消費者契約ネットワーク」は、消費者団体訴訟制度に基づき、京都地裁に「敷引特約」は消費者契約法違反として、不動産賃貸会社「大和観光開発」(京都市)に特約条項の使用差し止めを求め提訴した。

 その訴訟の第1回口頭弁論が10月21日、京都地裁(瀧華聡之裁判長)で開かれた。大和観光開発は京都消費者契約ネットワークの請求を全面的に受け入れ、すでに契約を結んだ入居者に敷引条項を破棄することを通知した。同社は答弁書で条項を使用しないことを約束し、現在の入居者12人の敷金は差し引かない方針を示した。

 京都地裁は確定判決と同じ効力を持ち、原告勝訴判決と同じ効力がある「認諾調書」を作成する。「認諾調書」には「大和観光開発は今後賃貸借契約に「敷引特約」を使用しない」という趣旨のものが明記される。

 消費者保護のため改正消契法とともに2007年6月に始まった消費者団体訴訟制度を活用し、訴訟上の解決に至ったのは初めてだ。しかし、契約用紙の破棄を巡っての対立があり、今後も訴訟は継続する。

 大和観光開発は「世の中が消費者の利益を重視する流れになっており、抵抗する考えはない」とコメントした。

 「敷引特約」条項は、賃貸物件の解約時に敷金から主に原状回復費として、一定額(大和観光開発は35万円)を一方的に貸主が差し引いて借主に返還するもので 、本来借主に原状回復義務のない通常損耗分まで費用負担させていた。その原状回復費の精算がアバウトで不透明なことからトラブルが多発していた。

 敷引特約は、関西圏、中国地方、九州の一部で慣行化されている。


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立退料の提供があっても正当事由を補充し得ないとした事例 

 判例紹介

 営業用建物の賃貸借の更新拒絶につき、立退料の提供があってもその正当事由を補充し得ないとして賃貸人からの明渡請求を棄却した事例 東京地裁昭和61年7月22日判決、判例タイムズ641号151頁)

 (事案)
 Xは整形外科医であって、昭和47年から大田区内で開業していたが、医院が手狭になったため、昭和50年、訴外A社から、Yを含む10数名の賃借人のいる本件建物(4階建店舗・事務所・居宅)を買受け、賃貸人の地位を承継した。

 Yとの賃貸借契約は昭和54年6月、1階160㎡、期間を昭和57年12月までと改定した。ところが、Xは期間満了6ヶ月前、外来患者が増加するため本件建物を改築し病院として使用する必要があるとして契約の更新を拒絶した上、Yに対し明渡しを求める本訴を提起し、正当事由を補強するため、600万円を支払うとした。

 これに対し、Yは、昭和37年以来、本件建物で医薬品等の販売業を営んでおり、年商2億円、顧客数5000名余、従業員10名であり、地域に深く根差した活動が好評を得て、顧客数も増加している現状にあって、廃業することはできず、他に転出する建物もないから、Xの更新拒絶には正当事由がないと反論した。

 (判示)
 「Xの診療所の患者が年々増加するとしても、診療所の存続ないし経営に支障があるとは認められず、Yに賃貸している建物部分を診療室に使用しなければ、その存在に重大な支障が生ずるとも認められない。Xは3年前にYとの間で賃貸借契約を改定した際、将来多数の入院患者を収容しうる病院に改装することが必要となる事情も当然予想しえた筈であったにもかかわらず、あえてYとの間で現状のように賃貸借契約を改定したのであるから、2年余にして右を理由に更新を拒絶するのは相当でないこと、身体の不事由な高齢者や車椅子使用者が2階の診療室に昇り降りするのは不便だが、階段をスロープにするとか、エレベーターを設置すること右不便の解消も不可能ではない」。

 「一方、Yは本件賃借店舗の他に4店舗を有するに至っているが右賃借店舗は医薬品の販売で主たる地位を占める本店であり収益率も最も高いこと、Yが20年以上も継続してきた右店舗を立退いても他に適当な店舗がなく、廃業となれば莫大な損害を受けること」などを総合考慮し正当事由をを認めず「立退料の提供をもってしても右正当事由を補完しうるものではない」とし、Xの請求を棄却した。

 (寸評)
 正当事由の判断に当り、安昜に金銭による補完を認めず、双方の事情を総合考慮した判決として評価し得る。   (1987.10)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2008年10月21日 (火)

建物賃借権の無断譲渡が信頼関係を破壊しない特段の事情があるとし事例

 判例紹介

 建物賃借権の無断譲渡につき、信頼関係を破壊しない特段の事情があるとして、解除の効力が否定された事例 東京地裁平成4年7月29日判決、判例時報1462号122頁)

 (事実)
 家主は借家人に対し、寿司屋営業の目的で建物を賃貸していたが、借家人が本件建物を無断譲渡したとして本件賃貸借契約を解除し、本件建物の明渡しを求めた。
 これに対し、借家人らは本件建物賃借権の無断譲渡があるとしても、信頼関係を破壊しない特段の事情があると争った。

 (争点)
 本件無断譲渡について、信頼関係を破壊しない特段の事情があるか否か。

 (判決の要旨)
 裁判所は、借家人から本件建物賃借権を譲受けたものが借家人の義理の兄弟であり、両者の交代の前後を通じて本件建物での営業内容に大きな変化がないことまた、右本件賃借権譲渡が無償で行われたものであり、賃料支払につき延滞がなく、家主の不利益がさほど大きいと認められないこと、他方本件の建物明渡が認められた場合には本件建物賃借権を譲受けたものの家族の生活の拠点が奪われることになるので、本件賃借権の譲渡は信頼関係を破壊しない特段の事情があるというべきであるとして、家主の本件建物明渡請求を棄却した。

 なお、この場合、誰が借家人になるのかの点については、賃借権の譲受人ではなく、依然として、本件賃借権の譲渡人であると判示した。

 (短評)
 判例は、賃借人に無断譲渡・転貸があった場合には、それだけで、賃貸借契約をの解除を認めるのではなく、右譲渡・転貸が賃借人に対する信頼関係を破壊するに足りない特段の事情がある場合には、賃貸借契約の解除を認めないとする。(最高裁昭和39年6月30日判決、民集18‐5‐991等)

 これまで右判例理論に基づき、地方裁判所や高等裁判所段階でも多数の判決が存在するが、本判決も、賃借権の無断譲渡に該当するとしながら、判決理由の内容からして契約解除を認めなかったものであり、従来の判例理論に従ったものといえる。

 なお、賃貸借解除が認められない場合の賃借人については、近時の判例理論は、賃借権の譲渡があった場合と同様に賃借権の譲受人がなるというのが通例である。しかし、この点本判決は異例といえる。   (1993.11)

(東借連常任弁護団)

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2008年10月20日 (月)

都市再開発事業の区域内の店舗賃貸借契約が、一時使用でないとされた事例

 判例紹介

 都市再開発事業の区域内の店舗賃貸借契約が、一時使用の目的でなされたものでないとされた事例 (東京地裁平成4年5月29日判決、判例時報1446号67頁)

 (事実)
 家主と借家人等との間で昭和42年から昭和43年にかけて店舗賃貸借契約が結ばれその契約条項中に、「田無駅前都市計画実施に至るまで」と定めていた。なお家主が地主から本件土地を賃借する際、「本件土地は田無駅都市計画実施の際に東京都もしくは田無市に収用されるものであることを確認し、できる限り簡易仮設的な建築をなすもの」としていた。

 (争点)
 都市再開発事業の区域内にある本件建物の賃貸借契約が、右再開発事業の権利変換期日の前日をもって終了することを特約した一時使用のもか否か。

 (判決の要旨)
 裁判所は、本件店舗賃貸借契約書上、賃貸借期間について、「田無駅前都市計画実施に至るまで」となっているが、都市再開発法が施行されたのは、昭和44年6月であるから昭和42年から昭和43年にかけての契約締結において、都市再開発計画の実施までと合意したものでないことは明らかであること、また、右賃貸借期間の定めが、文理上も都市再開発法の規定よる権利変換期日までの意味であると読むことができないこと、さらに本件建物賃貸借契約において、賃料額が当時の相場と比較して格別安いものではなく、その後賃料が4、5年の間隔で値上げされ、昭和62年以降は毎年値上げされていたこと及び敷金として賃料の6か月相当分が交付されていたこと、さらに、100万から1000万単位での保証金が交付されていたことなど通常の長期の賃貸借契約の内容と格別異なることがないこと等の諸事情を考慮して、一時使用目的とはいえないと判示した。

(短評)
 判例は、一時使用の目的であるか否かの判断に当たっては、賃貸借期間の長短ばかりでなく、賃貸借契約の目的、動機、その他の事情を考慮して、その賃貸借契約が短期期間内に限り存在させる趣旨のものであるか否かを基準としている。

 本件判決は、右判例上確立した基準に基づき契約書の文言にとらわれることなく総合的に判断して、一時使用目的でないと判断したもので参考となるものである。

 なお、新法においては、取壊し予定の建物賃貸借が創設された関係上、この種の事件についての裁判所の判断も分かれることになろう。   1993.06

(東借連常任弁護団)

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2008年10月17日 (金)

定額補修分担金・更新料返還請求事件 1 (平成20年04月30日 京都地方裁判所)

 判例紹介

 借主が貸主との間で賃貸マンションの賃貸借契約とともにそれに付随して定額補修分担金特約及び更新料特約を締結し、契約締結時に定額補修分担金16万円、更新料特約に基づいて契約締結2年経過後の更新時に更新料6万3000円を各支払った。

  退去後、貸主に対し、各特約は消費者契約法10条などにより無効であるとして、不当利得返還請求権に基づき22万3000円及び遅延損害金の支払を求める事案。

 京都地裁は、退去時の原状回復費を賃料とは別に賃料の2.5倍を一方的に負担させる定額補修分担金特約は消費者契約法10条に違反し無効とした。

 なお、更新料に関しては貸主が既に全額(6万3000円)と遅延損害金全額1604円の合計6万4604円を借主に支払い、更新料返還請求は解決済みなので、更新料関係は棄却された。(平成20年04月30日京都地方裁判所 第6民事部)

事件番号 :平成19年(ワ)第2242号
事件名 :定額補修分担金・更新料返還請求事件
裁判年月日 :H20.4.30
裁判所名 :京都地方裁判所
:第6民事部
結果 :一部認容一部棄却

 判示事項の要旨定額補修分担金特約が消費者契約法10条に該当し無効であるとして,同特約に基づき支払われた金員の返還請求が全額認容された事例

                  主        文

1 被告は,原告に対し,16万円及びこれに対する平成19年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 原告のその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用はこれを10分しその7を被告の,その余を原告の各負担とする。

4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。

                                         事 実 及 び 理 由

第1 請求
 被告は,原告に対し,金22万3000円及びこれに対する平成19年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要など
 1 事案の概要
 本件は,原告が,被告との間で賃貸マンションの賃貸借契約とともにそれに付随して定額補修分担金特約(以下「本件補修分担金特約」という。)及び更新料特約(以下「本件更新料特約」という。)を締結し,同補修分担金特約に基づいて同特約締結時に定額補修分担金16万円,同更新料特約に基づいて同契約締結2年経過後の更新時に更新料6万3000円を各支払ったところ,被告に対し,同各特約は消費者契約法10条などにより無効であるとして,不当利得返還請求権に基づき22万3000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年8月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2  前提事実(ただし,文章の末尾に証拠などを掲げた部分は証拠などによって認定した事実,その余は当事者間に争いのない事実)

(1)  原告は,株式会社長栄の仲介により被告との間で,平成17年3月30日,京都市伏見区京町1丁目250-1所在の京町壱番館212号室(以下,「本件物件」という。)について以下の内容の賃貸借契約を締結した(以下,「本件賃貸借契約」という。)。
 ア 賃 料   月額6万3000円
 イ 共 益 費   月額 6000円
 ウ 契約期間   平成17年3月31日から平成19年3月30日まで
 エ 更 新 料    前家賃の1か月分
 オ 定額補修分担金   16万円

(2)ア  本件賃貸借契約にかかる契約書(以下,「本件賃貸借契約書」という。)には以下の記載がある(甲1。なお,同契約書中「甲」は賃貸人たる被告のことであり,「乙」は賃借人たる原告のことであ。)。

 頭書(抜粋)
 契約更新料   前家賃の1ヶ月分の円
 敷金(保証金)   (空白)
 定額補修分担金   金160,000円
 家賃   金63,000円(月額)
 共益費   金6,000円(月額)
 第1条省略
 第2条[契約期間,更新]

 ①省略

 ② 乙は,契約期間の満了する60日前までに申し出れば,契約更新をすることができる。但し乙に賃料滞納等の契約違反がみられるとき,甲は契約更新を拒めるものとし,乙は契約の更新を主張できないものとする。

 ③ 乙は,契約を更新するときは,契約期間満了までに更新書類(覚書,乙・丙・丁の印鑑証明書等)提出とともに,頭書の更新料の支払いを済ませなければならない。又,法定更新された場合も同様(乙は更新料を甲に支払わなければならない)とする。尚,契約更新後の入居期間に拘わらず更新料の返還(月割り精算等の返還措置)は一切応じない。

