« 2008年10月 | トップページ | 2008年12月 »

2008年11月

2008年11月27日 (木)

賃料支払を遅滞したとき無催告解除の特約の効力が生じないとされた事例 

 判例紹介

 土地賃貸借契約において、2回以上賃料の支払いを遅滞したときは無催告解除できる旨の特約がある場合に、借地人が賃料の支払いを2回滞納したことを理由とする無催告解除の意思表示が効力を生じないとされた事例 (東京高裁昭和61年9月17日判決、判例時報1210号54頁以下)

 (事案)
 XはYに対し、昭和54年12月1日、土地を、期間30年、賃料1か月25万円、毎年5月、11月各末日6か月分前払、Yが賃料の支払いを2回以上遅滞したときは、Xは、何ら催告をしないで、賃貸借契約を解除することができる(無催告解除の特約)の約定で賃貸した。

 ところが、Yは、Xに対し、次の通り、賃料を支払い、昭和55年9月分以降の賃料は支払っていない。
 (1)、 昭和55年1月
     昭和54年12月分から昭和55年5月分までの賃料
 (2)、 昭和55年9月
     昭和55年6月分、7月分 
 (3)、 その後 
     昭和55年8月分

  そこで、Xは、昭和54年8月、重度障害である労働者を多数雇用して、印刷、製本の受注、加工、販売等の事業を営むことを目的として設立されたYの取締役 に当初から就任していたことを主張した。

 第一審宇都宮地裁は、Xの請求を認め、Yに対し、建物収去と土地明渡の判決を言い渡した。これに対し、Yは右判決を不服として東京高裁に控訴した。

 (判決要旨)
 右の無催告解除の特約は、賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることにかんがみれば、右の2回以上の賃料の不払いを理由として契約を解除する際、催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存在する場合に限り、その効力を肯定すべきものである。

 右のような立場に立って、検討するに、Yの履行遅滞の程度は契約の当初から相当なものであるといわなければならない。しかしながらYが前記の目的を持って設立されたこと、Xが当初からYの取締役であったこと、Yが、助成金の受給資格の申請中、窓口機関から、賃料の前払いは、助成金の先喰いになり、不適当ではないかと指摘を受け、Xにも伝えたことなどを総合すると、本件の場合、催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存在するというには躊躇されるのであって、結局、右解除の意思表示はその効力を生ずるに由ないものといわなければならない。

 (短評)
 本判決は、一審判決を覆した逆転救済判決であり、本件無催告解除の特約自体が無効とされたものでないことに留意すべきである。

 賃貸契約関係において、賃料支払義務は、基本的なものであり、この違反に対しては、裁判所が、当然ながら、厳しい態度を堅持していることを知る必要がある。

(1987.01.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


東京・台東借地借家人組合
 
無料電話相談は
050-3012-8687(IP固定電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。

|

2008年11月26日 (水)

礼金返還請求控訴事件 京都地方裁判所(平成20年9月30日判決)

 判例紹介

事件番号      :平成20年(レ)第4号

事件名        :礼金返還請求控訴事件

裁判年月日     :平成20年9月30日

裁判所名      :京都地方裁判所

部           :第2民事部

結果         :控訴棄却

判示事項の要旨 控訴人は,被控訴人との間で締結した賃貸借契約に基づいて,被控訴人に礼金18万円を交付したが,同賃貸借契約には,賃貸借契約終了時に礼金を返還しない旨の約定が付されており,被控訴人から礼金18万円が返還されなかったことから,この礼金を返還しない旨の約定が消費者契約法10条により全部無効であるとして,被控訴人に対し,不当利得に基づき,礼金18万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた(1審では請求棄却。 )。これに対し,礼金約定が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるような事情は認められないから,礼金約定が消費者契約法10条に反し無効であるということはできないとした事例

                   主       文

1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

                   事 実 及 び 理 由

第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,18万円及びこれに対する平成16年11月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要
 1 事案の要旨
 本件は,控訴人が,被控訴人との間で締結した賃貸借契約に基づいて,被控訴人に礼金18万円を交付したが,同賃貸借契約には,賃貸借契約終了時に礼金を返還しない旨の約定が付されており,被控訴人から礼金18万円が返還されなかったことから,この礼金を返還しない旨の約定が消費者契約法10条により全部無効であるとして,被控訴人に対し,不当利得に基づき,礼金18万円及びこれに対する約定の礼金返還期日の翌日である平成16年11年3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

 原審は,礼金を返還しない旨の約定は有効であるなどとして,控訴人の請求を棄却したことから,控訴人がこれを不服として,控訴した。

2 争いのない事実等(認定に供した証拠は末尾に掲記 以下,特に断らない限り,月日は平成16年のものである )。

(1) 控訴人は,3月17日,被控訴人との間で,次の約定で賃貸借契約を締結した(甲4,乙1) (以下「本件賃貸借契約」といい,本件賃貸借契約の対象物件を以下「本件賃貸物件」という 。)。

ア 対象物件     X704号室
イ 所 在 地     京都市a区b町c番d
ウ 賃 料       月額6万1000円
エ 賃貸期間     3月20日から平成17年3月19日まで
オ 礼 金       礼金は18万円とし,本件賃貸借契約締結後は,賃借人は,賃貸人に対し,礼金の返還を求
           めることはできない (契約書7条1項 以下 「本件礼金約定」 という。)。
カ          更 新 料 1年ごとに賃料の2か月分

(2) 控訴人は,本件賃貸借契約締結の際,本件賃貸借契約を仲介した株式会社長栄ホーム(以下「長栄ホーム」という )に対し,礼金18万円を交付した(甲3) (以下「本件礼金」という 。)。

(3) 長栄ホームの宅地建物取引主任者であったAは,3月20日,控訴人に対し,本件賃貸借契約について,重要事項の説明を行い,その際,本件 賃貸借契約終了時に礼金が返還されないことを説明した(甲2, 9, 乙5,7) 。

(4) 控訴人からの解約通知により,本件賃貸借契約は10月13日に終了し,控訴人は,同日,被控訴人に対し,本件賃貸物件を明け渡した。

争点とこれに関する当事者の主張
 (1) 本件礼金約定と消費者契約法10条前段

(控訴人の主張)
 本件礼金約定は,消費者契約法10条所定の民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものに該当する。

ア 礼金は,何らの根拠もなく,何の対価でもなく,賃借人が一方的に支払を強要されている金員であるとみるほかないが,仮に,礼金を賃借権設定の対価や謝礼であると考えたとしても,賃貸人の義務である目的物を引き渡して,これを使用収益させることの対価として,賃借人に賃料以外の金員の支払を強要することになるから,本件礼金約定は,民法601条,606条,616条,598条に比して,賃借人の義務を加重するものといえる。

イ 礼金は,何らの根拠もなく,何の対価でもなく,賃借人が一方的に支払を強要されている金員であるとみるほかないが,仮に,礼金を賃借権確保の対価と考えたとしても,賃貸人は礼金を返還することなく,賃貸借契約の義務を履行するまでに,賃貸借契約を解約することができるが,その反面,賃借人は手付け倍返しを請求できずに賃貸借契約の解約を甘受しなければならない点で,民法559条,557条に比して,賃借人の権利を制限するものといえる。

ウ 礼金を,仮に,賃料の前払と考えたとしても,賃借人が賃貸物件を社会通念上通常の使用方法により使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗については,賃料支払によって,これを回収するのが通常であって,賃貸借契約の本質に合致するものであるから,礼金という方法により,通常損耗による減価の回収をすることは,社会通念や賃貸借契約の本質に反し,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになる。

 また,賃借人に特別の負担を定めた特約が有効であるといえるには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要であるのに,礼金と形を変えれば,容易に上記特約の有効性が肯定され,予期しない特別の負担を課されることになる。

エ 本件礼金約定によれば,本件賃貸借契約が1年の契約期間の途中で解約された場合であっても,礼金は全額返還されないこととなるが,礼金が賃料の一部前払であるとすれば,使用収益していない期間の割合に応じて返還されなければならないはずであるから,それが返還されないとする本件礼金約定は,民法601条に定める賃料支払義務を加重し,又は建物賃貸借において賃料の支払を月払とした同法614条に比して,多額の賃料支払を加重する条項である。

(被控訴人の主張)
 本件礼金は,①賃借権設定の対価②賃料の前払という複合的な性質を有するものであり,賃料の支払義務は民法に定められているから,本件礼金約定は,消費者契約法10条所定の民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものに該当しない。

ア 単に名目が「賃料」か否かという形式的な解釈をすれば, 「賃料」 (民法 601条)という名目以外の金員の支払を内容とする契約条項は,すべて消費者契約法10条前段の要件に該当することとなり,そうなれば,これまで礼金や更新料などが社会的に広く利用されてきたという実態に合致しないし,また,賃料以外の名目による金員の徴求は使用収益と対価性がないという発想そのものが契約当事者の合理的意思とかい離している。

