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2009年9月 4日 (金)

礼金返還請求控訴事件 京都地方裁判所(平成20年9月30日判決)1

 判例紹介

事件番号      :平成20年(レ)第4号

事件名        :礼金返還請求控訴事件

裁判年月日     :平成20年9月30日

裁判所名      :京都地方裁判所

部           :第2民事部

結果         :控訴棄却

判示事項の要旨 控訴人は,被控訴人との間で締結した賃貸借契約に基づいて,被控訴人に礼金18万円を交付したが,同賃貸借契約には,賃貸借契約終了時に礼金を返還しない旨の約定が付されており,被控訴人から礼金18万円が返還されなかったことから,この礼金を返還しない旨の約定が消費者契約法10条により全部無効であるとして,被控訴人に対し,不当利得に基づき,礼金18万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた(1審では請求棄却。 )。これに対し,礼金約定が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるような事情は認められないから,礼金約定が消費者契約法10条に反し無効であるということはできないとした事例

                   主       文

1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

                   事 実 及 び 理 由

第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,18万円及びこれに対する平成16年11月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要
 1 事案の要旨
 本件は,控訴人が,被控訴人との間で締結した賃貸借契約に基づいて,被控訴人に礼金18万円を交付したが,同賃貸借契約には,賃貸借契約終了時に礼金を返還しない旨の約定が付されており,被控訴人から礼金18万円が返還されなかったことから,この礼金を返還しない旨の約定が消費者契約法10条により全部無効であるとして,被控訴人に対し,不当利得に基づき,礼金18万円及びこれに対する約定の礼金返還期日の翌日である平成16年11年3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

 原審は,礼金を返還しない旨の約定は有効であるなどとして,控訴人の請求を棄却したことから,控訴人がこれを不服として,控訴した。

2 争いのない事実等(認定に供した証拠は末尾に掲記 以下,特に断らない限り,月日は平成16年のものである )。

(1) 控訴人は,3月17日,被控訴人との間で,次の約定で賃貸借契約を締結した(甲4,乙1) (以下「本件賃貸借契約」といい,本件賃貸借契約の対象物件を以下「本件賃貸物件」という 。)。

ア 対象物件     X704号室
イ 所 在 地     京都市a区b町c番d
ウ 賃 料       月額6万1000円
エ 賃貸期間     3月20日から平成17年3月19日まで
オ 礼 金       礼金は18万円とし,本件賃貸借契約締結後は,賃借人は,賃貸人に対し,礼金の返還を求
           めることはできない (契約書7条1項 以下 「本件礼金約定」 という。)。
カ          更 新 料 1年ごとに賃料の2か月分

(2) 控訴人は,本件賃貸借契約締結の際,本件賃貸借契約を仲介した株式会社長栄ホーム(以下「長栄ホーム」という )に対し,礼金18万円を交付した(甲3) (以下「本件礼金」という 。)。

(3) 長栄ホームの宅地建物取引主任者であったAは,3月20日,控訴人に対し,本件賃貸借契約について,重要事項の説明を行い,その際,本件 賃貸借契約終了時に礼金が返還されないことを説明した(甲2, 9, 乙5,7) 。

(4) 控訴人からの解約通知により,本件賃貸借契約は10月13日に終了し,控訴人は,同日,被控訴人に対し,本件賃貸物件を明け渡した。

争点とこれに関する当事者の主張
 (1) 本件礼金約定と消費者契約法10条前段

(控訴人の主張)
 本件礼金約定は,消費者契約法10条所定の民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものに該当する。

ア 礼金は,何らの根拠もなく,何の対価でもなく,賃借人が一方的に支払を強要されている金員であるとみるほかないが,仮に,礼金を賃借権設定の対価や謝礼であると考えたとしても,賃貸人の義務である目的物を引き渡して,これを使用収益させることの対価として,賃借人に賃料以外の金員の支払を強要することになるから,本件礼金約定は,民法601条,606条,616条,598条に比して,賃借人の義務を加重するものといえる。

イ 礼金は,何らの根拠もなく,何の対価でもなく,賃借人が一方的に支払を強要されている金員であるとみるほかないが,仮に,礼金を賃借権確保の対価と考えたとしても,賃貸人は礼金を返還することなく,賃貸借契約の義務を履行するまでに,賃貸借契約を解約することができるが,その反面,賃借人は手付け倍返しを請求できずに賃貸借契約の解約を甘受しなければならない点で,民法559条,557条に比して,賃借人の権利を制限するものといえる。

ウ 礼金を,仮に,賃料の前払と考えたとしても,賃借人が賃貸物件を社会通念上通常の使用方法により使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗については,賃料支払によって,これを回収するのが通常であって,賃貸借契約の本質に合致するものであるから,礼金という方法により,通常損耗による減価の回収をすることは,社会通念や賃貸借契約の本質に反し,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになる。

 また,賃借人に特別の負担を定めた特約が有効であるといえるには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要であるのに,礼金と形を変えれば,容易に上記特約の有効性が肯定され,予期しない特別の負担を課されることになる。

エ 本件礼金約定によれば,本件賃貸借契約が1年の契約期間の途中で解約された場合であっても,礼金は全額返還されないこととなるが,礼金が賃料の一部前払であるとすれば,使用収益していない期間の割合に応じて返還されなければならないはずであるから,それが返還されないとする本件礼金約定は,民法601条に定める賃料支払義務を加重し,又は建物賃貸借において賃料の支払を月払とした同法614条に比して,多額の賃料支払を加重する条項である。

(被控訴人の主張)
 本件礼金は,①賃借権設定の対価②賃料の前払という複合的な性質を有するものであり,賃料の支払義務は民法に定められているから,本件礼金約定は,消費者契約法10条所定の民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものに該当しない。

ア 単に名目が「賃料」か否かという形式的な解釈をすれば, 「賃料」 (民法 601条)という名目以外の金員の支払を内容とする契約条項は,すべて消費者契約法10条前段の要件に該当することとなり,そうなれば,これまで礼金や更新料などが社会的に広く利用されてきたという実態に合致しないし,また,賃料以外の名目による金員の徴求は使用収益と対価性がないという発想そのものが契約当事者の合理的意思とかい離している。

イ 礼金が賃料の前払という性質を有するということは,月々の支払か,前払一括かという支払方法に相違があるものの,名目上の「賃料」と同じ賃貸目的物の使用収益の対価としての性質を有するということである。

 また,本件賃貸借契約締結時において,控訴人は,礼金が返還されないこと,すなわち,自らの本件賃貸物件使用の対価として,賃貸借契約締結時に一定額の経済的負担を伴うことについて,十分説明を受け,それを理解しているから,賃借人に予期しない特別な負担は存在しない。

ウ 賃借人が契約期間内に中途解約をするなどによって,賃貸借契約が終了した場合に,実際の賃貸期間に応じて礼金が精算されない点については,賃借人が礼金の支払により受けるべき利益を自ら放棄したものと評価できる。

(2) 本件礼金約定と消費者契約法10条後段

(控訴人の主張)
 本件礼金約定は,消費者契約法10条所定の民法1条2項に規定する基本原理である信義則(以下「信義則」という。 )に反して消費者の利益を一方的に害するものである。

ア 礼金は,何らの根拠もなく,何の対価でもなく,賃借人が一方的に支払を強要されている金員であるとみるほかない。礼金を返還しない旨の約定は,このように不合理なものであるとともに,また,その趣旨も不明確である。なお,礼金を返還しない旨の約定が明確であるためには,少なくとも, 記載及び説明の明確性が求められるのであって, 単に, 礼金の金額や,礼金が返還されないことを記載しているだけでは足りない。特に,本件においては,Aは,本件賃貸借契約が締結された3月17日よりも後である同月20日になって初めて,重要事項説明書を控訴人に交付している。これは,宅地建物取引業法35条1項,6項にも違反する上に,控訴人が礼金の法的性質や趣旨について,全く説明を受けていなかったことを裏付ける。

イ 情報力・交渉力の点において圧倒的優位な立場にある賃貸人は,自ら又は専門業者に委託して,定型的な契約書をあらかじめ作成しておき,その中に,賃借人の利益を一方的に害して自らの利益を図る礼金のような不当条項を組み込ませておくことで,不当に利益を得ることができる。他方,賃借人は,そのような条項も含めて契約全体を承諾して締結するか,これを拒否するかの自由しか有しておらず,交渉によって不当条項を変更させる余地はおよそ存在しない。

ウ 平成5年1月29日当時の建設省は 「内容が明確,十分かつ合理的な賃貸借契約書の雛形(モデル として, 「賃貸住宅標準契約書 」(甲14の2・3) を作成した。 同賃貸住宅標準契約書 (甲14の3) には,「( 3)賃料等」という項目において, 「その他一時金」という記入欄があるが,建設委員会議録(甲15)によれば,この記入欄は,賃貸借契約時に賃借人から交付される一時金の徴求を全面的に容認したものでなく,むしろ,賃貸住宅標準契約書の作成に関与した政府委員としては,できるだけ一時金の徴求を排除する方向付けを探ろうとしていたのであり,そのため,賃貸住宅標準契約書には「礼金」などの項目が設けられなかった。

エ 礼金は,公営住宅法20条,旧住宅金融公庫法(以下, 「旧公庫法」という。 )35条1項,同法施行規則10条1項,特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律3条6号,同法施行規則13条等において禁止されており,特に,旧公庫法においては,違反した賃貸経営者には罰則が定められている(同法46条1項1号 。)

オ 本件礼金は18万円であり,これは賃料の約2.95か月分に当たるところ,本件賃貸借契約においては,1年ごとに更新料として賃料の2か月分に相当する金員の支払が必要とされている。そうすると,賃借人は,1年目については14.95か月分の賃料に相当する金員を,2年目以降については14か月分の賃料に相当する金員を,1年間に支払わなければならないこととなるから,賃料2.95か月分の礼金というのは明らかに過大である。しかも,控訴人は,わずか7か月あまりで退居したから,9.95か月分(約1.42倍)の家賃を支払わされたこととなり,この観点からも,著しく過大な負担というべきである。

カ 平成17年3月ころの首都圏,愛知,京阪神の3大都市圏における礼金等の額を調査した結果(甲18)によれば,京滋地域の礼金の平均額は賃料の2.7か月分(敷金のない物件に限れば3.3か月分になる )であり,首都圏(1.5か月)や愛知(1.1か月)の平均に比して,突出して高率である。しかも,本件では,京滋地域における礼金の平均額を上回る賃料2.95か月分の礼金が徴求されている。

キ 礼金は,本来毎月の賃料に含まれているべき自然損耗の修繕費用を二重取りするものにほかならない。

 (被控訴人の主張)
 信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものといえるためには,消費者保護だけでなく,契約者の選択の責任,取引の安全,私的自治などの見地から,当該条項を有効とすることによって消費者が受ける不利益と,その条項を無効とすることによって事業者が受ける不利益とを総合的に衡量した上で,消費者の受ける不利益が均衡を著しく失するほどに一方的に大きいといえることが必要であるところ,本件礼金約定により,控訴人の受ける不利益が均衡を著しく失するといえるほどに一方的に大きいということはできないから,本件礼金約定は,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものといえない。

ア 本件礼金約定は,1賃借権設定の対価2賃料の前払という性格を有するものであり,十分な合理性を有している。そして,控訴人は,礼金の支払により,本件賃貸物件における賃借権設定という利益を得ているほか,賃貸物件の使用収益,契約期間の保護という利益を享受している。

イ 礼金の設定は,地域による差異こそあれ,長きにわたり,慣行として社会的に承認されてきたこと,借地借家に関する法改正においても,礼金等の規制について,議論の対象になっていたのに,現行の借地借家法では,礼金等に対する規制がなされていないことからすれば,立法者の意思として,礼金の合意そのものが不合理なものとして法的規制を及ぼすのではなく,その内容が民法90条に違反するような場合を除き,私的自治に委ねるべきとの判断が示されていると考えるべきである。

ウ 礼金の法的性質などについて,控訴人に対し,事前に専門的な説明がなくても,被控訴人は,契約書の記載や重要事項説明により,礼金の支払が契約時に必要となることのほか,礼金の額や,礼金は賃貸借契約終了後も還付されないことなど, 賃借人の経済的負担について明確にしているから,控訴人が本件賃貸借契約を締結するか否かの判断を可能にするのに必要十分な情報を提供している。

エ 建物賃貸借契約は一般に広く行われる契約であり,賃貸物件の広告などにおいて 「賃料」, 「敷金」(保証金), 「礼金 」,「更新料」という用語は広く用いられており,しかも,礼金は,その法的性質は別論として,敷金とは異なり,後に返還されないことは一般に広く理解されている。

 そして,今日,賃貸物件の情報はインタ-ネットや情報雑誌等により巷に溢れており,消費者は,瞬時にかつ容易に比較対照できる情報を入手することができ,その上で,賃貸物件の選択に当たり,賃料や更新料,礼金といった負担を賃貸物件の使用収益の対価として認識し,どの賃貸物件を選択するのが経済的合理性を有するか判断して,契約の申込みを行っているのであるから,賃貸人と賃借人との間に,法が介入すべき情報の格差は存在しない。

オ 京都市内においては,賃貸物件の約20%に空室があり,場所によっては30%の空室がある賃貸物件も存在する。このように,賃貸物件の市場はいわば借り手市場であり,賃借人は,空室に苦しむ賃貸人よりも,むしろ賃貸物件の選択において有利な立場にある。また,礼金が設定されていない賃貸物件(公団・市営住宅・住宅金融公庫等の融資物件)も多数あるから,賃借人は,礼金のない物件を選ぶことも可能である。

カ 被控訴人は,本件賃貸借契約において,礼金や更新料などを含めて全体の収支を計算し,その上で月額賃料額を設定している。

キ 本件礼金は,被控訴人の収入となり,税務申告をして税金を支払った上で,賃貸経営の諸経費,生活費などに既に使用されている。仮に,本件礼金約定が無効となれば,他の賃貸物件の賃貸借関係にもその影響が波及することになるが,そうなれば,被控訴人は,賃貸物件の経営において種々のリスクを負っているのに,消費者契約法が施行された平成13年4月1日以降に締結したすべての賃貸借契約について,受け取った礼金を返還しなければならなくなるという不測の損害を被ることになる。

 礼金返還請求控訴事件 京都地方裁判所(平成20年9月30日判決)2 へ続く


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礼金返還請求控訴事件 京都地方裁判所(平成20年9月30日判決)2

第3 争点に対する判断
争点(1 )(本件礼金約定と消費者契約法10条前段)について

 被控訴人は,本件礼金は,1賃借権設定の対価2賃料の前払という複合的な性質を有するものであり,賃料の支払義務は民法に定められているから,本件礼金約定は,消費者契約法10条所定の民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものに該当しないと主張する。

 しかし,本件礼金は,少なくとも賃料の前払としての性質を有するものというべきであるところ,このことは,建物賃貸借において,毎月末を賃料の支払時期と定めている民法614条本文と比べ,賃借人の義務を加重していると考えられるから,本件礼金約定は,民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する約定であるというのが相当である。

 したがって,争点(1)に関する控訴人の主張は理由がある。

争点(2) (本件礼金約定と消費者契約法10条後段)について
(1) 控訴人は,本件礼金約定が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであると主張するので,以下,検討を加える。

(2) 控訴人は,礼金は,何らの根拠もなく,何の対価でもなく,賃借人が,一方的に支払を強要されている金員であるから ,本件礼金約定は, 不合理でその趣旨も不明確なものであると主張する。

 しかし,賃料とは,賃貸人が,賃貸物件を賃借人に使用収益させる対価として,賃借人から受領する金員であるところ,民法614条は,建物賃貸借において ,毎月末を賃料の支払時期と定めているが, これは任意規定であり,賃貸借契約成立時に賃料の一部を前払させることも可能であり,また,上記のような賃料の性質からすれば,賃料という名目で受領したか否かにかかわらず,賃貸人が賃貸物件を使用収益させる対価として受領した金員が賃料に該当する。

 そして,本件賃貸借契約のように,一般消費者に居住の場を提供することを目的とする建物賃貸業においては,賃貸物件が物理的,機能的及び経済的に消滅するまでの期間のうちの一部の期間について,賃貸物件を使用収益することを基礎として生ずる経済価値に,賃貸物件の使用収益に際して通常必要となる必要諸経費等を加算したものを賃料として回収することにより,業務が営まれるが,賃貸人は,月々に賃料という名目で受領する金員だけでなく,契約締結時に礼金や権利金等を設定する場合には,これらの金員についても賃貸物件を使用収益させることによる対価として,建物賃貸業を営むのが通常である。

 他方,建物を賃借しようとする者は,立地,間取り,設備,築年数などの賃貸物件の属性や,当該賃貸物件を一定期間使用収益するに当たり必要となる経済的負担などを比較考慮して,複数の賃貸物件の中から,自己の要望に合致する(又は要望に近い)賃貸物件を選択するのであるが,その際,礼金や権利金,更新料が設定されている物件の場合には,月々に賃料という名目で受領する金員だけでなく,礼金などの一時金も含めた総額をもって,当該賃貸物件を一定期間使用収益するに当たり必要となる経済的負担を算定するのが通常である。

 このように,礼金は,賃貸人にとっては,賃貸物件を使用収益させることによる対価として,賃借人にとっては,賃貸物件を使用収益するに当たり必要となる経済的負担として,それぞれ把握されている金員であるから,このような当事者の意思を合理的に解釈すると,礼金は,賃貸人が賃貸物件を賃借人に使用収益させる対価として,賃貸借契約締結時に賃借人から受領する金員,すなわち,賃料の一部前払としての性質を有するというべきであり,一件記録を検討しても,この判断を妨げるに足りる証拠はない。

 なお,被控訴人は,本件礼金が賃借権設定の対価であるとも主張しているが,礼金が賃借権設定の対価であるということは,借地借家法による賃借権の保護・強化や賃貸目的物の需要供給関係に基づいて,賃料に加算されるプレミアムにほかならないから,結局のところ,賃料の前払としての性質に包含されるというべきである。

 控訴人は, 本件礼金約定は, 記載及び説明の明確性に欠けると主張するが,争いのない事実等によれば,本件賃貸借契約の契約書には,礼金の額が18万円であること,賃貸借契約締結後は,礼金が返還されないことが明記されており,控訴人は自己の負担すべき金額を容易に認識し得るから,本件礼金約定を無効とすべき理由はない。

 また,控訴人は,Aは,本件賃貸借契約締結後である3月20日になって初めて,重要事項説明書を控訴人に交付していることからわかるとおり,礼金の法的性質や趣旨について,全く説明を受けていなかったと主張する。

 しかし,敷金と異なり,礼金が賃貸借契約終了時に返還されない性質の金員であることは一般的に周知されている事柄である。

 さらに,争いのない事実等によれば,本件賃貸借契約の契約書には,賃貸借契約締結後は賃借人に礼金が返還されないことが明記されており,また,3月20日の重要事項説明の際,Aは,控訴人に対し,賃貸借契約終了時に礼金が返還されないことを説明しているところ ,仮に, 控訴人の主張どおり,控訴人が礼金が返還されないことを知らずに本件賃貸借契約を締結したのであれば,控訴人は,Aないし被控訴人に対し,何らかの抗議をするのが通常であるが,一件証拠を検討しても,控訴人がこのような抗議をしたという事情は認められない。

 そうすると,本件賃貸借契約締結に当たって,控訴人に対し,本件礼金条項について説明があったというべきである。

 したがって,礼金は,何らの根拠もなく,何の対価でもなく,賃借人が一方的に支払を強要されている金員であるという控訴人の主張は理由がない。

(3) 控訴人は,情報力・交渉力の点において圧倒的優位な立場にある賃貸人は,あらかじめ契約書に礼金条項を組み込ませておくことで,不当に利益を得ることができる一方で,賃借人は,礼金条項も含めて契約全体を承諾して締結するか,これを拒否するかの自由しか有していなかったと主張する。

 しかし,本件礼金は賃料の前払としての性質を有するものであるから,これをあらかじめ契約書に明記して,本件賃貸借契約締結時に徴求したとしても,被控訴人は不当な利益を得ることにはならない。

 また,建物を賃借しようとする者は,立地,間取り,設備,築年数などの賃貸物件の属性や,当該物件を一定期間賃借するに当たり必要となる経済的負担などを比較考慮して,複数の賃貸物件の中から,自己の要望に合致する(又は要望に近い)物件を選択するのであるが,その際,礼金や権利金,更新料が設定されている物件の場合には,月々に賃料という名目で受領する金員だけでなく,礼金などの一時金も含めた上で,経済的負担を算定するのが通常である。賃借人は,礼金などの一時金も含めた上で算定された経済的負担を負うとしても,当該賃貸物件が,複数の賃貸物件候補の中で,自己の要望に最も合致すると考え,賃貸借契約を締結するのであり,そして,控訴人にしても ,これと異なる意思を有していたことを認めるに足りる証拠はない。

 したがって,控訴人は,自由な意思に基づいて,本件礼金約定が付された本件賃貸物件を選択したというべきであり,本件礼金約定を含む本件賃貸借契約の契約内容について控訴人に交渉の余地がなかったことは特段問題とするに足りない。

(4) 控訴人は, 「賃貸住宅標準契約書 (甲14の2・3)の体裁や, 「賃貸住宅標準契約書」の作成に関与した政府委員の答弁から,本件礼金約定が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであると主張する。

 確かに,証拠(甲15)によれば 「賃貸住宅標準契約書」 (甲14の2・3)の作成に関与した政府委員は,礼金の慣行のない地域にまで礼金を広げることは好ましくないと答弁しているが,その一方で,既に礼金等の一時金を徴求する慣行のある地域においては,その地域の実情を受けて,礼金等の額を記入する欄として 「その他一時金」という記入欄を設けた旨の答弁をするなど,現行の礼金制度を容認するような答弁をしている。そうすると,「賃貸住宅標準契約書」の体裁や,政府委員の答弁から,被控訴人が本件礼金約定を設けて,礼金を徴求することが特段の非難に値するということはできない。