 ④ 乙は甲に対し,法定更新・合意更新を問わず,契約開始日から2年経過する毎に更新料を支払わなければならない。

第3条[賃料等]
 ① 乙は,頭書の記載に従い賃料等を甲に支払わなければならない。振込みの場合の振込手数料は,乙の負担とする。

 ②  一ヶ月に満たない期間の賃料は,一ヶ月の実数を日割り計算した額(円単位は切り上げとする)とする。但し,退去の月については,退去日が月末以外の日であっても,日割り計算はしないものとする。

 ③ 甲は,次の各号のいずれかに該当するとき,賃料を変更することができる(第2条の更新時にこのような事情がみられるときも同様とする)。この場合,甲から乙に通知することによって,変更の効力を生
ずる。
 a 土地建物に対する租税その他の負担の増加が生じた場合。
 b 物価又は土地建物の価格上昇・その他,経済事情の変動により,家賃が不相当となったとき。
 c 近隣の建物の家賃に変動が生じた場合。
 d 建物に改良を施したとき(リフォーム・設備投資等)。

 ④ 乙が,頭書の賃料等の支払いを怠ったときは,納付期日の翌日から一日につき年(365日当たり)14.6%の割合で遅延損害金を甲に支払わなければならない。

 ⑤ 乙は,電気・ガス・水道・その他の専用設備にかかる使用料を負担するものとする。

第4条省略

 第5条[定額補修分担金]
 本物件は,快適な住生活を送る上で必要と思われる室内改装をしております。そのために掛かる費用を分担し(頭書記載の定額補修分担金)賃借人に負担して頂いております。尚,乙の故意又は重過失による損傷の補修・改造の場合を除き,退去時に追加費用を頂くことはありません。

 ① 乙は,本契約締結時に本件退去後の賃貸借開始時の新装状態への回復費用の一部負担金として,頭書に記載する定額補修分担金を甲に支払うものとする。

 ② 乙は,定額補修分担金は敷金ではないということを理解し,その返還を求めることができないものとする。

 ③ 乙は,定額補修分担金を入居期間の長短に関わらず,返還を求めることはできないものとする。

 ④ 甲は乙に対して,定額補修分担金以外に本物件の修理・回復費用の負担を求めることはできないものとする。但し,乙の故意又は重過失による本物件の損傷・改造は除く。

 ⑤ 乙は,定額補修分担金をもって,賃料等の債務を相殺することはできない。

第6条ないし第9条省略

第10条[退去時の回復・修繕]

 ① 乙は甲に対し,入居時に頭書の定額補修分担金を支払っているため,退去時においては次の場合のみ,本物件の回復・修繕をするものとする。

  a  乙または使用者により,本物件または付属設備に造作・加工・模様替え・その他変更がある場合。
  b  検査の結果,乙の故意又は重過失(軽過失を除く)により内装設備の修繕が必要と判断し,甲が乙に通知した時。

 ② 本契約が終了した時は,乙は前項の回復・修繕箇所について甲の検査を受けるものとする。

 ③ 乙が本条第1項・2項に定める原状回復をしないときは,甲が乙に代わってこれを実施し,その費用は乙の負担とする。この場合,頭書の敷金(保証金)より精算するものとするが,原状回復費用が敷金(保証金)より不足する場合には,乙は直ちにその支払いに当たるものとする。

第11条ないし第14条省略

第15条[紛争その他]
 ① 本契約に関する紛争に関し訴訟を提起する必要が生じたときは,京都地方裁判所に提起するものとする。

 ② 以下省略

 イ  本件賃貸借契約書の第5条は,他の条項と異なり,ゴチック体で印字されており,その下部には「私は,本契約締結にあたり以上の説明を受け,上記事項を熟読の上,ここに定額補修分担金の支払いを了承し,その支払いに合意致します。」との記載があり,同記載の下のところに平成17年3月17日の日付及び原告の署名押印がある(甲1)。

 (3) 原告は,被告に対し,本件賃貸借契約を締結した際,本件補修分担金特約に基づいて定額補修分担金16万円を支払った。

 (4) 原告は,被告に対し,平成19年2月ころ,本件更新料特約に基づき1か月分の賃料に相当する更新料6万3000円を支払った。

 (5) 原告は,平成19年4月2日,本件物件を退去した。

 (6) 本件訴訟にかかる訴状は,平成19年8月4日,被告に送達された(顕著な事実)。

 (7) 被告は,原告に対し,平成20年2月6日の本件口頭弁論期日において,更新料6万3000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年8月5日から同弁論期日までの遅延損害金全額1604円の合計6万4604円を支払い,原告は同日同金員を受領した(顕著な事実)。

(定額補修分担金・更新料返還請求事件 2 )へ続く


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定額補修分担金・更新料返還請求事件 2 (平成20年04月30日 京都地方裁判所)

3 争点及び争点に対する当事者の主張

(1) 本件補修分担金特約は消費者契約法10条に該当して無効か(争点(1))

(原告)
ア (ア)  賃借人は,賃借物の使用の対価として賃料の支払をしているところ(民法601条),賃料の他に通常の使用によって生じる賃借物件の損耗・経年変化に伴う回復費用を負担する義務がないが,本件補修分担金特約は同通常の使用によって生じる損耗・経年変化に伴う回復費用を賃借人に負担させる内容を含んでいる。ところで,同分担金特約による分担金によって補修の対象とされる部分には形式上は賃借人の過失による損耗部分の回復費用分も含むものであるが,同分担金の額は従来の敷金として授受されていた程度の金額が定められているうえ,賃借人の過失による損耗部分の回復費用が生じる可能性も一般的に多くはなく,また,賃借人が敷金相当額程度の原状回復義務を負うことは極度に汚く使用しない限りありえないことである。したがって,同分担金特約ないし同分担金は,賃借人に過失損耗部分のみならず通常損耗部分の回復費用を負担させようとするものである。

 同分担金特約は,「敷金」を「定額補修分担金」と言い換えているにすぎない。

 (イ)  また,同分担金特約は,賃借人の故意・重過失による損傷の回復費用について,賃貸人が賃借人に対して同分担金とは別途請求できることになっており補修費用の二重取りの可能性がある。

 (ウ) 以上のとおり同分担金特約は,民法の規定の適用による場合に比し賃借人である原告(消費者)の義務を加重している。

イ  本件補修分担金特約は上記アで記載したとおり通常の使用によって生じる損耗に伴う回復費用を賃借人に負担させるもので,故意・重過失による損傷の回復費用について二重取りの可能性もある(不当性)。また,賃貸人は,事業者であり,コスト計算もできる(情報力の格差)。そして,賃借人(消費者)は,通常,賃貸借契約の際,同分担金特約の成否について賃貸人と間で対等の立場で修正削除をめぐって交渉することは期待しがたい(交渉力の格差)。

 以上のとおり本件補修分担金特約は民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものである。

ウ  したがって,本件補修分担金特約は,消費者契約法10条に該当し無効である。

(被告)
ア  賃貸借契約の賃借人は,賃借物件について善管注意義務を負っている(民法400条)。したがって,賃借人は,軽過失であっても同過失によって賃借物件を損傷などした場合には原状回復義務を負担している。

 本件補修分担金特約は,いわゆる自然損耗・通常使用の範囲を超える賃借人の軽過失による汚損・破損について,その原状回復費用を賃借人の負担とせず,故意・重過失による特に著しい汚損・破損が生じた場合のみ,賃借人にその費用を負担させる内容となっている。

 以上のとおり,同分担金特約は民法の任意規定の適用による場合に比し,賃借人の義務を軽減しているというべきである。

 したがって,本件補修分担金特約は,消費者契約法10条前段に該当しない。

イ (ア)  本件補修分担金特約は,原状回復費用を賃貸人,賃借人の双方がそれぞれ負担することとし,賃貸借契約締結時においては,原状回復費用が確定していないので賃借人負担部分を定額で確定させ,同額を超えて原状回復費用が発生しても賃貸人は,賃借人に費用を請求せず,原状回復費用が同額以下であっても賃借人は賃貸人に異議を述べないこととして,双方がリスクと利益を分け合う交換条件的内容を定めたものである。

  なお,原告は,賃借人が16万円相当額の原状回復義務を負うことは極度に汚く使用しない限りあり得ないと主張するが,同主張は経験則に反する。

  また,原告は,故意・重過失による汚損・破損の場合は二重取りとなる可能性を指摘するが,同分担金特約によれば,故意・重過失による損耗でも同分担金の額を超えない限り,追加請求をしない内容となっている。

 (イ)  仮に定額補修分担金特約の定めのない賃貸借契約の場合,賃借人は,退去時において,自らの過失による破損部分について原状回復費用を負担しなければならないこととなるため,気を遣って居住しなければならない。また,退去時において,賃借人と賃貸人との間でどのような汚損・破損が自然損耗・通常使用の範囲なのかが争われることも多々ある。

  しかし,同分担金特約が,賃貸借契約締結時になされていれば,賃借人は,退去時における同紛争リスクを回避することがことができるし,また,通常であれば原状回復費用のことを気にかけることなく,安心して居住することができるなど紛争のリスク減少というメリットを享受できる。

 (ウ)  本件補修分担金特約は,上記のとおり賃借人の義務を民法の原則よりも軽減したうえで,賃借人・賃貸人の双方がそれぞれのリスクと利益を分け合う交換条件的な内容を定めたものである。したがって,本件補修分担金特約は,消費者の利益を一方的に害するものでもないから,消費者契約法10条後段にも該当しない。

ウ  そうすると,本件補修分担金特約は,消費者契約法10条に該当せず有効である。

 (2) 本件更新料特約は消費者契約法10条もしくは借地借家法により無効か(争点(2))

(原告)
ア (ア)  更新料が賃料の補充であるとの説明があるが,以下の事情からすると,そのような説明には合理性がない。

  すなわち,賃料補充という考えの合理性を裏付ける事由として不動産価格の上昇があるが,同前提事実が存在しないこと,1年ないし2年の賃貸借契約期間中に賃料について不足分が生じるとは考えにくいこと,賃料増額請求による補充が可能であること。

 (イ)  更新料が異議権の放棄や異議権行使に伴う紛争回避の対価という説明があるが,以下の事情からすると,そのような説明にも合理性がない。

  賃貸人は,期間満了の6か月前まで異議権を行使しなければならない(借地借家法26条1項)ところ,通常,更新料は期間満了のころに支払われており同時期には異議権が発生しないことが確定している。また,異議権の行使の有無にかかわらず,合意更新時に一律に更新料が支払われている。

 (ウ)  また,更新料特約が賃借権強化の対価という説明があるが,以下の事情からすると,そのような説明にも合理性がない。

  合意更新がされず法定更新がなされ期間の定めのない賃貸借契約となった場合であっても,通常,賃貸人の正当事由に基づく解約が認められる場合はほとんどない。さらに,更新期間が1年間もしくは2年間の契約であれば,更新後6か月間もしくは1年6か月間の間に賃貸人に解約申入れの正当事由が発生しなければ合意更新した場合と賃貸借継続の期間の違いが生じないところ,同期間内に同正当事由が発生することは現実的にはほとんどありえない。また,仮に賃貸人の正当事由に基づく解約が認められたとしても合意更新した場合と賃貸借継続の期間の違いは6か月間ないし1年6か月間に過ぎない。以上のとおり,更新期間が1年ないし2年といった短期の賃貸借契約の場合には,法定更新の場合と比べ,合意更新によって賃借権を確保するという実質的な意味は認められず,更新料に賃借権強化の対価という性質が含まれると考えることは契約当事者の合理的意思に反する。

 (エ)  以上のとおり更新料は,①賃料の補充,②異議権放棄の対価及び③賃借権強化の対価という複合的な性質を有するものではなく,何ら対価としての合理性はない。

イ(ア)  消費者契約法10条前段の要件は必須要件ではないと解するべきである。仮にそれが必須要件であるとしても,民法上,賃貸借契約における使用の対価としては賃料のみが予定され(同法601条),権利金,礼金,更新料については何ら規定していない。そのような法的根拠のない名目金員を考慮して賃料額の設定を行うことは,民法上,全く予定していないところで,本件更新料特約は同法601条の賃料支払義務に加えて賃借人の義務を加重するものである。したがって,同要件に該当する。

 (イ)① 上記のとおり更新料は何ら対価としての合理性を有していない。更新料は賃借人から賃貸人に対して,単に慣行的に支払われてきた贈与としか説明できず,現代の住宅事情のもとで賃借人が賃貸人に一方的に贈与(謝礼)を行う根拠はない。

  ② また,現在使われている更新料特約は賃借人が賃借物件を選定する際に主に賃料の額に着目する点を利用して,賃借人に対し,賃料については割安な印象を与えて契約を誘引し,結局は割高な賃料を取るのと同じ結果を得ようとする欺瞞的な目的で使用されている。

  ③ そして,更新料はその賃貸借契約の際,賃借人に対してその意味内容について実質的な説明がなされておらず,賃貸人と賃借人の間には情報格差が存在し,また,賃貸借契約は一般に賃貸人が準備した個別の契約条項に従うか否かであって,そこには契約条項の変更を交渉するという対等性がなく,交渉力の格差があることが明らかである。