イ 礼金が賃料の前払という性質を有するということは,月々の支払か,前払一括かという支払方法に相違があるものの,名目上の「賃料」と同じ賃貸目的物の使用収益の対価としての性質を有するということである。

 また,本件賃貸借契約締結時において,控訴人は,礼金が返還されないこと,すなわち,自らの本件賃貸物件使用の対価として,賃貸借契約締結時に一定額の経済的負担を伴うことについて,十分説明を受け,それを理解しているから,賃借人に予期しない特別な負担は存在しない。

ウ 賃借人が契約期間内に中途解約をするなどによって,賃貸借契約が終了した場合に,実際の賃貸期間に応じて礼金が精算されない点については,賃借人が礼金の支払により受けるべき利益を自ら放棄したものと評価できる。

(2) 本件礼金約定と消費者契約法10条後段

(控訴人の主張)
 本件礼金約定は,消費者契約法10条所定の民法1条2項に規定する基本原理である信義則(以下「信義則」という。 )に反して消費者の利益を一方的に害するものである。

ア 礼金は,何らの根拠もなく,何の対価でもなく,賃借人が一方的に支払を強要されている金員であるとみるほかない。礼金を返還しない旨の約定は,このように不合理なものであるとともに,また,その趣旨も不明確である。なお,礼金を返還しない旨の約定が明確であるためには,少なくとも, 記載及び説明の明確性が求められるのであって, 単に, 礼金の金額や,礼金が返還されないことを記載しているだけでは足りない。特に,本件においては,Aは,本件賃貸借契約が締結された3月17日よりも後である同月20日になって初めて,重要事項説明書を控訴人に交付している。これは,宅地建物取引業法35条1項,6項にも違反する上に,控訴人が礼金の法的性質や趣旨について,全く説明を受けていなかったことを裏付ける。

イ 情報力・交渉力の点において圧倒的優位な立場にある賃貸人は,自ら又は専門業者に委託して,定型的な契約書をあらかじめ作成しておき,その中に,賃借人の利益を一方的に害して自らの利益を図る礼金のような不当条項を組み込ませておくことで,不当に利益を得ることができる。他方,賃借人は,そのような条項も含めて契約全体を承諾して締結するか,これを拒否するかの自由しか有しておらず,交渉によって不当条項を変更させる余地はおよそ存在しない。

ウ 平成5年1月29日当時の建設省は 「内容が明確,十分かつ合理的な賃貸借契約書の雛形(モデル として, 「賃貸住宅標準契約書 」(甲14の2・3) を作成した。 同賃貸住宅標準契約書 (甲14の3) には,「( 3)賃料等」という項目において, 「その他一時金」という記入欄があるが,建設委員会議録(甲15)によれば,この記入欄は,賃貸借契約時に賃借人から交付される一時金の徴求を全面的に容認したものでなく,むしろ,賃貸住宅標準契約書の作成に関与した政府委員としては,できるだけ一時金の徴求を排除する方向付けを探ろうとしていたのであり,そのため,賃貸住宅標準契約書には「礼金」などの項目が設けられなかった。

エ 礼金は,公営住宅法20条,旧住宅金融公庫法(以下, 「旧公庫法」という。 )35条1項,同法施行規則10条1項,特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律3条6号,同法施行規則13条等において禁止されており,特に,旧公庫法においては,違反した賃貸経営者には罰則が定められている(同法46条1項1号 。)

オ 本件礼金は18万円であり,これは賃料の約2.95か月分に当たるところ,本件賃貸借契約においては,1年ごとに更新料として賃料の2か月分に相当する金員の支払が必要とされている。そうすると,賃借人は,1年目については14.95か月分の賃料に相当する金員を,2年目以降については14か月分の賃料に相当する金員を,1年間に支払わなければならないこととなるから,賃料2.95か月分の礼金というのは明らかに過大である。しかも,控訴人は,わずか7か月あまりで退居したから,9.95か月分(約1.42倍)の家賃を支払わされたこととなり,この観点からも,著しく過大な負担というべきである。

カ 平成17年3月ころの首都圏,愛知,京阪神の3大都市圏における礼金等の額を調査した結果(甲18)によれば,京滋地域の礼金の平均額は賃料の2.7か月分(敷金のない物件に限れば3.3か月分になる )であり,首都圏(1.5か月)や愛知(1.1か月)の平均に比して,突出して高率である。しかも,本件では,京滋地域における礼金の平均額を上回る賃料2.95か月分の礼金が徴求されている。

キ 礼金は,本来毎月の賃料に含まれているべき自然損耗の修繕費用を二重取りするものにほかならない。

(被控訴人の主張)
信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものといえるためには,消費者保護だけでなく,契約者の選択の責任,取引の安全,私的自治などの見地から,当該条項を有効とすることによって消費者が受ける不利益と,その条項を無効とすることによって事業者が受ける不利益とを総合的に衡量した上で,消費者の受ける不利益が均衡を著しく失するほどに一方的に大きいといえることが必要であるところ,本件礼金約定により,控訴人の受ける不利益が均衡を著しく失するといえるほどに一方的に大きいということはできないから,本件礼金約定は,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものといえない。

ア 本件礼金約定は,1賃借権設定の対価2賃料の前払という性格を有するものであり,十分な合理性を有している。そして,控訴人は,礼金の支払により,本件賃貸物件における賃借権設定という利益を得ているほか,賃貸物件の使用収益,契約期間の保護という利益を享受している。

イ 礼金の設定は,地域による差異こそあれ,長きにわたり,慣行として社会的に承認されてきたこと,借地借家に関する法改正においても,礼金等の規制について,議論の対象になっていたのに,現行の借地借家法では,礼金等に対する規制がなされていないことからすれば,立法者の意思として,礼金の合意そのものが不合理なものとして法的規制を及ぼすのではなく,その内容が民法90条に違反するような場合を除き,私的自治に委ねるべきとの判断が示されていると考えるべきである。

ウ 礼金の法的性質などについて,控訴人に対し,事前に専門的な説明がなくても,被控訴人は,契約書の記載や重要事項説明により,礼金の支払が契約時に必要となることのほか,礼金の額や,礼金は賃貸借契約終了後も還付されないことなど, 賃借人の経済的負担について明確にしているから,控訴人が本件賃貸借契約を締結するか否かの判断を可能にするのに必要十分な情報を提供している。

エ 建物賃貸借契約は一般に広く行われる契約であり,賃貸物件の広告などにおいて 「賃料」, 「敷金」(保証金), 「礼金 」,「更新料」という用語は広く用いられており,しかも,礼金は,その法的性質は別論として,敷金とは異なり,後に返還されないことは一般に広く理解されている。

 そして,今日,賃貸物件の情報はインタ-ネットや情報雑誌等により巷に溢れており,消費者は,瞬時にかつ容易に比較対照できる情報を入手することができ,その上で,賃貸物件の選択に当たり,賃料や更新料,礼金といった負担を賃貸物件の使用収益の対価として認識し,どの賃貸物件を選択するのが経済的合理性を有するか判断して,契約の申込みを行っているのであるから,賃貸人と賃借人との間に,法が介入すべき情報の格差は存在しない。

オ 京都市内においては,賃貸物件の約20%に空室があり,場所によっては30%の空室がある賃貸物件も存在する。このように,賃貸物件の市場はいわば借り手市場であり,賃借人は,空室に苦しむ賃貸人よりも,むしろ賃貸物件の選択において有利な立場にある。また,礼金が設定されていない賃貸物件(公団・市営住宅・住宅金融公庫等の融資物件)も多数あるから,賃借人は,礼金のない物件を選ぶことも可能である。

カ 被控訴人は,本件賃貸借契約において,礼金や更新料などを含めて全体の収支を計算し,その上で月額賃料額を設定している。

キ 本件礼金は,被控訴人の収入となり,税務申告をして税金を支払った上で,賃貸経営の諸経費,生活費などに既に使用されている。仮に,本件礼金約定が無効となれば,他の賃貸物件の賃貸借関係にもその影響が波及することになるが,そうなれば,被控訴人は,賃貸物件の経営において種々のリスクを負っているのに,消費者契約法が施行された平成13年4月1日以降に締結したすべての賃貸借契約について,受け取った礼金を返還しなければならなくなるという不測の損害を被ることになる。

第3 争点に対する判断
争点(1 )(本件礼金約定と消費者契約法10条前段)について

 被控訴人は,本件礼金は,1賃借権設定の対価2賃料の前払という複合的な性質を有するものであり,賃料の支払義務は民法に定められているから,本件礼金約定は,消費者契約法10条所定の民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものに該当しないと主張する。