(5) 控訴人は,公営住宅法や旧公庫法などにより,礼金が禁止されていることをもって,本件礼金約定が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであると主張する。

 しかし,借地借家法を制定するに当たって,礼金の徴求を禁止する旨の規定が設けられなかったことは明らかであるし,また,上記のとおり, 「賃貸住宅標準契約書 」(甲14の2・3)の作成に関与した政府委員も,現行の礼金制度を容認するような答弁をしていることに鑑みれば,公営住宅法や旧公庫法などが礼金を禁止していることをもって,本件礼金約定が非難に値するとまでいうことはできない。

(6) 控訴人は,本件礼金が賃料の2.95か月分であること,控訴人は,わずか7か月あまりで退居したため,結局,7か月間で9.95か月分(約1.42倍)の家賃を支払わされたこととなることから,本件礼金が著しく過大な負担であると主張する。

 しかし,本件礼金は,賃料の前払としての性質を有するところ,控訴人が礼金として前払をしなければならない賃料の額は,18万円(賃料の2.95か月分)であり,これは,証拠(甲18)により認められる京滋地域の礼金の平均額(賃料の2.7か月分)からしても,高額ではない。

 そして,本件賃貸借契約は,期間が満了する前に解約されているが,前判示のとおり,控訴人は,敷金と異なり,礼金が賃貸借契約終了時に返還されない性質の金員であることを認識していたというべきであるから,中途解約の場合であっても, 礼金の返還を求めることができないことを承知しながら,自ら,本件賃貸借契約を中途解約したといえる。

 他方,被控訴人は,中途解約の場合であっても礼金を返還しないことを前提に月々の賃料を設定しており,このような被控訴人の期待は尊重されるべきである。

 これらの点からすると,本件礼金の額や,賃借人からの中途解約の場合であっても礼金が返還されないことをもって,本件礼金約定が非難に値するということはできない。

(7) 控訴人は,本件礼金の額(18万円,賃料の2.95か月分)は,首都圏 (賃料の1. 5か月分) や愛知 (賃料の1.1か月分) の平均に比して突出して高率であり,しかも,京滋地域における礼金の平均額(賃料の2.7か月分)を上回っていると主張する。

 しかし,礼金を少額に抑えて,その分,賃料を高額に設定することが可能であるから,首都圏や愛知においては,一般的に礼金を少額に抑えて,その分賃料が高額に設定されている可能性があるため,一概に本件礼金が他の地域と比較して,不当に高額に設定されているということはできない。また,本件礼金が,京滋地域における礼金の平均額(賃料の2.7か月分)を上回っているとしても,その程度は非常に軽微である。

 したがって,他の地域における平均礼金額との比較や,同じ京滋地域における平均礼金額との比較からしても,本件礼金が不当に高額に設定されているということはできない。

(8) 控訴人は,礼金は,本来毎月の賃料に含まれているべき自然損耗の修繕費用を二重取りするものにほかならないと主張する。

 賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の性質上当然に予定されているから,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生じる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する自然損耗に係る投下資本の回収は,通常,修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そして,自然損耗についての修繕費用を月々の賃料という名目だけで回収するか,月々の賃料という名目だけではなく,礼金という名目によっても回収するかは,地域の慣習などを踏まえて, 賃貸人の自由に委ねられている事柄である。 そして,前判示のとおり,本件礼金は,賃料の一部前払としての性質を有するというべきであるから,被控訴人は,自然損耗についての必要経費を,月々の賃料という名目で受領する金員だけではなく,賃料の前払である礼金によっても回収しているものである。

 したがって,被控訴人は,本件礼金により,本来毎月の賃料に含まれているべき自然損耗の修繕費用を二重取りしているといえないから,控訴人の上記主張は理由がない。

(9) 以上のとおり,本件礼金約定が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるような事情は認められないから,本件礼金約定が消費者契約法10条に反し無効であるとの控訴人の主張は理由がない。

結論
よって,控訴人の本件請求は理由がないから,これを棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がない。そこで,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

           京都地方裁判所第2民事部

                   裁判長裁判官    吉 川  愼 一

                     裁判官     上 田   卓 哉

                     裁判官    森 里   紀 之


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2009年6月 3日 (水)

家主が破綻し、店舗が競売

 台東区東上野2丁目でビルの2階で店舗を借りて長年居酒屋を営む村田さんは、平成12年にビルの建替えの話があり、家主と協議した結果、隣接する家主所有の4階建てビル(店舗兼居宅)に移転することになった。

 移転の条件は、従前の契約内容を継承し、内装及び厨房工事と厨房機器等の代金は家主の負担で行うという内容であった。条件が了承され、改装された1階の店舗に入居した。

 移転後、数年が経過した時点で、家主所有の当該建物に金融機関の抵当権が設定された。抵当権設定よりも賃貸借契約の方が先なので、賃借権に問題はないが、何時か競売があるだろうと覚悟はしていた。勿論、競売があっても、新所有者に対抗でき、営業は続けられるので、その点の心配はしていない。

 案の定、昨年3月、家主が厨房機器の代金未払い(債権残額約1200万円)で家賃債権を差押られ、建物は競売された。その後、競落され、家賃は10月分から建物を買受けた新家主に払うことになった。

 村田さんが使用している厨房機器の債務と所有権とについて債権者のリース会社と協議をした。前家主の厨房機器代金の滞納を4年間も漫然と放置した責任を認めさせることが出来、債権額に拘らず、5万円の負担で中古になった厨房機器(9年使用)の所有権が借家人に移転することで落着した。


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2009年4月18日 (土)

「追い出し屋」を一斉提訴 大阪など3府県の6人

 家賃滞納を理由に強引に退去を迫られ、居住権を侵害されたとして、大阪など3府県の借り主が16日、家賃保証会社などに1人あたり110万~140万円の損害賠償を求め、大阪簡裁など4簡裁に提訴した。

 弁護団は「ハウジングプア(住まいの貧困)の温床となっている追い出し行為の違法性を追及するとともに、不明な点が多い賃貸住宅の管理・保証業務の実態を明らかにしたい」としている。

 訴えたのは大阪市、大阪府東大阪市、同府茨木市、兵庫県西宮市、宮崎市の30~50歳代の男女6人。被告は不動産管理会社、家賃保証会社など計8社と家主ら。

 訴状によると、原告は雇い止めや採用の内定取り消しで収入が断たれるなどし、家賃を滞納。その後、業者側から無断侵入や鍵交換、家財撤去などの追い出し行為を受けたという。

 同様の訴訟を、東京の20代と60代の男性が15日に起こし、大阪市、奈良県の借り主も訴訟準備を進めている。   

 弁護団の「全国追い出し屋対策会議」(代表幹事・増田尚弁護士)は19、20の両日、無料の電話相談会「追い出し屋被害ホットライン」を開設する。

東京 0120・442・423 (19日午前10時~午後6時)

▽大阪 06・6361・0546 (19日午前10時~午後4時)

▽福岡 092・741・4566 (20日午前10時~午後4時)


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なくそうハウジングプア!住まいの貧困に取組むネットワーク結成


4月19日(日曜日)
追い出し屋被害で無料電話相談

   0120-442-423

受付時間10:00~18:00)

 (無料で被害相談 住まいの貧困問題に取り組む「全国追い出し屋対策会議」など3団体は19日午前10時~午後6時、家賃滞納を理由とする高額な違約金請求や、鍵の無断交換・荷物撤去の被害相談に無料で応じるホットラインを開設。


 なくそうハウジングプア!
  住まいの貧困に取組むネットワーク結成

住宅セーフティネットの実現求め運動
 

新宿区大久保通りをデモ行進する集会参加者
新宿区大久保通りを
デモ行進する集会参加者
200名が参加したネットワーク設立集会
200名が参加したネットワーク設立集会

 「なくそうハウジングプア!安心できる住まいを!」と題して住まいの貧困に取り組むネットワークの設立集会が、3月14日午後2時から新宿区の大久保地域センターにおいて開催され、200名の市民が参加した。

 同ネットワークは、昨年10月の反貧困ネットワークの世直しイッキ大集会の中で住まいの分科会が開催され、集会の取り組みの中でネットワーク組織の設立を準備してきた。東借連と全借連では、準備段階から参加した。

住まい現場から悲痛な叫び

 集会では、第1部「住まいの貧困の現場から」では、
①スマイルサービスから鍵を交換され、荷物を全て撤去された借家人、
②派遣切りでアパートの家賃の支払いが困難になり家族が離れ離れに友人宅などに身を寄せている外国人労働者、
③日産ディーゼルで働き昨年12月に派遣会社から契約打ち切りを通告されたが労組を結成し解雇と寮からの退去に反対して闘う労組役員、
④ホームレスで野宿生活しているときにNPO団体の寮に住み込まされ15万円の生活保護費から8万7000円の寮費を天引きされ、寮生活でいじめを受けた30代の男性などから切実で深刻な内容の発言が次々にされた。

 第2部では、「住まいの貧困にどう立ち向かうか」と題してパネルディスカッションが行なわれた。

 パネラーのNPO法人自立サポートセンターもやいの稲葉剛代表理事は「東京都は石原都政になって10年間都営住宅を一戸も増やしていない。若年ワーキングプアは申込む機会すら奪われている。住宅政策の規制緩和で民間では家賃保証会社など追い出し屋が野放しにされ、ハウジングプアを増大させた。保証金など大家がかかえるべきリスクを入居者が支払うのはおかしい。借家の公的な保証システムを確立させるべきである」と指摘した。

家賃保証会社に法的規制を

 次に、全国追い出し屋対策会議の司法書士の徳武聡子さんは、家賃保証会社など追い出し屋の手口と法的な問題点、対策会議の刑事告訴や民事責任の追及などの対応について報告した。「サラ金業者の規制が厳しくなった2年前から子会社を作り家賃保証会社に参入し、強引な家賃の取立てと不法行為を行なっている」とを指摘し、早期の法的規制の必要性を強調した。
 また、大阪市立大学の小玉徹教授より欧米と日本の居住政策について、資料使って詳しく説明がされた。

 最後にネットワークの世話人の藤本龍介さんより「住まいの貧困に取り組むネットワーク設立宣言」が読み上げられ全員で確認した。

 集会後、デモ行進に移り、「公共住宅をつくれ」、「保証人制度をなくせ」、「定期借家制度を廃止しろ」、「家賃を下げろ」等々のシュプレヒコールが新宿の街に響き渡った。

東京借地借家人新聞より


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2009年4月16日 (木)

借りている建物の一部が焼失したが火事になると借家権はなくなるのか

 (問) 1階が店舗で2階が住まいになっている併用住宅を借りて豆腐の製造・販売をしている。

 先日、隣りの飲食店から火災が発生して私の家の一部が類焼した。被害は外壁と2階の天井、屋根の一部が焼けた。消火で水浸しになったが、営業や生活に差し支えない程度で済んだ。

 家主は「火事で焼けた建物は取壊して建替えるので、すぐに明渡してもらいたい」と言い、更に「借家は火事で焼けると借りる権利はなくなる」とも言っているが、本当に借りる権利がなくなるのか。

  


 (答) 建物賃貸借契約の消滅は、火災によって建物としての効用を失ったか、又は社会観念上これと同視する状態となったことが必要である。すなわち、借家が火災で全焼し、建物が滅失すると借家権は消滅する。借家契約の対象物である建物が無くなると契約も無くなる。借家人に建物を使用収益させる家主の債務は、履行不能となって消滅する。

 これは建物が滅失した場合の例である。一部焼失の場合は、その状態が滅失に当たるかが問題になる。

 類焼による滅失の認定の判断は「賃貸借の目的となっている主要な部分が焼失して賃貸借の趣旨が達成されない程度に達したか否かで判断し、その際、修復が通常の費用では不可能か否かをも斟酌して判断する」としている最高裁昭和42年6月22日判決)。

 即ち、賃貸目的物の焼失による建物の滅失で、修繕が不可能という場合、或は、修復するより新築した方が経済的である場合は滅失と認定される。しかし、簡単な補修によって従前と殆ど変わらない効用を発揮できる状態であれば、借家契約は終了しない。

 相談者の場合は、比較的簡単に修繕できる状態であり、新築するよりは安上がりの費用で回復可能でる。従って、滅失とは言えず、借家権は存続する。

 家主の建物の滅失を理由に明渡請求をされる前に、修繕をして建物としての効用を発揮させるようにしておかなければならない。

 家主は修繕をさせないと言っているようだが、借家権を確保するため、営業を続けるためにも、速やかに屋根と外壁の修繕を強行し、使用・収益の出来る状態にしなければならない。その際、、修繕費用は自己負担で行うのが現実的である。


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2009年4月 9日 (木)

階下の入居者からの嫌がらせで引越しを考えているが

(問) 昨年の暮れに賃貸アパートの2階に入居しました。2階に入居しているのは私だけで、1階には2世帯が住んでいます。
 住んで1ヶ月も経たないうちにちょっとしたことで、1階の居住者より床をどんどん叩かれたり、大声で怒鳴られたりするようになりました。近所の人の話では、2階に住んでいた前居住者もそれが原因で退室したということです。
 家主や仲介した不動産屋に注意を促しても知らん顔をしています。私も引越しをしたいと思いますが、家主か不動産屋に責任をとらせたいと思いますが、なんとかならないでしょうか。


(答) 家主や仲介した不動産屋が、そのような事実、即ち、階下の居住者の非常識な嫌がらせが原因で前居住者が退室した事実を隠してあなたとの間で借家契約を締結した場合は「消費者契約法」の第4条2項・消費者の不利益となる事実の不告知で誤認した契約は取消すことが出来ると記されています。

この条項を適用し、契約そのものを取消し、敷金や契約手数料などを全額返して貰うことができます。

全国借地借家人新聞より


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2009年3月 6日 (金)

一方的なドアーロックによる締め出しは不動産侵奪罪 (大阪)

 非正規雇用のために突然職場を追われた借家人が、収入が途絶え月末になると家賃を約束通り払いたくても払えず外出先から帰宅すると戸口のドアーの鍵が取替えられ、入居不能となるトラブルが最近増えています。

 大阪で弁護士、司法書士、大借連、いちょうの会の有志で「賃貸住宅追い出し屋被害対策会議」を結成し、10月29日「電話110番」を開設し被害者救済の活動を進めています。

 A市で賃貸マンションを借りているNさんは、事情で家賃を月末に支払うことができませんでした。帰宅してみると、ドアーがロックされておりマンションに入室できず、管理会社へ連絡すると、「契約書に家賃滞納即日退去の特約があり、入居前に重要事項説明書でも確認している」と部屋の使用ができない状態が続きました。

 一方的なドアーロックは、刑法の不動産侵奪罪に該当し犯罪行為であり、違法な自力救済で許されないと業者に抗議しドアーを開けさせました。

 (注)《不動産侵奪罪》「他人の不動産を侵奪した者は、10年以下の懲役に処する。」(刑法235条の2) 

大借連新聞
(全大阪借地借家人組合連合会)
より


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2009年2月10日 (火)

違法建築の賃貸マンションの責任は (大阪市)

 6月下旬、若い女性Kさんから、突然「違法建築で報道されたユービー福島に住んでいるが、オーナーから明け渡しを云われている」との相談が大借連へありました。

 Kさんの話によると、5月中旬にマスコミが「水増し建築の賃貸マンションで耐震性に問題がある」と報道された直後、オーナー側の代理人から明け渡しを請求され、その条件は、「入居時の敷金を全額返還する、引越料は指定した業者を使う場合は全額負担する、その上で迷惑料として10万円を支払う」との条件で7月末までに退去してほしいと云うものでした。

 Kさんは、危険なマンションと知りながら一方的に明け渡せというオーナーへ「引越したら家賃があがるし不便になる。さらに、敷金も高くなる。こんな負担については補償してもらえないのか」と交渉するが誠意のない回答に怒り、大阪市計画調整部監察課へ問い合わせた。「違法建物の問題は、当事者間の問題であり、大阪市は無関係なのでオーナーと話し合ってほしい」とまったく取り合ってもらえず、インターネットで大借連を知り連絡したとのこと。

 大借連は、大阪市監察課へ照会したところ、全く同じ対応に終始。対応した課長代理は「」建築確認申請を受理後は、建築主から完了検査の申請がなければしないことになっており、今回のユービーの件はオーナーから申請がなかったので完了検査はしていない。申請のない建築物のトラブルはオーナー側の責任であり、違法建築物の疑いがある場合については通報により検査を行い、明らかに違法であることが確認されれば取り壊しを含めて行政処分を行っている」と応えるのみで、被害者に対する行政責任を負う認識が全くないことが明らかになりました。

 大借連側は、「居住者は、違法建築物であるかどうか、完了検査済み賃貸マンションであるかどうか仲介業者(ツービーは宅建免許業者)から説明があれば判断するであろうが、今回はオーナーから直接契約したので詐欺にかかったも同然である。しかも、完了検査は申請がなければしなくてもよいなどの見解は建築基準法がザル法であることを認めたものだ。大阪市の責任者は重大だ」と問いただししました。そして、後日大阪市へ申し入れることにしました。

 Kさんは、オーナーへ文書で抗議し要求をまとめ文書で申し入れたところ、オーナーの代理人から「7月末までに立ち退く故ことを条件に誠意を持って対応する」との回答えました。

大借連新聞
(全大阪借地借家人組合連合会)
より


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2008年12月25日 (木)

「家賃滞納でドア施錠」は違法 福岡地裁「占有権侵害」

 賃貸アパートの家賃を滞納したことから部屋のドアをロックされ退去を迫られたのは違法だとして、東京都の男性が、家主に慰謝料など110万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、福岡地裁であった。前沢達朗裁判官は賠償請求は棄却したものの、補助参加人として訴訟に加わった家賃保証会社(東京)がドアをロックした行為については、「男性の占有権を侵害し、不法行為にあたる」として違法と判断した。

 家賃保証会社が絡むトラブルは最近目立ち始めており、今月5日には、違法な手段で退去を迫られたとして大阪府や兵庫県の入居者4人が慰謝料などを求めて大阪簡裁に一括提訴。福岡でも司法書士らが電話相談会を開くなど、被害回復を目指す動きが活発化している。

 判決によると、男性は05年5月から、福岡市南区のアパートを借りた。その際、仲介業者から「県内在住の親類」か「家賃保証会社」を連帯保証人にする必要があると説明され、同社と保証委託契約を結んだ。

 男性は06年6月ごろから家賃を滞納し始め、07年1月からは3カ月続けて滞納。男性に代わって滞納分のうち9万6千円を家主に支払った同社は同年5月、家主の委任を受け、男性に賃貸契約の解除を通知。さらに翌月には部屋のドアをロックし、男性は出入りできなくなった。結局、同年7月に荷物を運び出し、退去した。

 前沢裁判官は、同社が家賃の肩代わりを最小限に抑えるためにドアをロックしたと指摘。同社は「契約上、男性はドアロックや鍵の取り換えなどを許諾している」と主張したが、前沢裁判官は「法律で原則禁止されている『自力救済』に当たり、例外的に許される、緊急で、やむを得ない事情があったとは認めがたい」と退けた。

 賠償請求については「ドアロックについては家主の関与が認められない」として請求を棄却した。

2008年12月25日 asahi.com


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2008年12月 9日 (火)

有益費償還請求権を予め放棄する特約を有効とした事例

 判例紹介

 有益費償還請求権を予め放棄することは借家法6条、民法90条に違反しないとされた事例 (東京地裁昭和61年11月18日判決、金融商事判例773号)

 (事案)
 賃借人は、ビルの一室を賃借して店舗内装を一切自分で行い、パブを営業していたが、8か月分の家賃(約570万円、共益費含む)を滞納してしまった。家主は契約を解除して明渡の訴訟を提起した。

 裁判で、賃借人は、店舗内装工事に4654万円を掛けたので、その有益費の償還を受けるまでは明渡す義務はないと争った。

 家主は、賃貸契約書には、有益費償還請求権を予め放棄する特約をしているので、賃借人には、有益費償還請求権がないと反論した。

 そこで、有益費とは何か、造作と何か、有益費償還請求権も放棄できるかが論点となった。

 (判決要旨)
 賃借人は有益費償還請求権は借家法5条6条に照らし、予め放棄することは許されないと主張するので検討する。

 造作買取請求権は、賃借人が建物に付加した造作について、特にこれが独立の存在を有し、賃借人の所有に属することに着目して特に借家人保護のため強行法規とする。

 これに対し、有益費償還請求権は、借家人が建物の改良に支出した有益費を償還せしめるものであって、借家人が右支出によって建物に付加した部分は独立の存在を有するものではない。従って当該部分の所有権は借家人ではなく、建物と一体となって建物所有者に帰属するものである。

 有益費償還請求権の本質は任意法規でである不当利得返還請求権に由来しているものであり、両者は賃借人の建物に対する投下資本の回収という点では共通するものの、法律的にはその根拠ないし本質を異にする。

 造作買取請求権の場合にはその目的物が賃貸人の同意を受けて付加したものに限られるのに対し、有益費償還請求権については有益費という限度があるほか、賃貸人の意思如何を問わず認められるものである。

 従ってこれを強行法規と解すると、賃借人に過酷な結果を強いることになり、かえって建物賃貸借の円滑な設定を阻害するおそれもあるので、有益費償還請求権について明文の規定がないのに単に経済的には同一の作用を営む点だけをとらえて造作買取請求権と同様に強行法規であると見ることはできない。

