カテゴリー「供託」の記事

2009年8月13日 (木)

値上げ請求に対する地代供託が著しく低額のため背信行為ありとされた事例 

 判例紹介

 値上げ請求に対する地代供託が著しく低額である場合、背信行為ありとして、契約解除を認めた事例 (千葉地裁昭和61年10月27日判決、判例時報1238号)

 (事案)
 賃借人は昭和37年10月木造建物所有を目的として借地した。昭和43年4月の地代は坪当り月額90円であったが、昭和45年3月頃、120円に上げるよう請求を受けた。賃借人が断ると地主は、90円の地代受取を拒否したため、90円で供託を始めた。その後もずっと、90円で供託していたところ、地主は、昭和59年12月19日、無断増改築と、地代供託が低額すぎることを理由に、契約解除の通知をしてきた。

 (判決)
 借地法12条2項は、賃料の増額請求がなされても、当事者間に協議が整わないときは、借地人は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、「相当と認める地代」を支払えばよい旨規定している。「相当と認める地代」とは、客観的適正額ではなく、原則として、「借地人が相当と認める地代」出よいと解される。しかし、「借地人が相当と認める地代」でよいといっても、その額がいくらでもよい、というわけではなく、その額が特段の事情もないのに従前の地代額よりも低い額であったり、適正地代額との差があまりに大きいとき等には、債務の本旨に従った履行という評価をすることができず、背信行為ありとして契約解除の効力を認めるべき場合もあり得る。

 本件についてみると、賃借人は昭和45年より15年間に亘って坪90円で供託を続けているが、昭和48年の時点で右供託金額は、地代家賃統制額坪当り349円の4分の1という著しい低額であることが認められる。非常に長い期間に亘って一見して「著しい低額」であると認識しうべき金額を漫然と供託しつづける賃借人の態度は、、常識を欠いたものである。地主においても、昭和46年8月に市川簡易裁判所に対し賃料増額調停を申立たものの、何等の成果も見られないまま取下げ、以後増額請求裁判を提起する等の行為に出ていないのは、落度として非難に値しようが、そのことを考慮に入れても、尚、賃貸借関係に要求される信頼関係が破壊されたものというほかない。

 (短評)
 紛争が長引いていると、供託額が据え置かれることになりやすい。
 著しい低額で供託をすると、本件のような問題が発生する。公租公課を調べながら、供託額の見直しを適宜行う必要がある。

 判決の一般論はやむ得ないとしても、「著しい低額」の判定基準に地代家賃統制令による地代額をもってきている点は、問題である。適正地代が統制地代額以下であることは、珍しいことでも何でもない。

(1987.08.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 参考法令
 借地法
第12条
 地代又ハ借賃カ土地ニ対スル租税其ノ他ノ公課ノ増減若ハ土地ノ価格ノ昂低ニ因リ又ハ比隣ノ土地ノ地代若ハ借賃ニ比較シテ不相当ナルニ至リタルトキハ契約ノ条件ニ拘ラス当事者ハ将来ニ向テ地代又ハ借賃ノ増減ヲ請求スルコトヲ得
 但シ一定ノ期間地代又ハ借賃ヲ増加セサルヘキ特約アルトキハ其ノ定ニ従フ

2 地代又ハ借賃ノ増額ニ付当事者間ニ協議調ハサルトキハ其ノ請求ヲ受ケタル者ハ増額ヲ正当トスル裁判ガ確定スルニ至ルマテハ相当ト認ムル地代又ハ借賃ヲ支払フヲ以テ足ル
 但シ其ノ裁判ガ確定シタル場合ニ於テ既ニ支払ヒタル額ニ附則アルトキハ不足額ニ年1割ノ割合ニ依ル支払期後ノ利息ヲ附シテ之ヲ支払フコトヲ要ス