 しかし,本件礼金は,少なくとも賃料の前払としての性質を有するものというべきであるところ,このことは,建物賃貸借において,毎月末を賃料の支払時期と定めている民法614条本文と比べ,賃借人の義務を加重していると考えられるから,本件礼金約定は,民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する約定であるというのが相当である。

 したがって,争点(1)に関する控訴人の主張は理由がある。

争点(2) (本件礼金約定と消費者契約法10条後段)について
(1) 控訴人は,本件礼金約定が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであると主張するので,以下,検討を加える。

(2) 控訴人は,礼金は,何らの根拠もなく,何の対価でもなく,賃借人が,一方的に支払を強要されている金員であるから ,本件礼金約定は, 不合理でその趣旨も不明確なものであると主張する。

 しかし,賃料とは,賃貸人が,賃貸物件を賃借人に使用収益させる対価として,賃借人から受領する金員であるところ,民法614条は,建物賃貸借において ,毎月末を賃料の支払時期と定めているが, これは任意規定であり,賃貸借契約成立時に賃料の一部を前払させることも可能であり,また,上記のような賃料の性質からすれば,賃料という名目で受領したか否かにかかわらず,賃貸人が賃貸物件を使用収益させる対価として受領した金員が賃料に該当する。

 そして,本件賃貸借契約のように,一般消費者に居住の場を提供することを目的とする建物賃貸業においては,賃貸物件が物理的,機能的及び経済的に消滅するまでの期間のうちの一部の期間について,賃貸物件を使用収益することを基礎として生ずる経済価値に,賃貸物件の使用収益に際して通常必要となる必要諸経費等を加算したものを賃料として回収することにより,業務が営まれるが,賃貸人は,月々に賃料という名目で受領する金員だけでなく,契約締結時に礼金や権利金等を設定する場合には,これらの金員についても賃貸物件を使用収益させることによる対価として,建物賃貸業を営むのが通常である。

 他方,建物を賃借しようとする者は,立地,間取り,設備,築年数などの賃貸物件の属性や,当該賃貸物件を一定期間使用収益するに当たり必要となる経済的負担などを比較考慮して,複数の賃貸物件の中から,自己の要望に合致する(又は要望に近い)賃貸物件を選択するのであるが,その際,礼金や権利金,更新料が設定されている物件の場合には,月々に賃料という名目で受領する金員だけでなく,礼金などの一時金も含めた総額をもって,当該賃貸物件を一定期間使用収益するに当たり必要となる経済的負担を算定するのが通常である。

 このように,礼金は,賃貸人にとっては,賃貸物件を使用収益させることによる対価として,賃借人にとっては,賃貸物件を使用収益するに当たり必要となる経済的負担として,それぞれ把握されている金員であるから,このような当事者の意思を合理的に解釈すると,礼金は,賃貸人が賃貸物件を賃借人に使用収益させる対価として,賃貸借契約締結時に賃借人から受領する金員,すなわち,賃料の一部前払としての性質を有するというべきであり,一件記録を検討しても,この判断を妨げるに足りる証拠はない。

 なお,被控訴人は,本件礼金が賃借権設定の対価であるとも主張しているが,礼金が賃借権設定の対価であるということは,借地借家法による賃借権の保護・強化や賃貸目的物の需要供給関係に基づいて,賃料に加算されるプレミアムにほかならないから,結局のところ,賃料の前払としての性質に包含されるというべきである。

 控訴人は, 本件礼金約定は, 記載及び説明の明確性に欠けると主張するが,争いのない事実等によれば,本件賃貸借契約の契約書には,礼金の額が18万円であること,賃貸借契約締結後は,礼金が返還されないことが明記されており,控訴人は自己の負担すべき金額を容易に認識し得るから,本件礼金約定を無効とすべき理由はない。

 また,控訴人は,Aは,本件賃貸借契約締結後である3月20日になって初めて,重要事項説明書を控訴人に交付していることからわかるとおり,礼金の法的性質や趣旨について,全く説明を受けていなかったと主張する。

 しかし,敷金と異なり,礼金が賃貸借契約終了時に返還されない性質の金員であることは一般的に周知されている事柄である。

 さらに,争いのない事実等によれば,本件賃貸借契約の契約書には,賃貸借契約締結後は賃借人に礼金が返還されないことが明記されており,また,3月20日の重要事項説明の際,Aは,控訴人に対し,賃貸借契約終了時に礼金が返還されないことを説明しているところ ,仮に, 控訴人の主張どおり,控訴人が礼金が返還されないことを知らずに本件賃貸借契約を締結したのであれば,控訴人は,Aないし被控訴人に対し,何らかの抗議をするのが通常であるが,一件証拠を検討しても,控訴人がこのような抗議をしたという事情は認められない。

 そうすると,本件賃貸借契約締結に当たって,控訴人に対し,本件礼金条項について説明があったというべきである。

 したがって,礼金は,何らの根拠もなく,何の対価でもなく,賃借人が一方的に支払を強要されている金員であるという控訴人の主張は理由がない。

(3) 控訴人は,情報力・交渉力の点において圧倒的優位な立場にある賃貸人は,あらかじめ契約書に礼金条項を組み込ませておくことで,不当に利益を得ることができる一方で,賃借人は,礼金条項も含めて契約全体を承諾して締結するか,これを拒否するかの自由しか有していなかったと主張する。

 しかし,本件礼金は賃料の前払としての性質を有するものであるから,これをあらかじめ契約書に明記して,本件賃貸借契約締結時に徴求したとしても,被控訴人は不当な利益を得ることにはならない。

 また,建物を賃借しようとする者は,立地,間取り,設備,築年数などの賃貸物件の属性や,当該物件を一定期間賃借するに当たり必要となる経済的負担などを比較考慮して,複数の賃貸物件の中から,自己の要望に合致する(又は要望に近い)物件を選択するのであるが,その際,礼金や権利金,更新料が設定されている物件の場合には,月々に賃料という名目で受領する金員だけでなく,礼金などの一時金も含めた上で,経済的負担を算定するのが通常である。賃借人は,礼金などの一時金も含めた上で算定された経済的負担を負うとしても,当該賃貸物件が,複数の賃貸物件候補の中で,自己の要望に最も合致すると考え,賃貸借契約を締結するのであり,そして,控訴人にしても ,これと異なる意思を有していたことを認めるに足りる証拠はない。

 したがって,控訴人は,自由な意思に基づいて,本件礼金約定が付された本件賃貸物件を選択したというべきであり,本件礼金約定を含む本件賃貸借契約の契約内容について控訴人に交渉の余地がなかったことは特段問題とするに足りない。

(4) 控訴人は, 「賃貸住宅標準契約書 (甲14の2・3)の体裁や, 「賃貸住宅標準契約書」の作成に関与した政府委員の答弁から,本件礼金約定が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであると主張する。

 確かに,証拠(甲15)によれば 「賃貸住宅標準契約書」 (甲14の2・3)の作成に関与した政府委員は,礼金の慣行のない地域にまで礼金を広げることは好ましくないと答弁しているが,その一方で,既に礼金等の一時金を徴求する慣行のある地域においては,その地域の実情を受けて,礼金等の額を記入する欄として 「その他一時金」という記入欄を設けた旨の答弁をするなど,現行の礼金制度を容認するような答弁をしている。そうすると,「賃貸住宅標準契約書」の体裁や,政府委員の答弁から,被控訴人が本件礼金約定を設けて,礼金を徴求することが特段の非難に値するということはできない。

(5) 控訴人は,公営住宅法や旧公庫法などにより,礼金が禁止されていることをもって,本件礼金約定が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであると主張する。

 しかし,借地借家法を制定するに当たって,礼金の徴求を禁止する旨の規定が設けられなかったことは明らかであるし,また,上記のとおり, 「賃貸住宅標準契約書 」(甲14の2・3)の作成に関与した政府委員も,現行の礼金制度を容認するような答弁をしていることに鑑みれば,公営住宅法や旧公庫法などが礼金を禁止していることをもって,本件礼金約定が非難に値するとまでいうことはできない。

(6) 控訴人は,本件礼金が賃料の2.95か月分であること,控訴人は,わずか7か月あまりで退居したため,結局,7か月間で9.95か月分(約1.42倍)の家賃を支払わされたこととなることから,本件礼金が著しく過大な負担であると主張する。

 しかし,本件礼金は,賃料の前払としての性質を有するところ,控訴人が礼金として前払をしなければならない賃料の額は,18万円(賃料の2.95か月分)であり,これは,証拠(甲18)により認められる京滋地域の礼金の平均額(賃料の2.7か月分)からしても,高額ではない。