 (感想)
 有益費償還請求権の法規の条項を入れた契約書が、よく取交される。本件では賃料不払のケースであるが、そうではなく期間満了あるいは合意解約で明渡す場合は矛盾が出る。
 賃借人の負担で建物の価値を増し、その質を高めて賃貸人にも利益を与えたのに、特約を入れさすれば、その費用償還が認められないというのは不公平であるし、良質な建物を供給するという社会的利益にも反する。 

(1987.12.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2008年11月26日 (水)

礼金返還請求控訴事件 京都地方裁判所(平成20年9月30日判決)

 判例紹介

事件番号      :平成20年(レ)第4号

事件名        :礼金返還請求控訴事件

裁判年月日     :平成20年9月30日

裁判所名      :京都地方裁判所

部           :第2民事部

結果         :控訴棄却

判示事項の要旨 控訴人は,被控訴人との間で締結した賃貸借契約に基づいて,被控訴人に礼金18万円を交付したが,同賃貸借契約には,賃貸借契約終了時に礼金を返還しない旨の約定が付されており,被控訴人から礼金18万円が返還されなかったことから,この礼金を返還しない旨の約定が消費者契約法10条により全部無効であるとして,被控訴人に対し,不当利得に基づき,礼金18万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた(1審では請求棄却。 )。これに対し,礼金約定が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるような事情は認められないから,礼金約定が消費者契約法10条に反し無効であるということはできないとした事例

                   主       文

1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

                   事 実 及 び 理 由

第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,18万円及びこれに対する平成16年11月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要
 1 事案の要旨
 本件は,控訴人が,被控訴人との間で締結した賃貸借契約に基づいて,被控訴人に礼金18万円を交付したが,同賃貸借契約には,賃貸借契約終了時に礼金を返還しない旨の約定が付されており,被控訴人から礼金18万円が返還されなかったことから,この礼金を返還しない旨の約定が消費者契約法10条により全部無効であるとして,被控訴人に対し,不当利得に基づき,礼金18万円及びこれに対する約定の礼金返還期日の翌日である平成16年11年3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

 原審は,礼金を返還しない旨の約定は有効であるなどとして,控訴人の請求を棄却したことから,控訴人がこれを不服として,控訴した。

2 争いのない事実等(認定に供した証拠は末尾に掲記 以下,特に断らない限り,月日は平成16年のものである )。

(1) 控訴人は,3月17日,被控訴人との間で,次の約定で賃貸借契約を締結した(甲4,乙1) (以下「本件賃貸借契約」といい,本件賃貸借契約の対象物件を以下「本件賃貸物件」という 。)。

ア 対象物件     X704号室
イ 所 在 地     京都市a区b町c番d
ウ 賃 料       月額6万1000円
エ 賃貸期間     3月20日から平成17年3月19日まで
オ 礼 金       礼金は18万円とし,本件賃貸借契約締結後は,賃借人は,賃貸人に対し,礼金の返還を求
           めることはできない (契約書7条1項 以下 「本件礼金約定」 という。)。
カ          更 新 料 1年ごとに賃料の2か月分

(2) 控訴人は,本件賃貸借契約締結の際,本件賃貸借契約を仲介した株式会社長栄ホーム(以下「長栄ホーム」という )に対し,礼金18万円を交付した(甲3) (以下「本件礼金」という 。)。

(3) 長栄ホームの宅地建物取引主任者であったAは,3月20日,控訴人に対し,本件賃貸借契約について,重要事項の説明を行い,その際,本件 賃貸借契約終了時に礼金が返還されないことを説明した(甲2, 9, 乙5,7) 。

(4) 控訴人からの解約通知により,本件賃貸借契約は10月13日に終了し,控訴人は,同日,被控訴人に対し,本件賃貸物件を明け渡した。

争点とこれに関する当事者の主張
 (1) 本件礼金約定と消費者契約法10条前段

(控訴人の主張)
 本件礼金約定は,消費者契約法10条所定の民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものに該当する。

ア 礼金は,何らの根拠もなく,何の対価でもなく,賃借人が一方的に支払を強要されている金員であるとみるほかないが,仮に,礼金を賃借権設定の対価や謝礼であると考えたとしても,賃貸人の義務である目的物を引き渡して,これを使用収益させることの対価として,賃借人に賃料以外の金員の支払を強要することになるから,本件礼金約定は,民法601条,606条,616条,598条に比して,賃借人の義務を加重するものといえる。

イ 礼金は,何らの根拠もなく,何の対価でもなく,賃借人が一方的に支払を強要されている金員であるとみるほかないが,仮に,礼金を賃借権確保の対価と考えたとしても,賃貸人は礼金を返還することなく,賃貸借契約の義務を履行するまでに,賃貸借契約を解約することができるが,その反面,賃借人は手付け倍返しを請求できずに賃貸借契約の解約を甘受しなければならない点で,民法559条,557条に比して,賃借人の権利を制限するものといえる。

ウ 礼金を,仮に,賃料の前払と考えたとしても,賃借人が賃貸物件を社会通念上通常の使用方法により使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗については,賃料支払によって,これを回収するのが通常であって,賃貸借契約の本質に合致するものであるから,礼金という方法により,通常損耗による減価の回収をすることは,社会通念や賃貸借契約の本質に反し,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになる。

 また,賃借人に特別の負担を定めた特約が有効であるといえるには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要であるのに,礼金と形を変えれば,容易に上記特約の有効性が肯定され,予期しない特別の負担を課されることになる。

エ 本件礼金約定によれば,本件賃貸借契約が1年の契約期間の途中で解約された場合であっても,礼金は全額返還されないこととなるが,礼金が賃料の一部前払であるとすれば,使用収益していない期間の割合に応じて返還されなければならないはずであるから,それが返還されないとする本件礼金約定は,民法601条に定める賃料支払義務を加重し,又は建物賃貸借において賃料の支払を月払とした同法614条に比して,多額の賃料支払を加重する条項である。

(被控訴人の主張)
 本件礼金は,①賃借権設定の対価②賃料の前払という複合的な性質を有するものであり,賃料の支払義務は民法に定められているから,本件礼金約定は,消費者契約法10条所定の民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものに該当しない。

ア 単に名目が「賃料」か否かという形式的な解釈をすれば, 「賃料」 (民法 601条)という名目以外の金員の支払を内容とする契約条項は,すべて消費者契約法10条前段の要件に該当することとなり,そうなれば,これまで礼金や更新料などが社会的に広く利用されてきたという実態に合致しないし,また,賃料以外の名目による金員の徴求は使用収益と対価性がないという発想そのものが契約当事者の合理的意思とかい離している。

イ 礼金が賃料の前払という性質を有するということは,月々の支払か,前払一括かという支払方法に相違があるものの,名目上の「賃料」と同じ賃貸目的物の使用収益の対価としての性質を有するということである。

 また,本件賃貸借契約締結時において,控訴人は,礼金が返還されないこと,すなわち,自らの本件賃貸物件使用の対価として,賃貸借契約締結時に一定額の経済的負担を伴うことについて,十分説明を受け,それを理解しているから,賃借人に予期しない特別な負担は存在しない。

ウ 賃借人が契約期間内に中途解約をするなどによって,賃貸借契約が終了した場合に,実際の賃貸期間に応じて礼金が精算されない点については,賃借人が礼金の支払により受けるべき利益を自ら放棄したものと評価できる。

(2) 本件礼金約定と消費者契約法10条後段

(控訴人の主張)
 本件礼金約定は,消費者契約法10条所定の民法1条2項に規定する基本原理である信義則(以下「信義則」という。 )に反して消費者の利益を一方的に害するものである。

ア 礼金は,何らの根拠もなく,何の対価でもなく,賃借人が一方的に支払を強要されている金員であるとみるほかない。礼金を返還しない旨の約定は,このように不合理なものであるとともに,また,その趣旨も不明確である。なお,礼金を返還しない旨の約定が明確であるためには,少なくとも, 記載及び説明の明確性が求められるのであって, 単に, 礼金の金額や,礼金が返還されないことを記載しているだけでは足りない。特に,本件においては,Aは,本件賃貸借契約が締結された3月17日よりも後である同月20日になって初めて,重要事項説明書を控訴人に交付している。これは,宅地建物取引業法35条1項,6項にも違反する上に,控訴人が礼金の法的性質や趣旨について,全く説明を受けていなかったことを裏付ける。

イ 情報力・交渉力の点において圧倒的優位な立場にある賃貸人は,自ら又は専門業者に委託して,定型的な契約書をあらかじめ作成しておき,その中に,賃借人の利益を一方的に害して自らの利益を図る礼金のような不当条項を組み込ませておくことで,不当に利益を得ることができる。他方,賃借人は,そのような条項も含めて契約全体を承諾して締結するか,これを拒否するかの自由しか有しておらず,交渉によって不当条項を変更させる余地はおよそ存在しない。

ウ 平成5年1月29日当時の建設省は 「内容が明確,十分かつ合理的な賃貸借契約書の雛形(モデル として, 「賃貸住宅標準契約書 」(甲14の2・3) を作成した。 同賃貸住宅標準契約書 (甲14の3) には,「( 3)賃料等」という項目において, 「その他一時金」という記入欄があるが,建設委員会議録(甲15)によれば,この記入欄は,賃貸借契約時に賃借人から交付される一時金の徴求を全面的に容認したものでなく,むしろ,賃貸住宅標準契約書の作成に関与した政府委員としては,できるだけ一時金の徴求を排除する方向付けを探ろうとしていたのであり,そのため,賃貸住宅標準契約書には「礼金」などの項目が設けられなかった。

エ 礼金は,公営住宅法20条,旧住宅金融公庫法(以下, 「旧公庫法」という。 )35条1項,同法施行規則10条1項,特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律3条6号,同法施行規則13条等において禁止されており,特に,旧公庫法においては,違反した賃貸経営者には罰則が定められている(同法46条1項1号 。)

オ 本件礼金は18万円であり,これは賃料の約2.95か月分に当たるところ,本件賃貸借契約においては,1年ごとに更新料として賃料の2か月分に相当する金員の支払が必要とされている。そうすると,賃借人は,1年目については14.95か月分の賃料に相当する金員を,2年目以降については14か月分の賃料に相当する金員を,1年間に支払わなければならないこととなるから,賃料2.95か月分の礼金というのは明らかに過大である。しかも,控訴人は,わずか7か月あまりで退居したから,9.95か月分(約1.42倍)の家賃を支払わされたこととなり,この観点からも,著しく過大な負担というべきである。

カ 平成17年3月ころの首都圏,愛知,京阪神の3大都市圏における礼金等の額を調査した結果(甲18)によれば,京滋地域の礼金の平均額は賃料の2.7か月分(敷金のない物件に限れば3.3か月分になる )であり,首都圏(1.5か月)や愛知(1.1か月)の平均に比して,突出して高率である。しかも,本件では,京滋地域における礼金の平均額を上回る賃料2.95か月分の礼金が徴求されている。

キ 礼金は,本来毎月の賃料に含まれているべき自然損耗の修繕費用を二重取りするものにほかならない。

(被控訴人の主張)
信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものといえるためには,消費者保護だけでなく,契約者の選択の責任,取引の安全,私的自治などの見地から,当該条項を有効とすることによって消費者が受ける不利益と,その条項を無効とすることによって事業者が受ける不利益とを総合的に衡量した上で,消費者の受ける不利益が均衡を著しく失するほどに一方的に大きいといえることが必要であるところ,本件礼金約定により,控訴人の受ける不利益が均衡を著しく失するといえるほどに一方的に大きいということはできないから,本件礼金約定は,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものといえない。

ア 本件礼金約定は,1賃借権設定の対価2賃料の前払という性格を有するものであり,十分な合理性を有している。そして,控訴人は,礼金の支払により,本件賃貸物件における賃借権設定という利益を得ているほか,賃貸物件の使用収益,契約期間の保護という利益を享受している。

イ 礼金の設定は,地域による差異こそあれ,長きにわたり,慣行として社会的に承認されてきたこと,借地借家に関する法改正においても,礼金等の規制について,議論の対象になっていたのに,現行の借地借家法では,礼金等に対する規制がなされていないことからすれば,立法者の意思として,礼金の合意そのものが不合理なものとして法的規制を及ぼすのではなく,その内容が民法90条に違反するような場合を除き,私的自治に委ねるべきとの判断が示されていると考えるべきである。

ウ 礼金の法的性質などについて,控訴人に対し,事前に専門的な説明がなくても,被控訴人は,契約書の記載や重要事項説明により,礼金の支払が契約時に必要となることのほか,礼金の額や,礼金は賃貸借契約終了後も還付されないことなど, 賃借人の経済的負担について明確にしているから,控訴人が本件賃貸借契約を締結するか否かの判断を可能にするのに必要十分な情報を提供している。

エ 建物賃貸借契約は一般に広く行われる契約であり,賃貸物件の広告などにおいて 「賃料」, 「敷金」(保証金), 「礼金 」,「更新料」という用語は広く用いられており,しかも,礼金は,その法的性質は別論として,敷金とは異なり,後に返還されないことは一般に広く理解されている。

 そして,今日,賃貸物件の情報はインタ-ネットや情報雑誌等により巷に溢れており,消費者は,瞬時にかつ容易に比較対照できる情報を入手することができ,その上で,賃貸物件の選択に当たり,賃料や更新料,礼金といった負担を賃貸物件の使用収益の対価として認識し,どの賃貸物件を選択するのが経済的合理性を有するか判断して,契約の申込みを行っているのであるから,賃貸人と賃借人との間に,法が介入すべき情報の格差は存在しない。

オ 京都市内においては,賃貸物件の約20%に空室があり,場所によっては30%の空室がある賃貸物件も存在する。このように,賃貸物件の市場はいわば借り手市場であり,賃借人は,空室に苦しむ賃貸人よりも,むしろ賃貸物件の選択において有利な立場にある。また,礼金が設定されていない賃貸物件(公団・市営住宅・住宅金融公庫等の融資物件)も多数あるから,賃借人は,礼金のない物件を選ぶことも可能である。

カ 被控訴人は,本件賃貸借契約において,礼金や更新料などを含めて全体の収支を計算し,その上で月額賃料額を設定している。

キ 本件礼金は,被控訴人の収入となり,税務申告をして税金を支払った上で,賃貸経営の諸経費,生活費などに既に使用されている。仮に,本件礼金約定が無効となれば,他の賃貸物件の賃貸借関係にもその影響が波及することになるが,そうなれば,被控訴人は,賃貸物件の経営において種々のリスクを負っているのに,消費者契約法が施行された平成13年4月1日以降に締結したすべての賃貸借契約について,受け取った礼金を返還しなければならなくなるという不測の損害を被ることになる。

第3 争点に対する判断
争点(1 )(本件礼金約定と消費者契約法10条前段)について

 被控訴人は,本件礼金は,1賃借権設定の対価2賃料の前払という複合的な性質を有するものであり,賃料の支払義務は民法に定められているから,本件礼金約定は,消費者契約法10条所定の民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものに該当しないと主張する。

 しかし,本件礼金は,少なくとも賃料の前払としての性質を有するものというべきであるところ,このことは,建物賃貸借において,毎月末を賃料の支払時期と定めている民法614条本文と比べ,賃借人の義務を加重していると考えられるから,本件礼金約定は,民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する約定であるというのが相当である。

 したがって,争点(1)に関する控訴人の主張は理由がある。

争点(2) (本件礼金約定と消費者契約法10条後段)について
(1) 控訴人は,本件礼金約定が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであると主張するので,以下,検討を加える。

(2) 控訴人は,礼金は,何らの根拠もなく,何の対価でもなく,賃借人が,一方的に支払を強要されている金員であるから ,本件礼金約定は, 不合理でその趣旨も不明確なものであると主張する。

 しかし,賃料とは,賃貸人が,賃貸物件を賃借人に使用収益させる対価として,賃借人から受領する金員であるところ,民法614条は,建物賃貸借において ,毎月末を賃料の支払時期と定めているが, これは任意規定であり,賃貸借契約成立時に賃料の一部を前払させることも可能であり,また,上記のような賃料の性質からすれば,賃料という名目で受領したか否かにかかわらず,賃貸人が賃貸物件を使用収益させる対価として受領した金員が賃料に該当する。

 そして,本件賃貸借契約のように,一般消費者に居住の場を提供することを目的とする建物賃貸業においては,賃貸物件が物理的,機能的及び経済的に消滅するまでの期間のうちの一部の期間について,賃貸物件を使用収益することを基礎として生ずる経済価値に,賃貸物件の使用収益に際して通常必要となる必要諸経費等を加算したものを賃料として回収することにより,業務が営まれるが,賃貸人は,月々に賃料という名目で受領する金員だけでなく,契約締結時に礼金や権利金等を設定する場合には,これらの金員についても賃貸物件を使用収益させることによる対価として,建物賃貸業を営むのが通常である。

 他方,建物を賃借しようとする者は,立地,間取り,設備,築年数などの賃貸物件の属性や,当該賃貸物件を一定期間使用収益するに当たり必要となる経済的負担などを比較考慮して,複数の賃貸物件の中から,自己の要望に合致する(又は要望に近い)賃貸物件を選択するのであるが,その際,礼金や権利金,更新料が設定されている物件の場合には,月々に賃料という名目で受領する金員だけでなく,礼金などの一時金も含めた総額をもって,当該賃貸物件を一定期間使用収益するに当たり必要となる経済的負担を算定するのが通常である。

 このように,礼金は,賃貸人にとっては,賃貸物件を使用収益させることによる対価として,賃借人にとっては,賃貸物件を使用収益するに当たり必要となる経済的負担として,それぞれ把握されている金員であるから,このような当事者の意思を合理的に解釈すると,礼金は,賃貸人が賃貸物件を賃借人に使用収益させる対価として,賃貸借契約締結時に賃借人から受領する金員,すなわち,賃料の一部前払としての性質を有するというべきであり,一件記録を検討しても,この判断を妨げるに足りる証拠はない。

 なお,被控訴人は,本件礼金が賃借権設定の対価であるとも主張しているが,礼金が賃借権設定の対価であるということは,借地借家法による賃借権の保護・強化や賃貸目的物の需要供給関係に基づいて,賃料に加算されるプレミアムにほかならないから,結局のところ,賃料の前払としての性質に包含されるというべきである。

 控訴人は, 本件礼金約定は, 記載及び説明の明確性に欠けると主張するが,争いのない事実等によれば,本件賃貸借契約の契約書には,礼金の額が18万円であること,賃貸借契約締結後は,礼金が返還されないことが明記されており,控訴人は自己の負担すべき金額を容易に認識し得るから,本件礼金約定を無効とすべき理由はない。

 また,控訴人は,Aは,本件賃貸借契約締結後である3月20日になって初めて,重要事項説明書を控訴人に交付していることからわかるとおり,礼金の法的性質や趣旨について,全く説明を受けていなかったと主張する。

 しかし,敷金と異なり,礼金が賃貸借契約終了時に返還されない性質の金員であることは一般的に周知されている事柄である。

 さらに,争いのない事実等によれば,本件賃貸借契約の契約書には,賃貸借契約締結後は賃借人に礼金が返還されないことが明記されており,また,3月20日の重要事項説明の際,Aは,控訴人に対し,賃貸借契約終了時に礼金が返還されないことを説明しているところ ,仮に, 控訴人の主張どおり,控訴人が礼金が返還されないことを知らずに本件賃貸借契約を締結したのであれば,控訴人は,Aないし被控訴人に対し,何らかの抗議をするのが通常であるが,一件証拠を検討しても,控訴人がこのような抗議をしたという事情は認められない。

 そうすると,本件賃貸借契約締結に当たって,控訴人に対し,本件礼金条項について説明があったというべきである。

 したがって,礼金は,何らの根拠もなく,何の対価でもなく,賃借人が一方的に支払を強要されている金員であるという控訴人の主張は理由がない。

(3) 控訴人は,情報力・交渉力の点において圧倒的優位な立場にある賃貸人は,あらかじめ契約書に礼金条項を組み込ませておくことで,不当に利益を得ることができる一方で,賃借人は,礼金条項も含めて契約全体を承諾して締結するか,これを拒否するかの自由しか有していなかったと主張する。

 しかし,本件礼金は賃料の前払としての性質を有するものであるから,これをあらかじめ契約書に明記して,本件賃貸借契約締結時に徴求したとしても,被控訴人は不当な利益を得ることにはならない。

 また,建物を賃借しようとする者は,立地,間取り,設備,築年数などの賃貸物件の属性や,当該物件を一定期間賃借するに当たり必要となる経済的負担などを比較考慮して,複数の賃貸物件の中から,自己の要望に合致する(又は要望に近い)物件を選択するのであるが,その際,礼金や権利金,更新料が設定されている物件の場合には,月々に賃料という名目で受領する金員だけでなく,礼金などの一時金も含めた上で,経済的負担を算定するのが通常である。賃借人は,礼金などの一時金も含めた上で算定された経済的負担を負うとしても,当該賃貸物件が,複数の賃貸物件候補の中で,自己の要望に最も合致すると考え,賃貸借契約を締結するのであり,そして,控訴人にしても ,これと異なる意思を有していたことを認めるに足りる証拠はない。

 したがって,控訴人は,自由な意思に基づいて,本件礼金約定が付された本件賃貸物件を選択したというべきであり,本件礼金約定を含む本件賃貸借契約の契約内容について控訴人に交渉の余地がなかったことは特段問題とするに足りない。

(4) 控訴人は, 「賃貸住宅標準契約書 (甲14の2・3)の体裁や, 「賃貸住宅標準契約書」の作成に関与した政府委員の答弁から,本件礼金約定が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであると主張する。

 確かに,証拠(甲15)によれば 「賃貸住宅標準契約書」 (甲14の2・3)の作成に関与した政府委員は,礼金の慣行のない地域にまで礼金を広げることは好ましくないと答弁しているが,その一方で,既に礼金等の一時金を徴求する慣行のある地域においては,その地域の実情を受けて,礼金等の額を記入する欄として 「その他一時金」という記入欄を設けた旨の答弁をするなど,現行の礼金制度を容認するような答弁をしている。そうすると,「賃貸住宅標準契約書」の体裁や,政府委員の答弁から,被控訴人が本件礼金約定を設けて,礼金を徴求することが特段の非難に値するということはできない。

