カテゴリー「譲渡・転貸借」の記事

2008年11月14日 (金)

転借人の賃料不払いで転貸人が家主に賃料を払わず契約解除された事例

 判例紹介

 転貸人が転借人において賃料を払わないことを理由に賃貸人に家賃の支払いを拒否したため、賃貸人が契約を解除した事例で、転借人の賃料支払い能力がなくなった事情が転貸人に責任があるかどうかは、解除の転借人に対する対抗力に影響がない。 (東京地裁平成4年5月11日判決、判例タイムズ831号164頁以下)

 (事案)
 X=建物所有者・賃貸人  Y①=転貸人  Y②=転借人

 XはY①に建物を賃貸しY②はXの承諾の下にY①から建物を転借していたところ、Y①は、Y②が賃料の支払いをしないことを理由に、Xに対する賃料の支払いをしなかった。そこで、XはY両名に対し、契約解除して建物の明渡等を求めた。

 Y②は、Y①が自分の倒産を意図して、自らの資力から充分に家賃の支払いができるのに、あえて支払いを怠り、XもY①に対する家賃の履行を求めることなく馴れ合い的に契約を解除したものであり、賃借権の放棄又は合意解除に類似するものであって、解除はY②に対抗できないと争った事案。

 (判旨)
 「Y②は、Y①はY②の倒産をもくろみ、保証人的立場にあるにもかかわらず、その資力からすれば容易にな賃料支払いをあえて怠っており、XもY①に対し賃料支払いの履行を真摯に求めることなく馴れ合い的に本件解除を行った旨主張する。しかし、賃借人が任意に賃料支払いを履行しないとき、賃貸人はそれだけで解除をなしえるし、これを転借人に対抗しうるというべきであって、それ以上に法的な履行強制手段等を講じた上でなければ、契約解除を転借人に対抗できないというものではない」

 「もっとも、Y①は賃貸借の継続の意思を失っているために賃料の不払いを続けているという観点からみれば賃借権の放棄に類する面がないとはいえないが、Y①の賃料不払いの原因となっているのはY②の賃料不払いなのであるから、信義則上、Xに対し、賃貸借契約の解除が転借人に対抗できないと主張することは許されない。もともとY②は直接Xに対し賃料支払義務を怠っているのであって(民法613条1項)自己の転借権を保全するためには、Xに直接賃料を支払えばよいのである。そして、転借人が賃料支払い能力を失った事情が、賃借人に責任のあるものであるかどうかは、賃借人の賃料不払いを理由とする解除権の転借人に対する対抗力の有無を左右するものではないと解すべきである。」

 (寸評)
 本件はY①が賃料差額も得ておらず、当初からY②に使用させるもので、契約にあたりXが、賃借人の地位を上場企業又はこれに準ずる企業に限定していたため、Y①はY②のために賃借人になっていた事案。

 判旨に異論はない。しかし、馴れ合い的な賃料の不払いがなされる場合もあり、その場合には、結論を異にすると思われる。特に転借人が賃借人に家賃を支払っているのに、賃借人が支払いをしない場合にまで本判決の結論を無条件に認めるべきか、検討の余地はあり得る。  1994.07

(東借連常任弁護団)

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2008年11月13日 (木)

賃貸人から契約解除された転借人は転貸人に賃料の支払いを拒否出来る(2)

 判例紹介

 賃貸人が賃借人(転貸人)との賃貸借契約解除を理由に転借人に建物明渡を求めた場合、転借人は転貸人に対して賃料の支払いを拒絶できるとした事例 (東京地裁平成6年12月2日判月決、判例時報1551号96頁)

 (事案の概要)
 A(賃借人=Yの転貸人)はB(賃貸人=建物所有者)から建物を賃借していたが、AがBに賃料を支払わなかったため、Bは賃貸借契約を解除しY(転借人)に建物の明渡を求めた。他方、Aの債権者Xは、AのYに対する転貸借の賃料債権を差押えYにその支払いを求めたが、YはAB間の賃貸借契約が解除されBから建物の明渡を求められいることを理由に転貸借の賃料の支払いを拒絶した。Xは転貸借の賃料の支払いを求めて提訴。