  ④ なお,被告は,借地借家法の制定,改正時に更新料が規制されなかったことをもって立法者の意思は更新料については私的自治に委ねる意思である旨主張する。しかし,借地借家法は更新や賃貸人からの解約において徹底して賃借人の保護を図っているのであり,また,更新にあたって賃借人に対価の支払を要求しておらず,さらに,立退料が明文化されて賃貸人が更新拒絶するためには賃貸人に出捐を求めていることなどからすると,借地借家法の趣旨は更新料の支払については消極であると解するのが相当である。

 ⑤ 以上のとおり本件更新料特約は民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害する条項である。

 (ウ)  したがって,本件更新料特約は消費者契約法10条により無効である。

ウ 本件更新料特約は法定更新時にも支払義務があるとされている。借地借家法は法定更新について事前の更新拒否の通知のないこと(26条1項),期間満了後の異議がないこと(同条2項),正当事由のないこと(28条)など,法定更新が認められない場合について厳格な要件を定め,これに反する特約で賃借人に不利なものを無効としている(30条)。

 法定更新にも更新料支払条項の適用があるとする本件更新料特約は,借地借家法の法定更新の要件に反して賃借人に不利なものであるから,借地借家法上無効である。

(被告)
ア(ア) 賃貸人は,権利金,礼金,更新料なども含めた全体の収支計算を行ったうえで,毎月の賃料額を設定しており,その結果生じる設定賃料と本来受けるべき経済賃料との差額について更新料によって補充することは十分合理性を有する。したがって,更新料は賃料の補充としての性質を有する。

 (イ) 更新料は,異議権の発生が不確定である時点においてなされるものであり,更新料の支払によって画一的に当該契約期間内の異議権行使に伴う紛争を回避することを目的とするものである。また,近時の裁判例では不動産の有効利用の必要性がある場合に賃貸人に異議権が認められる場合がある。したがって,更新料は異議権放棄の対価としての性質を有する。

 (ウ) また,更新料は賃借権強化の対価としての性質を有する。

 (エ) 以上のとおり更新料は,①賃料の補充,②異議権放棄の対価及び③賃借権強化の対価という複合的な性質を有すると解するべきであり,対価性を有する相当なものである。

イ(ア) 更新料は,上記アで記載したとおり①賃料(民法601条)の補充,②異議権放棄の対価及び③賃借権強化の対価という複合的な性質を有している。

 また,更新料併用方式の賃借物件は月払賃料一本方式の物件よりも,月額賃料が低くなるので,更新前に退去予定の者,更新時には収入が見込める者,更新料補助を受けることができる者にとっては,メリットがある。

 したがって,更新料特約は民法の規定に根拠を有し,対価性もあり,民法の規定の適用による場合に比して消費者の権利の制限又は義務の加重をするものではなく,消費者契約法10条の前段要件に該当しない。

(イ)① 消費者契約法10条後段の要件は当該契約条項によって消費者が受ける不利益と,その条項を無効とすることによって事業者が受ける不利益を衡量し,両者が均衡を失していると認められる場合を意味すると解される。

 また,消費者契約法の立法目的は消費者と事業者との間の情報の質ならびに交渉力の格差を是正し,消費者の利益を擁護することにある(同法1条)。そこで,同法10条後段の「民法第1条第2項…消費者の利益を一方的に害する」場合であるが,事業者の反対利益を考慮してもなお,消費者と事業者との間の情報格差・交渉力格差の是正を図ることが必要な場合を意味するとするのが相当である。

  ②a  本件更新料特約が無効となると,被告は,更新料という賃料の補充部分を失うことになるところ,契約は守られるという合理的期待に反して計算した収入を得られず,賃貸借の収支関係を覆滅せしめられることになり不測かつ重大な不利益を被る。また,被告は,地震,火災,有害物質,犯罪,自殺,債務不履行などの様々なリスクを抱えている。

 他方,原告は,本件更新料特約を承諾して本件賃貸借契約を締結し,本件物件を使用したもので,賃料及び更新料の支払と本件物件の使用との間には対価性がある。原告は,本件更新料特約を有効とされたとしても,本来支払わなければならない月額賃料の補充部分を更新料として支払うだけであるため,特段不利益を被ることがない。また,更新料が設定されていることにより,月額賃料は月払賃料一本方式の賃料よりも低く設定されているため,本件更新料特約が無効とされると,原告は,予期していなかった利益を得ることになり不当な利益を得る。そして,原告は,更新料を支払うことにより更新後の期間において被告から解約申入れを受けることがない地位を獲得しており,更新による地位強化のメリットも享受している。

 以上のとおり両者の不利益を比較すれば,本件更新料特約は消費者の利益を一方的に害しているとはいえない。

 b  賃借人は,インターネットや情報誌により膨大な賃借物件の情報を入手することができ,同情報をもとに当該賃貸借契約における経済的負担を勘案して賃借物件を選択し,自ら申込を行っている。

 したがって,現在の賃貸借契約市場において消費者と事業者の間に情報の格差はなく,また,いわゆる借り手市場であるから,消費者契約法が予定している「交渉力などの格差」の前提が存在しない。

 c  建物賃貸借契約は一般的な契約であって,借家契約における「更新料」は約定の契約期間満了後も契約継続する場合にその対価として支払うものであるという意味においては一般に広く理解されている。また,契約締結時の重要事項説明において賃借人に説明されていて,本件においても,原告には重要事項説明書が交付され,更新料の金額について説明を受けたうえで契約締結に至っている。

 更新料特約は,消費者の立場からも賃貸借契約の基本的な内容であるといえ,その点においても消費者契約法8条及び9条に具体的に列挙される不利益条項などとは全く性質を異にする。

 d  借家契約における更新料の授受はこれまで約40年間以上行われ,更新料の支払を内容とする和解や調停成立が相当数あり,また,生活保護法14条,33条の住宅扶助が規定されその実施要領により京都市の場合,平成19年4月1日現在,1世帯6人まで1回あたり5万5000円,7人以上1回あたり6万6000円の更新料扶助が支給されている。

 以上のとおり更新料特約はわが国における借家契約において長年慣行として行われてきたものであり,裁判実務,行政においてもその合意の相当性は確認され,広く社会で承認されてきた。

 e  借地法,借家法の改正の際,更新料の法的規制が問題提起されたが,「借地・借家法改正要綱試案」,平成3年制定の借地借家法,同法の平成8年改正,同11年改正においても更新料に関する規制はなされていないことからすれば,立法者の意思としては更新料の合意そのものが不合理なものであるとして法的規制を及ぼすのではなく,専ら私的自治に委ねるべきとの判断が示されていると考えるべきである。

  ③ 以上によれば,本件更新料条項は,民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害する条項であるとはいえない。

 (ウ)  したがって,本件更新料特約は消費者契約法10条に該当せず有効である。

ウ  更新料は,賃料の補充の性質を有するものであるから,合意更新の場合だけでなく,法定更新の場合も支払われるべきものである。更新料特約の文言上,法定更新についても更新料支払義務が明確に規定されている場合,更新料支払義務が発生する。

 したがって,本件更新料特約が借地借家法により無効となることはない。

(定額補修分担金・更新料返還請求事件 3) へ続く


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定額補修分担金・更新料返還請求事件 3 (平成20年04月30日 京都地方裁判所)

第3 当裁判所の判断

 1 前提事項

 前提事実並びに証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成17年3月30日,株式会社長栄の宅地建物取引主任者から本件補修分担金特約を含めた本件賃貸借契約の重要事項について説明を受けたうえで,被告との間で本件補修分担金特約も含めて本件賃貸借契約を締結したことが認められる。

2 本件補修分担金特約が消費者契約法10条により無効となるか(争点(1))

 (1)  前提事実によれば,原告は,消費者契約法2条1項の「消費者」に,被告は,同条2項の「事業者」に該当する。

 (2)  賃貸借契約は賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするところ,賃借物件が建物の場合,その使用に伴う賃借物件の損耗は賃貸借契約の中で当然に予定されているものである。そのため,建物の賃貸借においては賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少という投下資本(賃借物件)の通常損耗の回収は通常,賃貸人が減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませ,その支払を受けることで行われる。

 そうすると,賃借人は,賃貸借契約が終了した場合には賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務を負うものの(民法616条,598条),原則として,賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせることはできないものと解するのが相当である。

 もっとも,賃借人は,故意や善管注意義務違反などの過失によって生じた賃借物件の汚損ないし損耗部分については修繕費相当の損害賠償義務を負う。

 そうすると,賃借人は,民法上,原則として,故意過失による同汚損ないし損耗部分の回復費用を負担すれば足り,通常損耗の回復費用については賃料以外の負担をすることは要しないといわなければならない。

 (3)  本件補修分担金特約は,それに基づいて支払われた分担金を上回る回復費用が生じた場合に故意又は重過失による本件物件の損傷・改造を除き回復費用の負担を賃借人に求めることができない旨規定しているところ,回復費用が分担金を下回る場合や,回復費用から通常損耗についての原状回復費用を控除した金額が分担金を下回る場合に賃借人にその返還をする旨規定していないが,同規定していない趣旨からすると,被告も主張するとおりそのような場合,賃借人は,差額の定額補修分担金の返還を求めることができない旨を規定しているといわざるをえない。

 そうすると,同分担金特約は消費者たる原告が賃料の支払という態様の中で負担する通常損耗部分の回復費用以外に本来負担しなくてもいい通常損耗部分の回復費用の負担を強いるものであり,民法が規定する場合に比して消費者の義務を加重している特約といえる。

 (4)ア  前記のとおり賃借人が本件補修分担金特約に基づいて賃料と別個に負担すべき分担金額は一般的に生じる軽過失損耗部分に要する回復費用を踏まえたうえで算定されるべきところ,賃貸人は,当該物件もしくは同種物件の修繕経験を有するのが通常であり,その経験の蓄積により通常修繕費用にどの程度要するかの情報を持ち,計算をすることが可能である。他方,消費者である賃借人は,通常,自ら賃借物件の修繕をするなどの経験はなく,したがって,一般的に賃貸人が有するような上記情報を有するとは考え難い。本件においても,消費者である被告が同情報を有していたと認めるに足りる証拠はない。

 賃借人が負担する同分担金額は賃貸人が有している上記情報を基に設定するのが一般的であると考えられるところ,賃借人となろうとする者が同情報を持ち合わせないままで賃貸人との間で分担金額の程度・内容について交渉することは難しく,仮に交渉できたとしてもその実効性が担保されているとは考え難い。以上の事実を踏まえると,賃貸人が賃借人に負担させるべき分担金額を一方的に決定しているというべきである。

 イ(ア)  本件補修分担金特約は軽過失損耗部分の回復費用を定額に設定しているところ,形式的に見ると,軽過失損耗部分が同定額を超えた場合には賃借人に利益となる余地がある。しかし,実質的に賃借人に利益があるというためには結果的に発生した軽過失損耗部分の回復費用が設定額より多額であったという特段の事情のない限り難しく,少なくとも定められた分担金額が一般的に生じる軽過失損耗部分の回復費用額と同額程度であることが必要である。

 (イ)  本件補修分担金特約に基づく同分担金額は月額賃料の約2.5倍程度に定められているところ,賃借人に軽過失があって,軽過失損耗が発生することは通常それほど多くなく,一般的にその回復費用が月額賃料の2.5倍であると考えることはできない。そうすると,同分担金特約に基づく分担金額は一般的に生じる軽過失損耗部分の回復費用と同額程度とはいえず,また,本件物件について軽過失損耗部分の回復費用が設定額である16万円を超えたと認めるに足りる証拠もない。

 (ウ)  以上によれば,本件補修分担金特約は賃借人である原告にとって有利であるとまではいえず,かえって,賃借人に月額賃料の約2.5倍の回復費用を一方的に支払わせるもので,しかもその額の妥当性について消費者である原告に判断する情報がないこと,以上の事実にあわせて通常損耗にともなう回復費用について賃料とは別個に賃借人に負担させるものであることを総合すると,消費者である原告に不利益を負わせるものと評価せざるを得ない。

 ウ  そうすると,本件補修分担金特約に基づいて原告に対し,分担金の負担をさせることは民法第1条第2項に規定する基本原則に反し消費者の利益を一方的に害するものといえる。

 エ(ア)  この点,被告は,本件補修分担金特約は原状回復費用が定額に抑えられていて原告に有利である旨主張する。しかし,上記イ,ウで説示したとおり本件補修分担金特約は実質的にみて賃借人である原告に有利とまではいえない。したがって,被告の同主張は採用できない。

 (イ)  また,被告は,定額補修分担金特約の定めがある賃借物件では,賃借人が退去時における原状回復費用をめぐる紛争リスクの減少というメリットを享受することができる旨主張する。しかし,かかる紛争リスク減少のメリットは賃借人だけではなく,賃貸人も同様に享受しているのであり,賃貸人も享受するメリットを発生させるために賃借人のみが通常損耗部分の回復費用を含む分担金を負担することは不当であるといわざるをえない。