 地代又ハ借賃ノ減額ニ付当事者間ニ協議調ハサルトキハ其ノ請求ヲ受ケタル者ハ減額ヲ正当トスル裁判ガ確定スルニ至ルマデハ相当ト認ムル地代又ハ借賃ノ支払ヲ請求スルコトヲ得
 但シ其ノ裁判ガ確定シタル場合ニ於テ既ニ支払ヲ受ケタル額ガ正当トセラレタル地代又ハ借賃ヲ超ユルトキハ超過額ニ年1割ノ割合ニ依ル受領ノ時ヨリノ利息ヲ附シテ之ヲ返還スルコトヲ要ス


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2009年8月12日 (水)

20年に亘り著しく低額な地代の供託によって契約解除された事例

 判例紹介

 地主から地代増額請求に対し20年に亘り著しく低廉の供託をしていたことなどが、地主・借地人の信頼関係を破壊したとして契約解除が認められた事例 横浜地裁昭和62年12月11日判決、判例時報1289号)

 (事案)
 判決の認定事実は次のとおり。
 ①地主Xと借地人Yとの借地契約は昭和25年に開始。41年に1坪当り月額10円、42年以降は公租公課の増減・近隣状況を勘案して協議の上定めるとの調停が成立、しかしこの協議がうまくいかずYは43年から供託。

 ②この借地の適正賃料は、55年が224円、56年が254円、57年が284円、58年が302円、59年が308円、60年が314円である。

 ③Yの供託額は、右の期間公租公課の1・1倍以内にとどまり、しかし56年、57年度は公租公課にもみたず、②の適正賃料額の28~36%程度にしかすぎない。収益は1坪当り1か月3円にも満たない。
 ④Yは公租公課の額を知っていたと推認されるし、借地上建物に抵当権を設定しているところからからするとこの土地の価格も知っていた。
 ⑤Yは供託後49年まで協議の申入れはしていない。49年、57年に協議の申入れをしたが、それは従前の差額地代の免除、土地所有権と借地権の交換を内容とするものであり、それまでの供託状況に照らすと必ずしも協議可能とはいえない。長期供託の原因はYの側は少なからず存在する。

 (理由)
 (1)「一般的に相当額の供託とは主観的なそれで足り、右主観的な相当額とは従前賃料の供託で足りると解されているが、右供託額は適正賃料額に比して著しく低額であるときにはその供託は借地法12条2項にいう「相当額の供託」とはいえないものと解するのが相当である」。前記③の供託額は②の適正賃料額に比し著しく低く、「右供託は不当なものである」。
 (2)このことを前記①、④、⑤の事実に見られるように「借地人Yは20年間に亘り不相当に低額の供託を漫然と続けていること、さらにYにおいてかかる定額の供託であることについて認識があったこと、ないし認識の可能性のあったことなどからすると、XとYとの借地契約における信頼関係は破壊されてたものと言わざるを得ない」。よって、契約解除は正当な権利行使である。

 (感想)
 判決文を一読した限りでは、地主・借地人とも供託解消に向けてそれほど積極的だったとは思われない。⑤の事実認定はやや地主側の肩を持ってたという印象。地代に関してはその支払義務者である借地人どうしても厳しい目が注がれる。借地人としては「(イ)20年間(つまり長期間)に亘り、(ロ)不相当に低額の供託を、(ハ)漫然と続けている」といわれないように、とくに(ロ)と(ハ)については組合などの専門家の助言を受けることが大切。

(1989.06.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 参考法令
 借地法
第12条
 地代又ハ借賃カ土地ニ対スル租税其ノ他ノ公課ノ増減若ハ土地ノ価格ノ昂低ニ因リ又ハ比隣ノ土地ノ地代若ハ借賃ニ比較シテ不相当ナルニ至リタルトキハ契約ノ条件ニ拘ラス当事者ハ将来ニ向テ地代又ハ借賃ノ増減ヲ請求スルコトヲ得
 但シ一定ノ期間地代又ハ借賃ヲ増加セサルヘキ特約アルトキハ其ノ定ニ従フ

2 地代又ハ借賃ノ増額ニ付当事者間ニ協議調ハサルトキハ其ノ請求ヲ受ケタル者ハ増額ヲ正当トスル裁判ガ確定スルニ至ルマテハ相当ト認ムル地代又ハ借賃ヲ支払フヲ以テ足ル
 但シ其ノ裁判ガ確定シタル場合ニ於テ既ニ支払ヒタル額ニ附則アルトキハ不足額ニ年1割ノ割合ニ依ル支払期後ノ利息ヲ附シテ之ヲ支払フコトヲ要ス