 そして,本件賃貸借契約は,期間が満了する前に解約されているが,前判示のとおり,控訴人は,敷金と異なり,礼金が賃貸借契約終了時に返還されない性質の金員であることを認識していたというべきであるから,中途解約の場合であっても, 礼金の返還を求めることができないことを承知しながら,自ら,本件賃貸借契約を中途解約したといえる。

 他方,被控訴人は,中途解約の場合であっても礼金を返還しないことを前提に月々の賃料を設定しており,このような被控訴人の期待は尊重されるべきである。

 これらの点からすると,本件礼金の額や,賃借人からの中途解約の場合であっても礼金が返還されないことをもって,本件礼金約定が非難に値するということはできない。

(7) 控訴人は,本件礼金の額(18万円,賃料の2.95か月分)は,首都圏 (賃料の1. 5か月分) や愛知 (賃料の1.1か月分) の平均に比して突出して高率であり,しかも,京滋地域における礼金の平均額(賃料の2.7か月分)を上回っていると主張する。

 しかし,礼金を少額に抑えて,その分,賃料を高額に設定することが可能であるから,首都圏や愛知においては,一般的に礼金を少額に抑えて,その分賃料が高額に設定されている可能性があるため,一概に本件礼金が他の地域と比較して,不当に高額に設定されているということはできない。また,本件礼金が,京滋地域における礼金の平均額(賃料の2.7か月分)を上回っているとしても,その程度は非常に軽微である。

 したがって,他の地域における平均礼金額との比較や,同じ京滋地域における平均礼金額との比較からしても,本件礼金が不当に高額に設定されているということはできない。

(8) 控訴人は,礼金は,本来毎月の賃料に含まれているべき自然損耗の修繕費用を二重取りするものにほかならないと主張する。

 賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の性質上当然に予定されているから,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生じる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する自然損耗に係る投下資本の回収は,通常,修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そして,自然損耗についての修繕費用を月々の賃料という名目だけで回収するか,月々の賃料という名目だけではなく,礼金という名目によっても回収するかは,地域の慣習などを踏まえて, 賃貸人の自由に委ねられている事柄である。 そして,前判示のとおり,本件礼金は,賃料の一部前払としての性質を有するというべきであるから,被控訴人は,自然損耗についての必要経費を,月々の賃料という名目で受領する金員だけではなく,賃料の前払である礼金によっても回収しているものである。

 したがって,被控訴人は,本件礼金により,本来毎月の賃料に含まれているべき自然損耗の修繕費用を二重取りしているといえないから,控訴人の上記主張は理由がない。

(9) 以上のとおり,本件礼金約定が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるような事情は認められないから,本件礼金約定が消費者契約法10条に反し無効であるとの控訴人の主張は理由がない。

結論
よって,控訴人の本件請求は理由がないから,これを棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がない。そこで,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

           京都地方裁判所第2民事部

                   裁判長裁判官    吉 川  愼 一

                     裁判官     上 田   卓 哉

                     裁判官    森 里   紀 之


東京・台東借地借家人組合
 
無料電話相談は
050-3012-8687(IP固定電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。

|

2008年11月25日 (火)

賃料不払を理由にした契約解除を背信行為と認めるにるに足りない特段の事情あるとして解除を無効とした事例

 判例紹介

 約17か月分の賃料不払を理由とする借地契約の催告解除につき、背信行為と認めるに足りない特段の事情があったとして、右解除を無効とした事例 東京地裁平成元年12月27日判決、判例時報1359号78頁)

 (事案)
 借地人Yは地主Xの先代と昭和8年頃より借地関係を継続し、本件まで地代の遅滞等の紛争を起さなかった。地代は事実上年払が多く、Xが便宜取立てに赴く慣行もあった。

 Yは昭和61年12月28日、60年分の地代不足分約13万円と61年年分約170万円の支払を62年1月半ばまでの猶予を申出てXの了承を得た。しかしYはそれまでに支払わなかった。この間Yの次男が重病になった。

 Xは62年6月16日、同年5月分までの滞納地代総額約255万円を3日以内に支払うよう催告の上借地契約を解除した。Yは解除の前後を通じ誠意ある対応を採ったが、XはYに会うことを避けた。

 (判決要旨)
 遅延期間は支払猶予の時点から計算すれば5か月程度に過ぎない。この間に支払わなかったYは強く非難されるべきであるが、次男の病状のことや、事実上は原告が取立てに赴いたり、年末まで猶予したりする長年の慣行に照らすならば、この一時をもって数10年も続いている本件契約の解除を直ちに相当ならしめるほど高度の背信性があるとは言えない。しかも、Xの催告に対してYは催告期間内及び期間後直ちにX宅や事務所を訪ね真摯な対応をしており、催告期間内②弁済の事実が認められない点も催告金額と期間(3日間)及びそのための対応を考えると、やはり背信性が極めて高いとはいえない。

 以上のとおり、Yの背信性はさほど強いものではなく、加えてまた、XY間の賃貸借関係が長期に及んでおり、しかもその間正常な関係が保たれてきたこと、Yはその不注意を法律の無知から紛争を引き起こしたものの、その後供託もし経済的に問題もなく信頼関係の復旧に努めていることに照らせば、催告期間中ないしその直後にXがYに対し地代支払についてしかるべき協議に応じてやっておれば、正常な賃貸借関係の継続が十分可能であったと考えられる。そうすると、結局本件の解除についてはXY間の信頼関係を破壊しない特段の事情があるということができる。

 (寸評)
 判決はもとより正当である。こういう判例があるからといって賃料の支払がルーズであっていいわけでは決してない。5か月分の滞納で解除を認めなかった例もあれば、4か月分の滞納で解除を認めた例もある。いうまでもなく賃料債務は賃借人の最も重要な債務であり、Yの不払は重要な義務違反である。だから賃貸人側も契約解除し易い。

 当事者間の信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があれば解除は認められないのが通説・判例だが、それはあくまで最後の砦だ。

(1990.12.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


東京・台東借地借家人組合
 
無料電話相談は
050-3012-8687(IP固定電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。

|

2008年11月21日 (金)

借家立退料の算定基準を貸主の受ける経済的利益を基準に判断した事例

 判例紹介

 賃貸人が賃貸借自体を否定して値上げをしていなかった事情のある建物賃貸借(賃料月額1万5000円)について、賃貸人の得る客観的な経済的利益を立退きの算定基準として500万円の立退料提供によっても解約申入れについて正当事由がないとされた事例 (福岡地裁平成元年6月7日判決、判例タイムズ714号193頁以下)

 (事案)
 本件は、賃貸人Xが賃借人Yに対し、主位的に賃料不払による契約解除を理由とし、予備的には、正当事由として①建物の老朽化(築後約80年経過)と②自己使用の必要性(自宅が手狭で長女・三女がアパート住まい)、③信頼関係の破壊(無断増改築等ほか)、④立退料500万円の提供を主張した。
 iまた、Yらは他に移転することの愛着などを理由に本件建物の必要性を主張して争った事案。
 結果は賃貸人Xの敗訴。

 (判決要旨)
 「本件賃貸借契約の解除の正当事由の有無を判断するに、原告側の事情を衡量すれば、そのままでは明渡しの正当事由があるものとは認められないが、賃借期間が29年に及び建物の老朽化も進んでいること、当初の賃借人は死亡し、被告人らのうち本件建物に現在も居住しているのはY①1人のみであり、適正な補償があれば移転が可能であること、本件建物周辺は土地利用の高度化の進んだ地域であり、本件建物の存在によって地価の高い敷地の有効利用が著しく妨げられていることなどに照らし、原告(賃貸人)が十分な金銭的補償をすれば正当事由があると認めることができる」、  (t)

 「しかしながら、右の立退料の算定に当たっては、従前の賃料は原告が賃貸借自体を否定して値上げをしなかった結果であるから、これを算定の基礎とするのは妥当でなく、正当事由がやや弱い本件にあっては、本件の明渡し(その後の取壊し)によって土地の最有効利用が可能になるので、それによって得られる原告の客観的な経済的利益を主たる算定基準とすべきである」、 (a)

「・・・・・・を参酌すると正当事由を補完するために借家人に分与すべき経済的利益(立退料)は金700万円が相当である判断される」「原告は金500万円を上回る立退料を提供する意思を有しないので、右金額と引換給付判決をなすことはできなず、結局、原告の請求は理由がないことに帰する」。 (i)

 (寸評)
 判決の結論は実務の実状から見ると異なる判決もあり得るので、あまり参考にはならないが、いわゆる立退料の算定基準について賃借人側の受ける経済的利益を基準として判断している点は注目される。 (to)

 判決の考え方には恐らく貸主層から異論が出ると思われるが、有効利用を理由とした明渡しについては、それなりに合理性のある考え方であると思われる。  (1990.10.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