 (判決)
 本判決は、「建物賃借人は、賃借建物に対する権利に基づき自己に対して明渡を請求することができる第三者からその明渡を求められた場合には、それ以後、賃料の支払いを拒絶することができる」とした最高裁昭和50年4月25日判決(民集29巻4号556頁)を前提として、

 「Aが平成4年3月分からの賃料を滞納したので、BはAに対し、同年8月6日付け書面で、同年3月分8月分の滞納家賃の支払いを催告し、15日以内に支払わないときは本件賃貸契約を解除する旨の意思表示をしたが、AがBの請求に応じなかったため、同月下旬、BはYに対し、YがBに保証金と賃料を支払わなければ本件建物を明渡せと求めた」との事実を認定したうえで、

 「Yは、本件賃貸借契約解除によって本件建物の所有権に基づき明渡を請求することができるBから右明渡を求められたものと認められることができる。したがって、YはAに対し、それ以後、すなわち本件転貸借に基づく同年9月分以降の賃料の支払いを拒絶することができ、その後に右賃料を差押えた人に対してもその支払い拒絶できる」とし、

 さらに「賃貸人は賃借人に対し目的物を使用収益させる義務があるところ、その使用によって賃借人が第三者に対し不当利得返還義務あるいは不法行為による損害賠償義務を負うことがないようにすることをも含むものと解すべきであって、Yは、同年8月下旬、本件建物の所有者であるBから直接賃料の支払いを求められ、その後同社から賃料相当損害金の支払いを求める訴訟を提起されている(中略)から、Yは、同年8月下旬当時においてBから権利を主張された結果、同社から不当利得返還あるいは不当行為による損害賠償請求を受ける客観的な危険があったものであり、転貸人であるAの右義務が履行されないおそれが生じていた上、本件建物を事実上使用収益しても、右使用期間中の賃料支払を拒絶することができる」と判示してYの賃料支払い拒絶を認めた。

 (寸評)
 この判決は最高裁判例を踏まえつつ、賃貸人の義務について分析し、原賃借人から明渡請求を受けた転借人は建物を使用していても転貸人に対して賃料支払を拒絶できることを認めたもので、原賃貸人・転貸人間の紛争に挟まれた転借人に一つの指針を与えるものである。  1996.03

(*)参考 同じ判例(東京地裁平成6年12月2日判決)を扱っています。こちらから 覗けます。

(東借連常任弁護団)

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2008年6月19日 (木)

*賃借人の更新拒絶により終了しても,再転借人に対抗することができないとされた事例

 判例紹介

 平成14年03月28日最高裁 第一小法廷判決  平成11年(受)第1220号 建物明渡等請求事件

(要旨)
 転貸により収益を得ることを目的として締結された事業用ビルの賃貸借契約が賃借人の更新拒絶により終了しても,賃貸人が再転借人に対し信義則上その終了を対抗することができないとされた事例

(内容)
件名  建物明渡等請求事件 (最高裁判所 平成11年(受)第1220号 平成14年03月28日 第一小 法廷判決 破棄自判)
原審  東京高等裁判所 (平成10年(ネ)第1902号)

                主    文
 原判決中,上告人らに関する部分を破棄する。
 前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

                理    由
 上告代理人桑島英美,同川瀬庸爾の上告受理申立て理由について

 1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1) 被上告人は,昭和50年初めころ,ビルの賃貸,管理を業とする日本ビルプロヂェクト株式会社(以下「訴外会社」という。)の勧めにより,当時の被上告人代表者が所有していた土地の上にビルを建築して訴外会社に一括して賃貸し,訴外会社から第三者に対し店舗又は事務所として転貸させ,これにより安定的に収入を得ることを計画し,昭和51年11月30日までに原判決別紙物件目録記載の1棟のビル(以下「本件ビル」という。)を建築した。本件ビルの建築に当たっては,訴外会社が被上告人に預託した建設協力金を建築資金等に充当し,その設計には訴外会社の要望を最大限に採り入れ,訴外会社又はその指定した者が設計,監理,施工を行うこととされた。

 (2) 本件ビルの敷地のうち,小田急線下北沢駅に面する角地に相当する部分51.20㎡は,もとAの所有地であったが,被上告人代表者は,これを本件ビル敷地に取り込むため,訴外会社を通じて買収交渉を行い,訴外会社がAに対し,ビル建築後1階のA所有地にほぼ該当する部分を転貸することを約束したので,Aは,その旨の念書を取得して,上記土地を被上告人に売却した。