 地代又ハ借賃ノ減額ニ付当事者間ニ協議調ハサルトキハ其ノ請求ヲ受ケタル者ハ減額ヲ正当トスル裁判ガ確定スルニ至ルマデハ相当ト認ムル地代又ハ借賃ノ支払ヲ請求スルコトヲ得
 但シ其ノ裁判ガ確定シタル場合ニ於テ既ニ支払ヲ受ケタル額ガ正当トセラレタル地代又ハ借賃ヲ超ユルトキハ超過額ニ年1割ノ割合ニ依ル受領ノ時ヨリノ利息ヲ附シテ之ヲ返還スルコトヲ要ス


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2009年8月11日 (火)

家賃増額請求で長期間著しく低額の供託継続で契約解除された事例

 判例紹介

 家賃増額請求に対し、長期間にわたり、著しく低額の供託を継続していたことが信頼関係を破壊するとして、賃料不払を理由とする賃貸借契約の解除が認められた事例 横浜地裁平成元年9月25日判決、判例時報1343号71頁以下)

 (事案)
 昭和35年1月19日、本件建物について、家賃月額1000円の建物賃貸借契約が結ばれた。
 その後、家主は、物価及び本件建物敷地の地代の上昇(昭和56年4月分の本件建物敷地相当分の地代は月額5982円であった。)等を理由として、昭和56年5月分以降月額2万円へ家賃の増額請求をした。

 ところで、家主は、本件建物賃貸借契約当初から家賃の増額を求めていたが、借家人はこれに応じず、昭和54年4月分から、月額2000円を供託しており昭和56年5月分からの増額請求にも応じず、引続き月額2000円を供託している。

 そこで、家主は、借家人が8年余にわったて、適正賃料額の1割にも満たない著しく低額の賃料の供託を継続したことが信頼関係を破壊するものと主張して、本件建物明渡を請求した。

 (判示)
 裁判所は、「本件建物の適正家賃額は昭和56年4月当時、少なくとも家主の増額請求額の月額2万円であり、これに対し、被告の供託賃料額は、10分の1と著しく低額である。

 たとえ借家人が主観的に相当と認める額であっても、従前の賃料より、定額であったり、適正賃料額に比べて著しく低額である場合には、その供託を相当額の供託ということはできず、したがって、債務の本旨に従った履行と評価することはできないものといわなければならない。

 これを本件について見るに、被告のした供託は、適正賃料との差が著しく大きく極めて低額であるから、相当性がないものといわざるをえず、これを債務の本旨に従った履行ということはできない。」と判示した。

 (短評)
 借家法第7条2項本文は、賃料増額について当事者間に協議が調わない場合には、借家人は増額を正当とする裁判が確定するに至るまで、「相当ト認ムル借賃」を支払えば足りるとし、右の「相当ト認ムル借賃」とは、同項但書の趣旨に照らし、原則として借家人が主観的に相当と認める額でよく、必ずしも、客観的な適正賃料額に一致する必要はないと解されている。

 しかしながら、右支払家賃額が著しく低額のときは、賃料としての対価性がないといわなければならない。

 賃料増額をめぐって長期間供託している場合、しばしば著しく定額になることがあるので、随時見直し、増額供託する等注意する必要がある。 

(1990.07.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

参考法令
 借家法
第7条
 建物ノ借賃カ土地若ハ建物ニ対スル租税其ノ他ノ負担ノ増減ニ因リ、土地若ハ建物ノ価格ノ昂低ニ因リ又ハ比隣ノ建物ノ借賃ニ比較シテ不相当ナルニ至リタルトキハ契約ノ条件ニ拘ラス当事者ハ将来ニ向テ借賃ノ増減ヲ請求スルコトヲ得
 但シ一定ノ期間借賃ヲ増加セサルヘキ特約アルトキハ其ノ定ニ従フ