東京・台東借地借家人組合
 
無料電話相談は
050-3012-8687(IP固定電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。

|

2008年11月20日 (木)

給排気設備の機能障害を考慮して適正家賃が2%減額された事例 

 判例紹介

 給排気設備の機能障害を考慮して適正家賃が2%減額された事例 (東京地裁平成元年8月31日判決、判例時報1346号)

 (事案)
 地下3階地上10階建のビルの地下1階にある約90軒の店舗の1つ。借家人は昭和49年10月から賃借し衣料販売を経営してきた。家主は、それまで月26万円だった家賃を昭和61年1月分から28万6000円、平成元年7月分から29万5000円に、それぞれ増額してきた。

 借家人(原告)は、本件店舗の給排気設備が使用不能の状態にあることなどを理由として、賃料増額は認められないと争った。

 (判決)
 給排気設備が使用不能の状態にあるのは集中構造配管の全般的な老朽化に伴うものであること、その修繕は商店街全体に関わるものであって、高額の費用がかかり、その工事自体も容易ではないこと、従って、本件店舗だけを所有しているだけに過ぎない原告(借家人)には現状では修繕は事実上ほとんど不可能であり、機能障害は一時的なものと認められる。

 そして、本件店舗は通路側の間口も全部開け放して営業する構造になっているが、それでも、給排気設備が使えないため、特に夏場の冷房時には不快感を感ずる程度には影響があることを認めることができる。

 ところで、借家法7条の賃料増減請求権は、固定資産税などの公租公課の負担の増減、敷地・建物の価格の昂低、比隣の建物の賃料と比較して不相当な額になったこと、これらの事由がある場合にそれに応じた客観的に相当な賃料額を形成できるようにする制度である。

 このような趣旨目的からすると、本件店舗の給排気設備に右のように機能障害がありその修繕ができない事情があるとしても、それだけでは賃料増額請求権の行使自体を許さないということはできない。

 しかし、右の機能障害は本件店舗の快適な使用に悪い影響を与えていないわけではなく、ひいては本件店舗の価値自体に消極的な影響を与えていないではないということができるから、この事実は、相当賃料額の認定に際して、幾分斟酌されるべき事情であるということができる。被告(家主)の主張はこの限りで理由がある。

 斟酌の程度は、本件店舗賃貸借の目的、経過、右機能障害の内容及び程度並びに右障害の無い場合の当面の相当賃料の金額自体に鑑みると、機能障害がない場合に比較して、2%減額するのが相当である。

 (短評)
 家賃は、その建物に家主がどういう設備を施しているかに当然影響される。従って、その設備が悪くなれば、それが家賃の減額に反映されるのは理の当然である。なにも「使用に悪い影響を与えていないわけではなく」とか、「消極的な影響を与えていないではない」などともってまわった言い方をする必要はない。

 本件は修繕不能の場合だが、可能の場合でも修繕するまでは同じ理屈が当て嵌まる。

  

(1990.08.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


東京・台東借地借家人組合
 
無料電話相談は
050-3012-8687(IP固定電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。

|

2008年11月19日 (水)

管理委託会社に支払っていた賃料を賃貸人に直接請求され、債権者不確知を理由とした供託の効力

 判例紹介

 
 賃貸用建物の管理委託会社に賃料を支払っていた賃借人が賃貸人から直接賃料の支払いを求められた場合に債権者不確知を理由として行った弁済供託の効力 (東京地裁平成15年2月19日判決、判例タイムズ1136号)

 (事案の概要)
 ①Xは平成10年2月、本件建物(賃貸用)を競売により取得し、従前からの賃借人Yに対する賃貸人の地位を継承した。

 ②同時にXはZに対し全面的に本件建物の管理を委託した。ZはYとの間で賃料を月額21万円に増額する旨合意した。

 ③XとZは管理をめぐって争いになり、Yは平成14年1月Zから、XがZを差し置いて賃料を請求してもXには支払わないでもらいたい旨要請され、他方、Xから直接Xに支払うよう要請されたため、債権者を確知できないとしてXZ両者を被供託者として同年2月3月分を供託した。

 ④これに対しXは、右は債権者を確知し得ない場合に当たらないから供託は無効であるとして、Yに対し右2か月分の賃料は無効であるとして、Yに対し右2か月分の賃料の支払いを求めた。

 (判決要旨)
 ①Zは本件建物の管理を全面的に委託され、その管理権限に基づいてYに明渡を求める調停を申立てたことがあること。

 ②調停を申立てる権限があることについてはXも了解済みであったと窺われること。

 ③Yが前賃貸人と取交わしていた賃貸借契約がXを賃貸人、Yを賃借人とする契約書に差し替えられていること。

 ④ZはYとの間賃料改定を行っている等をあわせ考えると、Yにおいて、Zを本件建物の賃貸人であるか、賃貸人でないとしても、自ら固有の権限で、訴訟上でも、その取り立てが可能な権限を有する立場にあると判断してしまうことは無理からないところというべきである。

 Zの立場が現に賃料の固有の取立権者であったとすれば、債権者不確知を理由とする弁済供託にいう「債権者」と同視して差支えなく、実際に固有の取立権限がなかったとしても、YがZを取立権者であると判断したことに過失はないといわなければならないから、本件供託は、少なくとも債権者であるYにおいて過失なく債権者である本件建物賃料の賃貸人ないしその取立権者を確知することができない場合であったとして、有効なものであったと認めるのが相当である。本訴請求は理由がない。

 (寸感)
 マンション・アパートや貸地を何件も持っている地主の管理人がどこまで権限を持っているのか、賃借人には分かりにくい。本件の事実関係のもとでは判決は妥当である。

 一般的には、どちらに賃料を支払ってよいか分からないとき、管理会社が賃貸人の代理である場合には、債権者不確知を理由とする供託は無効とされている。だれを相手に供託すべきか迷ったらちょっと慎重になった方がよい。 (2004.02.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


東京・台東借地借家人組合
 
無料電話相談は
050-3012-8687(IP固定電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。

|

2008年11月18日 (火)

駐車場の瑕疵につき損害賠償および礼金の一部返還ガ認められた事例 

 判例紹介

 駐車場の賃貸借契約にいて、貸主の修繕義務の不履行責任が認められ、駐車場の瑕疵につき損害賠償および礼金の一部返還ガ認められた事例 東京地裁平成5年10月1日判決、判例時報1497号82頁)

 (事実)
 地主から駐車場目的で土地を賃借し、使用を開始したところ、本件駐車場が舗装されれていないため、雨が2,3日続くとぬかるみになり、駐車中の車が脱出するためには他の車牽引を必要とする状態であった。

 そこで、借主は貸主に対し、再三にわたり本件駐車場に砂利をいれるなどして使用可能な状態に改善するよう催告したが、貸主は駐車場の一部に砂利を入れただけで、その他の部分については応じなかったので、借主は貸主に対し、本件土地賃貸借契約を解除し、債務不履行に基づく損害賠償および礼金の返還を求めた。

 (争点)
 貸主が本件駐車場の一部に砂利を入れたがその他の部分には砂利を入れなかった場合、これを債務不履行と認めるか、またはそれを認めた場合借主の損害額および礼金の返還額をどう算定するかである。

 (判決の要旨)
 裁判所は、本件駐車場は雨が降ると地盤が水を含んだ状態となり駐車車両が自力で脱出できなくなる事態が発生し、その都度他の駐車場から本件駐車場まで2トン車を持っていき脱出不能の車両を牽引せざるを得なかったのに地主は本件駐車場の入口付近に約2台分の砂利を入れたに過ぎなかったのでこれにより、本件駐車場の約半分の使用ができなかったとして賃料の半額相当分についての損害額を認定した。

 また、礼金の返還請求については、礼金の性格を契約期間中の本件駐車場の使用収益に対する対価の一部前払と解して、使用収益ができなかった分についての礼金の返還を認めた。

 (短評)
 貸主は借主に対して賃貸物件を使用収益させるべき義務を負い、右使用収益ができないときは、その使用収益に必要な修繕をすべき義務を負っているが、その修繕義務の具体的な内容および程度については、賃貸物件の種類、性質、使用収益の具体的な内容等によって異なる。

 本件は、修繕義務の具体的な内容程度について、具体的な事案に即して、綿密に算定したものであり、参考となる。

 また、事案によるが、敷金の返還請求以外に、本件において、礼金の返還請求を認めている点は評価できる。  (1994.10)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


東京・台東借地借家人組合
 
無料電話相談は
050-3012-8687(IP固定電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。

|

2008年11月17日 (月)

借地契約の期間満了による将来の明渡請求が否定された事例

 判例紹介

 借地契約の期間満了による将来の明渡請求が否定された事例 (東京地裁平成6年8月29日判決、判例時報1534号74頁)