(5) 控訴人は,公営住宅法や旧公庫法などにより,礼金が禁止されていることをもって,本件礼金約定が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであると主張する。

 しかし,借地借家法を制定するに当たって,礼金の徴求を禁止する旨の規定が設けられなかったことは明らかであるし,また,上記のとおり, 「賃貸住宅標準契約書 」(甲14の2・3)の作成に関与した政府委員も,現行の礼金制度を容認するような答弁をしていることに鑑みれば,公営住宅法や旧公庫法などが礼金を禁止していることをもって,本件礼金約定が非難に値するとまでいうことはできない。

(6) 控訴人は,本件礼金が賃料の2.95か月分であること,控訴人は,わずか7か月あまりで退居したため,結局,7か月間で9.95か月分(約1.42倍)の家賃を支払わされたこととなることから,本件礼金が著しく過大な負担であると主張する。

 しかし,本件礼金は,賃料の前払としての性質を有するところ,控訴人が礼金として前払をしなければならない賃料の額は,18万円(賃料の2.95か月分)であり,これは,証拠(甲18)により認められる京滋地域の礼金の平均額(賃料の2.7か月分)からしても,高額ではない。

 そして,本件賃貸借契約は,期間が満了する前に解約されているが,前判示のとおり,控訴人は,敷金と異なり,礼金が賃貸借契約終了時に返還されない性質の金員であることを認識していたというべきであるから,中途解約の場合であっても, 礼金の返還を求めることができないことを承知しながら,自ら,本件賃貸借契約を中途解約したといえる。

 他方,被控訴人は,中途解約の場合であっても礼金を返還しないことを前提に月々の賃料を設定しており,このような被控訴人の期待は尊重されるべきである。

 これらの点からすると,本件礼金の額や,賃借人からの中途解約の場合であっても礼金が返還されないことをもって,本件礼金約定が非難に値するということはできない。

(7) 控訴人は,本件礼金の額(18万円,賃料の2.95か月分)は,首都圏 (賃料の1. 5か月分) や愛知 (賃料の1.1か月分) の平均に比して突出して高率であり,しかも,京滋地域における礼金の平均額(賃料の2.7か月分)を上回っていると主張する。

 しかし,礼金を少額に抑えて,その分,賃料を高額に設定することが可能であるから,首都圏や愛知においては,一般的に礼金を少額に抑えて,その分賃料が高額に設定されている可能性があるため,一概に本件礼金が他の地域と比較して,不当に高額に設定されているということはできない。また,本件礼金が,京滋地域における礼金の平均額(賃料の2.7か月分)を上回っているとしても,その程度は非常に軽微である。

 したがって,他の地域における平均礼金額との比較や,同じ京滋地域における平均礼金額との比較からしても,本件礼金が不当に高額に設定されているということはできない。

(8) 控訴人は,礼金は,本来毎月の賃料に含まれているべき自然損耗の修繕費用を二重取りするものにほかならないと主張する。

 賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の性質上当然に予定されているから,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生じる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する自然損耗に係る投下資本の回収は,通常,修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そして,自然損耗についての修繕費用を月々の賃料という名目だけで回収するか,月々の賃料という名目だけではなく,礼金という名目によっても回収するかは,地域の慣習などを踏まえて, 賃貸人の自由に委ねられている事柄である。 そして,前判示のとおり,本件礼金は,賃料の一部前払としての性質を有するというべきであるから,被控訴人は,自然損耗についての必要経費を,月々の賃料という名目で受領する金員だけではなく,賃料の前払である礼金によっても回収しているものである。

 したがって,被控訴人は,本件礼金により,本来毎月の賃料に含まれているべき自然損耗の修繕費用を二重取りしているといえないから,控訴人の上記主張は理由がない。

(9) 以上のとおり,本件礼金約定が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるような事情は認められないから,本件礼金約定が消費者契約法10条に反し無効であるとの控訴人の主張は理由がない。

結論
よって,控訴人の本件請求は理由がないから,これを棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がない。そこで,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

           京都地方裁判所第2民事部

                   裁判長裁判官    吉 川  愼 一

                     裁判官     上 田   卓 哉

                     裁判官    森 里   紀 之


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2008年10月21日 (火)

建物賃借権の無断譲渡が信頼関係を破壊しない特段の事情があるとし事例

 判例紹介

 建物賃借権の無断譲渡につき、信頼関係を破壊しない特段の事情があるとして、解除の効力が否定された事例 東京地裁平成4年7月29日判決、判例時報1462号122頁)

 (事実)
 家主は借家人に対し、寿司屋営業の目的で建物を賃貸していたが、借家人が本件建物を無断譲渡したとして本件賃貸借契約を解除し、本件建物の明渡しを求めた。
 これに対し、借家人らは本件建物賃借権の無断譲渡があるとしても、信頼関係を破壊しない特段の事情があると争った。

 (争点)
 本件無断譲渡について、信頼関係を破壊しない特段の事情があるか否か。

 (判決の要旨)
 裁判所は、借家人から本件建物賃借権を譲受けたものが借家人の義理の兄弟であり、両者の交代の前後を通じて本件建物での営業内容に大きな変化がないことまた、右本件賃借権譲渡が無償で行われたものであり、賃料支払につき延滞がなく、家主の不利益がさほど大きいと認められないこと、他方本件の建物明渡が認められた場合には本件建物賃借権を譲受けたものの家族の生活の拠点が奪われることになるので、本件賃借権の譲渡は信頼関係を破壊しない特段の事情があるというべきであるとして、家主の本件建物明渡請求を棄却した。

 なお、この場合、誰が借家人になるのかの点については、賃借権の譲受人ではなく、依然として、本件賃借権の譲渡人であると判示した。

 (短評)
 判例は、賃借人に無断譲渡・転貸があった場合には、それだけで、賃貸借契約をの解除を認めるのではなく、右譲渡・転貸が賃借人に対する信頼関係を破壊するに足りない特段の事情がある場合には、賃貸借契約の解除を認めないとする。(最高裁昭和39年6月30日判決、民集18‐5‐991等)

 これまで右判例理論に基づき、地方裁判所や高等裁判所段階でも多数の判決が存在するが、本判決も、賃借権の無断譲渡に該当するとしながら、判決理由の内容からして契約解除を認めなかったものであり、従来の判例理論に従ったものといえる。

 なお、賃貸借解除が認められない場合の賃借人については、近時の判例理論は、賃借権の譲渡があった場合と同様に賃借権の譲受人がなるというのが通例である。しかし、この点本判決は異例といえる。   (1993.11)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2008年10月 9日 (木)

「家賃滞納したら鍵換えられ違約金」 入居者が提訴

 「敷金や礼金、仲介手数料ゼロ」をうたう不動産会社「スマイルサービス」(東京都新宿区)の物件入居者5人が8日、スマイル社などを相手取り、約1200万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。家賃を滞納した際に無断で鍵を換えられたほか、法外な違約金を支払わされたと訴えている。

 原告側弁護団によると、スマイル社は都内を中心に物件を展開し、「ゼロゼロ物件」として知られる。初期費用が安いため入居者はフリーターや外国人が多く、「訴訟を通して貧困層を狙ったビジネスを問いたい」としている。

 訴えなどによると、スマイル社は一般的な賃貸借契約ではなく、鍵自体を貸し出すことで一時的に部屋を利用できる特殊な賃貸契約を結ぶ仕組みで、入居者保護を目的とした借地借家法の適用を免れていると主張。スマイル社はこの契約を根拠に、賃料の滞納があると室内の荷物を撤去したと反論している。原告側は、こうした行為は「住居侵入罪といった犯罪性が高く、プライバシーや居住権を侵害している」と主張している。(向井宏樹)

2008年10月8日
asahi.com(朝日新聞社)


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2008年10月 6日 (月)

損害賠償等マンション上階の騒音

 判例紹介


東京地方裁判所平成19年10月3日判決
言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成17年(ワ)第24743号 損害賠償等請求事件
(平成19年8月10日口頭弁論終結)

                  判      決

東京都板橋区××××
 原 告 A
 同訴訟代理人弁護士 保 坂 光 彦

東京都板橋区××××
 被 告 B

                  主       文

1 被告は,原告に対し,36万円及びこれに対する平成17年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを6分し,その5を原告の,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

                  事 実 及 び 理 由

第1 請求
被告は,原告に対し,240万円及びこれに対する平成17年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 争いのない事実等(末尾に証拠等の記載されていない事実は,当事者間に争いがない )。

 原告は,平成8年7月29日,東京都板橋区a b丁目所在のマンション(1)であるc(以下「本件マンション」という。 )の別紙物件目録記載1の建物(その広さは3LDKである。以下「原告住戸」という。 )をその妻と共に各持分2分の1の割合で買い受け,そのころから妻と共に原告住戸に居住している。

 被告は,平成16年2月ころ,原告住戸の階上の別紙物件目録記載2の建物(その広さは3LDKである。以下「被告住戸」という。 )を他から賃借してそこに居住し,少なくとも同年4月ころ以降は,妻,長男(当時3から4歳)と被告住戸に同居していたが,平成17年11月17日に妻,長男と共に被告住居を退去した。

 (2) 本件マンションの敷地は第1種中高層住居専用地域に属しており,本件マンションの北側には,駐車場を置いて片側1車線の道路があるが,本件当時の原告住戸の暗騒音は,27~29dBである(甲25,弁論の全趣旨) 。

2  原告は,被告に対し,被告住戸から原告住戸に及んだ子供が廊下を走ったり,跳んだり跳ねたりする音(以下「本件音」という。 )が受忍限度を超えていると主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料200万円及び弁護士費用40万円の合計240万円並びにこれに対する不法行為の後である平成17年12月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求
めている。

3  争点及びこれに関する当事者の主張
 本件音が一般社会生活上原告が受忍すべき限度を超えていたか否か

(原告の主張)
 被告が平成16年2月ころに被告住戸に転居して以来,被告住戸から本件音が原告住戸に及ぶようになった。都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(平成12年東京都条例第215号,以下「本件条例」という。 )は,第1種中高層住居専用地域につき,音源の存在する敷地と隣地との境界線における音量を,午前6時から午前8時まで45dB,午前8時から午後7時まで50dB,午後7時から午後11時まで45dB,午後11時から翌日午前6時まで45dBと規制しているが,本件音は,ほぼ毎日夜間を含め,上記規制を超えている。

 被告は,原告及び本件マンションの管理組合から再三にわたり注意や要請を受けたにもかかわらず,一向に改善する意思を見せなかった。これは,本件で最も問題とされるべきである。

 以上によれば,本件音が一般社会生活上原告が受忍すべき限度を超えていたということができる。

(被告の主張)
原告の上記主張は争う。

 被告は,その長男が原告住戸に音を生じさせないように細心の注意を払うとともに,床にマットやカーペットを敷くなどの対処をしていた。被告の長男は,平成16年4月に被告住戸に同居を開始し,その後10日から15日の間は,被告住戸に慣れず,午前零時から1時ころまで起きていたが,それ以降はほぼ毎日午後10時ころには就寝していた。被告は,原告が一方的に被告の言い分を聞かずに静かにす
るようにと言うだけであるので,原告に対し,これ以上は静かにできない,文句があるなら建物に言うようにと述べたものである。

 以上によれば,本件音が一般社会生活上原告が受忍すべき限度を超えていないということができる。

第3  当裁判所の判断

1 第2の1の争いのない事実等,証拠(甲1,甲4[枝番を含む] ,甲5の1から5まで,甲7,甲8の1から3まで,甲12,甲13の3及び6,甲15,甲18,甲24,甲26の2の1から4まで,乙2,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

 (1) 本件マンションは,昭和63年6月ころに建築されたものであり,その2階の床の構造は,150mm厚のコンクリートスラブ,その上の居間の仕上げがフェルト8mm下地の上にカットアンドパイルカーペット毛足7mmの敷き込み,和室の仕上げが防湿シートとスタイロ畳55mmであり,重量床衝撃音遮断性能(標準重量床衝撃源使用時)は,LH-60程度であり,日本建築学会の建築物の遮音性能基準によれば,集合住宅の3級すなわち遮音性能上やや劣る水準にある。

 本件マンションの所在する土地は,第1種中高層住居専用地域に属しており,本件マンションの北側には,駐車場を挟んでバスも通行する片側1車線の道路が存在する程度であり,本件当時の原告住戸の暗騒音は,27~29dB程度である。

 (2) 原告は,平成8年7月29日,その妻と共に各持分2分の1の割合で原告住戸を買い受け,そのころから妻と共に原告住戸に居住していた。

 被告は,平成16年2月ころ,原告住戸の階上の被告住戸を賃借してそこに居住し,少なくとも同年4月ころ以降は,妻,長男(当時3から4歳)と被告住戸に同居していた。

 被告が被告住戸に居住を開始する前は,被告住戸から原告住戸に及ぶ音は,とりたてて問題とするものではなかったが,被告が被告住戸に居住を開始して以来,その長男が被告住戸にいるときは,同人が被告住戸を走り回ったり,跳んだり跳ねたりすることが多くなり,本件音を原告住戸に及ぼすようになった。

 被告は,被告住戸に入居するに際して原告住戸に挨拶をしておらず,原告との間で近所づきあいもなかったため,原告は,本件マンションの管理人に相談し,その結果,本件マンションの管理組合名で,本件マンションの各戸に音,特に,子供が室内を走り回ったり,跳び跳ねたりする音などに注意するように呼びかける内容の同年3月4日付け書面が配布された。

 しかし,本件音の状況が改善されないので,原告は,上記管理人と相談し,同年4月22日,被告あてに,子供が室内や廊下を走ったり,跳ねたりする音が原告住戸に響いて困っているので配慮をお願いする旨の手紙を被告住戸に投函した。

 被告は,末尾に謝罪文言は記載しているものの,被告住戸から原告住戸に本件音が及んだ際に,原告が原告住戸から天井を物で突いたことを非難する内容の手紙を原告住戸に投函した。

 原告は,同年5月,被告住戸を訪ね,被告と話し合ったが,その際,被告は,これ以上静かにすることはできないので,文句があるなら建物に言ってくれと乱暴な口調で突っぱねた。

 その後,原告が被告住戸に本件音につき抗議に行っても,被告は応対しなくなり,同年6月22日,原告が原告住戸付近で被告と出会って騒音に対する配慮を求めた際,被告は,本件音が原告住戸に及ばないように努力しているが,これ以上は努力することができない,被告も被告住戸にいる時があるから本件音のことは知っている,原告はうるさい,原告が被告に直接訴えても無駄であるから,他の人に訴えるようにと乱暴な口調で言い,原告の妻が被告と会った際に静かにして下さいと被告に頼んでも,被告は,警察でもどこでも行けばよい,どうせ理事会では何もしてくれないのだろうと言ったりするなど原告の申入れを取り合おうとしなかった。

 本件マンションの管理組合は,原告の申入れに基づき,同年6月28日に日常の生活音について配慮することを求める内容の書面を掲示板に掲載したり,同年7月17日に本件マンションの各戸に配布したりし,原告は,本件マンションの管理会社や警察にも相談し,警察官も数回本件マンションを訪れたが,解決には至らなかった。

 そこで,原告は,本件マンションの管理会社から訴訟で解決するほかないとの指摘を受けたことを踏まえ,客観的なデータを残すほかないと考え,自らMDプレーヤーなどを購入したり,騒音計のリースを受けるなどし,平成16年9月21日以降,騒音計をリビングダイニングのほぼ中心から廊下寄りの位置で,天井から約70cm~1mの位置に設置し,C特性で測定した。耳の感度に近似するのは,A特性であり,財団法人建材試験センターによる試験の結果,原告の測定した床衝撃系騒音についてC特性をA特性に補正するためには,補正量がマイナス12dB程度であることが判明したため,これによって補正すると,平成17年7月31日までの間はほぼ毎日本件音が原告住戸に及んでおり,その程度は,50~65dB程度のものが多く,午後7時以降,時には深夜にも原告住戸に及ぶことがしばしばあったこと,本件音が長時間連続して原告住戸に及ぶこともあったことが明らかになった。

 少なくとも被告の長男が原告住戸に居住するようになった平成16年4月ころから上記騒音計を設置するまでの状況も同様であったと考えられるし,平成17年8月以降も,本件音の測定自体は十分にはされていないが,被告が同年11月17日に妻,長男と共に退去するまでその状況はほぼ同様であった。なお,同年になってからは,被告の長男が保育園に通うようになり,保育園に行っている間は,本件音は,原告住戸に及ばなくなった。また,被告は,被告住戸の床にマットを敷いたものの,その効果は明らかではない。

 本件音と被告の上記対応につき,原告は,精神的に悩み,原告の妻には,同年10月7日,咽喉頭異常感,食思不振,不眠等の症状も生じたため,原告の妻は倉科内科クリニックで通院加療を受けた。

 原告は,同年4月8日,被告に対し,騒音の差止め及び損害賠償を求める旨の調停を求めたが,被告は,これに応じなかったため,調停不成立により,調停は終了した。

 上記認定事実に基づき,本件音が一般社会生活上原告が受忍すべき限度を超えているか否かについて判断する。なお,本件音のようなマンションの階上からの生活音については,本件条例136条は適用にはならない。

 本件音は,被告の長男(当時3~4歳)が廊下を走ったり,跳んだり跳ねたりするときに生じた音である。
 本件マンション2階の床の構造によれば,1重量床衝撃音遮断性能(標準重量床衝撃源使用時)は,LH-60程度であり,日本建築学会の建築物の遮音性能基準によれば,集合住宅の3級すなわち遮音性能上やや劣る水準にある上,本件マンションは,3LDKのファミリー向けであり,子供が居住することも予定している。

 しかし,平成16年4月ころから平成17年11月17日ころまで,ほぼ毎日本件音が原告住戸に及んでおり,その程度は,かなり大きく聞こえるレベルである50~65dB程度のものが多く,午後7時以降,時には深夜にも原告住戸に及ぶことがしばしばあり,本件音が長時間連続して原告住戸に及ぶこともあったのであるから,被告は,本件音が特に夜間及び深夜には原告住戸に及ばないように被告の長男をしつけるなど住まい方を工夫し,誠意のある対応を行うのが当然であり,原告の被告がそのような工夫や対応をとることに対する期待は切実なものであったと理解することができる。

 そうであるにもかかわらず,被告は,床にマットを敷いたものの,その効果は明らかではなく,それ以外にどのような対策を採ったのかも明らかではなく,原告に対しては,これ以上静かにすることはできない,文句があるなら建物に言ってくれと乱暴な口調で突っぱねたり,原告の申入れを取り合おうとしなかったのであり,その対応は極めて不誠実なものであったということができ,そのため,原告は,やむなく訴訟等に備えて騒音計を購入して本件音を測定するほかなくなり,精神的にも悩み,原告の妻には,咽喉頭異常感,食思不振,不眠等の症状も生じたのである。

 以上の諸点,特に被告の住まい方や対応の不誠実さを考慮すると,本件音は,一般社会生活上原告が受忍すべき限度を超えるものであったというべきであり,原告の苦痛を慰謝すべき慰謝料としては,30万円が相当であるというべきである。

 そして,被告は,原告が申し立てた調停による解決も拒み,そのため,原告は,本件訴訟を原告訴訟代理人弁護士に委任せざるを得なくなったものであること,その他本件事案の内容,審理経過,認容額等を考慮すると,本件による弁護士費用として,被告に対して損害賠償を求め得る額は6万円と認めるのが相当である。

2  以上の次第で,原告の請求は主文1項掲記の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する(なお,被告は,本件訴訟係属後,弁論準備手続期日に連絡することなく出頭しないことがあり,当裁判所は,平成19年6月26日の弁論準備手続期日において,弁論準備手続を終結させ,同年8月10日の口頭弁論期日において,原告と被告の各本人尋問を行うことを決定し,上記弁論準備手続期日に出頭していた被告に対し,同年7月13日までに陳述書を提出し,本人尋問の申出書を提出すること,上記口頭弁論期日には必ず出頭するように指示し,被告が上記期限内に上記陳述書及び申出書を提出しないので,裁判所書記官は,被告に対し,上記陳述書及び申出書の提出を催促するとともに,上記口頭弁論期日には必ず出頭するように連絡したが,被
告は,上記陳述書及び申出書を提出せず,上記口頭弁論期日にも出頭しなかったものである。)。

             東京地方裁判所民事第49部

                         裁判官  中 村  也 寸 志 


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2008年9月18日 (木)

敷・礼なし「ゼロゼロ物件」トラブル続出、若者ら提訴へ

 敷金・礼金なしでマンションやアパートが借りられるとして低所得者にも人気の「ゼロゼロ物件」。だが、「家賃の支払いが数日遅れただけで、部屋の鍵を交換された」といった苦情も多く、入居者への強引な措置が問題となっている。

 こうした中、同物件の入居者が10月、不動産会社に慰謝料など1人あたり数百万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こす。非正規雇用の拡大など収入の不安定な人が増える中、被害対策弁護団は「行き過ぎた『貧困ビジネス』は見過ごせない」と話している。

 提訴するのは、不動産会社「スマイルサービス」(東京)のゼロゼロ物件に入居する都内の男性ら20~30歳代の3人。弁護団によると、同社の物件では、敷金・礼金を払わなくていい代わりに、家賃の支払いが1日でも遅れると、家賃約6万円に「違約金」などの名目で約2万円が上積みされる決まりで、無断で部屋の鍵を換えられたり、留守中に荷物を処分されたりしたケースもあった。