 (ウ) また,被告は,定額補修分担金特約のある賃借物件では賃借人は軽過失は免責されるので原状回復費用のことを気にかけることなく安心して居住することができる旨主張する。しかし,善管注意義務を尽くそうとする賃借人にとって,同分担金特約の定めをした場合であっても賃借物件を損壊しないように注意しながら生活をすることになるし,善管注意義務を尽くそうとしないような賃借人についてはそのような生活態度からして重過失が認定される蓋然性が高くなり,被告が主張するように軽過失にすぎないとして免責される余地は少ないことになる。したがって,被告が主張するように同分担金特約の存在によって一般的に賃借人が安心して居住することになるわけではない。

 (5)  以上によれば,本件補修分担金特約は民法の任意規定の適用による場合に比して賃借人の義務を加重するものというべきで,信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するもので,消費者契約法10条に該当し,無効である。

3 更新料について(争点(2))

 前提事実記載のとおり原告は,本件口頭弁論期日において,被告から更新料6万3000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年8月5日からの遅延損害金全額1604円の合計6万4604円を受領している。そうすると,本件更新料特約が消費者契約法10条に該当して無効か否かを判断するまでもなく,更新料にかかる請求は理由がないことが明らかである。

4 結論
 以上の次第であるから,原告の本件請求は主文1項の限度で理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条を,仮執行宣言につき同法259条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

          京都地方裁判所第6民事部

               裁判長裁判官  中    村       哲

                   裁判官 和 久 田     斉

                   裁判官 波 多 野  紀 夫


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2008年10月16日 (木)

借地条件変更の裁判を得ても予定建物と大幅に違う建築は許されない

 判例紹介

 借地条件変更の裁判を得た賃借人が当初の建築予定建物と規模、構造用途の異なる建物を建築することは認められないとされた事例 東京地裁平成5年1月25日判決、判例タイムズ814号)

(事件の内容)
 木造建物所有の目的で賃借していた借地人が、鉄筋又は鉄骨造3階建の工場を建築しようとして、昭和57年裁判所に借地条件変更の申立をしたところ、850万円の支払を条件に本件借地の目的を堅固建物の所有を目的とするものに変更するという決定がなされた。

 借地人は、右850万円を支払ったが建物を建築しないでいた。9年後に、借地と自己所有地に跨って、当初の予定建物とは異なる鉄骨(一部鉄筋コンクリート)造7階建の貸事務所・駐車場・住宅を建築しようとして、増改築許可の申立を行った。

 本件では、増改築禁止の特約は存在しなかったから、この申立は却下されたが、昭和57年に得た借地条件変更の決定により7階建の建物を建築できるか、借地と自己所有地に跨って建築することができるのか、という問題について詳しく判断を示している。

 (決定の要旨)
 「57年決定においては、堅固建物の規模、構造、用途を明示的に制限はしていないが、申立人が建築予定建物として提示した鉄筋3階建工場が財産上の給付額を算定する資料の一つとして斟酌され、それが条件変更と不可分一体の内容となっているのであって、条件変更を認められた部分と切り離すことはできないから、申立人は57年決定に基づいては、自ら提示した建築予定建物と規模、構造、用途の大きく異なる本件建物を建築することは認められない。

 条件変更の裁判を得た後に当初の予定建物とは異なる建物を建築しようとする場合には、申立人が当初呈示した建築予定建物の規模、構造、用途を借地条件の制限に準ずるものと見て、新借地借家法17条を類推適用することによって相手方との利益調整を図るのが実際的であり、法律の趣旨に合致するのではないかと解される。

 跨り建物は、賃貸借契約の終了に伴う地上建物の収去や買取請求あるいは賃借権譲渡の場合における介入権行使との関係で困難な問題を生じ、賃貸人に対して著しい不利益を与える可能性がある。特に、本件計画建物の場合には、その規模構造及び建築された場合の跨りの状況からすると、建物収去、介入権行使後の建物取得は事実上不可能であることが推認されるので、跨り建物たる本件計画建物を建築することは認められない。」  1993.09

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2008年10月15日 (水)

親子間の借地の転貸借について承諾料を転借地権価格の1%とした例

 判例紹介

 親子間の借地の転貸借について、承諾料を転借地権価格の約1%とした例 (東京地裁平成4年9年25日判決、判例集未登載)

 (事案)
 BはAから宅地35坪を借地しているが、借地上の建物の建替(改築)を計画、しかしBは高齢で無職のためもはや住宅ローンを借りられない。同居を予定している二男Cが建築するしかない。

 この場合、①BからCに借地権を譲渡するか、②Bの借地をCに転貸するか、いずれかによることになる。①の場合は贈与税が気がかりだし、②の場合には無償使用の届出を税務署に提出しておけば贈与税はかからない(その代わりB死亡後B名義の借地権は相続の対象になる。しかし相続税の方が贈与税よりずっと安くてすむ)。

 そこでBCは②を選択。地主Aに改築と合わせて転貸借の承諾を求めたが、Aは間近に更新を控えているので(平成3年12年31日が期間満了)、先ず更新料を支払ってもらい更新契約を済ますことが前提だと主張して譲らない。

 BCは已む無く改築の許可と転貸の許可を求めて借地非訟の申立をした。(BCは新築後は同居する親子であるから、転貸の承諾又は承諾に代わる裁判所の許可がなくても無断転貸を理由とする借地解除が認められる可能性は極めて低いといえるが、そういったトラブル回避のため転貸の点も申立をした)

 (決定)
 1、改築承諾料は更地価格の約3%が相当である。

 2、転貸承諾料について、鑑定委員会は、本件転貸借を許可する場合の財産上の給付を、借地権を第三者に譲渡する場合の譲渡承諾料の慣行(借地権価格の10%程度)に照らし転借地権価格(更地価格の49%。すなわち借地権価格の70%の更にその70%)の約10%が相当だとする。

 しかし、当裁判所は、本件が第三者ではなく親子間の転貸借であること、転貸借後も申立人Bは本件土地の上に居住し土地の利用者に実質的な変更はないこと、転貸借の設定によりBに何ら権利金等の金銭的利益の生じていないことに照らし第三者への借地権譲渡の承諾料割合を用いるのは相当ではなく転借地権価格(前記のように更地価格の49%)の1%が相当と判断する(坪当り1万円強)。

 3、なお相手方Aは更新料の支払を命ずるべきだと主張するが、当事者間の利益を図るためには前記1、2及び賃料も改定することで足りるからAの主張は採用しない。

 (寸評)
 「決定」のうち1は判例通り、3も当然のこと。問題は2の転貸借承諾料であったが、本当はゼロでもよいと考えられる。裁判所が転借地価格の約1%(更地価格に対する割合にすりと0.49%)としたのは、親子間の場合には形式的名目的なものでよいということである。先例が見当らないのでご紹介する次第。   (1992.11)

(東借連常任弁護団)

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2008年10月14日 (火)

更地価格の約83%の立退料の提供があっても土地明渡が認められなかった事例

 判例紹介

 借地の期間満了に伴う正当事由として自己使用のためのビル建築計画等・更地価格の約83%に相当する立退料の提供があったとしても、木造建物収去土地明渡請求が認められなかった事例 (平成4年6月24日東京高裁判決、判例タイムズ807号239頁以下)

 (事案)
 昭和23年8月頃に木造2階建として建築された都心の中央区銀座すずらん通りの商業地域にある老朽化した建物の明渡請求事件。

 借地人Yは家内営業で靴屋をしているが、従業員はなくYの妻と子で経営している。Yは本件借地の外に都内に53㎡の駐車場を所有。

 昭和43年当時Yと当時の地主との間で昭和52年末までに本件土地上にビルを建築しないときはYが鉄骨耐火構造の建物を新築することを承諾する約定があったが、地主がビルを新築しなかったところ、Yも10年以上も堅固建物の建築が可能であるにも拘らず新築しなかった。

 一審判決は立退き料4億5000万円の支払を条件として地主の請求を認めた。これに対しYは控訴し逆転勝訴した事件である。

 (判旨)
 「被控訴人(地主)は本件土地上に本社ビルを建築して事務所を設ける意向であることが認められるから、被控訴人の自己使用の必要性は一応肯首することができ、また本件建物は改築後既に30年余りを経過した木造建物である上、本件土地は銀座の商業地域、防火地域にあるから、土地の有効利用・地域開発の点からも、本件建物に代えて被控訴人の計画するような耐火性のあるビルを建てることは、地域性に適うものと言えないこともない。しかし被控訴人は本件土地上に借地権が設定され、建物が存在することを認識しながら本件土地を取得したものと見られ、事務所ビルの建築の計画も偶々代物弁済により本件土地を取得したものであり、前示のようなビルの規模も被控訴人の本社及び関連会社の事務所として使用する上で適当かどうか疑問が残る。・・・・・・そうすると、被控訴人の本件土地使用の必要性はそれ程強いものであるとは認め難い」

 「控訴人(借地人)の本件土地使用の必要性は極めて強いものがあり、・・・・・・被控訴人は4億5000万円という高額の立退料提供の申出でをしており、右金額は本件土地の更地価格とされる5億5400万円の約83%余りに当たるけれども、右金額ではほぼ同じ条件の借地を求め店舗も開店することは困難であるに前示の被控訴人の本件土地取得の経緯を考えると、右金額の立退料提供の申出では正当事由が補完されるものとは認め難く結局控訴人の本件土地の継続に対し被控訴人が述べた異議について正当事由が充足されるものとは言えない。」

 (寸評)
 本件は故植木東借連会長(弁護士)が控訴人(借地人)代理となって争われ、一審の判断を覆し逆転勝訴したものである。一審と結論を異にした理由は、地主の土地取得の経緯について感ずる所があったものと推される。正当事由の限界を示す事例として極めて注目されるので紹介した。  1993.08

(東借連常任弁護団)

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2008年10月11日 (土)

原状回復費用の支払いで強制執行承諾条項付の公正証書を作成を要求された

 八王子市打越町のアパートを今年の5月に退去した秋山さんは、2週間後に管理会社から19万円の原状回復費用を請求された。

 猫を飼っていたため壁に多少の引っかき疵があったのとタバコをすっていたこともあったが、こんなに請求されるとはビックリ。

 秋山さんがお金がないというと管理会社は、分割払いでいいから強制執行承諾条項付の公正証書を作成するといってきた。秋山さんは組合に相談し、請求を全面的に拒否した。 

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2008年10月10日 (金)

損害賠償請求(借家の明渡)

 判例紹介

 原告が本件貸室を明け渡したのは被告の強制・強要によるものか,原告の意思に基づくものかが争われた事案

平成18年03月24日東京簡易裁判所
東京簡易裁判所平成17年(ハ)第12242号損害賠償請求事件

              判     決
              主     文

原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。

               事実及び理由

 第1請求
 被告は,原告に対し,140万円を支払え。

 第2 事案の概要
 1 請求原因の要旨

 (1)  原告は,平成16年12月30日,被告から,東京都中野区ab-c-de号室(以下「本件貸室」という。)を,賃料月額5万2500円,管理費月額2500円,毎月末日限り翌月分を支払うとの約定で賃借(以下「本件賃貸借契約」という。)し,居住していた。

 (2)  原告は,平成17年5月迄の賃料等はきちんと納めていたが,平成17年6月に入り賃料の支払いが1週間遅れていたものの,その理由については5月20日ころには被告に話し,理解してくれていたと思っていたところ,同年6月7日の早朝,突然,被告が本件貸室に来て,鍵と契約書を渡せ,直ちに荷物を整理して出て行けと怒鳴り散らした。

 (3)  原告は,被告の余りにも激しい態度に抵抗ができず,夜の10時ころまで荷物の整理にあたったが,今後の生活に不安を抱き,被告方を訪ね,部屋を貸して欲しいと申し出たが,被告の妻から,被告は寝てしまった旨言われ,会わせてもらえないまま,本件貸室から追い出された。

 (4)  原告は,前記強制的に被告から追い出されたことによる債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として,下記アからオまでの合計140万円の支払を被告に求める。

  ア 精神的苦痛に対する慰謝料として5万円

  イ 路上生活を余儀なくされ,夜の寒さによる風邪と疲れらから内臓疾患となったことの治療費として5万円

  ウ 路上生活において,深夜両足を極度に冷やしたため末梢神経を痛めたための治療費として10万円
  エ 追い出しにより,テレビ,冷蔵庫,電子レンジ,衣類などの生活用物品を失った被害弁償として10万円,パソコン,製図用具,専門書籍などの仕事用物品を失ったことによる被害弁償として10万円

  オ 路上生活に陥り,体調をくずし,予定していた仕事にも赴くことができなかったことによる生活保障として25万円の4ヶ月分100万円

 2 被告の主張の要旨

 平成17年4月30日,原告から,本件賃貸借契約を解約し,5月10日に明渡すとの解約通知を受け,5月分の賃料と敷金を相殺し,残りの管理費2500円だけを支払うとの合意に基づき管理費2500円を支払ってもらった。