 借賃ノ増額ニ付当事者間ニ協議調ハサルトキハ其ノ請求ヲ受ケタル者ハ増額ヲ正当トスル裁判ガ確定スルニ至ルマデハ相当ト認ムル借賃ヲ支払フヲ以テ足ル
 但シ其ノ裁判ガ確定シタル場合ニ於テ既ニ支払ヒタル額ニ不足アルトキハ不足額ニ年1割ノ割合ニ依ル支払期後ノ利息ヲ附シテ之ヲ支払フコトヲ要ス

 借賃ノ減額ニ付当事者間ニ協議調ハサルトキハ其ノ請求ヲ受ケタル者ハ減額ヲ正当トスル裁判ガ確定スルニ至ルマデハ相当ト認ムル借賃ノ支払ヲ請求スルコトヲ得
 但シ其ノ裁判ガ確定シタル場合ニ於テ既ニ支払ヲ受ケタル額ガ正当トセラレタル借賃ヲ超ユルトキハ超過額ニ年1割ノ割合ニ依ル受領ノ時ヨリノ利息ヲ附シテ之ヲ返還スルコトヲ要ス


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2009年7月21日 (火)

賃貸人が死亡し複数の相続人がいる場合は遺産分割が確定するまで供託をする

 (問) 先日、賃貸人が死亡した。相続が完了していないのに長男から自分の銀行口座に賃料の全額を振込むよう指示された。その通り支払った方がよいのか。 

 (答) 相続人間で賃貸物件の遺産分割を巡って争いがある場合に、各相続人がそれぞれ単独で賃料等を請求することがある。賃借人の対応によっては「二重払い」、「債務不履行による契約解除」が惹起されるので注意したい。

 争いがある場合は、被相続人の死亡から遺産分割までの間に相当の日時を経過することとなるので、その間の相続財産である不動産から生じる賃料の帰属については、従来考え方が分かれていた。

 共同相続人は、相続開始の時点から遺産分割がされるまで、遺産をその法定相続分の持分で共有することになる(民法898条)。反面、遺産分割の効力は、相続開始の時に遡って生ずる(民法909条本文)とされていることから、元物たる財産を取得した相続人に法定果実(賃料、利子など)も帰属するとの考え方(遡及的帰属説)と法定果実自体共有されるとする考え方(共同財産説)との考え方の違いがあった。

 この点、最高裁平成17年9月8日判決(判例時報1913号62頁)は、次の通り、共同財産説の立場を採った。

 「遺産は,相続人が数人あるときは,相続開始から遺産分割までの間,共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は,遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は,後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」

 即ち、相続開始から遺産分割が確定するまでの間に発生した不動産の賃料収入は、分割協議の結果に拘らず、その相続財産の共有の割合応じて(遺言による相続分の指定がある場合は,その指定相続分により,それ以外の場合は, 法定相続分で)分けるべきとの判断を示した。

 賃借人は、賃貸人の死亡により相続が発生した場合、賃料について、各共同相続人からその相続分に応じて支払請求を受けることになる。だが、賃借人は、通常、誰が相続人か判らない場合が殆どである。

 また、遺産分割協議が確定した後は、相続人から賃料の支払い請求を受けることになる。しかし、遺産分割協議の成否について、関係者でない賃借人には判らないのが通常である。

 従って、今回の最高裁判決対策としては、賃貸人が死亡した場合、相続人全員により賃料支払用の銀行口座が指定されない限り、「債権者不確知」を理由とした供託(民法494条)による対処をせざるを得ない。また、遺産分割協議書が別途提示されでもしない限り、そのまま供託を続けざるを得ない。

 尚、弁済供託をする場合、供託書の「被供託者」の欄には死亡した賃貸人(例えば鈴木一郎の場合)の「住所」と「鈴木一郎の相続人」と記入。「供託事由」の欄は「賃貸人が死亡し、その相続人の住所・氏名が不明のため債権者を確知できない」と記入する。 

           

最高裁平成17年9月8日判決こちら


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2008年11月19日 (水)