 マンションに入居する場合、借地借家法に基づく賃貸借契約を結ぶのが一般的で、通常は正当な理由なく一方的に解約されない。しかし、同社は「鍵の一時使用」という特殊な契約形態を採り、契約書に「居住権は認められない」と記載していたため、いつでも解約できる内容になっていた。

 スマイルサービスから相談を受けている宮岡孝之弁護士によると、約4000件のゼロゼロ物件を展開する同社は現在、違約金徴収をやめ、契約も8月から賃貸借契約に順次切り替えを進めているという。宮岡弁護士は、「契約に望ましくない部分があったのは事実。提訴されれば、相応の賠償に応じる用意はある」と話している。

 一方、被害対策弁護団の宇都宮健児弁護士は「鍵の利用契約とするのは脱法行為で、低所得者の弱みにつけ込んだビジネスだ。他の業者に警告する意味でも、法的責任を明らかにしたい」と話している。

 今回、提訴を予定している30歳代の男性は、日雇い派遣として働いていた2年前、インターネットで同社の物件を見つけ、家賃5万8000円で、ロフト付きワンルーム(6畳)の部屋に入居した。しかし、仕事が少ない月には支払いが滞ることもあり、これまでに鍵を5回ほど勝手に交換され、違約金も10回以上支払った。「就寝中いきなり部屋に入ってきた業者に追い出され、ネットカフェで過ごしたこともある」という。

 「家賃滞納で住居侵入はやりすぎ」と提訴に踏み切ることにしたが、それでも、「ネットカフェや路上で暮らすのは絶対に避けたいので、ここに住み続けるしかない」と声を落とす。

 ゼロゼロ物件は東京の賃貸アパート大手が約20年前に始め、各地に広がった。初期費用が少なくて済むため、低所得の若者に人気だが、家賃滞納者への対応は厳しく、数か月の滞納で立ち退き訴訟を起こされることも多い。

 大手業者などは、強引な取り立てを行わないようにするなど、運用を改善しているとするが、弁護団が今年7月に実施した電話相談には計65件の相談が寄せられ、スマイルサービス以外の業者への苦情や相談も、42件に上った。
                   

(読売新聞) 2008年9月18日(木)

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「敷金・礼金・仲介手数料ゼロ」 その裏に潜むとんでもない事態 (J-CASTニュース


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2008年7月19日 (土)

「敷金・礼金・仲介手数料ゼロ」 その裏に潜むとんでもない事態

   「敷金・礼金・仲介手数料・リフォーム費用0円」をうたう不動産会社・スマイルサービスに、家賃を滞納すると無断で鍵を交換され、違約金を支払わされたとして、同社の物件に入居する男性らが同社を提訴する。同社は「係争中」を理由に取材に応じていないが、提訴する弁護士からは「貧困層の若者らを狙った悪質な貧困ビジネス」という指摘まで出ている。

「貧困層の若者等をターゲットにした悪質なビジネス」

   東京・西新宿にある不動産会社スマイルサービスは「敷金・礼金・仲介手数料・リフォーム費用0円」をうたっているが、同社が家賃を滞納した際に無断で鍵を交換し、「生存確認出張料」などと称した違約金を支払わされたとして、同社の物件に入居する男性らから提訴されることが2008年7月16日に明らかになった。

「貧困層の若者等をターゲットにして、そういう人たちの困窮や無知につけ込んだ悪質な『貧困ビジネス』と思われる」

   この日会見した被害者弁護団の宇都宮健児弁護士はスマイルサービスの契約行為についてこのように述べた。弁護団によれば、家賃を1日滞納しただけで無断で鍵を交換され、違約金を支払わなければ部屋に入れなくなるケースが相次いでいるという。同社の物件に入居する男性ら4~5人が原告となり、住居侵入・消費者契約法違反・器物損壊などを理由に、同社を相手取って訴訟を起こす準備を進めている。

   弁護団などによれば、本来ならば借地借家法によって借主の保護が重視されている。同社は書面上で「施設付鍵利用契約」を借主と結び、それを理由に無断で鍵を交換するなどしているようだ。実際に、自分の家に帰って来たらいつの間にか鍵が交換され、荷物が部屋にあるのにネットカフェで過ごすことを余儀なくされたり、就寝中に突然部屋に侵入してきて違約金を請求されるなどのケースがあった。一日でも滞納すると「生存確認出張料」と称した1万500円に加え、違約金として家賃の10%を請求されるという。

違法であることは会社も知っている?

 「契約を結んでいる人の多くは、把握している限りでは、若い人で収入が安定していない人、非正規雇用の人だ」

とJ-CASTニュースに話すのは被害者弁護団の戸舘圭之弁護士。戸舘弁護士によれば、スマイルサービスが家賃の支払いが数日遅れただけで、家賃の30%以上もの違約金を請求するのは消費者契約法違反にあたるという。

「こうした違約金が違法であることはむこう(スマイルサービス)も知っているので、違約金は請求すれば返還している。しかし、その違法性を認めておきながら、こうした契約を続けているのは悪質。実態は賃貸借なのだからこうした契約は脱法行為で、(住居侵入などは)犯罪行為に当たる」

   J-CASTニュースではスマイルサービスに取材を申し込んだが、「係争中なのでコメントを差し控える」としている。また、どういう契約を結んでいるのか聞いてみても「係争中」を理由に説明を拒んでいる。戸舘弁護士は「本来なら行政が住宅サービスなどセーフティネットを整えるべきだが、それが整っていないために、こうした貧困層を狙うかたちのビジネスが今後増える可能性がある」と指摘している。

J-CASTニュース 2008/7/17


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2008年6月13日 (金)

国籍又は民族性を理由とする差別による賃貸マンションへの入居拒否

 判例紹介

事件番号      平成17(ワ)11364
事件名    損害賠償請求事件
         賃貸マンションへの入居拒否

裁判所    大阪地方裁判所 第20民事部
裁判年月日
 平成19年12月18日

裁判概要   日本で生まれ育った在日韓国人2世である原告が,賃貸住宅の入居に関して原告の国籍又は民族性を理由とする差別を受け,精神的苦痛を被ったことについて,これは被告が人種差別を禁止する条例を制定していないことによるものであり,同不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法であると主張して,被告に対し,上記精神的苦痛に係る慰謝料等450万円及び遅延損害金の支払を求める事案。

判示事項  あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約2条1項柱書き及び同項(d)の規定は,私人間の人種差別を禁止させるための立法措置を執ることについて,個別の国民に対する締約国の具体的作為義務を定めたものではない。

                   主        文

 1 原告の請求を棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。

                     事 実 及 び 理 由

第1 請求
 1 被告は,原告に対し,450万円及びこれに対する平成17年1月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
 3 仮執行宣言

第2 事案の概要及び前提事実
 1 本件は,日本で生まれ育った在日韓国人2世である原告が,賃貸住宅の入居に関して原告の国籍又は民族性を理由とする差別を受け,精神的苦痛を被ったことについて,これは被告が人種差別を禁止する条例を制定していないことによるものであり,同不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法であると主張して,被告に対し,上記精神的苦痛に係る慰謝料等450万円及び遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実(証拠[甲1~3,6,8,15,46,51,原告本人]により容易に認定できる事実及び当裁判所に顕著な事実)

 (1) 原告は,日本で生まれ育った在日韓国人2世である。

 (2) 原告は,平成17年1月9日,株式会社エイブル梅田新道店(以下「エイブル」という。 )に賃貸住宅の紹介及び賃貸借契約の仲介を依頼した。

 (3) エイブルは,同月11日から同月14日までの間,原告に対し,複数の物件情報を紹介した。その中には,大阪市a区b町c丁目d番地所在の建物(以下「本件建物」という。 )が含まれていた。

 (4) 原告は,同月15日,本件建物に入居したいと考えて,エイブルの店長に対し,その旨伝えた。同店長は,本件建物の共有者の1人(以下「本件家主」という。 )に対し,電話で,原告が本件建物への入居を希望していることなどを伝えた。
同店長は,上記電話の後,原告に対し,本件家主が原告の入居を拒否した旨伝えた。
同店長は,本件家主に対し,再度電話をして説得したが,本件家主の意思は変わらず,原告は,本件建物への入居を申し込むことができなかった(以下,上記の出来事を「本件入居拒否」という 。)。

 (5) 原告は,同年11月17日,大阪地方裁判所に対し,本件家主を被告として,本件入居拒否は原告の国籍又は民族性を理由とする差別であり,本件入居拒否により精神的苦痛を受けたと主張して,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。原告及び本件家主は,平成19年3月13日,同訴訟事件において裁判上の
和解をし,本件家主は,原告に対し,同和解に基づき,解決金として100万円を支払った。

第3 争点及び当事者の主張
 本件の争点は,1 本件入居拒否が生じた時点までに被告が人種差別を禁止する条例を制定しなかった不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか,2 原告の損害(本件入居拒否が人種差別に当たるかどうかを含む。 )の有無及びその額以上の2点であり,これらに関する当事者の主張は,以下のとおりである。

 1 本件入居拒否が生じた時点までに被告が人種差別を禁止する条例を制定しなかった不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか(争点①)について

(1) 原告の主張
ア 人種差別に関して国及び地方公共団体が憲法及び条約上負う義務の内容
 (ア) 憲法上の義務
 憲法14条1項が定める平等原則は,国籍又は民族性を理由とする差別(以下「生まれによる差別」という。 )である封建的身分を否定し,人は皆その価値において等しく尊重されるべきとする人間平等の思想を前提とするものであり,近代社会の基本的な秩序として近代的平等原則の核心を成すものである。憲法14条1項後段は 「人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない」と規定し,生まれによって決定される具体的な先天的事項を列挙してそれらに基づく差別を特に禁止している。このことは,生まれによる差別の禁止という平等原則の核心部分の確認であり,この核心部分は近代社会の公序を形成する。したがって,生まれによる差別は,公権力によるものだけではなく,私人によるものであっても公序に反するものとして,当然に違法となる。

 また,住居は,人間生活の基盤であり,人格的生存のための最も基本的かつ不可欠な要素であることからすれば,住居を確保することは,憲法13条,25条1項,22条1項により保障される基本的人権であり,適切な住居を得る自由権的性格及び生活の基礎として適切な住居を確保することを求める社会権的性格を有する複合的権利である。この住居を確保する権利は,憲法14条1項によって平等に保障されなければならない。

 本件入居拒否のような生まれによる差別は,社会の中に構造的に組み込まれている偏見に根ざすものであり,今日においても,単発的,偶発的な例外事象ではなく,多発している状況である。このような状況の下では,国は,憲法14条1項に定める差別の禁止を実効的なものにするために,民事上の損害賠償請求等による解決にゆだねるだけでなく,生まれによる差別を禁止し,終了させるためのあらゆる施策を積極的に展開しなければならず,このことは憲法14条1項に基づく国の義務である。そして,被告は,公権力の一翼を担う地方公共団体であり,その行為は国際的には国家行為とみなされ,条例制定権,地方公共団体の自治行政権を有する主体であるから,国と同様の義務を負うというべきである。

(イ) 国際条約上の義務
a 条約の国内法的効力
 日本が平成7年12月20日に加入したあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(以下「本件条約」という )は,締約国(地方公共団体を含むと解する。 )自身による人種差別行為を禁ずるとともに,その2条1項柱書きで 「締約国は,人種差別を非難し,また,あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとることを約束する。このため 」と規定した上,同項(d)で 「締約国は,すべての適当な方法(状況により必要とされるときは,立法を含む。 )により,いかなる個人,集団又は団体による人種差別も禁止し,終了させる 」と規定し,締約国(地方公共団体を含むと解する。 )に対し,国内における「人種差別を非難し,また,あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとる」義務及び「すべての適当な方法(状況により必要とされるときは,立法を含む )により,いかなる個人,集団又は団体による人種差別も禁止し,終了させる」義務を定めている。

 日本が批准,加入した国際条約は,一般に法律に優越する国内法的効力が認められている。また,本件条約は,その内容に照らし,締約国内の差別事象のみを対象としており,日本は,上記各義務を遵守するために,本件条約の趣旨に合致するよう国内の差別事象を防止,禁止,終了又は救済するほかない。したがって,本件条約は,その締約国である日本において憲法に次ぐ国内法規範となるものであり,上記規定は,これらの義務違反を判断する上で裁判規範となるものである。

b 本件条約に定める人種差別撤廃義務について
 本件条約2条1項(d)の規定内容及び同項が定める義務のうちの人種差別を禁止する義務(以下「差別禁止義務」という )は,条文構造上,同差別を終了させる義務(以下「差別終了義務」という。 )とは異なり,条約の批准,加入の時点で直ちに実施されるべき即時的なものと解するべきであることからすると,国及び地方公共団体が本件条約上負う差別禁止義務は,それぞれの法域で適当とされる方法を通じて人種差別撤廃のための措置を執るべきことを具体的に義務づけたものである。

 そして,本件条約5条柱書き及び同条(e)(iii)によれば 「第2条に定める基本的義務に従い,締約国は,特に次の権利の享有に当たり,あらゆる形態の人種差別を禁止し及び撤廃すること並びに人種,皮膚の色又は民族的若しくは種族的出身による差別なしに,すべての者が法律の前に平等であるという権利を保障することを約束する 」と規定して 「住居についての権利」を挙げている。したがって,本件条約2条1項柱書き及び同項(d)に定める上記各義務は,締約国(地方公共団体を含むと解する )に対して単なる政治的責務を定めたにすぎないものではなく,具体的な作為義務を定めたものであり,本件入居拒否のような住居についての権利を侵害する差別を禁止することは,本件条約の下で法的義務とされていることは明らかである。

c 国及び地方公共団体の裁量について
 本件条約における国及び地方公共団体が実現すべき目的は,人種差別を禁止し,終了させるという明確なものである。このように目的が明確である場合には,国及び地方公共団体は,当該目的達成のためにいかなる手段を執るかという点に裁量権を有するにとどまり,何もしないという選択肢を有しているものではない。そして,人種差別を禁止し,終了させるためにある適当な方法を執った場合において,それにより人種差別を禁止し,終了させることができないときは,更に別の適当な方法を執らなければならず,その方法の選択に関して裁量の逸脱があれば違法となる。

d 国及び地方公共団体の立法義務
 本件条約に基づいて国及び地方公共団体が執るべき施策,措置は,いかなる人種差別も禁止し,終了させるものでなければならない。憲法14条は私人によるものも含む人種差別を禁止しており,国及び地方公共団体による教育,啓発活動が行われ,個別の事案においては損害賠償請求等による救済もされているが,それにもかかわらず,本件入居拒否のような人種差別事象が多発している。また,本件条約2条1項(d)及び6条によれば,本件条約は,締約国に対し,私人間の人種差別事象に関して立法(条例を含む。 ),行政(地方自治行政を含む 。)及び司法を総動員して人種差別の防止,禁止,終了及び救済措置を講ずることを義務づけているところ,散発的に人種差別事象が発生しているにすぎない場合においては,民事上の損害賠償請求によって本件条約上の差別禁止義務を尽くしたと評価されることもあり得るが,相当の規模の人種差別事象が発生している場合には,民事上の損害賠償請求では人種差別を防止するには不十分であり,その場合に司法のみに差別禁止義務を負わせるという対応は,本件条約の趣旨に沿うものではない。したがって,国及び地方公共団体が立法によらないで人種差別禁止のための措置,施策を執ったものの,それによって人種差別を禁止し,終了させることができない場合には,法律上人種差別を禁ずる義務を課す以外に有効で適当な方法はなく,この場合には,国及び地方公共団体はその旨の立法措置を執らなければならないというべきである。

 民族差別,外国人差別の度合いは,全国一律のものではなく,当該地域の歴史的,社会的条件によって現れ方が一様でない。これらの差別を禁止し,終了させるためには,それぞれの地域の実情に応じた対応を可能にする立法措置が執られるべきである。また,本件入居拒否のような差別を無くすためには,個々の具体的な人種差別事象を把握し,それぞれの事案に応じた適切な措置を講ずることが必要である。このような措置は,地方自治法が「住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本」としているように(同法1条の2第2項) ,国よりも地方公共団体,それも市町村レベルの方がよりよく行うことができる。

 地方公共団体が人種差別を禁ずる法的義務を課するためには,法令に特別の定めがある場合を除くほか,条例によらなければならない(同法14条2項)ところ,日本政府は,本件条約上の義務の国内的履行に関して,現行法の運用によってその履行が可能であり,その履行のために新たな立法を必要とするものではないとの立場に立っていたから,地方公共団体が上記法的義務を課する条例を定めることに支障はない。

 以上によれば,事案に応じて人種差別を禁止し,終了させる適切な措置を具体的に実施する義務は,地方公共団体である市町村がこれを負うものというべきであり,市町村は,国による新たな立法措置を待たずに,本件条約への加入及びその発効により,本件条約上の義務を履行するための措置として住居についての権利に係る差別を含む生まれによる差別を禁止する条例(以下「差別禁止条例」という )を制定しなければならない法的義務が課せられた。なお,同条例には,賃貸人又は宅地建物取引業者(以下「宅建業者」という )が入居拒否を行った場合に強制力のある中止命令や罰則を伴うことは必ずしも必要ではないが,これらを伴う方が望ましい。この場合,それらが他の法律と抵触する内容のものとなるとしても,人種差別を禁止し,終了させるために必要不可欠である限り,法律より上位の憲法及び条約上の義務の履行として行われるものであるから,無効なものではないというべきである。

イ 被告の条例制定義務違反
 (ア) 被告が差別禁止条例を制定する必要性及び相当性a 大阪市内における外国人に対する入居差別の実態
(a) 昭和7年版「社会運動の状況」において「近似家主ハ朝鮮人ニ対シ貸家ヲ嫌忌スルノ傾向アリ」と報告されているところ,その当時,このような状況が全国共通のものであった。大阪市内には,歴史的な経緯から在日韓国・朝鮮人が多く居住しており,第2次世界大戦以前の朝鮮人蔑視の態度が同大戦以後も続き,民間賃貸
住宅の家主がこれらの者に対して外国人であることを理由にその入居を拒否するという入居差別問題が継続して頻発していた。被告は,遅くとも昭和52年ころには,このような入居差別の問題が存在していることを認識していた。

 (b) 平成5年6月18日,大阪地方裁判所において,マンションの賃貸借に関して借入申込者が外国人(在日韓国人)であることを理由に家主が入居を拒否したことが,契約準備段階における信義則上の義務に違反し,家主は損害賠償義務を免れないとした判決が言い渡された。

 (c) 被告は,昭和57年に市民生活局内に人権啓発課を設置したが,同年以降も,大阪市内における外国人に対する入居差別を防止することができなかった。

 b 以上のような状況及びこれらの入居差別について個別救済としての民事上の損害賠償が命じられてもなお入居差別事象が発生していたことからすると,本件条約が日本において発効した平成8年1月14日ころの時点には,賃貸人及び宅建業者に対して何らかの法的な義務を課することなく外国人に対する入居差別を禁止し,終了させることができないことは明らかであったし,被告はそのことを認識していたということができる。したがって,上記時点において,被告が大阪市内における外国人に対する入居差別を禁止し,終了させるためには,賃貸人及び宅建業者に対して外国人に対する入居差別を禁止する法的義務を課す内容の条例を制定する以外に執り得る適当な方法がなかったことは,一義的に明らかな状況であり,上記時点のころには,被告において,憲法及び本件条約に基づき,差別禁止条例を制定すべきことが状況により必要とされる事態に至っており,被告は同条例を制定する法的義務を負っていた。

 c 被告は,上記時点以降も,人種差別撤廃への取組に関して,① 平成11年4月に大阪市人権行政基本方針を策定し,② 平成12年に大阪市人権尊重の社会づくり条例を制定し,③ 平成6年11月に設置した大阪市外国籍住民施策有識者会議が平成9年7月に出した提言を踏まえ,平成10年3月に「大阪市外国籍住民施策基本指針-共生社会の実現を目指して- (甲34の1。以下「住民施策基本」指針」という )を策定し,平成16年3月に同指針を改定し,④ 相談事業,関係機関と連携した差別事象への対応,賃貸人,宅建業者に対する啓発事業を行っているという。しかし,①の大阪市人権行政基本方針は,一般的な人権尊重の指針にすぎず,被告が具体的にどのような施策を行うかは,同方針からは明らかではない。②の大阪市人権尊重の社会づくり条例は,被告に対する抽象的な義務を規定するにとどまるものであり,賃貸人又は宅建業者に対して直接に行政指導,勧告をすることができるというものではなく,被告が具体的にどのような施策によって差別を解消するのかについては明らかでない。3の住民施策基本指針は,その目標達成のための取組として人権啓発や行政サービスを多言語で提供するなどというものであり,実際に差別が生じたときにどう対処し,救済するかという問題に応えるものではなく,入居差別を防止し,救済するには効果的でない。4は,相談者の自主的解決を支援したり,専門家相談を実施するという内容のものであり,被告が主体的に差別事象の禁止及び救済措置を執る内容のものではない。このように,以上の施策等は,いずれも外国人に対する入居差別を解消させ得るものではなく,大阪市内ではこの間も外国人に対する入居差別が頻繁に発生しており,被告の調査においても,以下のとおり,差別状態が明らかになっている。