 (3) 被上告人は,昭和51年11月30日,訴外会社との間で,本件ビルにつき,期間を同年12月1日から平成8年11月30日まで(ただし,被上告人又は訴外会社が期間満了の6箇月前までに更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは,更新される。)とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借」という。)を締結した。被上告人は,本件賃貸借において,訴外会社が本件ビルを一括又は分割して店舗又は事務所として第三者に転貸することをあらかじめ承諾した。

 (4) 訴外会社は,昭和51年11月30日,Aとの間で,本件ビルのうちAの従前の所有地にほぼ照合する原判決別紙物件目録記載一及び二の部分(以下「本件転貸部分」という。)につき,期間を同日から平成8年11月30日まで,使用目的を店舗とする転貸借契約(以下「本件転貸借」という。)を締結した。

 (5) Aは,昭和51年11月30日に被上告人及び訴外会社の承諾を得て,株式会社京樽(以下「京樽」という。)との間で,本件転貸部分のうち原判決別紙物件目録記載二の部分(以下「本件転貸部分二」という。)につき,期間を同年12月1日から5年間とする再転貸借契約(以下「本件再転貸借」という。)を締結し,京樽はこれに基づき本件転貸部分二を占有している。京樽については平成9年3月31日に会社更生手続開始の決定がされ,上告人らが管財人に選任された。

 (6) 訴外会社は,転貸方式による本件ビルの経営が採算に合わないとして経営から撤退することとし,平成6年2月21日,被上告人に対して,本件賃貸借を更新しない旨の通知をした。

 (7) 被上告人は,平成7年12月ころ,A及び京樽に対し,本件賃貸借が平成8年11月30日に期間の満了によって終了する旨の通知をした。

 (8) 被上告人は,本件賃貸借終了後も,自ら本件ビルを使用する予定はなく,A以外の相当数の転借人との間では直接賃貸借契約を締結したが,Aとの間では,被上告人がAに対し京樽との間の再転貸借を解消することを求めたため,協議が調わず賃貸借契約の締結に至らなかった。

 (9) 京樽は昭和51年12月から本件転貸部分二において寿司の販売店を経営しており,本件ビルが小田急線下北沢駅前という立地条件の良い場所にあるため,同店はその経営上重要な位置を占めている。

 2 被上告人の本件請求は,上告人らに対し所有権に基づいて本件転貸部分二の明渡しと賃料相当損害金の支払を求めるものであるところ,上告人らは,信義則上,本件賃貸借の終了をもって承諾を得た再転借人である京樽に対抗することができないと主張している。

 原審は,上記事実関係の下で,被上告人のした転貸及び再転貸の承諾は,A及び京樽に対して訴外会社の有する賃借権の範囲内で本件転貸部分二を使用収益する権限を付与したものにすぎないから,転貸及び再転貸がされた故をもって本件賃貸借を解除することができないという意義を有するにとどまり,それを超えて本件賃貸借が終了した後も本件転貸借及び本件再転貸借を存続させるという意義を有しないこと,本件賃貸借の存続期間は,民法の認める最長の20年とされ,かつ,本件転貸借の期間は,その範囲内でこれと同一の期間と定められているから,A及び京樽は使用収益をするに足りる十分な期間を有していたこと,訴外会社は,その採算が悪化したために,上記期間が満了する際に,本件賃貸借の更新をしない旨の通知をしたものであって,そこに被上告人の意思が介入する余地はないことなどを理由として,被上告人が信義則上本件賃貸借の終了をA及び京樽に対抗し得ないということはできないと判断した。