 (事実)
 地主は借地人に対し、普通建物所有を目的し、期間昭和51年9月16日から平成8年9月15日までの20年間の役で土地を賃借していたところ、借地契約の期間満了前に、右満了時における借地上建物の収去・土地明渡を求めた。

 地主は、その理由として借地人が期間満了の際に明渡請求に応じないおそれがあること、更新拒絶の正当事由として、住友不動産と共同して、高層ビル建築を計画していること、本件土地周辺は、高度利用が進行し高層ビル建築が港区の施策にも合致していること、立退料として金1億8000万円或は相当額を支払う用意があること、右事情が期間満了まで存続することを主張した。

 借地人は、本件土地賃貸借は、期間満了までには権利関係及び事実関係の変動が予測され、現時点で、期間満了時における正当事由の有無を判断することは不可能であると主張した。

 (争点)
 本件訴えが将来の給付の訴えの適格を有するか否かである。

 (判決要旨)
 裁判所は、
 「正当の事由は、期間満了時を判断基準として、右時点における地主と借地人の土地の利用を必要とする事情、借地に関する従前の経過および土地の利用状況、地主の申出た立退料その他諸般の事実関係を総合考慮して決定されるところ、その基礎となる事実関係は、地主及び借地人の個別的な事情の変化はもとより、社会の状況、経済の動向等によっても様々な変動が生じ得る極めて浮動的な性格のものであることは明らかであり、地主が申出た立退料の額の当否等をあらかじめ確定することも甚だ困難あるといわなければならない。本件においては、口頭弁論終結時(平成6年7月25日)から本件賃貸借契約の期間満了時(平成8年9月15日)まで約2年2か月近くを残しているのであり、期間満了時における本件明渡請求権の成否及びその内容についての事情の変動を現時点において明確に予測することは到底不可能である。よって、本件訴えの適格を有しないものというべきである。」と判示した。

 (短評)
 都心部における再開発がらみの事案では、明渡を求めるため、相当額の立退料を提供して正当事由を補強し、合わせて賃貸借期間が来ていない場合には、将来の明渡請求を求めるケースがままあるが、期間満了時まで相当期間がある場合、本来の正当事由制度を踏まえて訴えの利益がないとした本判決は当然とはいえ評価できる。  (1995.10)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


東京・台東借地借家人組合
 
無料電話相談は
050-3012-8687(IP固定電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。

|

2008年11月14日 (金)

転借人の賃料不払いで転貸人が家主に賃料を払わず契約解除された事例

 判例紹介

 転貸人が転借人において賃料を払わないことを理由に賃貸人に家賃の支払いを拒否したため、賃貸人が契約を解除した事例で、転借人の賃料支払い能力がなくなった事情が転貸人に責任があるかどうかは、解除の転借人に対する対抗力に影響がない。 (東京地裁平成4年5月11日判決、判例タイムズ831号164頁以下)

 (事案)
 X=建物所有者・賃貸人  Y①=転貸人  Y②=転借人

 XはY①に建物を賃貸しY②はXの承諾の下にY①から建物を転借していたところ、Y①は、Y②が賃料の支払いをしないことを理由に、Xに対する賃料の支払いをしなかった。そこで、XはY両名に対し、契約解除して建物の明渡等を求めた。

 Y②は、Y①が自分の倒産を意図して、自らの資力から充分に家賃の支払いができるのに、あえて支払いを怠り、XもY①に対する家賃の履行を求めることなく馴れ合い的に契約を解除したものであり、賃借権の放棄又は合意解除に類似するものであって、解除はY②に対抗できないと争った事案。

 (判旨)
 「Y②は、Y①はY②の倒産をもくろみ、保証人的立場にあるにもかかわらず、その資力からすれば容易にな賃料支払いをあえて怠っており、XもY①に対し賃料支払いの履行を真摯に求めることなく馴れ合い的に本件解除を行った旨主張する。しかし、賃借人が任意に賃料支払いを履行しないとき、賃貸人はそれだけで解除をなしえるし、これを転借人に対抗しうるというべきであって、それ以上に法的な履行強制手段等を講じた上でなければ、契約解除を転借人に対抗できないというものではない」

 「もっとも、Y①は賃貸借の継続の意思を失っているために賃料の不払いを続けているという観点からみれば賃借権の放棄に類する面がないとはいえないが、Y①の賃料不払いの原因となっているのはY②の賃料不払いなのであるから、信義則上、Xに対し、賃貸借契約の解除が転借人に対抗できないと主張することは許されない。もともとY②は直接Xに対し賃料支払義務を怠っているのであって(民法613条1項)自己の転借権を保全するためには、Xに直接賃料を支払えばよいのである。そして、転借人が賃料支払い能力を失った事情が、賃借人に責任のあるものであるかどうかは、賃借人の賃料不払いを理由とする解除権の転借人に対する対抗力の有無を左右するものではないと解すべきである。」

 (寸評)
 本件はY①が賃料差額も得ておらず、当初からY②に使用させるもので、契約にあたりXが、賃借人の地位を上場企業又はこれに準ずる企業に限定していたため、Y①はY②のために賃借人になっていた事案。

 判旨に異論はない。しかし、馴れ合い的な賃料の不払いがなされる場合もあり、その場合には、結論を異にすると思われる。特に転借人が賃借人に家賃を支払っているのに、賃借人が支払いをしない場合にまで本判決の結論を無条件に認めるべきか、検討の余地はあり得る。  1994.07

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


東京・台東借地借家人組合
 
無料電話相談は
050-3012-8687(IP固定電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。

|

2008年11月13日 (木)

賃貸人から契約解除された転借人は転貸人に賃料の支払いを拒否出来る(2)

 判例紹介

 賃貸人が賃借人(転貸人)との賃貸借契約解除を理由に転借人に建物明渡を求めた場合、転借人は転貸人に対して賃料の支払いを拒絶できるとした事例 (東京地裁平成6年12月2日判月決、判例時報1551号96頁)

 (事案の概要)
 A(賃借人=Yの転貸人)はB(賃貸人=建物所有者)から建物を賃借していたが、AがBに賃料を支払わなかったため、Bは賃貸借契約を解除しY(転借人)に建物の明渡を求めた。他方、Aの債権者Xは、AのYに対する転貸借の賃料債権を差押えYにその支払いを求めたが、YはAB間の賃貸借契約が解除されBから建物の明渡を求められいることを理由に転貸借の賃料の支払いを拒絶した。Xは転貸借の賃料の支払いを求めて提訴。

 (判決)
 本判決は、「建物賃借人は、賃借建物に対する権利に基づき自己に対して明渡を請求することができる第三者からその明渡を求められた場合には、それ以後、賃料の支払いを拒絶することができる」とした最高裁昭和50年4月25日判決(民集29巻4号556頁)を前提として、

 「Aが平成4年3月分からの賃料を滞納したので、BはAに対し、同年8月6日付け書面で、同年3月分8月分の滞納家賃の支払いを催告し、15日以内に支払わないときは本件賃貸契約を解除する旨の意思表示をしたが、AがBの請求に応じなかったため、同月下旬、BはYに対し、YがBに保証金と賃料を支払わなければ本件建物を明渡せと求めた」との事実を認定したうえで、

 「Yは、本件賃貸借契約解除によって本件建物の所有権に基づき明渡を請求することができるBから右明渡を求められたものと認められることができる。したがって、YはAに対し、それ以後、すなわち本件転貸借に基づく同年9月分以降の賃料の支払いを拒絶することができ、その後に右賃料を差押えた人に対してもその支払い拒絶できる」とし、

 さらに「賃貸人は賃借人に対し目的物を使用収益させる義務があるところ、その使用によって賃借人が第三者に対し不当利得返還義務あるいは不法行為による損害賠償義務を負うことがないようにすることをも含むものと解すべきであって、Yは、同年8月下旬、本件建物の所有者であるBから直接賃料の支払いを求められ、その後同社から賃料相当損害金の支払いを求める訴訟を提起されている(中略)から、Yは、同年8月下旬当時においてBから権利を主張された結果、同社から不当利得返還あるいは不当行為による損害賠償請求を受ける客観的な危険があったものであり、転貸人であるAの右義務が履行されないおそれが生じていた上、本件建物を事実上使用収益しても、右使用期間中の賃料支払を拒絶することができる」と判示してYの賃料支払い拒絶を認めた。

 (寸評)
 この判決は最高裁判例を踏まえつつ、賃貸人の義務について分析し、原賃借人から明渡請求を受けた転借人は建物を使用していても転貸人に対して賃料支払を拒絶できることを認めたもので、原賃貸人・転貸人間の紛争に挟まれた転借人に一つの指針を与えるものである。  1996.03