 本件賃貸借契約は,前記合意に基づき平成17年5月末日をもって合意解約により終了したが,原告がその後も立ち退かないので,6月7日に被告に対し明け渡すよう言いに行ったが,強制的なことは何もしていない。解約及び移転は,原告の意思に基づきなされたものである。なお,被告は現在88歳の病気持ちで怒鳴り散らすといったようなことができる状態にない。

 3 争点
 原告が本件貸室を明け渡したのは被告の強制・強要によるものか,原告の意思に基づくものか。

 第3 当裁判所の判断

 1 証拠(乙第1号証ないし乙第3号証,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば次の事実を認めることができる。

 (1)  原告は,平成16年12月,被告との間で賃貸借契約を締結し,本件貸室に居住していたが,勤めていた会社からAでの現場監督の仕事を指示されたことから,本件貸室から引っ越すこととし,平成17年4月30日,本件賃貸借契約を解約し,翌月5月10日には明け渡す旨の解約通知書を自ら作成し,被告に提出した。

 (2)  これを受けて被告は,同年5月2日ころ,5月分の賃料5万2500円については預入敷金5万2500円と相殺するので,5月分の管理費2500円だけは支払ってくれと原告に申し出たところ,原告は,これを承諾し5月分管理費2500円を支払った。

 (3)  その後,原告は,明渡予定日の5月10日を前にして,勤め先から,現場監督の仕事が延期になるとの連絡を受けたことから,連絡を受ける都度,移転が5日延びる,10日延びるということを被告に伝え,被告の了解を受けたが,5月20日ころになって勤め先から,さらに仕事が延びそうだと言われたことから,5月24日ころ,さらに明け渡しが延びることを被告に伝えた。

 (4)  その後同年6月7日,朝7時過ぎころ,被告が原告方を訪ね,原告に対し,鍵と契約書を返還して直ぐに出て行くようにと求めた。これに対し,原告は,その後も住んでいていいと被告は言ったではないかとか,6月分家賃は6月10日には払うと言ったではないか等と言ったのに対し,被告は,お金を払わずに居座ろうとしているのではないか等とのやり取りが30分程あった後,被告は,原告から鍵の返還を受け,片付けが済んだら連絡するよう原告に告げて帰ったが,その間互いに手をあげるようなことは全くなく,また,被告が荷物の搬出に着手する態度を示したこともなかった。
  なお,前記6月7日当時,原告は、○○歳,被告は××歳であった。

 (5)  その後,原告は,すぐ出ることになったことについて悩んでいたが,お昼頃から明け渡しのための片付けを始めたが,荷物の処分等で時間がかかったことから,夕方6時ころ,被告方を訪れ,片付けにもう少しかかる旨告げた後,部屋に戻り片付けを続け,夜10時頃にはこれを終えた。

 (6)  その後,原告は,片付けが済んだことを伝えるために被告方を訪れ,応対した被告の妻に,片付けが済んだことを伝えるともに,もう一度貸してもらうことをお願いしようと考え,被告との面会を求めたが,被告の妻から被告はもう寝ていると言われ応じる態度を示さなかったことから,被告に出てくるよう大きな声をあげたところ,被告の妻は,どうしよう,どうしようと言ってこれに動揺し,被告も恐怖心を覚え出て行かなかった。

 2 以上の認定したところによれば,被告は,平成17年4月30日,原告から明渡し日を5月10日とする旨の解約通知を受けた後,5月2日ころには,原告との間で,5月分の賃料を敷金をもって充当することで本件賃貸借契約を5月末をもって終了することで当事者間において合意していたものと認められるところ,原告は,その後,仕事が延びることになったとの連絡を受ける都度,被告に対し明渡日が延びることを伝えていたことが認められる。

  この点原告は,明け渡しの時期が2,3ヶ月延びることを伝え被告も了解していた旨供述するが,前記認定したところと弁論の全趣旨を総合すれば,被告は,原告から仕事の都合で明け渡し日が5日延びる,10日延びるということを聞かされ,さらに5月24日ころにも延びるという話を聞かされたことから,5月末を若干過ぎることになることについては,やむを得ないものと考えていたことがうかがえるものの,原告が主張するような2,3か月の猶予期間を与えたとか,6月以後の賃料の支払いを合意し,新ためて原告との間で賃貸借契約を締結したことを示す証拠はなく,この点の原告の主張は採用しえない。

 3 原告は,6月7日早朝,突然,被告が原告方を訪れ,直ぐに出るよう怒鳴り散らし,原告の言い分に一切耳を貸さず無理矢理追い出された旨供述する。確かに,被告が同日早朝,原告方を訪れ,直ぐに荷物を片付けて出るよう強い口調で述べたことはうかがえるが,前記認定した事実のほか,弁論の全趣旨を総合すれば,被告は,原告からの解約通知を受け,5月分賃料は既に敷金をもって充当精算していたところ,原告から仕事の都合で明渡日が延びるとの連絡を何回か受け,5月末日を過ぎることについてはやむを得ないものと考えていたものの,その後約1週間たっても明け渡しがなかったことから6月7日に至り原告方を訪れ,原告に対し,強い口調で荷物を片付けて出るよう求めたことが認められるが,原告は,その後鍵を被告に渡した後,昼ころから片付けを始め,夕方6時ころには,片付けはもう少しかかることを被告方を訪れ告げていること,その後,片付けを終え,夜10時頃には,片付けが終わったことを告げるために被告方を訪れていることからしても,結局,原告は,6月7日においてその後の居住継続の猶予を願い出たものの,被告に応じてもらえなかったことから,自ら荷物を片付け明け渡したもので,被告において原告の占有を侵害したとか,それに値する程の強要行為があったとまでは認められない。

 4 以上によれば,その余の点を判断するまでもなく原告の請求は理由がないので,主文のとおり判決する。

    東京簡易裁判所民事第2室

             裁判官  福本 智公


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2008年10月 9日 (木)

「家賃滞納したら鍵換えられ違約金」 入居者が提訴

 「敷金や礼金、仲介手数料ゼロ」をうたう不動産会社「スマイルサービス」(東京都新宿区)の物件入居者5人が8日、スマイル社などを相手取り、約1200万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。家賃を滞納した際に無断で鍵を換えられたほか、法外な違約金を支払わされたと訴えている。

 原告側弁護団によると、スマイル社は都内を中心に物件を展開し、「ゼロゼロ物件」として知られる。初期費用が安いため入居者はフリーターや外国人が多く、「訴訟を通して貧困層を狙ったビジネスを問いたい」としている。

 訴えなどによると、スマイル社は一般的な賃貸借契約ではなく、鍵自体を貸し出すことで一時的に部屋を利用できる特殊な賃貸契約を結ぶ仕組みで、入居者保護を目的とした借地借家法の適用を免れていると主張。スマイル社はこの契約を根拠に、賃料の滞納があると室内の荷物を撤去したと反論している。原告側は、こうした行為は「住居侵入罪といった犯罪性が高く、プライバシーや居住権を侵害している」と主張している。(向井宏樹)

2008年10月8日
asahi.com(朝日新聞社)


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2008年10月 8日 (水)

建物明渡等請求事件(広島地裁)

 判例紹介

平成20年2月21日  広島地方裁判所福山支部判決言渡

同日原本領収 裁判所書記官

平成19年(ワ)第69号 建物明渡等請求事件

口頭弁論終結日 平成19年12月20日

                                         判              決
                                 主              文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

                                         事 実 及 び 理 由

第1 請求の趣旨
 1 被告は,原告に対し,293万1248円を支払え。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
 3 仮執行宣言。

第2 事案の概要等
 1 事案の概要
  本件は,別紙目録記載の建物(以下, 「本件建物」という。 )及び駐車場(以下, 「本件駐車場」という 。 )を所有して管理する原告が,賃貸借契約は賃料不払いを理由に解除されたとして,本件建物及び駐車場の賃借人の連帯保証人である被告に対し,平成9年1月分以降(約10年分)の未払賃料及び賃料相当損害金として約300万円の支払いを求めた事案である。

 2 争いのない事実及び証拠によって認められる事実(証拠によって認定した事実については,末尾に証拠を掲載した )。

(1) 原告は,昭和57年10月26日,訴外Aに対し,本件建物を次の約定で賃貸した。
ア 使用目的     居住用
イ 賃 料        1か月2万2000円
ウ 賃借人が賃料を3月以上滞納したときは,原告は本件建物の明渡しを請求できる。
エ 本契約は,公営住宅法,同法施行令,福山市営住宅等条例及び条例施行規則による。

(2) 被告は,昭和57年10月26日,訴外Aが原告に対して負担する本件賃貸借契約上の債務を保証人として連帯して履行することを約した。

(3) 上記賃料は,平成5年11月1日から2万6600円,平成10年4月1日から3万6000円,平成11年4月1日から3万5500円,平成12年4月1日から2万5300円 ,平成13年4月1日から3万3800円,平成14年4月1日から3万3300円,平成15年4月1日から3万2800円,平成16年4月1日から3万2400円,平成16年5月1日から3万5200円(駐車場使用料を含む。) ,平成17年4月1日から3万5100円(駐車場使用料を含む。) ,平成17年12月1日から1万9900円(駐車場使用料を含む。 )に改定された(甲3,4)。

(4) 原告は,平成16年5月1日,訴外Aに対し,本件駐車場を使用料1ヶ月2800円,期間は訴外Aが本件建物の賃借資格を有するまでの約定で使用許可した(甲4,6)。

(5) 訴外Aは 平成9年1月分から賃料の支払を滞納するようになったため,原告は,訴外Aに対し,平成18年10月25日到達の内容証明郵便で,未払賃料合計275万6000円を同書到達後5日以内に支払うよう,もし支払わなかったときは本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたが,訴外Aはこれを支払わなかったため,本件賃貸借契約は平成18年10月31日に終了した(甲2の1及び2,3)。

(6) 原告は,被告に対し,平成9年1月以降,訴外Aの賃料債務不履行の事実を伝えたり連帯保証債務履行の請求をすることを一切行わずに放置していたが,平成18年10月11日に至って初めて,訴外Aの未払賃料合計275万6000円を10日以内に連帯保証人として支払うよう催告し,更に,同年同月24日,翌日到達の内容証明郵便で,訴外Aの未払賃料合計275万6000円を同書到達後5日以内に連帯保証人として支払うよう催告した(甲9の1及び2,13,乙1,2)。

(7) 訴外Aは,平成19年7月25日,強制執行により本件建物を明け渡した(弁論の全趣旨 。)

3 争点及び当事者の主張
 (争点)本件未払賃料等を連帯保証人である被告に請求することの当否。
 (被告の主張)
(1) 原告は,平成9年1月分から賃料の不払いがあったとして,本件請求をしているが,福山市営住宅等条例41条(2)記載によれば,家賃を3ヶ月以上滞納したときは「当該入居者に対し,当該市営住宅等の明渡しを請求することができる」と規定している。

 したがって,本件建物賃貸借契約の連帯保証人の保証の本旨は3ヶ月を限度として保証しているものであって,3ヶ月分の請求ならともかく,入居者の賃料不払いを無制限に保証しているものではない。
(2) 本件請求は,地方自治体の公的義務に違背し,権利の濫用として無効である。

(3) 原告は,被告に対しては平成5年12月20日まで合計8回にわたって催告したと主張する。
 したがって,被告の連帯保証債務は,原告の主張する上記最終請求日から満5年をもって時効により消滅しているものであるところ,被告は,本訴において時効の利益を援用する。

(原告の主張)
(1) 被告の保証は3ヶ月分を限度としたものではない。
 原告が, 被告に対し, 途中から催告を差し控えていたことは事実であるが,公営住宅であることからできるだけ法的手続を留保していたとしても,訴外Aに対しては延滞賃料の支払いを厳しく催告し続けており,また,被告は訴外Aの義理の叔父であって意思の疎通も十分されていることなどを考えた場合には,仮に原告の被告に対する本件請求が地方自治体の管理業務として問題があるとしても,保証責任の期間が制限されるものではない。

(2) ア 原告は,市営住宅の明渡請求訴訟の提起等,家賃滞納整理については福山市営住宅使用料(家賃)滞納整理要綱に基づいて事務処理している。

(ア) 1ヶ月以上の滞納者に対しては,まず督促状を送付する。

(イ) 3ヶ月以上の滞納者に対しては, 「さきに督促状を送付しましたが,いまだ未納ですので表記の指定納入期限までに完納してください。 もし,期限までに完納できない事情がある場合は,住宅課へご相談ください。
なお,住宅・駐車場使用料の未納については連帯保証人に対しても連絡済です。 」の文書を送付する。

(ウ) 5ヶ月以上の滞納者に対しては, 「あなたの滞納については再三督促しているにもかかわらず表記の指定納入期限までに完納してください。なお,連帯保証人に対しても催告書を送付しております (予告)。
期限までに納入されない場合は裁判所に住宅明け渡しの訴えを行うことになります。 」の文書を送付する。

(エ) 6ヶ月以上の滞納者で家賃を支払う意思のないものに対しては,法的措置を行う旨記載した文書を送付し,警告するとともに臨戸訪問等により本人と接触し,納付指導を行う。