 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係によれば,被上告人は,建物の建築,賃貸,管理に必要な知識,経験,資力を有する訴外会社と共同して事業用ビルの賃貸による収益を得る目的の下に,訴外会社から建設協力金の拠出を得て本件ビルを建築し,その全体を一括して訴外会社に貸し渡したものであって,本件賃貸借は,訴外会社が被上告人の承諾を得て本件ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定して締結されたものであり,被上告人による転貸の承諾は,賃借人においてすることを予定された賃貸物件の使用を転借人が賃借人に代わってすることを容認するというものではなく,自らは使用することを予定していない訴外会社にその知識,経験等を活用して本件ビルを第三者に転貸し収益を上げさせるとともに,被上告人も,各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れ,かつ,訴外会社から安定的に賃料収入を得るためにされたものというべきである。他方,京樽も,訴外会社の業種,本件ビルの種類や構造などから,上記のような趣旨,目的の下に本件賃貸借が締結され,被上告人による転貸の承諾並びに被上告人及び訴外会社による再転貸の承諾がされることを前提として本件再転貸借を締結したものと解される。そして,京樽は現に本件転貸部分二を占有している。

 このような事実関係の下においては,本件再転貸借は,本件賃貸借の存在を前提とするものであるが,本件賃貸借に際し予定され,前記のような趣旨,目的を達成するために行われたものであって,被上告人は,本件再転貸借を承諾したにとどまらず,本件再転貸借の締結に加功し,京樽による本件転貸部分二の占有の原因を作出したものというべきであるから,訴外会社が更新拒絶の通知をして本件賃貸借が期間満了により終了しても,被上告人は,信義則上,本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗することはできず,京樽は,本件再転貸借に基づく本件転貸部分二の使用収益を継続することができると解すべきである。このことは,本件賃貸借及び本件転貸借の期間が前記のとおりであることや訴外会社の更新拒絶の通知に被上告人の意思が介入する余地がないことによって直ちに左右されるものではない。

 これと異なり,被上告人が本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗し得るとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,上告人らに関する部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,被上告人の請求を棄却した第1審判決の結論は正当であるから,上記部分についての被上告人の控訴を棄却すべきである。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官 町田 顯 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子)

平成14年03月28日最高裁判決を扱った東借連弁護団の判例紹介はこちら



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2006年7月12日 (水)

*建物の転貸人の転貸賃料債権に抵当権者の差押が認められなかった事例

  判例紹介

 抵当権が設定されている建物の賃借人(転貸人)が転借人に対して有する転貸賃料債権について、抵当権者がなした抵当権に基づく物上代位による債権差押命令の申立が認められなかった事例 最高裁判所第2小法廷平成12年4月14日決定。判例時報1714号61頁)

(事案の概要)
 XはA所有の建物(以下本件建物という)に根抵当権を設定したが、その後、YがAから本件建物を賃借し、Yはさらに本件建物をBに転貸した。Xは、YがBに対して有する転貸賃料の支払請求権(転貸賃料債権)について根抵当権に基づく物上代位による債権差押命令を申立て、この申立が認められた。そこで、Yは、この債権差押命令に対して不服申立(執行抗告)をしたが、原審は、抵当権設定後の賃借人が抵当不動産を転貸した場合、抵当権者は、転貸賃料債権に対しても抵当権に基づく物上代位権を行使できるとして抗告を棄却したため、Yは、右抗告棄却決定には法令違反があるとして最高裁判所に執行抗告の許可を申立てた。

(判決)
 本判決は、(1)民法372条で抵当権に準用される同法304条1項の「債務者」には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれない。規定の上からもそうであるし、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するが、抵当不動産の賃借人はこのような責任を負担せず、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供される立場にはない。
 (2)転貸賃料債権を物上代位の目的にできるとすると、正常な取引により成立した抵当不動産の転貸借関係における賃借人(転貸人)の利益を不当に害することになる、との理由で「抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得すべき転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない」として、原決定を破棄し、原審に差し戻した。

(寸評)
 最高裁判所は平成元年10月27日判決で抵当権に基づく物上代位権の行使として抵当不動産の賃料の差押ができることを認めた。この判決後、バブル経済の崩壊に伴う不動産価格の暴落により抵当不動産の換価では債権の回収が不可能になったこともあって、債権回収のための抵当権者による抵当不動産の賃料の差押が増加した。これに対して物上代位を回避するため転貸借を仮装する者も出現し、本件のように抵当不動産の賃借人がこれを転貸して得ている転貸賃料についても差押ができるか否かが新たな争点として浮上した。これについては非定説・限定肯定説と学説・裁判例が区々に別れているが、本決定は、非定説の立場で最高裁として初めての判断を示したものである。

(東借連常任弁護団)

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