(*)参考 同じ判例(東京地裁平成6年12月2日判決)を扱っています。こちらから 覗けます。

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


東京・台東借地借家人組合
 
無料電話相談は
050-3012-8687(IP固定電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。

|

2008年11月12日 (水)

地代改定特約の効力が限定され、地代値下げ請求が認められた事例

 判例紹介

 地代改定特約に基づく地代値上げ請求が、改定特約の基礎となっていた事情が失われたとして、借地人からの地代値下げ請求が認められ事例 (東京地裁平成3年3月29日判決、未登載 控訴)

 (事案)
 原告は、江東区福住の借地人2人であり、被告は、都内に多くの土地を有し賃貸している会社であるが、被告(地主)側は、従来から一々地代値上げ請求をすることは煩わしいとして、借地人との間で地代改定特約を結んできた。

 本件2つの地代改定特約が結ばれたのは昭和43年4月と昭和58年3月である。

 右地代改定特約の1つは「土地(借地)の路線価(相続税課税基準価格)を基準とし、これが増減した場合には、その増減の割合と同一の割合をもって、当然に増減するものとする」というものである。

 もう1つの地代改定特約は、「土地(借地)の昭和57年度の固定資産税及び都市計画税、または同評価額、もしくは路線価のうち最も増加率の高いものを基準とし、その額の増加率に応じ、当然に増額するものとする。」というものである。

 このため、坪当り地代額は、昭和53年の金600円から順次値上げされ昭和62年に金1315円になったが問題の昭和63年には、前年倍額の金2629円に増額され、さらに平成元年には金4625円、平成2年には金6134円に増額されたことになった。

 原告(借地人)側は、本件改定特約は昭和63年の時点で事情変更により失効したか、あるいは事情によって相当でなくなったとして、昭和63年の地代額は前年の地代額に減額(措置)されるべきであると主張した。

 (判示)
 裁判所は、路線価の上昇により、昭和63年の地代額が前年地代額の倍増になったとしたうえ、昭和61年以降全国的に土地価格が上昇し、それに伴い路線価が上昇傾向を示し、特に昭和63年以降著しく上昇したことが認められるとして、本件改定特約については、路線価が借地契約締結当時の上昇率と著しく異ならない程度で安定して推移するとの前提のもとで特約が設けられたものと解すべきであり、著しい地価高騰という異常な状況の下においては、もはや締結に際して基礎となっていた事情が失われ、本件改定特約により、地代額を算定することは、信義衡平の原則に反すると判示した。

 (短評)
 これまでの判例は、地代減額請求事件において、地代改定特約の効力についてはその特約の内容によって分かれていた。

 本判決は、路線価の上昇に連動する地代改定特約について、土地価格の異常な上昇を指摘し特約の効力を限定した点で、好判決ということができる。  1991.05

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


東京・台東借地借家人組合
 
無料電話相談は
050-3012-8687(IP固定電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。

|

2008年11月10日 (月)

借地人が競売の申立を受けた時は契約を解除出来る特約を無効とした事例

 判例紹介

 借地人が競売の申立を受けた時は賃貸人は賃貸借契約を解除することができる旨の特約は、借地法11条により無効であるとされた事例 (神戸地裁昭和62年7月10日判決、判例タイムズ647号186頁以下)

 (事案)
 XらはYに対して建物所有目的で土地を賃貸しYはこの土地上に木造瓦葺平屋建を所有していたところ、Yがこの建物について債権者から競売の申立を受けた。X、Y間の賃貸契約ではYの置いて競売の申立を受けたときは、Xにおいて契約を解除しうる特約があったため、Xはこの特約により契約を解除し、Yに対して前記建物の収去土地明渡の請求をなした事件である。

 (判旨)
 「原告ら主張の特約は借地法11条に抵触し無効であるというべきである。借地法は、建物の存続する土地の円滑な利用及びその経済的効用の維持発展のため、借地契約について相当長期間の借地期間を定めと共に正当な事由がなければ、賃貸人は契約の更新を拒絶できないものとし(同法2条、3条から8条参照)、特に借地人の責に帰すべき事由があれば格別(例えば賃料の不払い)、そうでない限り無闇に借地契約を終了させず、もって借地人の地位安定を図り、これに反する借地人に不利な特約は無効である、と規定している(同法11条参照)。

 ところで、原告ら主張の本件特約は、借地人である被告が他から競売の申立を受けたことを理由として、賃貸人である原告らに契約の解除権を付与しようというものであるが、借地人が他から競売の申立を受けたということは、当該借地契約自体とは全く関係のないものであって、右契約について借地人の責に帰すべき事由により発生した事情とは到底いいえないから、これをもって賃貸人たる原告らに右解除権を付与することは、右借地法の各規定に反するものである」とし、競売の申立を受けたことが「ただちに信頼関係維持に反し、又は賃料不払いと同視すべき事由とはなし難い」としている。

 判旨は、前記理由に続いて借地法9条の3(注)いわゆる競落による借地権譲渡許可申立制度の存在からも、前記特約の無効に言及し、さらに、競売申立による解除権の発生を認めると、「借地人の地位を著しく不安定にし、一方的に不利益を被らせるものであって、借地の経済的効果を甚だしく減退させ、借地法の立法趣旨に反するものである」と判示している。

 (寸言)
 判旨に異論はなく、最高裁と同旨の立場である。実際の契約を見ると、この種の特約が、特に借家契約に見られることから、借地に関しては効力がないことを知ってもらえる意味で紹介した。   (1988.07)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

(注)借地法「9条の3」は借地借家法20条1項~4項と同旨

参考法令
借地法
第11条
 第2条、第4条乃至第8条ノ2、第9条ノ2(第9条ノ4ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)及前条ノ規定ニ反スル契約条件ニシテ借地権者ニ不利ナルモノハ之ヲ定メサルモノト看做ス


借地借家法20条1項
(建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可)

第20条  第三者が賃借権の目的である土地の上の建物を競売又は公売により取得した場合において、その第三者が賃借権を取得しても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡を承諾しないときは、裁判所は、その第三者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、借地条件を変更し、又は財産上の給付を命ずることができる。


東京・台東借地借家人組合
 
無料電話相談は
050-3012-8687(IP固定電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。

|

2008年11月 7日 (金)

契約書の字句、内容のみでなく諸事情を考慮して一時使用と認めなかった事例

 判例紹介

 契約書の字句、内容のみでなく、契約締結に至る経緯、地上建物の使用目的、その規模構造等の諸事情を考慮して、一時使用のための土地賃貸借であるとは認めることができないとした事例 東京高裁昭和61年10月30日判決、判例時報1214号)

 (事実)
 賃借人は昭和56年6月1日以降、軽量鉄骨造2階建を建築して家族と従業員10数名が居住して180坪の土地を使用していたところ、地主は、賃貸借は仮設作業所を建てることを目的とした一時使用の賃貸借であり、期間は1年の約束でその後契約をしたので、昭和60年5月31日に期間満了で終了した。よって、明渡せと要求した。

 一審の東京地裁では、判決文から理由はわからないが、借地人の敗訴であったが、高裁で逆転勝訴となった。

 (判決要旨)
 本件土地賃借権が建物所有を目的とすることは、弁論の全趣旨から明らかであるが、本件契約書には「土地一時使用契約書」なる表題が付せられている他、本件契約は借地法9条による一時使用のものであることを認めるなどの条項がある。しかしながら、賃貸借契約が一時使用を目的としたものであるかどうかは、契約書の字句、内容だけで決められるものではなく、契約書の作成を含めての契約締結に至る経緯、地上建物使用目的、その規模構造、契約内容の変更の有無等の諸事情を考慮して判断すべきものである。

 借地人は鉄筋工事の請負業者であるが、かねて近くの土地95坪を借地し、家族と従業員の宿舎を建てて居住していたが、そこの明渡を求められて、本件土地を賃借するようになった。契約書では、期間は昭和56年6月1日から1年間、賃料は月4万5000円とされ、その1年後には、賃料を月6万円、期間1年の再契約をし、その1年後には7万5000円、期間は2年間という再契約をし、それらの再契約のときには、特に本件土地の返還を要求することもなかった。

 以上の事実よりすれば、借地人は、契約の当初から短期間に限って土地を借りる意思ではなかったし、地主の方も、早期に本件土地の返還を受けるべき予定もなかったもので、その後の本件建物の建築及び土地の使用状況、借地人、地主の態度を考え合せれば、双方とも短期で契約を終了させる意思のもとに、一時使用の目的で本件契約の締結をしたことが明らかであるとは認められない。

 (解説)
 小さな工場や作業場などの土地賃貸借で期間5年、10年とかの法律に反するこういうケ-スを見かける。借地人は借りたい一心で不当な契約を受入れてしまう。一時使用の賃貸借を拡大しようとする借地借家法の改正は、このようなケースを助長することになろう。    1987.05