(オ) 市営住宅明け渡し等請求訴訟の訴え提起前日までの間に,滞納家賃の全額又は,3分の2以上の額を納付し,かつ当該納付すべき残額について分割納付誓約書を申し出た場合は,提訴しないことができるものと
する。ただし,分割納付誓約の内容は,滞納が1年以内に整理できるものとする。

イ 原告は,家賃滞納者に対しては,これまで上記要綱に基づいて事務処理していたが,市営住宅が住宅に困窮する低所得者に対し低廉な家賃で賃貸し,市民生活の安定と社会福祉増進を目的としていることから,実務的には明け渡し等請求訴訟の訴えは,滞納額とこれについて賃借人が原告の納付指導に基づいて納付誓約書を差し入れるなど誠実に対応されているかどうかによって慎重に処理していた。

ウ 連帯保証人である被告らに対して原告が催告を控えるようになったのは,訴外Aが,平成5年10月に納付誓約書を提出し,誓約書どおり分納を履行していたにもかかわらず,原告担当者が,平成5年12月20日,過って被告に催告状を出したため,訴外Aが,平成6年1月,原告担当課に来て強く抗議したため,原告は,被告ら保証人にお詫びの電話をするとともに,その後は訴外Aに賃料滞納があっても被告ら保証人に対する催告を控えるようになったものである。

(3) 主たる債務者について時効中断の事由が生じたときは,保証債務の付随性に基づき,保証人にもその効力が及ぶところ,訴外Aは,原告に対し,
① 平成11年8月25日,未払賃料債務53万7700円を承認し,
② 平成12年8月14日,未払賃料債務59万4100円を承認し,
③ 平成14年8月14日,未払賃料債務132万6300円を承認し,
④ 平成17年9月5日,未払賃料債務253万6100円を承認し,
それぞれ分割して完納する旨を誓約しているので,消滅時効は上記各承認により中断している。

 消滅時効完成後の承認が時効利益の放棄となり,主たる債務者がなした時効の利益の放棄は保証人に対して効力を生じないと解されるとしても,上記各承認は,時効完成後の承認ではないから,保証人である被告に効力が生じるものであり,被告の消滅時効の主張は理由がない。

第3 当裁判所の判断


 1 上記認定事実に加えて 証拠 (甲1, 5, 7, 8, 10ないし17, 証人B,証人C)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1) 本件市営住宅は,公営住宅法にいう公営住宅に該当するものであるところ,公営住宅法は,国及び地方公共団体が協力して,健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し,これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し,又は転貸することにより,国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とするものであって(法1条) ,この法律によって整備された公営住宅の使用関係については,管理に関する規定を設け,家賃の決定,家賃の変更,家賃の徴収猶予,修繕義務,入居者の募集方法,入居者資格,入居者の選考,入居者の保管義務,明渡し等について規定し(法第3章) ,また,法の委任(法47条)に基づいて制定された条例も,使用許可,使用申込,申込者の資格,使用者選考,使用手続,使用料の決定,使用料の変更,使用料の徴収,明渡し等について具体的な定めをしているところである。

 そして,福山市営住宅等条例(甲5,8)の規定によれば,市営住宅等の入居決定者は,決定のあった日から10日以内に,入居決定者と同程度以上の収入を有する者で,市長が適当と認める連帯保証人2人の連署する請書を提出することが要求されている。

(2) 被告は,昭和57年10月26日,訴外Aが原告から本件建物を賃借するに際し,福山市営住宅等条例の上記規定に基づき,訴外Aの実父である訴外亡D(平成13年 a月 b日死亡)とともに訴外Aの連帯保証人となることを承諾し,市営住宅使用請書(甲1)の連帯保証人欄に署名・押印した。

なお,被告は,訴外Aの実母の姉の配偶者であり,すなわち,訴外Aの義理の伯父の関係にあるが,訴外Aの生活状況については必ずしも十分に把握しておらず,訴外Aが平成5年に破産宣告を受けたことすら,最近まで知らずにいた状況であった。

(3) 訴外Aは,平成3年頃から本件建物の賃料を滞納するようになった。

(3) 原告には,市営住宅使用料(家賃)の納付の円滑化を図るため,昭和64年4月1日から施行された「福山市営住宅使用料(家賃)滞納整理要綱」(甲16)が存在し,納期限までに家賃を納付しない市営住宅の入居者やその連帯保証人に対する督促や明渡請求訴訟の提起等,家賃滞納整理については,上記要綱に基づいて事務処理することとされていたものであるところ,上記要綱には以下の事項が定められていた。

ア 家賃の滞納が発生した場合には,滞納者に対し事実の認識と納付指導のため,つぎの文書を送付する。
 (ア) 1ヶ月以上の滞納者に対しては, まず督促状 (様式1) を送付する。

 (イ) 3ヶ月以上の滞納者に対しては, 「さきに督促状を送付しましたが,いまだ未納ですので表記の指定納入期限までに完納してください。 もし,期限までに完納できない事情がある場合は住宅課へご相談ください。なお,住宅・駐車場使用料の未納については連帯保証人へ連絡済です。」の文書(様式2)を送付する。

(ウ) 5ヶ月以上の滞納者に対しては, 「あなたの滞納については,再三督促しているにもかかわらずいまだ完納されていません。表記の指定納入期限までに完納してください。なお,連帯保証人に対しても催告書を送付しております。 (予告)期限までに納入されない場合は,裁判所に住宅明渡の訴えを行うことになります 。」の文書 (様式3) を送付する。

イ 以上の規定により,督促・催告したにもかかわらず納付しない滞納者の連帯保証人に対し,つぎの文書を送付する。

 (ア) 3ヶ月を超え5ヶ月までの滞納者の連帯保証人に対しては, 「さき,に「住宅・駐車場使用料完納指導依頼書」を送付しましたが,いまだに完納されていません。ついては,連帯保証人であるあなたに請求します
ので, 入居者と相談のうえ指定納入期限までに納付してください。 なお,これ以上滞納が続くようであれば,入居者に対しては,裁判所に住宅明渡の訴えを行うこととなります。また連帯保証人に対しては,住宅使用
料等(起訴費用・損害賠償金含む)の支払いを請求することになります。 」の文書(様式4)を送付する。

 (イ) 6ヶ月を超える滞納者の連帯保証人に対しては, 「あなたが連帯保証人となっている市営住宅入居者は,市の再三の督促にもかかわらず,表記のとおり滞納となっています。ついては本人と相談のうえ指定納入期限までに完納されるようご指導ください。なお,期限までに完納されない場合は,連帯保証人のあなたに請求することにもなりますのであらかじめお知らせしておきます。 」の文書(様式5)を送付する。

ウ 6ヶ月以上の滞納者で,家賃を支払う意思のないものに対して法的措置を行う旨記載した文書を送付し,警告するとともに,臨戸訪問等により本人と接触し,納付指導を行う。

エ 市営住宅明け渡し等請求訴訟の訴え提起前日までの間に,滞納家賃の全額又は, 3分の2以上の額を納付し, かつ, 当該納付すべき残額について,分割納付誓約を申し出た場合は,提訴しないことができるものとする。ただし,分割納付誓約の内容は,滞納が1年以内に整理できるものとする。

(5) 原告は,本件建物の賃料を滞納するようになった訴外Aに対しては,平成3年1月20日から平成5年6月18日までの間,上記様式1ないし3の催告書等を11回にわたって送付するとともに,保証人である被告に対しても7回にわたって催告書を送付した。

 一方,訴外Aは,平成5年6月7日に自己破産決定を受け,その後,免責決定も受けたが,原告に対しては,平成5年10月19日,納付誓約書を提出して未払賃料を分納することを約束し,その後,同約束に従ってこれを履行していた。

 ところが,訴外Aが上記納付誓約書に記載された約束を概ね遵守して未払賃料の分納を続けていたにもかかわらず,原告担当者は,平成5年12月20日,過って被告に対して催告書を送付してしまったため,訴外Aは,平成6年1月,原告担当課に来てそのことを強く抗議し,原告担当者は,被告に対し,電話で謝罪した。

 このことがあってから,原告は,内部的な申し送りとして,訴外Aに賃料滞納があっても,上記納付誓約書に記載された約束を概ね遵守して未払賃料の分納を続けている限りは,被告ら保証人に対しては催告書の送付を控える取り扱いとすることを取り決めた。

(6 ) ところが,訴外Aは,平成6年夏頃から,上記納付誓約書に記載された約束どおりの納付を滞るようになり,その後,新たな滞納分も加わって,平成11年8月25日現在の滞納額は53万7700円,平成12年8月14日現在の滞納額は59万4100円,平成13年9月3日現在の滞納額は99万0800円,平成14年8月7日現在の滞納額は129万3000円,平成15年8月20日現在の滞納額は172万3400円,平成16年12
月20日現在の滞納額は226万7000円,平成17年11月17日現在の滞納額は265万3400円と増加した。

 原告は,訴外Aに対しては,再三にわたって催告書を送付し,臨戸訪問等により本人と接触し,納付指導を行うなどし,更には,平成11年8月25日,平成12年8月14日及び平成17年9月5日には納付誓約書を提出させるなどしたが,被告に対しては,上記の内部的な申し送りの趣旨を後任者に正確に伝えなかったこともあってか 「福山市営住宅使用料(家賃)滞納,整理要綱 」(甲16)に反して,催告書を全く送付することなく,また,訴外Aの賃料滞納の状況についても一切知らせずに放置していた。

 なお,この間の平成13年7月10日,訴外Aのもう1人の連帯保証人である訴外亡D(訴外Aの実父)は死亡した。

2 被告は,福山市営住宅等条例41条( )において,家賃を3ヶ月以上滞納したときは「当該入居者に対し,当該市営住宅等の明渡しを請求することができる」と規定しているところから,本件建物賃貸借契約の連帯保証人の保証の本旨は3ヶ月を限度として保証しているものであって,入居者の賃料不払いを無制限に保証しているものではないと主張するので,まず,この点について検討する。

 公営住宅法は,国及び地方公共団体が協力して,健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し,これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し,又は転貸することにより,国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とするものである(法1条)ことは上記判示のとおりであるから,そもそも,公営住宅の賃貸借において,住宅に困窮する低額所得者である賃借人の賃料未払いを担保するために,賃貸借契約締結の条件として連帯保証人を付することを要求することの正当性及び合理性自体に疑問があるところであり,本来,生活保護法における住宅扶助の制度と連動させるなどの法的整備が望まれるところであるが,公営住宅の賃貸借において賃貸借契約締結の条件として連帯保証人を付することを要求すること自体が違法であるとまで解することはできず,一方,連帯保証人を付することの効用としては,公営住宅の賃借人に対し,連帯保証人に迷惑を掛けてはいけないという道義心から賃料支払義務の確実な履行を促す効果が期待でき,また,公営住宅の賃借人が賃料を滞納した場合に,公営住宅の賃借人に対して連帯保証人から納付を促してもらうことによって,賃料支払義務の履行をより強力に促すことができるという効果が期待できるのであり,上記認定にかかる「福山市営住宅使用料(家賃)滞納整理要綱 」(甲16)も,滞納整理に関する行政機関の内部的な規範ではあるが,以上の趣旨に添うものとして評価できる。

 以上の観点によれば,本件建物賃貸借契約における連帯保証人の保証責任の範囲として,入居者の賃料不払を無制限に保証していると解することは相当でなく,自ずから社会的相当性の認められる一定の範囲に限定されるべきものではあるが,その責任範囲についての明確な約定の存在しない本件において,福山市営住宅等条例41条(2)の規定のみを根拠として連帯保証人の保証の本旨は3ヶ月を限度とするものであると解することは必ずしも相当でなく,この点に関する被告の上記主張は直ちには採用できない。

3 しかしながら,公営住宅の賃貸借契約における連帯保証人の意義が上記判示のとおりであって,入居者の賃料不払いを無制限に保証していると解することは相当でないことは上記判示のとおりであるから,公営住宅が住宅に困窮する低所得者に対し低廉な家賃で賃貸し,市民生活の安定と社会福祉増進を目的としていることから,公営住宅の賃貸借契約に基づく賃料等の滞納があった場合の明渡等請求訴訟の提起に関して,その行政実務において,滞納額とこれについての賃借人の対応の誠実さなどを考慮して慎重に処理すること自体は相当且つ適切な処置であるとしても,そのことによって滞納賃料等の額が拡大した場合に,その損害の負担を安易に連帯保証人に転嫁することは許されず,明渡等請求訴訟の提起を猶予する等の処置をするに際しては,連帯保証人からの要望があった場合等の特段の事情のない限り,滞納額の増加の状況を連帯保証人に適宜通知して連帯保証人の負担が増えることの了解を求めるなど,連帯保証人に対しても相応の措置を講ずべきものであるということができる。