管理委託会社に支払っていた賃料を賃貸人に直接請求され、債権者不確知を理由とした供託の効力

 判例紹介

 
 賃貸用建物の管理委託会社に賃料を支払っていた賃借人が賃貸人から直接賃料の支払いを求められた場合に債権者不確知を理由として行った弁済供託の効力 (東京地裁平成15年2月19日判決、判例タイムズ1136号)

 (事案の概要)
 ①Xは平成10年2月、本件建物(賃貸用)を競売により取得し、従前からの賃借人Yに対する賃貸人の地位を継承した。

 ②同時にXはZに対し全面的に本件建物の管理を委託した。ZはYとの間で賃料を月額21万円に増額する旨合意した。

 ③XとZは管理をめぐって争いになり、Yは平成14年1月Zから、XがZを差し置いて賃料を請求してもXには支払わないでもらいたい旨要請され、他方、Xから直接Xに支払うよう要請されたため、債権者を確知できないとしてXZ両者を被供託者として同年2月3月分を供託した。

 ④これに対しXは、右は債権者を確知し得ない場合に当たらないから供託は無効であるとして、Yに対し右2か月分の賃料は無効であるとして、Yに対し右2か月分の賃料の支払いを求めた。

 (判決要旨)
 ①Zは本件建物の管理を全面的に委託され、その管理権限に基づいてYに明渡を求める調停を申立てたことがあること。

 ②調停を申立てる権限があることについてはXも了解済みであったと窺われること。

 ③Yが前賃貸人と取交わしていた賃貸借契約がXを賃貸人、Yを賃借人とする契約書に差し替えられていること。

 ④ZはYとの間賃料改定を行っている等をあわせ考えると、Yにおいて、Zを本件建物の賃貸人であるか、賃貸人でないとしても、自ら固有の権限で、訴訟上でも、その取り立てが可能な権限を有する立場にあると判断してしまうことは無理からないところというべきである。

 Zの立場が現に賃料の固有の取立権者であったとすれば、債権者不確知を理由とする弁済供託にいう「債権者」と同視して差支えなく、実際に固有の取立権限がなかったとしても、YがZを取立権者であると判断したことに過失はないといわなければならないから、本件供託は、少なくとも債権者であるYにおいて過失なく債権者である本件建物賃料の賃貸人ないしその取立権者を確知することができない場合であったとして、有効なものであったと認めるのが相当である。本訴請求は理由がない。

 (寸感)
 マンション・アパートや貸地を何件も持っている地主の管理人がどこまで権限を持っているのか、賃借人には分かりにくい。本件の事実関係のもとでは判決は妥当である。

 一般的には、どちらに賃料を支払ってよいか分からないとき、管理会社が賃貸人の代理である場合には、債権者不確知を理由とする供託は無効とされている。だれを相手に供託すべきか迷ったらちょっと慎重になった方がよい。 (2004.02.)

(東借連常任弁護団)

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2008年4月21日 (月)

家賃の増額請求の際の内金受領が賃料の受領拒否に当たるとされた事例

 判例紹介

 賃借人が家賃増額請求されたにもかかわらず従前の賃料を提供したところ、賃貸人が賃料の一部として受領する旨申出たことが民法494条の受領拒絶に当たるとされた事例 (東京高裁昭和61年1月29日判決、判例時報1183号88頁以下)

 (事案)
 賃貸人Xは賃借人Yに対し、昭和57年7月1日から同年4月1日に実質上増額されていた従前の月額12500円の賃料を、月額15000円に増額する請求をしていたところ、同年9月に、同年8月分の賃料として従前の12500円を持参したYに対し、更に同年10月1日から月額25000円に増額請求をしたうえ、「持参した賃料は増額された賃料の一部として受領する」旨述べた。

 賃借人Yは賃料の受領を拒絶されたとして、従前の賃料を供託した。
  賃貸人Xは、この供託の効力はないとして賃料不払による契約解除をなし建物の明渡しを求めていた事案である。