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


東京・台東借地借家人組合
 
無料電話相談は
050-3012-8687(IP固定電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。

|

2008年11月 6日 (木)

土地の賃貸借契約が建物所有を目的であるとは認められなかった事例

 判例紹介

 土地の賃貸借契約が、建物所有の目的でないとされた事例 (東京地裁平成6年3月9日判決、判例時報1516号101頁)

 (事実)
 貸主の先代は、昭和49年に、自己所有土地を賃貸した。

 借主はは、右賃借土地の隣接地を所有し、そこでフォークリフト等の販売・修理等営業を行い、本件賃貸土地を洗車場、更衣室、部品倉庫として使用してきた。

 その後、貸主・借主双方は、平成2年2月1日付賃貸借契約書を作製した。

 その内容は、賃貸借期間1年、自動車駐車場一時使用目的、付帯設備として24坪以内の既製品プレハブ建物を設置することができるというものであった。

 そして、平成3年11月に至り、貸主は、借主に対し、本件土地賃貸借契約の解約を申し入れて、本件土地の明渡を求めた。

 (争点)
 本件土地賃貸借契約が建物所有を目的とするものであるか否かである。

 (判決要旨)
 裁判所は、「本件賃貸借契約に当たっては権利金の授受がなく、賃貸借契約書において自動車駐車場の一時使用目的として、設置可能な建物を種類規模を限定していること他方、借主としても、本件土地を洗車場、更衣室兼部品倉庫として利用してきているもので、平成2年の契約の際も、もし短期間で明渡しを求めるものとすれば多大な経費をかけてプレハブ建物を設置し、賃料の増額に応じることもなかったであろうと考えられ、当然に契約のとおり契約を終了させる意思でなかったと推測されるが、その反面、本件土地を建物所有の目的出賃借する旨の合意があった事実が認められず、むしろ本件経緯に照らせば建物所有の目的では賃貸しないとの貸主の意図をある程度借主が了解していたものと考えられる。したがって、一時使用の目的とは言いえないものの建物所有の目的とするものであるとまでは認めることができない。」と判示した。

 (短評)
 借地上に建物が建築されたとしても、建物所有でないときは、旧借地法あるいは借地借家法の適用がなく、民法の賃貸借の規定が適用される。

 建物所有の目的と言い得るためには、借地上に建物を所有することが主たる目的になっていることを要し借地を使用する目的が別にあり、これに付随して建物を所有することが予定されている場合であっても、建物所有の目的と言えないとされる。

 本判決は、従前の借地の利用経過および契約書の文言を詳細に検討した上建物所有の目的でないと判断したもので参考となる。   1995.05

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


東京・台東借地借家人組合
 
無料電話相談は
050-3012-8687(IP固定電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。

|

2008年11月 5日 (水)

借地の期間満了が近い時における借地条件変更許可の申立が棄却された事例 (3)

 判例紹介

 借地非訟事件において、借地権の期間満了が近いときにおける借地条件変更許可の申立が、契約が更新される見込みが確実とは言えず、また緊急の必要性があるとも認められないとして棄却された事例 東京高裁平成5年5月14日決定、判例時報1520号94頁)

 (事案)
 (1)地主Xと借地人Yとの借地契約は非堅固建物(木造建物の類)所有の目的で平成7年3月31日に期間が満了する。

 (2)借地上には、A棟(昭和30年代の建築)、B棟(昭和34年頃の建築)、C棟(昭和39年頃の建築)があった。

 (3)借地はJR池袋駅近くにあり、商業地域、防火地域に指定され、高層ビルが建ち並んでいる。

 (4)借地人Yは、本件借地に近いところに宅地42坪及び同地上に5階建てのビルのうち4階部分を所有し、平成2年6月右C棟からここに転居した。

 (5)Yは、各建物が老朽化したので土地の有効利用を図り、建物の賃貸による収入を得るため、本件借地上に7階建の事務所兼居宅のビルを建築することを計画した。しかし地主Xの承諾が得られなかったため、借地条件変更(非堅固建物所有から堅固建物所有への変更)の許可の申立をした。

 (6)他方地主Xは自己居住地や本件土地等を所有しているが、平成7年3月31日に迫った本件借地の期間満了の際には、更新を拒絶し、土地の有効利用を図るため、ここに賃貸ビルを建築する予定でいる。

 (7)平成4年4月12日、C棟が突然焼失、A棟の1部にも類焼し建物としての効用を失った。A、C棟が借地の大半を占めている。またB棟は外壁などにかなりの老朽化が見られる。

 (決定要旨)
 (1)本件借地契約は、平成7年3月31日には期間が満了し、Xが更新を拒絶することは明らかである。このように期間満了が近い場合に本件申立を容認するためには、条件変更の要件を備えるほか、契約更新の見込みが確実であること及び現時点において申立を容認するための緊急の必要性があることを要するものと解される。

 (2)本件においては、XYとも居住の必要性からではなく、土地を有効利用し賃料収入を得るためビルを建築しようとしていることなど前記(1)から(7)までの事実を総合すると、平成7年の期間満了時において借地契約が更新される見込みが確実とはいえず、これを訴訟で解決することを待てないような緊急の必要性があるとも認められない。よってYの申し立ては理由がない。

 (若干のコメント)
 Yの申し立ては平成3年にされ、東京地裁は平成4年7月30日にこれを容認した。その後高裁に控訴中に前記(7)の火災が発せした。これがYの逆転敗訴に微妙に影響したものと思われる。この高裁の決定要旨(1)は、契約更新見込みの確実性と建築の緊急性の2つを要件とした点に特徴がある。

 これに対し増改築許可の申立の場合には、認容されても期間の延長はないので少し事情を異にするが、期間満了間際の申立には右2点は一応念頭に置いた方がよい。  (1995.06)

  参考法令 「借地借家法」第17条

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


東京・台東借地借家人組合
 
無料電話相談は
050-3012-8687(IP固定電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。

|

2008年11月 4日 (火)

近い将来契約が満了する場合に借地条件変更の申立が棄却されて事例 (2)

 判例紹介

 借地契約の存続期間が近い将来に満了する事案において、堅固な建物所有を目的とする賃貸借への借地条件変更の申立が棄却されて事例 東京高裁平成元年11月10日判決、判例タイムズ752号231頁)

 (事案)
 抗告人(地主)の先代は昭和25年7月1日に借地人の先代に、非堅固建物所有の目的で、期間20年の約定で土地を賃借していた。

 借地人先代は昭和25年9月頃建物を建築し、昭和35年にはこれを増築していた。

 本件賃貸借は昭和45年7月に更新され、平成2年6月30日に期間が満了する。

 昭和62年に借地人は既に相当程度老朽している建物を取壊して、鉄筋コンクリート造5階建の居宅兼共同住宅の建築を計画して、条件変更の申立をしていた。

 抗告人(地主)は更新を拒絶する正当事由があるとして争ったが、原審は借地人の請求を認めた。これに対して、抗告審は、原審決定を取消した事案である。

 (判旨)
 「借地契約の存続期間が近い将来に満了する借地契約につき、借地権者(借地人)から堅固な建物所有を目的とするものへの借地条件変更の申立が成された場合において、土地所有者が右存続期間満了の際には契約の更新を拒絶する意向を予め明らかにしているときに、その借地非訟手続において、更新拒絶に正当事由が認められないと判断した上、右借地条件変更の申立を容認しこれに伴って借地権の存続期間を変更の効力発生時から30年の延長するとの形成的処分を行うときは、土地所有者は、対審公開の民事訴訟手続において借地権の存否(更新の成否)の確定を求める途を与えられないまま、実際上極めて長期間にわたり借地を回復し得ない結果となるから、現時点において、将来の更新の見込みが確実であるといえる場合であるか、更新の成否について本案訴訟による確定を待つことなく、借地条件を堅固な建物所有を目的に変更しなければならない特段の事情の存する場合でない限り、右借地条件変更の申立を容認するのは相当でない、と解される。」

 (寸評)
 判旨は、従来からの実務の実勢に添ったものであり異論はないと思われる。但し、更新拒絶の正当事由の存否の判断が、微妙な事案についてすべて本案の判決を待たなければならないというべきか、検討を要するところである。

 非訟手続の申立によって、更新をくぐり抜けるという方法に問題があることを指摘するために本判例を紹介した。  (1992.02)

  参考法令 「借地借家法」第17条

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


東京・台東借地借家人組合
 
無料電話相談は
050-3012-8687(IP固定電話)
受付は月曜日~金曜日(午前10時~午後4時)
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。

|

« 2008年10月 | トップページ | 2008年12月 »