 これを本件についてみるに,連帯保証人である被告に対する原告の催告状況は上記認定のとおりであって,賃借人である訴外Aが,平成6年夏頃から,納付誓約書に記載された約束どおりの納付を滞るようになり,その後,新たな滞納分も加わって,平成11年8月25日現在の滞納額は53万7700円,平成12年8月14日現在の滞納額は59万4100円,平成13年9月3日現在の滞納額は99万0800円,平成14年8月7日現在の滞納額は129万3000円,平成15年8月20日現在の滞納額は172万3400円,平成16年12月20日現在の滞納額は226万7000円,平成17年11月17日現在の滞納額は265万3400円と増加したにもかかわらず,被告に対しては, 「福山市営住宅使用料(家賃)滞納整理要綱」 (甲16)に反して,平成5年12月20日に催告書を送付したのを最後に,平成18年10月11日に至るまで,催告書を全く送付することなく,また,訴外Aの賃料滞納の状況についても一切知らせずに放置していたものであり,原告には内部的な事務引継上の過失又は怠慢が存在するにもかかわらず,その責任を棚上げにする一方,民法上,連帯保証における責任範囲に限定のないことや,連帯債務における請求に絶対効が認められることなどから,被告に対する請求権が形骸的に存続していることを奇貨として,敢えて本件訴訟提起に及んでいるものであり,本件請求における請求額に対する被告の連帯保証人としての責任範囲等を検討するまでもなく,本件請求は権利の濫用として許されないものというべきである。

4 以上によれば, 原告の本訴請求は, その余の点について判断するまでもなく,理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条に従い,主文のとおり判決する。

     広島地方裁判所福山支部

        裁 判 官    杉 本   正 樹

(別紙)
  目 録
  住 宅 名     c市営住宅
  所 在 地     広島県福山市d 町e 番地
  住宅番号   f号棟 g号
  構 造         鉄筋コンクリート造陸屋根 階建h
  種 類         共同住宅
  面 積         i平方メートル
     (附属物置)
  構 造        鉄骨造平家建
  面 積        j平方メートル

  駐車場
  構 造        アスファルト舗装
  面 積        k平方メートル
  以 上


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2008年10月 7日 (火)

配水管の修繕費立替金等請求事件

 判例紹介

 東京簡易裁判所 平成19年12月10日判決言渡

 東京簡易裁判所平成19年(少コ)第2729号 立替金等請求事件

                    少 額 訴 訟 判 決

                                   主         文

1 被告は,原告に対し,19万8500円及びこれに対する平成17年7月8日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。

                     事 実 及 び 理 由

 第1 請 求

  主文同旨

 第2 事案の概要

 原告は,Aマンション1002号室の所有者であったところ(甲2,3,乙2,3 ,平成16年9月14日に同マンション8階の802号室及び9階の)902号室に水漏れが発生した。同水漏れの原因は,同マンション1002号室の床下配水管(以下「本件配水管」という。 )からの水漏れが原因であることが判明した(甲3)本件配水管は,同マンションの共用部分に存在するので,被告に修繕義務があるにもかかわらず ,(甲1) 被告は修繕を行わないため,原告が被告のために本件配水管の修繕を行い,平成16年11月15日に修繕業者にその費用として金15万7000円(甲4)を,平成17年7月7日にその費用として金4万1500円(甲5)の合計19万8500円を支払った。よって,原告は,被告に対し,同費用合計19万8500円及びこれに対する平成17年7月8日から支払済みまで民法所定年5%の割合による遅延損害金の支払を求める。

 第3  主たる争点

 本件配水管の亀裂が存した部分は,原告の専有部分であったか。共用部分であったか。

 第4  理由の要旨

 1  本件マンションの管理規約 使用細則( 甲1) 第7条2項(1) によれば 「天井, 床及び壁は, 躯体部分を除く部分を専有部分とする。」 と定められている。

 2  本件配水管は,本件マンションの902号室の天井と1002号室の床下との間の空間に存在する配水管で,床下から約5cmのところに亀裂が入っていたことが原因とする水漏れであったものと認められる(甲6 )。

 3  そこで判断するに,本件マンションの管理規約,使用細則第7条2項(1)では天井までが専有部分とされるが,天井裏は専有部分とは解されないこと,床は専有部分とされるが,床下は専有部分とは解されないところ,本件配水管の亀裂があった部分は,902号室の天井裏であり,かつ,1002号室の床下の空間であると認められることから,902号室及び1002号室のいずれの専有部分でもなかったと解される。本件マンションの管理規約,使用細則第8条によれば 「対象物件のうち共用部分の範囲は,専有部分を除く部分とする。 」と定められ,また,同第18条によれば「敷地及び共用部分等の管理については,管理組合が責任と負担においてこれを行うものとする。 」と定められていることからすると,本件配水管の亀裂した箇所は共用部分であり,その修繕義務は被告がこれを負担するものと認められる(なお,天井裏の排水管についてはその共同性から共用部分とした裁判例として,東京地判平成8年11月26日判例タイムズ954号151頁。天井裏の排水管の枝管について,これを上の階の部屋から点検,修理することが不可能であることなどを理由に,区分所有者全員の共有部分に当たるとした判例として,最高裁判平成12年3月21日判例タイムズ臨時増刊1065号56頁 参照)。

 4  原告主張の請求原因事実は 関係各証拠及び弁論の全趣旨により認められる。

 5  よって,原告の請求は理由があるので,主文のとおり判決する。


               東京簡易裁判所民事第9室

                      裁 判 官   古 木   俊 秀


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2008年10月 6日 (月)

損害賠償等マンション上階の騒音

 判例紹介


東京地方裁判所平成19年10月3日判決
言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成17年(ワ)第24743号 損害賠償等請求事件
(平成19年8月10日口頭弁論終結)

                  判      決

東京都板橋区××××
 原 告 A
 同訴訟代理人弁護士 保 坂 光 彦

東京都板橋区××××
 被 告 B

                  主       文

1 被告は,原告に対し,36万円及びこれに対する平成17年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを6分し,その5を原告の,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

                  事 実 及 び 理 由

第1 請求
被告は,原告に対し,240万円及びこれに対する平成17年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 争いのない事実等(末尾に証拠等の記載されていない事実は,当事者間に争いがない )。

 原告は,平成8年7月29日,東京都板橋区a b丁目所在のマンション(1)であるc(以下「本件マンション」という。 )の別紙物件目録記載1の建物(その広さは3LDKである。以下「原告住戸」という。 )をその妻と共に各持分2分の1の割合で買い受け,そのころから妻と共に原告住戸に居住している。

 被告は,平成16年2月ころ,原告住戸の階上の別紙物件目録記載2の建物(その広さは3LDKである。以下「被告住戸」という。 )を他から賃借してそこに居住し,少なくとも同年4月ころ以降は,妻,長男(当時3から4歳)と被告住戸に同居していたが,平成17年11月17日に妻,長男と共に被告住居を退去した。

 (2) 本件マンションの敷地は第1種中高層住居専用地域に属しており,本件マンションの北側には,駐車場を置いて片側1車線の道路があるが,本件当時の原告住戸の暗騒音は,27~29dBである(甲25,弁論の全趣旨) 。

2  原告は,被告に対し,被告住戸から原告住戸に及んだ子供が廊下を走ったり,跳んだり跳ねたりする音(以下「本件音」という。 )が受忍限度を超えていると主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料200万円及び弁護士費用40万円の合計240万円並びにこれに対する不法行為の後である平成17年12月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求
めている。

3  争点及びこれに関する当事者の主張
 本件音が一般社会生活上原告が受忍すべき限度を超えていたか否か

(原告の主張)
 被告が平成16年2月ころに被告住戸に転居して以来,被告住戸から本件音が原告住戸に及ぶようになった。都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(平成12年東京都条例第215号,以下「本件条例」という。 )は,第1種中高層住居専用地域につき,音源の存在する敷地と隣地との境界線における音量を,午前6時から午前8時まで45dB,午前8時から午後7時まで50dB,午後7時から午後11時まで45dB,午後11時から翌日午前6時まで45dBと規制しているが,本件音は,ほぼ毎日夜間を含め,上記規制を超えている。

 被告は,原告及び本件マンションの管理組合から再三にわたり注意や要請を受けたにもかかわらず,一向に改善する意思を見せなかった。これは,本件で最も問題とされるべきである。

 以上によれば,本件音が一般社会生活上原告が受忍すべき限度を超えていたということができる。

(被告の主張)
原告の上記主張は争う。

 被告は,その長男が原告住戸に音を生じさせないように細心の注意を払うとともに,床にマットやカーペットを敷くなどの対処をしていた。被告の長男は,平成16年4月に被告住戸に同居を開始し,その後10日から15日の間は,被告住戸に慣れず,午前零時から1時ころまで起きていたが,それ以降はほぼ毎日午後10時ころには就寝していた。被告は,原告が一方的に被告の言い分を聞かずに静かにす
るようにと言うだけであるので,原告に対し,これ以上は静かにできない,文句があるなら建物に言うようにと述べたものである。

 以上によれば,本件音が一般社会生活上原告が受忍すべき限度を超えていないということができる。

第3  当裁判所の判断

1 第2の1の争いのない事実等,証拠(甲1,甲4[枝番を含む] ,甲5の1から5まで,甲7,甲8の1から3まで,甲12,甲13の3及び6,甲15,甲18,甲24,甲26の2の1から4まで,乙2,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

 (1) 本件マンションは,昭和63年6月ころに建築されたものであり,その2階の床の構造は,150mm厚のコンクリートスラブ,その上の居間の仕上げがフェルト8mm下地の上にカットアンドパイルカーペット毛足7mmの敷き込み,和室の仕上げが防湿シートとスタイロ畳55mmであり,重量床衝撃音遮断性能(標準重量床衝撃源使用時)は,LH-60程度であり,日本建築学会の建築物の遮音性能基準によれば,集合住宅の3級すなわち遮音性能上やや劣る水準にある。

 本件マンションの所在する土地は,第1種中高層住居専用地域に属しており,本件マンションの北側には,駐車場を挟んでバスも通行する片側1車線の道路が存在する程度であり,本件当時の原告住戸の暗騒音は,27~29dB程度である。

 (2) 原告は,平成8年7月29日,その妻と共に各持分2分の1の割合で原告住戸を買い受け,そのころから妻と共に原告住戸に居住していた。

 被告は,平成16年2月ころ,原告住戸の階上の被告住戸を賃借してそこに居住し,少なくとも同年4月ころ以降は,妻,長男(当時3から4歳)と被告住戸に同居していた。

 被告が被告住戸に居住を開始する前は,被告住戸から原告住戸に及ぶ音は,とりたてて問題とするものではなかったが,被告が被告住戸に居住を開始して以来,その長男が被告住戸にいるときは,同人が被告住戸を走り回ったり,跳んだり跳ねたりすることが多くなり,本件音を原告住戸に及ぼすようになった。

 被告は,被告住戸に入居するに際して原告住戸に挨拶をしておらず,原告との間で近所づきあいもなかったため,原告は,本件マンションの管理人に相談し,その結果,本件マンションの管理組合名で,本件マンションの各戸に音,特に,子供が室内を走り回ったり,跳び跳ねたりする音などに注意するように呼びかける内容の同年3月4日付け書面が配布された。

 しかし,本件音の状況が改善されないので,原告は,上記管理人と相談し,同年4月22日,被告あてに,子供が室内や廊下を走ったり,跳ねたりする音が原告住戸に響いて困っているので配慮をお願いする旨の手紙を被告住戸に投函した。

 被告は,末尾に謝罪文言は記載しているものの,被告住戸から原告住戸に本件音が及んだ際に,原告が原告住戸から天井を物で突いたことを非難する内容の手紙を原告住戸に投函した。

 原告は,同年5月,被告住戸を訪ね,被告と話し合ったが,その際,被告は,これ以上静かにすることはできないので,文句があるなら建物に言ってくれと乱暴な口調で突っぱねた。

 その後,原告が被告住戸に本件音につき抗議に行っても,被告は応対しなくなり,同年6月22日,原告が原告住戸付近で被告と出会って騒音に対する配慮を求めた際,被告は,本件音が原告住戸に及ばないように努力しているが,これ以上は努力することができない,被告も被告住戸にいる時があるから本件音のことは知っている,原告はうるさい,原告が被告に直接訴えても無駄であるから,他の人に訴えるようにと乱暴な口調で言い,原告の妻が被告と会った際に静かにして下さいと被告に頼んでも,被告は,警察でもどこでも行けばよい,どうせ理事会では何もしてくれないのだろうと言ったりするなど原告の申入れを取り合おうとしなかった。

 本件マンションの管理組合は,原告の申入れに基づき,同年6月28日に日常の生活音について配慮することを求める内容の書面を掲示板に掲載したり,同年7月17日に本件マンションの各戸に配布したりし,原告は,本件マンションの管理会社や警察にも相談し,警察官も数回本件マンションを訪れたが,解決には至らなかった。

 そこで,原告は,本件マンションの管理会社から訴訟で解決するほかないとの指摘を受けたことを踏まえ,客観的なデータを残すほかないと考え,自らMDプレーヤーなどを購入したり,騒音計のリースを受けるなどし,平成16年9月21日以降,騒音計をリビングダイニングのほぼ中心から廊下寄りの位置で,天井から約70cm~1mの位置に設置し,C特性で測定した。耳の感度に近似するのは,A特性であり,財団法人建材試験センターによる試験の結果,原告の測定した床衝撃系騒音についてC特性をA特性に補正するためには,補正量がマイナス12dB程度であることが判明したため,これによって補正すると,平成17年7月31日までの間はほぼ毎日本件音が原告住戸に及んでおり,その程度は,50~65dB程度のものが多く,午後7時以降,時には深夜にも原告住戸に及ぶことがしばしばあったこと,本件音が長時間連続して原告住戸に及ぶこともあったことが明らかになった。