 平成13年3月末日当時,大阪市内の外国人登録者は11万8926人であり,そのうち80.7%が韓国・朝鮮籍であったところ,被告は,同月末日現在大阪市内に居住している20歳以上の外国人登録者を母集団とする大阪市外国籍住民の生活意識についての調査(標本調査)を行い,平成14年3月,同調査の結果をまとめた報告書(甲35の1)を発表した。同報告書によれば 「住宅・入居において,差別や不愉快な経験,偏見を感じたこと」とする質問に対する回答(重複回答方式)は,全回答者数のうち56.6%が「とくにない」であり, 「回答なし」が11.3%であったから,住宅・入居において差別等を感じた者は32.1%となる。受けた差別の内容に関しては 「家主から日本国籍が必要と言われて,入居を断ら,れた」者が17.3%(差別等を感じた者に対する割合は53.9%。以下,括弧内の数値は同じ割合を表す 「マンション・アパートの入口に『外国人お断り』)と書かれているのを見た」者が13.9%(43.2%), 「家主から入居の際,日本人の保証人が必要と言われて,入居できなかった」者が12.2%(38.0%), 「不動産業者に外国人を理由として,あっせんしてもらえなかった」者が11.8%(36.9%)であった。また,被告は,上記調査と同時に,大阪市内に居住している有権者を母集団として大阪市における外国籍住民との共生社会実現のための意識調査を行い,その報告書(甲35の2)を発表した。同報告書によれば,基本的人権にかかわる問題として有権者が関心を持っているものとして,障害者やその家族に対する差別の問題(39.8%)の次に在日外国人に対する差別の問題(37.3%)が挙がっており,外国籍住民が受けている不利益として,就職時の不利益(34.3%) ,労働条件(25.3% ),結婚時における文化,習慣の違いからくるいやな思い(19.5%)に次いで,住宅への入居拒否(15.2%)が挙げられている。以上のことは,上記各調査が行われた当時,大阪市内に入居拒否を受けた経験を有する外国人登録者が多数いたこと,換言すれば,一定数の家主が外国人に対する入居拒否をしていたことを示している。また,本件入居拒否が行われた時点においても,大阪市内において,外国人に対する入居差別は公然又は隠然として存続していた。

 d 差別禁止条例は,人権保障に資するものであって容易に制定できるものであり,被告が指摘する人種差別撤廃への取組より有効なものである。具体的には,条例という法規範により差別の禁止を宣言することによって,被告の市民に対する教育的効果があり,仲介業者は賃貸人に対して差別禁止条例を根拠に積極的に入居差別を防止するよう働きかけることができ,入居差別による被害を受けた当事者は差別禁止条例を根拠に救済を受けることができる。そして,被告は,差別した者と差別された者との間の自主的解決を支援するという対応にとどまらず,積極的に差別事象に介入することや,賃貸人及び宅建業者に対する入居差別是正のための行政指導をすることが可能となる。

 川崎市は,平成12年に川崎市住宅基本条例を制定した(甲23) 。同条例14条1項は 「何人も,正当な理由なく,高齢者,障害者,外国人等(以下「高齢者等」という。)であることをもって市内の民間賃貸住宅への入居の機会が制約され,又は高齢者等であることをもって入居している民間賃貸住宅の居住の安定が損なわれることがあってはならない 」と規定し,民間賃貸住宅における外国人の入居差別を禁止している。また,同条2項は 「高齢者等の入居の機会の制約又は居住の安定が損なわれることがあったときは,関係者から事情を聴き,必要な協力又は改善を求めるものとする 」と規定し,さらに,同条3項(3)は,高齢者等の民間賃貸住宅への入居の機会の確保及び民間賃貸住宅における居住の安定を図るために民間賃貸住宅への入居に際して必要な保証制度の整備をするなどの施策を実施することを明記している。そして,同市においては,同条例の制定を皮切りに入居差別を禁止するための具体的な施策が施され,同条例の制定後,入居者の限定を行っている家主の割合が減少し,入居者の限定の対象として外国人を挙げる割合も減少している旨の報告がある。

(イ) 被告の義務違反について
 上記(ア)のとおり,被告は,平成8年1月より前に行っていた立法措置以外の方法による施策等では入居差別を解消できない状況にあったところ,同月14日に本件条約が発効して,差別禁止条例を制定する法的義務を負ったにもかかわらず,同条例制定のための措置を何ら執ることなく,その後10年を経過しても,入居差別
事象が多数存在していたことを認識しながら同条例を制定せず,大阪市内の賃貸人や宅建業者の入居差別行為を放置し続けた。そして,その結果,国籍又は民族性を理由とする本件入居拒否を招いた。

ウ 被告の義務違反が国家賠償法1条1項の適用上違法であること
 上記ア及びイのとおり,憲法及び本件条約に基づく被告の差別禁止条例制定義務は具体的な義務であり,遅くとも本件条約が発効した時点で同条例の制定が必要とされる状況にあった。そして,上記イ(イ)によれば,被告が同条例を制定するのに不可避的に要する期間を考慮に入れても,本件入居拒否までに同条例を制定するのに必要な相当期間は経過しているということができる。したがって,被告の同条例制定義務の懈怠(公権力の不行使)は,国家賠償法1条1項の適用上,違法というべきである。

(2) 被告の主張
 被告が人種差別を禁止する内容の条例を制定していないことは認める。この点に関して被告が国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うことは争う。

ア 被告が差別禁止条例制定義務を負わないことについて
 (ア) 本件条約2条1項(d)が定める差別禁止義務については,少なくとも損害賠償や謝罪広告等の命令を伴い得る民事上の制裁が確保されることが必要であり,かつ,それらが確保される場合には,同義務は満たされると解する考え方があるように,同規定は,必ずしも,締約国に対し,直接的に人種差別を禁止することを定める法制度を設けることを義務づけているものではない。また,同義務の具体的内容は,締約国により異なることが当然予定されているものであり,それが一義的に明らかなものということはできない。わが国においては,国籍を理由とする差別を行った者に対し,民事上,損害賠償の支払が命じられており,すでに差別禁止義務は満たされている。

 (イ) 本件条約2条1項(d)は,締約国は「すべての適当な方法(状況により必要とされるときは,立法を含む )により」人種差別を禁止し,終了させる旨規定している。この文言から明らかなように,人種差別を禁止し,終了させるためにどのような施策,措置を執るかは,締約国の裁量判断にゆだねられており,客観的に不可能とはいえないすべての施策,措置という意味での可能なあらゆる施策,措置を執るべきことを締約国に求めているものではない。また,私人による人種差別を完全にすべてなくすということは現実的には不可能であるから,私人による人種差別事象の発生それ自体によって,差別終了義務の違反となるものではないというべきである。差別禁止義務及び差別終了義務は,人種差別の撤廃に向けた必要なあらゆる施策,措置(客観的に不可能とはいえないすべての施策,措置ではない。)を執ること,すなわち,教育,啓発等の措置を含む必要なあらゆる施策,措置を執ることによって人種差別の撤廃に努めるべきことを内容とする一般的な義務であると解されるものである。

 (ウ) 本件条約2条1項(d)は 「立法を含む 」としているが,この立法措置は,「状況により必要とされるとき」に執るものとされている。したがって,被告が,差別禁止のための立法をする義務を負う立場にあるとしても,同義務を負うには① 当該立法措置により人種差別を禁止することができること及び② 当該立法措置以外の方法によっては人種差別を禁止する効果がないという状況が存することが必要である。

 ①の点に関して,原告は,差別禁止条例は,賃貸人又は宅建業者が入居拒否を行った場合に強制力のある中止命令や罰則を伴うものであることは必要でないが,中止命令や罰則を伴うものであることが望ましいと主張する。しかし,中止命令については,それを定めない条例及び単なる中止を命ずることができるという規定を定めた条例の場合には,入居拒否を禁止する効果は期待できず,賃貸人に対して入居を拒否された者を入居させるよう命じることができる中止命令を定める条例である場合には,当該中止命令により賃貸人と入居を拒否された者との間で強制的に賃貸借契約を締結させることとなるところ,このような契約締結の強制は民法601条に違反するものであり,当該中止命令を定めた条例は,憲法94条,地方自治法14条1項の規定に照らし,法律に反する条例として効力を有しないというべきである。また,罰則については,仮に入居差別を禁止する旨及びそれに違反した者に罰則を科する規定を定めた条例を制定したとしても,実際に罰則を適用することができる事例は限られるものと考えられ,また,差別の陰湿化,巧妙化を招く虞がある。以上によれば,差別禁止条例の制定によっても,人種差別を禁止する効果は期待できない。

 ②の点に関して,被告は,差別禁止条例を制定することよりも,人種差別に関する啓発,情報の提供及び差別事象が発生した場合の相談を通じて関係機関との協力,連携を図るなどの施策(手段)によって人種差別の撤廃を図る方が効果的であると判断して,下記a~hの取組を実施しており,それぞれについて人種差別禁止の効果が得られている。

 a 被告は,本件条約に加入するより前の昭和57年,市民生活局内に人権啓発課を設置し,人権施策の推進に取り組んできた。

 b 被告は,平成3年6月,在日外国人問題に関する研究会を設置した。

 c 被告は,平成4年6月,在日外国人問題に関する調査研究会議を設置した。

 d 被告は,平成6年11月,在日外国人問題に関する調査研究会議の報告を受け,外国籍住民の生活にかかわる諸問題及び施策のあり方等について幅広い観点から検討を行うことを目的として,大阪市外国籍住民施策有識者会議を設置した。

 e 被告は,平成10年3月,大阪市外国籍住民施策有識者会議がまとめた提言の趣旨を踏まえて,大阪市外国籍住民施策基本指針を策定し 「外国籍住民の人権の尊重」, 「他文化共生社会の実現」, 「地域社会への参加」を目標として掲げ,各部局の連携,協力の下に同基本指針に係る施策を推進してきた。そして,被告は,平成16年3月,新たな社会情勢の変化等に的確に対応するため,同基本指針を改定した。

 f 被告は,平成11年4月,大阪市人権行政基本方針を策定した。同方針は,だれもが個人として等しく尊重され,共生していく差別のない社会を実現し,自らの人生を自分で切り拓き,自己の能力を発揮でき,いきがいのある人生を創造できる社会を実現していくことを基本理念とし 「人間の尊厳の尊重 」,「平等の保障」及び「自己決定権の尊重」の達成を基本目標としたものである。

 g 被告は,平成12年,人権尊重の社会づくりの推進についての被告及び市民の責務を明らかにするとともに,被告が施策を推進するために必要な事項を定めることにより,すべての人の人権が尊重される社会の実現に寄与することを目的として,大阪市人権尊重の社会づくり条例(平成12年大阪市条例第25号。丙5)を
制定した。

 h 被告は,宅建業者への指導権限を有する大阪府等の関係機関と連携を図り,相談事業において相談の内容に応じて適切な機関を迅速に紹介すること,賃貸人並びに宅建業者に対する啓発及び外国人への情報提供を行うことなどが差別を禁止する条例を制定することより実効性があることから,平成14年9月から,各区役所において人権相談を常時開設している。また,被告は,市民から差別事象の申出があった際には,必要に応じて人権相談ネットワークを活用するなど適切な機関を迅速に紹介することで対応したり,啓発ポスター,チラシの作成,配布,冊子への啓発記事の掲載,各区の広報誌への啓発記事の掲載依頼を行っているほか,大阪府が行う宅建業者を対象とする人権推進指導員養成講座の受講要件としての人権研修を行っている。

 (エ) 以上のとおり,被告については,上記①及び②のいずれの要件も充足していない。原告は,これらの要件が充足していることについて何ら主張せずに,単に賃貸住宅の入居に関して生まれによる差別事象が現在でも存在することのみを理由として,差別禁止条例の制定が必要不可欠であると主張しているにすぎない。

イ 人種差別禁止のために差別禁止条例を制定する以外に適当な方法がない状態にはないこと
 (ア) 原告は,差別禁止条例を制定することにより,賃貸人や宅建業者に対して生まれによる入居差別をしてはならないとの法的義務を課すことができると主張する。

 しかし,原告が上記(1)イ(ア)a(b)において指摘する大阪地裁判決から明らかなとおり,賃貸人及び宅建業者を含むすべての者は,民法上の信義則に基づき,生まれによる入居差別をしてはならないとの法的義務を負い,同義務に違反すれば,それによって生じた損害を賠償する義務を負うのであるから,差別禁止条例によって賃貸人や宅建業者に対して生まれによる入居差別をしてはならないとの義務を課したとしても,上記信義則上の法的義務を確認することとなるにすぎない。

 (イ) また,原告は,被告が,差別禁止条例上の義務を根拠に賃貸人及び宅建業者に対して差別を是正するための行政指導をすることができると主張する。

 しかし,行政指導は,事実行為であり,相手方に対する直接の強制力を有するものではないので,侵害留保の原則からすると,行政指導を行うについて法律の根拠は必要とされない。したがって,被告は,差別禁止条例を制定しなくとも,賃貸人及び宅建業者に対し,差別を是正するための行政指導をすることができる。

 (ウ) 原告は,平成12年に川崎市において川崎市住宅基本条例が制定されたこと,同市においては,同条例の制定を皮切りに入居差別を禁止するための具体的な施策が施されていることをそれぞれ指摘する。しかし,原告が指摘する上記施策は,条例を制定することなく実施することができるものである。

 また,原告は,川崎市において,同条例の制定後,入居者の限定を行っている家主の割合が減少し,入居者の限定の対象として外国人を挙げる割合も減少している旨の報告があると主張する。しかし,同報告は,全国の賃貸人等を対象として実施された調査に関するものであり,川崎市に限定した調査に関するものではない上,平成14年6月に実施した調査結果と平成18年4月に実施したものとを比較したものであって,同条例の制定前後の変化を示すものでもない。

 なお,上記報告は,全国的に外国人に対する入居差別事象が減少していることを示すものであり,差別禁止条例を制定していない市町村において行われている啓発活動,相談事業等の施策,措置に実効性があることを裏づけるものである。

 ウ 以上によれば,被告において差別禁止条例を制定しなければならない必要性を根拠づける事由,状況はなく,被告は同条例を制定する義務を負っているとはいえないから,被告が本件入居拒否までに同条例を制定しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法ということはできない。

2 原告の損害の有無(争点②)について
(1) 原告の主張
 本件入居拒否は,原告の国籍又は民族性を理由とするものであり,生まれによる差別に当たる。

 原告は,本件入居拒否により,人としての尊厳をおとしめられ,人格を否定されて,計り知れない衝撃を受け,これによって精神的苦痛を被った。被告が差別禁止条例を制定していれば,本件入居拒否は起こり得なかったものであり,原告に当該精神的苦痛も生じなかった。これに対する慰謝料の額は,500万円を下らない。

 また,本件訴訟を遂行するのに必要な弁護士費用の額は50万円を下らない。

 原告は,被告に対し,以上合計550万円から本件入居拒否に関して本件家主が原告に対して支払った100万円を控除した450万円について損害賠償を求める。

(2) 被告の主張
争う。

第4 当裁判所の判断
 1 争点①(本件入居拒否が生じた時点までに被告が人種差別を禁止する条例を制定しなかった不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法であるか)について

 (1) 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民又は住民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民又は住民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。国又は地方公共団体の立法行為は公権力の行使に当たる行為であるところ,立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは,当該立法にかかわる議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題である。以上の観点から,被告が人種差別を禁止する内容の条例を制定していないこと(この事実は,当事者間に争いがない。 )の適否について検討する。

(2) 憲法に基づく義務の主張について
 原告は,まず,国は,憲法14条1項に定める差別の禁止を実効的なものにするために,生まれによる差別を禁止し,終了させるためのあらゆる施策を積極的に展開しなければならず,このことは同項に基づく国の義務であり,公権力の一翼を担う地方公共団体である被告は,国と同様の義務を負う旨主張する(第3の1(1)ア
(ア) )。

 しかし,憲法14条1項は,国政の高度の指導原理として法の下の平等の基本原則を宣言したものであり,法的取扱いの不均等の禁止という消極的な意味を持つものにすぎず,社会に存在する様々な事実上の優劣,不均等を是正して実質的平等の実現を目指すというものではないから,同項を直接の根拠として,国の個別の国民に対する生まれによる差別禁止のための具体的な作為義務が導かれるとの解釈は採ることができない。
したがって,国に上記作為義務があることを前提として,地方公共団体も同様の作為義務を負う旨の原告の上記主張は,採用することができない。

(3) 本件条約に基づく義務の主張について
 ア 原告は,本件条約は国内法的効力が認められるものであるところ,本件条約2条1項柱書き及び同項(d)は,国及び地方公共団体に対し,人種差別の禁止につき,単なる政治的責務を定めたものではなく,具体的な作為義務を定めたものであり,同項(d)が規定する義務のうち差別禁止義務は,それぞれの法域で適当とされる方法を通じて即時的に人種差別撤廃のための措置を執るべきことを具体的に義務づけたものであり,本件条約5条と併せみると,住居についての権利を侵害する差別を禁止する義務は,本件条約の下で法的義務とされていることは明らかである旨主張する(第3の1(1)ア(イ)a及びb)。

 本件条約は,平成7年12月1日に国会において本件条約締結に関する承認が得られ,同月15日に加入,平成8年1月14日に発効したものであり(以上は公知の事実である。) ,これにより,本件条約の規定中国内の事柄に関係する条項につ いては,国内法的効力を持つということができる(憲法98条2項 )。ところで,本件条約をみると,各条項に規定する事項を行う主体は「締約国」とされており,原告の上記主張を判断するについて,1 上記条項が定める事項が原告の主張する内容の義務を定めたものかどうかの問題のほかに,2 被告のような地方公共団体がこれらの事項を行う主体となるのかどうかの問題がある。そこで,まず1の点について検討する。

 イ 本件条約2条1項柱書きは 「締約国は,人種差別を非難し,また,あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとることを約束する。このため 」と規定し,これを受けて,(a)~(e)の5つの事項を定め,そのうち(d)は 「各締約国は,すべて,の適当な方法(状況により必要とされるときは,立法を含む。 )により,いかなる個人,集団又は団体による人種差別も禁止し,終了させる 」と規定している。

 本件条約2条1項に定める上記事項を締約国が行うことについては,本件条約5条において「基本的義務」とされている。しかし,この文言から当然に,本件条約2条1項に定める事項が個別の国民に対する締約国の具体的な義務であると解することはできない。

 同項柱書きは,締約国が差別撤廃政策等を適当な方法により遅滞なく執るということを定めているが,その文言から明らかなとおり,その内容は一般的,抽象的なものであって,締約国が執るべき政策等が一義的に明らかであるということはできない。したがって,同項柱書きをもって,差別撤廃に関して,個別の国民に対する
締約国の具体的な作為義務を定めた規定であると解することはできない。

 同項(d)は,同項柱書きに規定する差別撤廃政策等を執るために行うべきことをより具体的に列挙したものの一つであるが,その内容は,締約国が,すべての適当な方法(状況により必要とされるときは,立法も含む )により,私人間の人種差別を禁止し,終了させるというものである。このうち 「禁止し,終了させる」という部分だけに着目すれば,一義的な内容のものであるようにもみえるが,それを「すべての適当な方法(状況により必要とされるときは,立法を含む )により」行うとしているのであり,私人間の人種差別を禁止し,終了させるために執るべき方法の一つとして立法措置を予定しているものの,それを絶対の方法とはしておらず,また,立法措置を執るとしてもいかなる規制内容の立法とするかは明らかでない。したがって,同項(d)は,立法権発動要件や立法の内容をあらかじめ指示するような具体的な命令規範ないし行為規範に当たるものではないし,そもそも,締約国が私人間の人種差別を禁止し,終了させるために立法措置を執ることを一義的に定めたものということはできない。そして,本件条約のその他の規定を併せ検討しても,同項(d)が,私人間の人種差別の禁止及び終了に関して,個別の国民に対する締約国の具体的な作為義務を定めたものであると解することはできない。

 ウ 以上の点に関し,原告は,本件条約5条柱書き及び同条(e)(iii)において,「第2条に定める基本的義務に従い,締約国は,特に次の権利の享有に当たり,あらゆる形態の人種差別を禁止し及び撤廃すること並びに人種,皮膚の色又は民族的若しくは種族的出身による差別なしに,すべての者が法律の前に平等であるという
権利を保障することを約束する 」として 「住居についての権利」を挙げていることをとらえて,住居についての権利を侵害する差別を禁止する義務は,本件条約の下で法的義務とされていることは明らかであると主張する。

 しかし,本件条約5条は,人種差別が特に生じやすいと考えられる権利を例示的に列挙し,締約国がそれらの権利に係る人種差別を禁止することなどを規定するものであるところ,その禁止等は「第2条に定める基本的義務に従い」行うとしているのであって,これとは別に執るべき具体的方法等を規定しているものではない。

 したがって,本件条約2条1項柱書き及び同項(d)に定める事項の内容が,本件条約5条と相まって,個別の国民に対する締約国の具体的な作為義務を定めたものと解することはできない。

エ 以上によれば,本件条約2条1項柱書き及び同項(d)は,一義的に明確な法的義務を定めたものとはいえないのであり,このような規定内容に照らすと,上記規定は,人種差別の禁止,終了に関して締約国に対する政治的責務を定めたものと解するのが相当である。以上の次第であるから,上記2の点について判断するまで
もなく,原告の上記アの主張は採用することができない。

 (4)  なお,原告は,I上記(3)アの主張に続けて,本件条約が国及び地方公共団体に対して人種差別を禁止し,終了させるという明確な目的を定めていることから,国及び地方公共団体は当該目的達成のためにいかなる手段を執るかという点に裁量を有するが,何もしないという選択肢を有しているものではないとした上で,国及び地方公共団体は,立法によらないで人種差別禁止のための措置,施策を執ったものの,それによって人種差別を禁止し,終了させることができない場合には,人種差別を禁止する法的義務を課して人種差別を禁止し,終了させる以外に適当な方法はなく,この場合には,その旨の立法措置を執らなければならない旨(第3の1(1)ア(イ)c及びd) ,II被告との関係において,被告が本件条約発効以前に行っていた立法措置以外の方法による施策等では,大阪市内において入居差別を解消できない状況にあったところ,被告は,本件条約の発効により差別禁止条例を制定する法的義務を負ったにもかかわらず,同義務に違反して差別禁止条例を制定していない旨主張する(第3の1(1)イ)。