 (判旨)
 「借家法7条2項によれば、賃料の増額を正当とする裁判が確定するまでは、賃借人は相当と認める賃料を支払えば足るのであるから、その間の相当と認める賃料支払は、債務の本旨に従った弁済に当たると解することができるのであり、特に増額請求が理由のない場合には、実質的に見た場合にも、これが一部弁済に当たる余地はないのである。他方、賃貸人が、賃料弁済の提供を受けた際内金(賃料の一部)として受領する旨述べることは、特段の事情のない以上、賃料の全額の弁済として提供されるのであればその受領を拒絶する趣旨を含むものと解することができる」

 (寸評)
 賃料の内金受領の意味が、受領拒絶に当たるかどうか争われた事例は、この他にもあった。本件とやや事実関係をことにする事案では供託を無効とした判例もある。短期間に2度にわたる理由のない増額請求がなされたという本判決の事実経過に照らせば判旨に異論はない。

 しかし、内金受領がすべて受領拒絶の意味を含むとは言えない。従って、日常の取扱井は、現実の提供を成し、「内金」「一部」といわれても賃料を受領させた方が安全といえる。    1987.4.

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

内金受領に関してはこちらも参考にして下さい。


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2006年10月 2日 (月)

借地人提供の地代を地主が内金として受領したことが受領拒絶に当たる

 判例紹介

 地主が地代値上げ請求後、借地人から従前額の地代の支払を受けるに際してこれを内金として受領する旨通知したことが、原則として賃料全額の支払に対する受領拒絶に当たるとして、弁済の提供を欠く供託が有効とされた事例 東京地裁平成5年4月20日判決、判例時報1483号59頁)

 (事実)
 地主が借地人に対して、従前額の約6倍の時代値上げ請求をしたところ、借地人はこれを不当と考え従前額の地代を銀行振込で支払った。 

 ところが、地主は借地人に対し、振込まれた従前額を増額請求した地代の一部として受け取る旨通知した。そこで借地人は、以後、地主に提供することなく、従前額の地代を供託した。

 その後、土地の相続人から借地人に対し賃料不払を理由に借地契約を解除する旨の意思表示をして、建物収去土地明渡請求訴訟を提起した。

 (争点)
 地主が借地人の提供する従前額の地代を内金として受領する態度をとったことが受領拒絶に当たるかどうかである。

 (判決の要旨)
 裁判所は、借地人は値上げを正当とする裁判が確定するまでは相当と認める地代の支払義務を負担するが、これは必ずしも客観的な相当な地代であることを要しないのであるから、相当と認める額の地代の支払は債務の本旨に従った弁済であって一部弁済ではない。したがって、地主が地代の内金として受領する旨意思表示をしたことは、特段の事情がない本件においては、地代全額の支払として受領拒絶するとの意思を明らかにしたものと解するのが相当として、弁済の提供を要せずして受領拒絶を理由として直ちに供託をすることができ、地代不払の債務不履行はないとした。

 (短評)
 賃貸人からの賃料増額請求に対し賃借人が相当賃料として従前額を提供したとき、賃貸人がこれを賃料の内金として受領すると主張する事例がしばしばみられる。

 この場合、賃借人としては、賃貸人から賃料の一部であると言明されながら、これを支払うことは、残りの賃料差額の支払義務を暗に認める結果になるのではないかと危惧し、他方では(一部とはいえ)賃料として受領するという以上、強いて、これを持ちかえって供託をした場合その供託が有効かどうかと思い迷うものである。

 本判決は、内金受領の意思表示は賃料全額の支払としては受領拒絶するとの意思を明らかにしたものと解したもので、賃借人にとっては、活用できる判決といえる。

 しかし、他方、裁判例の中には増額賃料については裁判で確定するから従前賃料額を持参されたい旨の催告があったにもかかわらず、現実の提供することなくした供託が無効とされた例がある名古屋地裁昭和47年4月27日判決、判例時報689号92頁)。裁判例が分かれている以上、実務的には、賃貸人が賃料内金として受領する場合には、賃借人としては支払った上、それが賃料全額であることを明確にしておくというこれまでの方針を引続き採るべきであろう。        1994.5.

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

参考にこちらも覗いてみて下さい。(N)


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