 少なくとも被告の長男が原告住戸に居住するようになった平成16年4月ころから上記騒音計を設置するまでの状況も同様であったと考えられるし,平成17年8月以降も,本件音の測定自体は十分にはされていないが,被告が同年11月17日に妻,長男と共に退去するまでその状況はほぼ同様であった。なお,同年になってからは,被告の長男が保育園に通うようになり,保育園に行っている間は,本件音は,原告住戸に及ばなくなった。また,被告は,被告住戸の床にマットを敷いたものの,その効果は明らかではない。

 本件音と被告の上記対応につき,原告は,精神的に悩み,原告の妻には,同年10月7日,咽喉頭異常感,食思不振,不眠等の症状も生じたため,原告の妻は倉科内科クリニックで通院加療を受けた。

 原告は,同年4月8日,被告に対し,騒音の差止め及び損害賠償を求める旨の調停を求めたが,被告は,これに応じなかったため,調停不成立により,調停は終了した。

 上記認定事実に基づき,本件音が一般社会生活上原告が受忍すべき限度を超えているか否かについて判断する。なお,本件音のようなマンションの階上からの生活音については,本件条例136条は適用にはならない。

 本件音は,被告の長男(当時3~4歳)が廊下を走ったり,跳んだり跳ねたりするときに生じた音である。
 本件マンション2階の床の構造によれば,1重量床衝撃音遮断性能(標準重量床衝撃源使用時)は,LH-60程度であり,日本建築学会の建築物の遮音性能基準によれば,集合住宅の3級すなわち遮音性能上やや劣る水準にある上,本件マンションは,3LDKのファミリー向けであり,子供が居住することも予定している。

 しかし,平成16年4月ころから平成17年11月17日ころまで,ほぼ毎日本件音が原告住戸に及んでおり,その程度は,かなり大きく聞こえるレベルである50~65dB程度のものが多く,午後7時以降,時には深夜にも原告住戸に及ぶことがしばしばあり,本件音が長時間連続して原告住戸に及ぶこともあったのであるから,被告は,本件音が特に夜間及び深夜には原告住戸に及ばないように被告の長男をしつけるなど住まい方を工夫し,誠意のある対応を行うのが当然であり,原告の被告がそのような工夫や対応をとることに対する期待は切実なものであったと理解することができる。

 そうであるにもかかわらず,被告は,床にマットを敷いたものの,その効果は明らかではなく,それ以外にどのような対策を採ったのかも明らかではなく,原告に対しては,これ以上静かにすることはできない,文句があるなら建物に言ってくれと乱暴な口調で突っぱねたり,原告の申入れを取り合おうとしなかったのであり,その対応は極めて不誠実なものであったということができ,そのため,原告は,やむなく訴訟等に備えて騒音計を購入して本件音を測定するほかなくなり,精神的にも悩み,原告の妻には,咽喉頭異常感,食思不振,不眠等の症状も生じたのである。

 以上の諸点,特に被告の住まい方や対応の不誠実さを考慮すると,本件音は,一般社会生活上原告が受忍すべき限度を超えるものであったというべきであり,原告の苦痛を慰謝すべき慰謝料としては,30万円が相当であるというべきである。

 そして,被告は,原告が申し立てた調停による解決も拒み,そのため,原告は,本件訴訟を原告訴訟代理人弁護士に委任せざるを得なくなったものであること,その他本件事案の内容,審理経過,認容額等を考慮すると,本件による弁護士費用として,被告に対して損害賠償を求め得る額は6万円と認めるのが相当である。

2  以上の次第で,原告の請求は主文1項掲記の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する(なお,被告は,本件訴訟係属後,弁論準備手続期日に連絡することなく出頭しないことがあり,当裁判所は,平成19年6月26日の弁論準備手続期日において,弁論準備手続を終結させ,同年8月10日の口頭弁論期日において,原告と被告の各本人尋問を行うことを決定し,上記弁論準備手続期日に出頭していた被告に対し,同年7月13日までに陳述書を提出し,本人尋問の申出書を提出すること,上記口頭弁論期日には必ず出頭するように指示し,被告が上記期限内に上記陳述書及び申出書を提出しないので,裁判所書記官は,被告に対し,上記陳述書及び申出書の提出を催促するとともに,上記口頭弁論期日には必ず出頭するように連絡したが,被
告は,上記陳述書及び申出書を提出せず,上記口頭弁論期日にも出頭しなかったものである。)。

             東京地方裁判所民事第49部

                         裁判官  中 村  也 寸 志 


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2008年10月 4日 (土)

借家立退料の算定基準を貸主の受ける経済的利益を基準に判断した事例

 判例紹介

 賃貸人が賃貸借自体を否定して値上げをしていなかった事情のある建物賃貸借(賃料月額1万5000円)について、賃貸人の得る客観的な経済的利益を立退きの算定基準として500万円の立退料提供によっても解約申入れについて正当事由がないとされた事例 (福岡地裁平成元年6月7日判決、判例タイムズ714号193頁以下)

 (事案)
 本件は、賃貸人Xが賃借人Yに対し、主位的に賃料不払による契約解除を理由とし、予備的には、正当事由として①建物の老朽化(築後約80年経過)と②自己使用の必要性(自宅が手狭で長女・三女がアパート住まい)、③信頼関係の破壊(無断増改築等ほか)、④立退料500万円の提供を主張した。
 iまた、Yらは他に移転することの愛着などを理由に本件建物の必要性を主張して争った事案。
 結果は賃貸人Xの敗訴。

 (判決要旨)
 「本件賃貸借契約の解除の正当事由の有無を判断するに、原告側の事情を衡量すれば、そのままでは明渡しの正当事由があるものとは認められないが、賃借期間が29年に及び建物の老朽化も進んでいること、当初の賃借人は死亡し、被告人らのうち本件建物に現在も居住しているのはY①1人のみであり、適正な補償があれば移転が可能であること、本件建物周辺は土地利用の高度化の進んだ地域であり、本件建物の存在によって地価の高い敷地の有効利用が著しく妨げられていることなどに照らし、原告(賃貸人)が十分な金銭的補償をすれば正当事由があると認めることができる」、  (t)

 「しかしながら、右の立退料の算定に当たっては、従前の賃料は原告が賃貸借自体を否定して値上げをしなかった結果であるから、これを算定の基礎とするのは妥当でなく、正当事由がやや弱い本件にあっては、本件の明渡し(その後の取壊し)によって土地の最有効利用が可能になるので、それによって得られる原告の客観的な経済的利益を主たる算定基準とすべきである」、 (a)

「・・・・・・を参酌すると正当事由を補完するために借家人に分与すべき経済的利益(立退料)は金700万円が相当である判断される」「原告は金500万円を上回る立退料を提供する意思を有しないので、右金額と引換給付判決をなすことはできなず、結局、原告の請求は理由がないことに帰する」。 (i)

 (寸評)
 判決の結論は実務の実状から見ると異なる判決もあり得るので、あまり参考にはならないが、いわゆる立退料の算定基準について賃借人側の受ける経済的利益を基準として判断している点は注目される。 (to)

 判決の考え方には恐らく貸主層から異論が出ると思われるが、有効利用を理由とした明渡しについては、それなりに合理性のある考え方であると思われる。  (1990.10.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2008年10月 3日 (金)

賃料支払を遅滞したとき無催告解除の特約の効力が生じないとされた事例 

 判例紹介

 土地賃貸借契約において、2回以上賃料の支払いを遅滞したときは無催告解除できる旨の特約がある場合に、借地人が賃料の支払いを2回滞納したことを理由とする無催告解除の意思表示が効力を生じないとされた事例 (東京高裁昭和61年9月17日判決、判例時報1210号54頁以下)

 (事案)
 XはYに対し、昭和54年12月1日、土地を、期間30年、賃料1か月25万円、毎年5月、11月各末日6か月分前払、Yが賃料の支払いを2回以上遅滞したときは、Xは、何ら催告をしないで、賃貸借契約を解除することができる(無催告解除の特約)の約定で賃貸した。

 ところが、Yは、Xに対し、次の通り、賃料を支払い、昭和55年9月分以降の賃料は支払っていない。
 (1)、 昭和55年1月
     昭和54年12月分から昭和55年5月分までの賃料
 (2)、 昭和55年9月
     昭和55年6月分、7月分 
 (3)、 その後 
     昭和55年8月分

  そこで、Xは、昭和54年8月、重度障害である労働者を多数雇用して、印刷、製本の受注、加工、販売等の事業を営むことを目的として設立されたYの取締役 に当初から就任していたことを主張した。

 第一審宇都宮地裁は、Xの請求を認め、Yに対し、建物収去と土地明渡の判決を言い渡した。これに対し、Yは右判決を不服として東京高裁に控訴した。

 (判決要旨)
 右の無催告解除の特約は、賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることにかんがみれば、右の2回以上の賃料の不払いを理由として契約を解除する際、催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存在する場合に限り、その効力を肯定すべきものである。

 右のような立場に立って、検討するに、Yの履行遅滞の程度は契約の当初から相当なものであるといわなければならない。しかしながらYが前記の目的を持って設立されたこと、Xが当初からYの取締役であったこと、Yが、助成金の受給資格の申請中、窓口機関から、賃料の前払いは、助成金の先喰いになり、不適当ではないかと指摘を受け、Xにも伝えたことなどを総合すると、本件の場合、催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存在するというには躊躇されるのであって、結局、右解除の意思表示はその効力を生ずるに由ないものといわなければならない。

 (短評)
 本判決は、一審判決を覆した逆転救済判決であり、本件無催告解除の特約自体が無効とされたものでないことに留意すべきである。

 賃貸契約関係において、賃料支払義務は、基本的なものであり、この違反に対しては、裁判所が、当然ながら、厳しい態度を堅持していることを知る必要がある。

(1987.01.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2008年10月 2日 (木)

最高裁は遺産建物の相続開始後の使用を無償の使用貸借契約が成立と判断

 (問) 5年前に同居していた父が亡くなり、末弟の私が家業の酒屋を継いで母を扶養していたが、その母も2年前に亡くなった。2人の兄は家業を継がずに独立し、別に世帯を持っている。遺産分割の話合いのこじれが原因で借地上建物の占有使用は不当利得だから賃料相当額分の利得金の支払請求をしてきたが、この支払請求には納得がいかない。

 (答) 相続人の中の誰かが被相続人の遺産である建物に同居して生活していた場合、相続が開始されても、建物にそのまま居住・使用するのが通常である。

 しかし、遺産分割の話合いがこじれ、建物占有者に対する不平・不満を他の相続人が主張する場合、不法行為又は不当利得を原因として賃料相当額の賠償金又は利得金の支払請求をする例が多い。

 即ち複数の相続人がいる場合、自分の持分に相当する範囲を超えて建物全部を占有・使用していることは、建物を使用していない相続人に損害を与えているので、共有物の賃料相当額の賠償金又は不当利得を支払えという理屈である。

 被相続人の死亡によって、突然それまでの建物使用が不当利得だから利得金を支払え、不法占有だとされては納得がいかないのは当然である。

 相談事例に類似した裁判で最高裁が下した判断は次の通りである。
相続開始から、被相続人の許諾を得て遺産の建物で同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と同居の相続人との間で、相続開始後も、遺産分割により建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認」されるとした。

 その上で「被相続人が死亡したときは、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人らが貸主となり、同居の相続人を借主とする、建物の使用貸借契約関係が存続することになる」(最高裁平成8年12月17日判決)と判示した。

 使用貸借は基本的に無償で目的物を使用させるものである。従って相談者の場合は、判例から無償の使用貸借契約に基づく占有・使用という法律的理由が存在することになる。兄達の利得金請求は理由がないから、当然請求されている利得金を支払う義務はない。


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2008年10月 1日 (水)

借地人の土地に地主が7年間も無料駐車

 荒川区南千住6丁目で昭和45年から11・5坪の借地をしている。氏倉雅子さんは平成12年頃、地主から一時借地内に車を置かせてくれと頼まれて一時使用料として5万円を受け取り承諾した。

 しかし、その後、1年が経過しても地主は車を移動せずに時々使用するのみであった。氏倉さんは車が駐車している所は以前から洗濯物を干していた場所である。地主は、氏倉さんが80近い高齢者であり、すでにご主人を亡くしている事もあって勝手に鉄骨を立てその上に簡単な物干場を作りそこを利用するようにと言ってきた。

 氏倉さんは、最初に5万円を受け取ったため、しばらく我慢をしていたが、坪1086円の地代も払っているのにその上に7年間も無料で駐車を認める訳にはいかないと地主に申し出た。

 地主は、今年9月が更新だからその時は更新料を安くしてあげる等々といって全く話し合いにならなかった。氏倉さんは組合に相談して入会し、車を地主が撤去するまで更新料は支払う意思のないことを申し出る決意である。

東京借地借家人新聞より


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