 しかし,原告の上記各主張は,本件条約2条1項(d)に定める差別禁止義務が具体的な作為義務であることを前提とした主張であるところ,当該前提主張は,上記(3)で説示したとおり採用することができず,したがって,原告の上記各主張は,その前提を欠くものとして採用することができない。また,原告の上記IIの主張は,
大阪市内において私人間の人種差別行為を禁止するために立法措置を執ることが最後の手段として必要不可欠な状況に至っていることをいう趣旨のものであるが,そのような状況に至る場合というのは容易に想定し難い事態であり,原告が主張する差別事象に関する事実関係を前提としても,大阪市内において,本件条約が発効した平成8年1月の時点及びそれから本件入居拒否が生じた時点までの間において,上記の状況に至っていたと評価するのは困難である。

2 結語
 以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないというべきである。よって,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

    大阪地方裁判所第20民事部

            裁判長裁判官  青 野  洋 士

                裁判官   武 部  知 子

                裁判官   高 山    慎



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2008年5月 2日 (金)

マンション居室工事による階下の騒音

 判例紹介

 本件は、マンションの居室改装工事によって受忍限度を超える騒音が発生したことについて、工事を設計監理した一級建築士及び工事を施工した業者が階下の住人に対して不法行為責任を負うとされる一方、注文主の責任は否定された事例である。東京地裁平成9年10月15日判決 確定 判例タイムズ982号229頁)

 (事件の概要)
 X1:原告(マンション居住者)
 X2:原告(マンション居住者、X1の妻)
 X3:原告(マンション居住者、X1の長女)
 X4:原告(マンション居住者、X1の二女)
 Y1:被告(一級建築士)
 Y2:被告(工事施工者)
 Y3、Y4:被告(マンション居室工事の注文主Aの相続人)

 Xらは、都内にある本件マンション(1階は事務所・店舗、2階以上が住居)の702号室に居住していたが、その真上の部屋である802号室に入居することになったAが、昭和63年8月3日から部屋の改装工事を行った。

 この際に発生した振動により、Xらの702号室の洗面所の洗面台の下に組み込まれていた給湯管の持出し管が折損し水漏れが発生したり、また、騒音・振動が受忍限度を超えるものであったため、ホテルに一時退避しなければならないなどの損害を被ったとして、この工事を設計監理した一級建築士Y1、工事を施工したY2、工事を注文したAの相続人であるY3、Y4に対して、不法行為に基づき総額465万円余の損害賠償を請求した。

 争点は、
 1.工事によって702号室に受忍限度を超える騒音・振動が発生したか
 2.工事の騒音・振動によりXらが被った損害はいくらか
 3.工事の騒音・振動についてYら3名に責任があるか、
であった。

 (理由)
 本件マンションは、昭和48年に建築された13階建のマンションであって、2階以上はすべて居宅である。本件マンションは、JR某駅の東南約300メートルに位置し、用途地域は商業地域であり、北西側は交通量がかなり多い道路(平成2年2月23日金曜日の調査では、路線バスが1日に200本以上通り、10分間の通過車両数は、午前9時に65台であるほかは、午前10時、午後零時、2時、6時とも約100台であった)に面していることが認められる。

 [争点1.について]
 本件マンション改装工事によって発生した騒音・振動が受忍限度を超えるものかどうかは、騒音・振動の程度、態様、発生時間帯、改装工事の必要性、工事期間、騒音・振動の発生のより少ない工法の存否、そのマンション及び周辺の住環境等を総合して判断すべきであると解する。

 本件工事による騒音・振動は床衝撃音が主であるが長時間継続するものではなく断続的で、その発生は3ヶ月間だけで昼間に限られていること、Aが802号室について本件工事をすることを計画したことには不当と解すべきところはなく、設計内容に違法なところはないこと、本件工事で使用された電動工具より騒音・振動の発生の少ない機器が当時開発されていたり、マンション・リフォームについて騒音・振動の発生の少ない工法が当時開発されていたりしたことはないこと、Aは802号室にピアノを置く予定でいたが取りやめ防音工事を中止したこと、702号室における暗騒音は窓を閉めた状態で50デシベル、窓を開けた状態で64デシベルであることなどを考慮して判断すると、ダイヤモンドカッターが使用された昭和63年8月3日ないし6日……の騒音並びに台所の既存タイルはがし工事がされた9月13日の騒音は、受忍限度を超えたものであるというべきである。もっとも、右各日に発生した騒音の音量、持続時間、総時間等からすると、702号室から退出してホテル等に一時避難しなければならない程度であるとまで認めることはできない。

 [争点2.について]
 給湯管等の修理代:702号室の給湯管に対してかなりの振動が伝わっているので、右給湯管は本件工事の振動によって折損したことが推認されるところである。したがって、給湯管の折損によってX1が支払った修理代2万8000円及び給湯管の折損に伴い破損した洗面所戸棚の修理代2万3000円は、本件工事と相当因果関係がある損害である。

 軽井沢の山荘利用、ホテル及びリゾートホテルの宿泊代など:Xらが主張する本件工事の騒音・振動から避難するための軽井沢の山荘の利用代、避難するためのホテルの宿泊代や担当医師からX2の気分転換のため転地して静養することを勧められたとするリゾートホテルの宿泊代などは本件工事の騒音・振動との間に相当因果関係があると認めることはできない。

 Xらの精神的損害について:X1は、当時某会社の専務取締役の地位にあったが、本件工事がされているときに702号室に在室していたことが非常に少なく、慰謝料支払を要する程度の被害を受けた事実は立証されていないというべきである。また、担当医師より、X2の頭痛等の症状等は本件工事の騒音・振動による精神的変化を原因とするとの事実など、X3の強迫神経症等や、X4の神経症等は本件工事の騒音・振動が原因であるとの診断を受けた事実などが認められる。以上より、本件工事により被った精神的苦痛に対する慰謝料は、X2は20万円、X3は10万円、X4は10万円が相当である。

 [争点3.について]
 Y2の責任について:本件工事によって702号室の受忍限度を超える騒音が発生したので、本件工事に施工したY2は、損害を被ったXらに対し、民法709条に基づく賠償責任がある。なお、Y2は、昭和63年当時、特にマンションリフォームを意識して開発された騒音対策部品はなく、低振動・低騒音の工具が開発されていなかったため、建築業者が通常手に入れることのできる機材等を利用して工事を行う限り、一定の騒音の発生は不可避であったと主張しているが、右主張の通りであっても、Y2が責任を免れる根拠となるものではない。

 Aの責任について:Aは、民法716条の注文者であるところ、Y2に対し本件工事を注文したことに過失があるとは解せられないし、Y2に対し本件工事について何らかの指図をした事実を認めるべき証拠もないので、本件工事による騒音の発生について責任はない。なお、Aは、802号室にピアノを置くため防音工事をする予定でいたがピアノを置くことを取りやめ、その旨をY1に伝えているが、これを指図とみても受忍限度を超える騒音が発生したこととは無関係である。

 Y1の責任について:本件工事によって702号室に受忍限度を超える騒音が発生したが、Y2は、Y1の指示・設計に基づいて施工した(解体工事及び台所の既存タイルはがし工事は、Y1の指示・設計に従うものであり、その際にダイヤモンドカッター及び振動ドリルを使用することが予定されていた)ので、Y1は、民法719条の共同不法行為者として、Y2とともに損害を被ったXらに対し賠償責任がある。

 (解説)
 本判決は、マンション居室改装工事によって受忍限度を超えた騒音が発生したことにより、給湯管が破裂したり、X2らが精神的疾患に罹患したなどの損害を被ったとする事案で、工事を設計監理した一級建築士及び工事を施工した業者が階下の住人に対して不法行為責任を負うとされる一方、注文主の責任は否定された事例である。

 注文主の責任が認められなかった理由は、改装工事を依頼したことに過失がないこと、その改装工事について指図はしておらず、また、騒音・振動の発生のより少ない工法は存在しなかったこと、工事が昼間に限られていたことなどが考慮されたためである。

 しかし、どのような注意をしても、受忍限度を超える工事しかできないとすれば、そのような工事を設計すること、工事を引き受けること自体に過失があると同時に、階下の住人に対して受忍限度を超える騒音・振動が発生していることが判明した後も、注文主が、そのような受忍限度を超える損害を発生させている工事の中止をしないことについては、事情によっては、注文主にも過失がある場合も考えられる。

 確かに、注文主の不作為に対して不法行為責任を課すことは困難な問題を生じるが、階下の住人の強い抗議を考慮して、苦情を受けた施工者が注文主に対して工事の中止を打診しているなどの事情がある場合には、漫然と工事の中止を指示しなかった注文主にも責任が認められる余地はあり得ると考えるべきであろう。

(国民生活センターHPより)


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2008年1月15日 (火)

共益費に疑問を抱き調停で5年分返還させる

 足立区関原に住んでいる清水さんは、25年間借店舗で洋品店を営んで来たが、この度更新を機会に自宅で営業することにし、明け渡した。

 でも、25年間払い続けた「共益費」が気になり、明細を求めた。しかし、仲介の不動産業者を通して「説明する必要もないし、勿論返金することなど考えてもいない」の一点張り。清水さんは組合と打ち合わせて調停を申立てた。

 元家主は弁護士を代理にたててきた。その先生いわく、共益費は賃料です。清水さんはどうしても納得がいかず、頑張って、頑張ってとうとう5年分の共益費の返還にこぎつけた。

 清水さんは「今回は本当に勉強しました」と語った。

東京借地借家人新聞より


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2007年11月25日 (日)

化学物質過敏症被害に補償

 塗装工事で鼻がツーンとした経験があるでしょう。ペンキを薄める為にに使われている溶剤(シンナー等)が、刺激臭を発生し目が痛んだり咳き込んだりし、中毒症状を起す場合があります。

 Uさんは賃貸集合住宅の2階に住んでいました。ある日の夕食時突然階下の部屋で塗装工事が始まり、猛烈な刺激臭が部屋に充満し嘔吐を伴う症状が起きたのです。早速「中止」を申し入れましたが無視され、塗装工事は続行されました。Uさんは翌日総合病院に駆け込み「化学物質過敏症」と診断され、「現職への就労困難・転居の必要」を言い渡されました。

 その集合住宅の一部は、一流と云われているA社が社宅として借り上げたものでした。A社の社員Bは新たに入居する事になり、塗装を友人の塗装人Cに発注市今回の事故を起したのでした。そこでUさんA社・社員B・塗装人Cに「謝罪と治療費・転居費用・慰謝料」を請求しました。

 大企業A社は「当社は無関係」。社員Bは「適正な医療費は支払う用意あり」。塗装人C「何時もの塗装工事と同じだ、中毒などと云い掛かりだ」。A社労務担当D「会社から関わるなと指示されているが、友人として解決に努力する」でした。

 交渉の途中で労務Dは所在不明隣、社員bと塗装人Cは「塗装が原因であることは認めるが金が無い。でる所に出て争う」と言い出す始末です。Uさんは仕方なく裁判を決意しました。裁判には、A社の顧問弁護士が東京から毎回やって来ます。金が無いと云いながら弁護士費用には惜しみなく使う神経には腹が立ちました。

 最終的には、金額では満足するものではありませんでしたが、相手側が非を認めた事・裁判の早期解決の為に和解に応ずる事としました。

 しかし、怪しからんのは和解に「A社は無関係」を条件とした事です。会社の労働者確保の為の社宅制度で会社が賃貸借したものですから、会社に管理責任が有りますが、全く反省の態度は無く、被害者には金銭的・精神的被害を与え、入居した労働者にだけ責任を押し付けるルール無き企業倫理に改めて義憤を感じた事件でした。

 アスベストと同じで、最近の建築材料・工法には有害なものが多いですから、日頃から充分な注意が必要です。

 静岡借地借家人新聞より


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2007年9月17日 (月)

借主いじめの貸主が呆気なく亡くなった

 荒川区西尾久3丁目でラーメン屋を営むSさんは、過去に2年毎の借家契約の更新時に3回もの調停を起され、加えて、2度の明渡裁判を提訴された。その都度組合とよく相談し、万全な対応で切り抜けて来た。

 5年前の更新時にも値上げ請求をされたが、その時は値上げを拒否して賃料12万円のまま供託をして、借家契約は法定更新を選択した。

 その後も貸主は2階に上る外階段の入り口に無断でチェーンに鍵を掛け出入り出来ない状態にしたり、店のシャッターの鍵穴に建材用のパテを詰め込む等の悪質な嫌がらせの連続で、時には警察に電話を入れ、パトカーも数回呼ぶ状態であった。

 そんな嫌がらせの元凶である貸主も先日、呆気なく亡くなった。その折り、Sさんは感情を抑えて通夜に列席した。数日後、貸主の妻と息子さんが2人してSさん宅を訪れ、今までは大変御迷惑をお掛けしましたと詫びの言葉があり、賃料は2万円値下げの10万円にするのでどうか供託は中止しして下さい。今後はいつまでも仲良くして、家屋を使って欲しいとの申し入れがあった。Sさんは、その申入れを快諾した。

東京借地借家人新聞より


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2007年7月27日 (金)

階下の居住者者が大暴れ

 酒乱男がバットを振って、
   ドアを蹴るため危険を感じて110番

 国立市谷保の3階建て賃貸マンションの2階に昨年10月に引っ越してきた松政陽子さんは、引っ越して2週間後の11月8日の夜10時頃突然下の部屋から壁を叩くような音がした。だんだん音が近づいてくるので、ドアを開けてみると、男が廊下の手すりをバットで叩きながらこっちに向かってくる。松政さんは、危険を感じてドアを閉めて鍵をかけた。男は、ドアを蹴って「外へ出て来い。ぶっ殺してやる」と怒鳴り始めたので110番した。

 どうやら下の男は酒乱で、普通の生活音にも異常に敏感で、警官が来ても「今度やったらぶっ殺してやる」と叫ぶ有様で、その場は何とかおさまったが、生きた心地がしなかった。

 翌日早速、物件を紹介した不動産会社のエイブルの担当者に連絡し、家主にも事件のことを報告した。下の酒乱男は以前にも同じような騒ぎを起こし、3ヶ月住んで出て行った人がいたことが分った。

 松政さんは、一日も早くここから出て行きたいとエイブルの担当者に相談したが、誠意のある返事が返ってこなかった。困って組合に相談したところ、エイブル本社に直接連絡を入れるようにアドバイスを受けた。その後組合役員と一緒に立川店を訪問した。

 その結果、敷金と礼金3か月分を返して貰い、手数料なしで日野市内の物件を紹介してもらい無事引越しを終えた。松政さんは、「あの時は本当に心細く、組合が地獄に仏と思いました」と語っている。

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2007年3月16日 (金)

盗難被害は賃貸人に賠償責任なしとした事例

判例紹介

 ピッキング盗難の被害を賃貸人は賠償する責任はないとされた事例 (東京地裁平成14年8月26日判決、判例タイムズ1119号)

 (事案)
 X(宝石・貴金属商)は平成5年、Y(不動産賃貸業)から8階建ビルの内7階を事務所として賃料月約33万円で賃借した。

 Xは平成12年2月、右事務所に保管していた現金と宝石類、合計110万円相当を盗まれた。Xはそれを理由として同年5月、右事務所を明渡した。

 そこでXは、本件ビルやその近隣ではピッキング被害が頻発していたのであるから、Yは、右被害を告知して防犯の注意を喚起する義務及びピッキング被害に遭いにくい鍵に交換するとかの被害防止策を講ずる義務があったのにこれを怠り何らの措置も講じなかった、よって、Yには債務不履行があり、Xの右被害を賠償すべきである、と主張した。

 (判旨)
 (1)そもそも、賃貸借において、賃貸人の負うべき本来的義務は、賃貸物件を使用、収益させる義務、賃貸物件の使用収益に必要な修繕を行う義務の外、担保責任及び費用償還義務であって、Xの主張するような賃貸人所有財産を盗難等から保護することを内容とする管理義務は賃貸借契約から当然に導かれるものではなく、特約や信義則上の付随義務として認められる余地のあるものと解するのが相当である。そして、賃貸人がこのような管理義務を負う場合にどの程度の義務を負うのかは、ここの賃貸借契約の事情に応じて判断されるべきである。

 これを本件賃貸借契約についてみてみるに、
①本件全証拠を検討するも、XとYが貸室の防犯について特段の合意をしたとは認められないこと、
②本件賃貸借契約においては、「地震、火災、水害等の災害、盗難その他甲の責めに帰することのできない事由によって乙のもうむった損害に対しては、甲はその責めを負わないものとする」(第11条)とされ、盗難による損害はYの免責の対象とされていること、
③本件事務所入口の扉はダブルロックであり、一応の防犯効果が期待できたこと
 等の事情に鑑みれば、YはXに対し、既存の鍵の維持管理すること以上に盗難被害を防ぐべき義務は負っていないと解するのが相当である。

 (2)また、
①Yは、近隣で窃盗事件が多発していることを認識し、順次その賃貸ビルに機械警備を導入している最中であったこと、
②Yは本件盗難以前には、本件ビルにおける窃盗被害がピッキングの被害によるものであったか否かを知らず、特にピッキングの被害について警察からの指導、報告もなかったこと、
③XがYに対して鍵の交換を求めたことはなっかたことからすれば、
 Xの主張するような、YがXに対し、ピッキング被害防止策を講じ、あるいは窃盗被害を報告すべき義務を負っていたということはできず、Yに債務不履行責任は認められない。

 (寸評)
 賃借人を盗難から保護することは賃貸人の付随的義務とすることには異論があるかもしれない。本件は、賃貸人の管理義務を考えるに当って参考になる。    2005.02.

(東借連常任弁護団)

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2006年12月 4日 (月)

新手の詐欺 

  不動産管理会社変更のニセ情報で
                       家賃を騙し取る

 滝沢さんは6月24日(金)の夕方、マンションの集合ポストに不動産管理会社の通知をみつけた。
ご入居者各位へという書出しの「家賃振込口座変更のお知らせ」であった。

  「この度、当マンションを管理する会社が下記の新管理会社に変更になりました。つきましては6月27日以降の家賃の振込口が変更になります。皆々様にはご迷惑をおかけ致しますが、ご了承下さいますようお願い申し上げます」という内容の文面で新管理会社名とその所在地、振込銀行の新口座が書かれていた。「ご質問がありましたら下記まで連絡下さい」と電話番号も書かれていた。

  滝沢さんは、この根岸のマンションに引越して来て3年になる。家賃は直接家主の銀行口座に振込んでいたので文面にあるような管理会社が家賃に関係していたかのような文面に不審を抱いた。書かれた電話番号に電話すると留守番電話になっていて連絡出来ない。

 6月27日(月)昼頃マンションの掲示板に「詐欺に注意」という掲示があった。
「銀行口座変更というニセ情報で家賃を騙し取る詐欺事件が発生しているので注意して下さい」と書かれていた。

  結局「振込口座変更のお知らせ」は詐欺の手口であったことが判明した。
後日、事情通の人から2軒だまされて振込んだと聞かされた。手口の特徴は、25日前後の金曜日、お知らせがポストに投函されることである。今回は管理会社変更であったが、所有者変更という手口が一番多いとのことである。


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2006年10月 7日 (土)

新築建物再入居の約束を家主が破った場合に損害賠償が認められた事例

  判例紹介

 建物の賃貸人と賃借人の間で、建物を撤去し新築建物を賃借人に賃貸するとの協定が成立したが建物撤去後賃貸人が新築建物の賃貸借契約の締結を拒否したため、賃貸人に損害賠償責任が認められた事例 静岡地裁平成8年6月17日判決、判例時報1620号122頁)

 (事案の概要)
 X(借主)はY(貸主)から本件建物を賃借してスーパーを経営していたが、市道拡幅のためS市から店舗移転の申し入れがあり、XとYは、本件建物を撤去して新たな店舗建物を建築することに合意し、新築建物に関する賃貸借契約の締結等を趣旨とした本件協定を締結した。本件建物は撤去されたが、敷金の保全等のための文書の作成をめぐってXとYが対立しY(貸主)は新築建物に関する賃貸借契約の締結等を拒否した。X(借主)は、本件協定違反に基づき、また、新築建物に関する賃貸借契約の成立を前提に右契約違反に基づき、Y(貸主)に対し損害賠償を求め提訴した。

 (判決)
 本判決は、本件協定が新築建物の賃貸借契約やその予約に該当しないと認定したうえで、
 「Xにおいて無償で本件建物に対する賃借権の経済的価値を放棄する理由も、Yにおいて、無償で右賃借権消滅の経済的利得を収める理由ないから、法律上、本件建物の賃貸借と本件協定に係る新築建物を目的とする賃貸借は別個のものであるとしても、経済的には本件建物に対する賃借権に相当する価値を新築建物に移行させるとするのが、X及びYの意図であったものと認めるのが相当である。

 そうすると、本件協定に基づき、Yは信義則に則り、Xと協力して、XとYとの間に、本件協定所定の事項に反しない規模の新築建物を目的として、本件協定所定の事項を内容として取り入れた賃貸借契約を締結するべき責務を負担した」と判示したうえで、

 賃貸借契約が締結されなかった場合にYが右責務不履行責任を負わないのは、
①X自らが契約締結を放棄した場合、
②本件協定所定の事項以外の契約内容についてYが合理的な提案をしたのにXが理由なくこれに応じず契約内容が確定しなかった場合、
③契約締決の過程でXに契約存続中であればその解除事由となる程度に重大な信頼関係破壊行為があった場合等に限られるとし、
本件ではこのような事実はないとしてY(貸主)に損害賠償責任を認め
X(借主)の損害の範囲は
新築建物を目的とする賃借権を取得できなかったことによる損害、すなわち、当該賃借権の価値相当額、
新築建物と同程度の建物を他に賃借するまでに通常要する期間の損失の利益とによって構成される旨判示した。

 (寸評)
 新築建物に再入居する約束で建物を明渡す例があるが、本件は、家主がこの約束を守らなかった場合に家主に損害賠償責任を認め、借家人が請求できる損害の範囲を明らかにしたもので、参考になる判例である。      1998.3.

(東借連常任弁護団)

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2006年7月24日 (月)

*家賃差押え後に建物を買った者は家賃取得で差押債権者に対抗できない

 判例紹介

 家賃が差押えられた後に建物を買った者は家賃の取得について、差押債権者に対抗できないとされた事例 最高裁平成10年3月24日判決・判例時報1639号45頁)

(事実)
 Xは、平成3年3月、建物所有者(家主)Aに対する判決に基づき、Aの借家人Bに対する家賃債権を差押えた。

 Yは、平成4年12月に家主Aから右建物を取得して所有権移転登記を得た。そして、Yは借家人Bに対し、家賃を自分に支払うよう請求した。
 そのため、借家人Bは、平成5年2月以降、債権者不確知と差押えの両者を原因として、家賃を供託した。

 そこで、XはYに対し、供託金を取得する権利が自分にあることの確認を求めて本件裁判を起こした。
 東京高等裁判所は、平成6年11月29日、『家賃の差押中に建物所有権の移転があっても家賃債権の差押との関係では右移転は無効であって、家賃債権は依然として前の家主に帰属するものとして、右差押えの効力は及ぶもので、Xは、Yが建物所有権を得た後も家賃債権を取得できると解すべきである』と判示した。

 Yは、これを不服として、最高裁判所に上告した。

(争点)
 家賃債権は、差押債権者と建物の譲受人のいずれに帰属するか。

(判決要旨)
 最高裁判所は、『自己の所有建物を他に賃貸している者が第三者に右建物を譲渡した場合には、特段の事情のない限り、賃貸人の地位もこれに伴って右第三者に移転するが、建物所有者の債権者が賃料債権を差し押さえ、その効力が発生した後に、右所有者が建物を他に譲渡し賃貸人の地位が譲受け人に移転した場合には、右譲受人は、建物の賃料債権を取得したことを差押債権者に対抗することができないと解すべきである。けだし、建物の所有権を債務者とする賃料債権の差押えにより右所有者の建物自体の処分は妨げられないけれども、右差押えの効力は、差押債権者の債権及び執行費用の額を限度として、建物所有者が将来収受すべき賃料に及んでいるから、右建物を譲渡とする行為は、賃料債権の帰属の変更を伴う限りにおいて、将来における賃料債権の処分を禁止する差押えの効力に抵触するというべきだからである』と判示した。

(短評)
 近時、銀行等の債権者が家賃を差押後、建物が譲渡されるケースが多発している。
 この場合、借家人は、新家主に家賃を支払ってはならず、差押命令に従って差押債権者に支払うか、または、家賃支払履行地の法務局に供託するかのいずれかの方策を採るべきである。

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2006年7月 3日 (月)

電気料金の不当利得返還請求を借主に認める判決

 判例紹介

 ビルの賃貸借契約において、賃借人から賃貸人に対し電気料金の不当利得返還請求が認められた事例 東京地裁平成14年8月26日判決、判例タイムズ1119号181頁以下)

 (事案)
 XはYから賃貸用ビルの7階を事務所として賃借していた。YがXから電気料として本来受領し得る金額よりも多額の金額を受領していたとして、Xが差額金の返還(110万4932円)を求めた。

 (判旨)
 
「本件事務所の賃借人であるXは、本件事務所内で使用した電気料の負担をすればよく、本件ビルの管理に要したあるいは要する費用、共益費については支払義務はないという条件で本件賃貸借契約を締結したと認められるのが相当である。そうだとすると、共用部分についてのX負担金等は通常管理費に含まれるものとして、これらを電気料金に含めて請求するYの主張は、その余の点を判断するまでもなく理由がないというべきである。なぜなら、これらの管理費に含まれるものは、本件賃貸借契約においてはYが負担するとの合意がされているからである」

(寸評)
不当利得返還は当然であ。共益費の名目で余分な費用を取る悪徳な賃貸人が多いのが現実であり、参考になる事例であろう。         2003.10.

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

              こちらの「判例紹介」で扱った判決と同一のものです。(N)


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2006年6月25日 (日)

自力救済条項があっても侵入したり鍵を替える行為を違法とした事例

   判例紹介

 建物賃貸借契約書に自力救済条項があっても、建物内に侵入したり鍵を取り替える行為が違法であるとされた事例 札幌地裁平成11年12月24日判決。判例時報1725号)

(事実関係)
 1、賃借人X(原告)は平成10年7月、札幌市内のマンションの1室を賃借し妻とともに居住した。Y(被告)はこのマンションの管理会社である。

 2、賃貸借契約書には次のような特約があった。 「賃借人が賃借料の支払を7日以上怠ったときは、賃貸人は直ちに賃貸物件の施錠をすることができる。また、その後7日以上経過したときは、賃貸物件内にある動産を賃借人の費用負担において賃貸人が自由に処分しても賃借人は異議の申立てをしないものとする」(本件特約)

 3、Xは、「部屋に雨漏りがする、かびが発生した」など苦情を述べたが、Yは、かびによる被害の弁償には応じられない旨回答した。
 そこでXは同年10月分から賃料の支払を停止した。するとYはXに対し、「督促及びドアロック予告通知書」、続いて「最終催告書」を送り付け、そこには、一定日時までに連絡がない場合には、以後何ら勧告することなくドアロックし部屋への立入りを禁止する旨記載されていた。

 4、管理会社Yの従業員は右日時の最終日、X夫婦が外出して留守の間、本件特約があることを根拠に、部屋に立ち入って、部屋内の水を抜き(水道管の破裂を防ぐため)、ガスストーブのスイッチを切り、浴室の照明器具のカバーを外すなどした上、部屋の錠を取り替えた。

 5、そこでXはYに対し、その行為は違法だとして損害賠償(慰謝料)の支払を求めて提訴した。

(判決)
 1、本件特約は、賃貸人側が自己の権利(賃料債権)を実現するため、法的手法によらずに、通常の権利行使の範囲を超えて、賃借人の平穏に生活する権利を侵害することを内容とするものである。

 2、このような手段による権利の実現は、近代国家にあっては、法的手続によったのでは権利の実現が不可能又は著しく困難であると認められる場合のほか、原則として許されないものというほかなく、本件特約は、そのような特別の事情がない場合にも適用される限りにおいて、公序良俗に反し、無効である。

 3、本件の場合には右の「特別の事情」は認められず、Yの行為は違法であるからXに対し慰謝料10万円支払うべきである。

(寸評)
 このような特約(自力救済)が入っている契約書はよく見かける。この判決の考え方はごく常識的であり、悪徳業者に対する警告として意味がある。                             

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より


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2006年6月 3日 (土)

 ピッキング被害

 ピッキング被害を蒙ったが防止対策を
          怠った家主に賠償請求が出来るか

  (問)家主はピッキングに遭い難い鍵に交換するなどの被害防止策を講じる義務を怠り、結果ピッキング盗難に遭ってしまった。家主に対してピッキング被害の賠償責任を問うことは出来ないだろうか。

 (答)この質問と同様のピッキング被害についての賃貸人の管理義務責任が問われた裁判例がある。東京地裁平成14年8月26日の裁判である。

 裁判の内容は賃借人(貴金属商)が借りていた事務所に賊が侵入し、保管していた現金と宝石類が盗まれた。被害に遭った賃借人は、近隣ではピッキング被害が頻発していたのであるから、当然、ピッキング被害が発生していることを告知して防犯上の注意を喚起する義務及び、ピッキング被害に遭い難い鍵に交換して被害防止策を講じる義務を怠ったとして、賃貸人に債務不履行があり、その被害の賠償責任があるとして裁判に訴えた。

 裁判所は「賃貸人の負うべき本来的義務は、賃貸物件を使用、収益させる義務、賃貸物件の使用収益に必要な修繕を行う義務の外、担保責任及び費用償還義務であって賃借人の主張するような賃借人所有財産を盗難等から保護することを内容とする管理義務は、賃貸借契約から当然に導かれるものではなく、特約や信義則上の付随義務として認められる余地のものと解するのが相当である」として、その管理義務は個々の賃貸借契約の事情に応じて判断されるべきであるとしている。

 この裁判では①防犯については特段の合意がない②契約上盗難による損害は免責の対象になっている③事務所の扉はダブルロックであり、防犯効果は期待できること等から賃貸人は既存の鍵の維持管理すること以上にピッキング被害防止対策を講じ、或は窃盗被害を報告すべき義務を負っていたということは出来ないとして、債務不履行責任を否定した。

 しかし、①契約上防犯についての合意があり②盗難被害についての免責条項がなく③賃貸人はピッキングが頻発していることを知り、警察のピッキング対策の指導を受けていたにも拘らず対策を講じず、且つ賃借人から鍵の交換を請求され対処しなかったなどの事情があるケースでは、その被害の賠償責任を問える可能性はある。


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2006年5月26日 (金)

短期賃貸借の保護規定は廃止されたが附則第5条で

法定更新した借家契約は
抵当権設定後の短期賃貸借の保護があるか

(問) コンビニを経営する大家のアパートに住んでいる。4年前に借家契約は法定更新にした。大家はバブル期に利殖目的の副業としてアパートを始めたもので、土地・建物はその時点で銀行の抵当権が設定されていた。最近、本業のコンビニ経営に失敗し、アパートが競売に掛けられた。このまま住み続けられるのか心配です。

(答) 2004年4月1日施行の民法395条の改正によて短期賃貸借の保護規定は廃止された。しかし、「短期賃貸借契約に関する経過措置」(附則第5条)(*1)によて2004年4月1日以前に結んだ短期賃貸借契約は短期賃貸借の保護規定が適用される。

 その場合、敷金は買受人(新所有者)に承継されているので新所有者から返還される。しかし、この規定がなくなると敷金は経済的に破綻した旧所有者に返還請求することになり、差入れた敷金は事実上回収不能ということになる。

 抵当権登記後に抵当不動産上に設定された利用権は、抵当権が実行されると効力を失うというのが原則だ。しかし、例外的に抵当権設定後の短期賃貸借(民法旧395条)に限って、抵当権者・買受人に対抗することが出来る。これを短期賃貸借と言い、借家契約は3年以内に限って保護される。

 従って、抵当権の実行により差押の効果が生じるまでは、3年以内の期間を定めた借家契約であれば、借家人は何回でも契約を更新することが出来る。その場合、法定更新の規定も適用される。また抵当権の実行により所有権が買受人に移転し、買受人から明渡し請求を受けても3年に限って、その期間内は住み続けられる。

 しかし3年を超えた期間を定めた場合、判例は一貫して抵当権者・買受人に対抗出来ないとしている。期間を定めない借家契約の場合、判例(*2)は「正当事由」があれば、いつでも解約できることを理由に「短期賃貸借」に該当するとしている。法定更新後の借家期間は期間の定めのない借家契約と同じ扱いで民法395条が適用される。

 期間の定めのない借家契約の場合、買受人からの解約の申入れには正当事由が必要である。しかし、正当事由の認定に際し、短期賃貸借という特殊事情を考慮し、借家人の権利を弱める方向に判断されている。従って正当事由の判断は相当程度に緩和して考える。買受人の利益を保護する方向に判例は統一されつつある。事実、借家契約を保護した判例は皆無である。

 結論、借家権を買受人に対して主張出来る。しかし、裁判所の建物明渡判決があり、買受人の明渡し要求があれば、僅かな猶予期間で建物を明渡さなければならない公算が大きい。相談者はその覚悟をして措く必要がある。要するに、借家契約を結ぶ前に、登記簿で抵当権設定登記の有無を調べるという基本的な労を惜しんではならない。

(*1)「短期賃貸借に関する経過措置」(「担保物権及び民事執行法の改善のための民法等の一部を改正する法律」附則第5条 平成15年8月1日法律第134条
  「この法律の施行の際現に存する抵当不動産の賃貸借(この法律の施行後に更新されたものを含む。)のうち民法第602条に定める期間を超えないものであって当該抵当不動産の抵当権の登記後に対抗要件を備えたものに対する抵当権の効力については、なお従前の例による。」

(*2)「競売手続きだ開始された時点においては、期間の定めのない賃借権であったのであるから、民法395条によって保護される賃借権であったと認められる」(東京高等裁判所2001年6月22日判決)。

「期間の定めのない建物賃貸借は、「正当事由」さえあればいつでも解約できるのだから本条(民法395条)にいう短期賃貸借に当たる」(最高裁昭和39年6月19日判決)。


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2006年5月19日 (金)

内金として受領すると言われた

  内金として受け取ると言われたが、
          賃料を持ち帰って供託してもよいか

 (問) 賃料の増額を請求され、貸主のところに従来の賃料を持参したが「内金として受け取る」と言われた。賃料を持ち帰って供託してもよいか。

 (答) 賃料の増額請求をされた場合、借主が相当賃料として従前の額を提供し、貸主がこれを賃料の内金(一部)として受領するという事例は多い。

  このように貸主が内金として受領する旨を申出たことが民法494条の受領拒否に当るかということが問題になる。

 民法494条の受領拒否に当るかということが争われた事例では、「賃貸人が賃料を弁済の提供を受けた際内金(賃料の一部)として受領する旨述べることは、特段の事情のない以上、賃料の全額として提供されるのであればその受領を拒絶する趣旨を含むものと解することができる」(東京高判1986年1月29日判決 /同趣旨の判例は名古屋高裁1983年9月28日判決及び東京地裁1993年5月20日判決がある)として貸主が受領拒絶をしたと認定し、借主の弁済供託を有効とした。

 従って貸主が「内金(賃料の一部)として受け取る」という趣旨の申出は、賃料の受領拒絶の意思表示と認定され、借主が賃料を持ち帰って供託したことは適法な供託であるとした。

 しかし最高裁(1975年4月8日判決)は、受領拒否に当たらないとする。また従前額の供託金については、一部弁済として受領する旨留保して供託金の還付を受けることが認められている。

 東京借地借家人組合連合会(東借連)弁護団会議では、この東京高裁の判例―貸主の内金受領が受領拒絶にあたるかが検討された。弁護団会議の最終結論は、貸主の内金受領が受領拒絶の意思表示であると一般化するのは問題があり、これを実行することには危険が伴うので、従来通りの見解でいくというものであった。

 即ち「貸主が、内金であれ、賃料として受け取ると言った場合は、受領を拒否したものではないので支払わなければならない。それを、賃料全額としては受領を拒否したのだからと考えて供託するのは、供託理由がなくて供託することになるので、その供託は無効となり、賃料未払いとして、契約解除の危険がある。
したがって、借主としては、従来賃料を支払い、念の為貸主に対して、その賃料額が全額であることを意思表示すればよいのである。(この意思表示は、内容証明郵便で出すのがのぞましい。)
なお、受領証に、「内金として」と記載されても、それだけでは、賃料を増額されたことにはならない

(地代・家賃の供託―東京借地借家人組合連合会パンフレット より)


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2006年5月 3日 (水)

取付けたエアコンを家主に買取らせる

造作買取請求権を使ってエアコンを
              家主に買取らせることが出来るのか
     

(問) 次の引越先の部屋にはエアコンが完備されているので、1年前に取付けたエアコンが無駄になる。家主に買取ってもらえないものだろうか。取付け時に家主の了解は得ている。

(答) 「地借家法」33条1項は、建物の賃貸借が期間満了又は解約の申入れによって終了する時に、賃貸人の同意を得て附加した造作を時価で買取るよう請求することが出来ると定めている。これを造作買取請求権という。     

 造作とは水道・ガス・電気設備等である。これらは建物の使用収益のために存在する造作を建物から分離すると、その価値が減少するのが通例である。取外したのでは借家人の投下資本の充分な回収が出来ない。     

 そこで、造作買取請求権により、借家人が借家に改良を加えた場合、家主に対し、その造作の時価での買取りを請求出来るようにして、借家人の投下資本回収を図らせている。     

 改良を加えた結果が建物に吸収された時は、有益費償還請求権の規定(民法608条2項)により、投下資本を回収することが可能である。     

 「造作買取請求権の性質は形成権であり、賃貸借の終了にともない、借家人が家主に買取りを請求するだけで、家主の承諾を要することなく、造作について売買契約が成立したと同一の法的効果を生ずる」(大審院1927年12月27日判決)。     

 このように、借家人の一方的な意思表示だけで家主に造作を買取らせる法律効果がある。だが、借家人の言い値で造作を買取らなければならない訳ではない。法律は、造作を「時価」で買取る旨を規定している。

 判例では、時価をどう判断しているのか。
特段の事情がない限り、1年数ヶ月前になされた造作工事費用の総額をもって、造作が現に有する価格であると解すべきである」(東京地裁1971年3月31日判決)。     

 また造作を附加して1年3ヶ月の造作に対して「造作を設置するために支払われた費用額を造作の時価とするのを相当とする」(東京高裁1956年3月22日判決)。     

 結論、相談者の場合、造作買取請求権を排除する特約を結んでいないので、エアコンの買取りを家主に請求出来る。その場合、取付けて1年しか経過していないので、判例にあるように、エアコンの設置に要した総額を時価として支払うよう要求出来る。     


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2006年4月22日 (土)

大震災で借家が全壊した

大震災で借家が全焼・全壊した場合
                 借家人にはどんな救済措置があるか
     

 (問) 福岡西方沖地震、新潟県中越地震と大災害が続いている。もしこのような大災害に遭遇した場合、借家人にはどのような救済措置があるのか。     

 (答) 2004年10月23日の震度6強の新潟県中越地震に対して2005年4月15日政令で長岡市、小千谷市等の7市3町村に「罹災都市借地借家臨時処理法」(以下処理法)が適用された。     

 一般的には借家している建物が火災、地震、台風等によって「全焼・全壊」(滅失)してしまうと借家権は消滅する。しかし大災害に対して「処理法」が政令で適用されると震災で建物が滅失しても借家権は消滅しない。     

   再築後の建物の優先賃借権
 罹災借家人は土地所有者或は借地人が罹災跡地又は換地に建物を再築した場合、その完成前に借家契約の申し出をすると他の者に優先して賃借することが出来る。建物所有者は自己使用その他正当事由があり、且つ申し出日から3週間以内に拒絶の意思表示をしないと承諾したものとみなされる(14条)。     

   土地賃借権の優先的取得
 罹災建物に居住していた借家人は、建物を自力で復興させる場合、政令施行の日から2年以内でそのたてものの敷地・換地に借地権が無い場合に土地所有者に借地の申出をすれば他の者に優先して相当な借地条件で賃借することが出来る。
 土地所有者は、先記の申出を受けた日から3週間以内に拒絶の意思表示をしないと承諾したものとみなされる。土地所有者は自己使用などの正当事由が無いと申出を拒絶出来ない(2条)。     

   借地権の優先的譲受け
 罹災建物の敷地またはその換地に借地権が存在する場合は罹災借家人はその借地人に対し政令施行日から2年以内に借地権の譲渡の申出をすると他の者に優先して相当な対価でその借地権を譲り受けることが出来る。
 借地人は自ら使用する場合その他正当事由があり、且つ譲渡申出の通知を受けた日から3週間以内に拒絶の意思表示をしないとその申出を承譲したものとみなされる(3条)。     

この場合にはその譲渡について土地所有者の承譲があったものとみなされる(4条)。     

 処理法適用下の借地期間は借地借家法の規定に拘らず10年に法定される。10年未満は期間を定めないものとみなす(5条)。当然更新(法定更新)が出来る。     


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2006年4月21日 (金)

火災の損害賠償を請求された

 消火活動による放水被害の損害賠償請求をされたが
                                                  支払う必要はあるのか
     

  (問) アパート2階の一室を賃借していた。食事の準備中に鍋の油に火が入り、借室の一部が焼けてしまった。その時の消火の放水で1階が水浸しになり、家財道具に被害が発生した。家主・アパート居住者から損害賠償を請求されているが、支払う必要はあるのか。     

  (答) 一般的には故意・過失によって他人の権利を侵害した場合には、不法行為による損害賠償の責任を負う(民法709条)。しかし失火の場合は、重大な過失がない限り民法709条の規定は適用されず、民事上の損害賠償の責任を負わない(失火ノ責任ニ関スル法律)。重大な過失は具体的には油をガスコンロにかけ、その場所を離れていたために油に引火して火災になった場合である。     

 借家人は賃借している建物をその建物の用方に従って、また善良なる管理者の注意をもって使用する義務を負っている(民法616条・400条)。これを借家人の「用方遵守義務」といい、建物を失火によって焼損させることも用方遵守義務違反で債務不履行になる。     

失火責任法は民法709条の適用を排除しているだけで、契約関係に基づく債務不履行には適用がない。従って借家人は失火の場合、重過失がなくても過失があれば、家主に対して用方遵守義務違反として債務不履行による損害賠償責任を負う。     

 問題は家主が蒙った火災の損害をどの程度賠償しなければならないか。
下級審の判例の多数に従うと、アパート等の「共同住宅の部屋の賃貸借において、当該賃借部屋、廊下等の部分、その他の階下の部分に対する損害についても賠償をなすべき義務がある」(東京高判1965年2月18日)として延焼部分の損害についても賠償責任を負うとされている。 また家主は損害賠償の請求に消火活動によって蒙った損害も含めることが出来る。     

 結論、家主の損害賠償請求を拒絶するには質問者の無過失の立証責任が必要である。これが出来ない場合は家主に対する損害賠償責任は免れられない。
  また質問者は重大な過失がない限り、アパートの居住者に対しては失火責任法の適用があるので損害賠償の責任を負わない。
  アパートの居住者は、家主及び質問者への損害賠償請求は出来ない。従って被害を蒙った家財は自己負担で修繕せざるを得ない。 


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